青年の旗 163号(1991年5月15日)

【投稿】 湾岸戦争は何をもたらしたのか
【報告】 春季生活闘争中間報告
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【投稿】 湾岸戦争は何をもたらしたか?
      ---湾岸戦争後の世界政治と経済---

<覇者のおごり>
 ブッシュ米大統領は、3月6日の米議会で、湾岸戦争勝利の「戦勝報告」演説を意気揚々と行なった。その中で彼は「米国の製品や労働者は二流と言われてきたが、湾岸戦争では一流の能力を見せた」と誇らしげに語っている。自信をなくしかけていた米国人は、日独の支援の遅れをなじる一方で、祝勝ムードに酔いしれ、かつてベトナム反戦運動の激震地であった諸大学ではほとんどの学生が星条旗を手に手に久方振りの勝利を謳歌したのであった。
 いわば今回の湾岸戦争は、経済の軍事化と石油価格下落の中であえいできたイラク・フセイン政権が、弁護の余地もないクウェート侵攻という挑発にのせられ、国際正義を後ろ盾にした世界の警察官としての米軍事力の前に敗退したものといえよう。中東で地歩を後退させつつある国際石油資本、冷戦体制の崩壊で縮小を余儀なくされつつある軍需資本、そして世界第一位の経済的地位を脅かされつつある米国経済にとって、これは勝利して当然、しゃにむに押切らねばならない願ってもないチャンスであったともいえよう。それが戦争の全経過に示されており、アラブの独自解決、フランスの調停、ソ連の和平工作も成功させてはならないものであった。性急な軍事解決によって、地球環境に癒しがたい傷跡を残し、軍事力によって押し潰された民衆のしかばねなどには見向きもしない覇者のおごりがそこには露骨に現れている。

<脇役の苦悩>
 多国籍軍の名の下に参戦した欧州各国は完全な脇役に追いやられ、しかも今回の戦費は米国の負担はゼロ(米財務長官報告によると、昨年8月から今年3月末までで総額560億ドル、日欧各国からの支援額545億ドル)、それどころか戦費の過大見積により100億ドル近く儲かったと指摘されている。逆に欧州各国は、EC統合を目前にしながら、湾岸戦争参加をめぐって分岐が激化し、しかも各国ともに戦費調達で軒並み財政赤字を拡大させ、それぞれの政権基盤さえ怪しくなってきている。増税なきドイツ統一を公約に総選挙で大勝したコール政権は旧東独経済の復旧コストに加え、戦費調達のために、一転1600億マルクの赤字に転落、公約を投げ捨て増税政策に転換したがために「ウソつきコール」と糾弾されて、地方選で大敗するという事態である。イギリスは、サッチャーの民活路線のもとで工業が壊滅させられ、工業製品の純輸入国に転落していたがために、メージャー政権は湾岸戦争で自国軍の武器弾薬さえ輸入しなければならず、4年ぶりに赤字国に転落、91年度80億ポンドの赤字見通しのもとで人頭税の廃止をめぐって保守党内の分岐がきわだっている。

<ブッシュの「新国際秩序」>
 対照的にブッシュ政権は、国民の90%以上の支持を背景に湾岸後の「新国際秩序」作りに主導的役割を果そうとしている。それは他の諸国の負担で、軍縮と軍拡を両立させようというきわどいものである。中東においては、パレスチナという最大の問題を先送りしたまま、対イラク封じ込めのためにサウジなど湾岸5ケ国に180億ドル以上のハイテク兵器、新規武器売却を計画し、対イラク報復自制の代償としてイスラエルに新規軍事援助を行なう等、明らかに軍拡である。その上で米ソ協調による中東地域和平会議の開催、今年前半の米ソ首脳会談、戦略核・戦術核全廃条約交渉にのぞもうとしている。もはや軍事面においては向うところ敵なしという事態のもとで、アメリカが唯一誇れる軍事力を背景に世界の秩序の監視人、警察官の役割を果そうというものである。

<2期連続のマイナス成長>
 おりしも米国経済は、9年ぶりという景気後退に入り、昨年10月以来2期連続のマイナス成長(今年1〜3月期、実質GNP−2.8%)となり、ほぼ全部門で経済は落込み、短期間では回復しないことが明らかとなっている。このさい湾岸戦争の早期終結・勝利は精神面実体面ともにプラス要因に働くことは間違いない。ましてや自国の負担は一切無く、長期にわたる機雷処理等は日本などにまかせ、復興需要も取りしきれるとあれば言うことなしである。しかしながら、米国財政赤字は92年度予算教書によれば2809億ドル、昨年の予算教書では赤字が251億ドルになるはずであったことからすれば実に11倍の赤字、今年は3811億ドルという空前の規模の赤字が見込まれている。本格的に軍縮に取組み、軍事予算を抜本的に減額し、老朽化と放置政策によってなおざりにされてきた社会的生産基盤への投資(インフラ投資)に力を入れない限りは、経済力の回復は到底望みえない。国防予算の削減では、兵力230万人中80万人カット、軍事基地の大幅削減(国内71、海外36ケ所)、陸軍3分の1化、等により国防費半減案(3000億→1500億ドル)まで出ている。これらがどこまで進むかに米国経済の今後の事態はかかっているといえよう。

<冷淡な日本>
 いずれにしても湾岸戦争は、米ソ緊張緩和後の世界の政治経済情勢を画するものであった。ポスト湾岸後の世界情勢について、米独日三極体制なるものがすべてを決定するものとして賞揚されているが、それぞれに内実は危なっかしいものである。ましてやそれぞれに疑心暗鬼、アメリカの世論調査によれば日本の90億ドル追加支援決定の遅さを見て、「日本に対する尊敬の念をなくした」という人々が急増し、貿易摩擦の再燃があおられる事態である。これは平和解決への信念と行動力も持たず、右往左往してアメリカに追随する日本政府に対する批判でもあろう。
 さらにゴルバチョフ訪日に関連して、「せっかくやってきたゴルバチョフ大統領を、日本はお土産なしで追返した。韓国の対応と比べても、その冷淡さが目立っている。日本は湾岸でアメリカから見捨てられ、もともと中国、韓国とは真に打解けてはいない。ウルグァイラウンドにも協力的ではない。そこへゴルバチョフというよりはロシアという国のうらみを買った。日本はその経済力を鼻にかけて、高慢なる孤立の道を歩んでいる。その経済力がまさに国際平和、親善を最も必要としているというのに」(日経、4月25日「大機小機」)と指摘される事態である。
 あらゆる問題の平和的民主的な解決に向けての、世界的な協調と協力の体制、地球規模的な取組み、国際的な責任の遂行、全人類的な視点の確立なくしてはまだまだ事態は楽観はできないのである。
                                 (生駒 敬)