青年の旗 180号(1992年10月15日)

【経済の動き】 日米欧同時不況の進行
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         <その2 沖縄戦について>

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【経済の動き】 日米欧同時不況の進行

<小差のウイ>
 EC欧州共同体12カ国は来年1月1日から市場統合がスタートする。人口計3億4千万、GNP5兆ドル、域内のヒト、モノ、カネの動きは原則自由になる。これ自身が今後の展開に巨大な意義と影響をもたらすことは間違いないであろう。しかしマーストリヒト条約はこれを更に押し進めて、遅くとも1999年には通貨、政治まで一本化しようというもので、いわばヨーロッパ合衆国誕生への挑戦である。
 しかし9月20日のフランスの国民投票は、ウイとノン(賛否)がほほ同数、かろうじてウイが上回ったに過ぎなかった。わざわざ議会から国民投票の場に移して、大差でこの条約を押し進めようとしたミッテランの意図は大きく傷つけられたといえよう。彼は、「独自の価値観に基づいて反対票を入れた人々の感情を尊重する」と発言し、コール・ドイツ首相は「各国国民の懸念をなくすためEC委月会の権限の制限を検討する」との考えを表明せざるをえなくなった。このことは独仏主導の統合へ向けた政治的意志や計画が、国民の理解と支持を踏まえずに先走っていたという現実を如実に示した。

<ドイツ経済・社会の変貌>
 しかし事態の展開はそれだけではないことを示している。少なくとも今年前半までのおよそ5年間は、79年創設のEMS(欧州通貨制度)、その為替相場メカニズム(ERM)は有効に機能し、ドイツ・マルクを基軸にすることによって各国ともまずまずは安定した状態にあったことは間違いない。ところがEC12カ国中、GNP、成長率とも最大の強さを持つドイツの経済が失速し姑めた。
 一時は統一特需にわいた旧西独地域の経済も景気の低迷、膨大な財政赤字、インフレ圧力に苦しみ、高金利政策を継続せざるをえず、それはポンドやリラ、フランの暴落、マルクの独歩高をもたらし、ERMを根底から揺るがす事態を育んでいた。旧東独への財政資金援助額は1800億マルクにのほり、91年の財政赤字は1200億マルク、GNP比4.3%とEC通貨統合の参加条件(3%)をさえ上回る事態にまで突き進んでいたのである。92年の実質成長率は大幅に低下する見通しであり、実質的な失業者は500万人に達する。
 それに呼応して、ネオファシストや極右系の青少年による外国人や難民への襲撃は8月下旬からほは1カ月以上にわたって連日続き、極右の暴力事件は今年に入って約1千件を数えている。州や市町村議会では極右政党が議席を増やし、ワイツゼッカー大統領は「難民襲撃や人種差別的攻撃に憤りを覚える」と強調するほどの事態である。旧社会主義圏をも含めた狭量なナショナリズムの台頭が全ヨーロッパに拡大し始めているといえよう。

<国際通貨不安への発展>
 フランス社会党左派のシュベーヌマン元国防相は「マーストリヒト条約は欧州の東半分を排除している。条約が目指す欧州はベルリンの壁の代わりにお金の壁を築くことで、東西分断のヤルタ体制の国境維持を図ろうとしている」としてノンを訴えたのであるが、今やそのような壁の構築は不可能となっている。
 フランスの国民投票を目前にして、EC12カ国中、経済成長率最下位のイギリス(−2.2%、2年連続マイナス見込み)がまず利上げと利下げの混乱の中でERMから脱落、続いてフランス、イタリアは自国通貨防衛のために利上げに追い込まれ、カナダはカナダドル売りを浴びて公定歩合を引き上げ、ドル暴落への波及さえ懸念される状況となった。国際通貨不安が世界経済最大の撹乱要因になりかねない事態を迎えたのである。
 イタリアでは、リラが史上最安値を更新、9月末には預金封鎖の噂がながれ、取り付け騒ぎが起こり、全銀行の預金残高が急減、ERMから離脱してもリラは下げ止まらず、リラに見切りをつけての資本流出まで始まっている。アマート内閣がリラ防衛のために打ち出した予算案の福祉切捨てと増税に抗議する三大労組は全面対決、ゼネストに打って出る可能性が強まっている。

<クリントノミツクス>
 このようにして急速に表面化してきた通貨危機の影響で、欧州経済はさらに悪化し、93年も低迷が続くことは避けられないであろう。同時に米国の景気も今年は年率1.5%前後、来年も2−2.5%程度の低成長にとどまることが予想され、生産活動の停滞、個人消費の減少、雇用者数の減少の中で、米国産業・企業のリストラクチェアリングの名のもとに人員整理が拡大している。
 米国勢調査局が最近発表した統計によると、米国の貧困者数は昨年210万人も増加し、3570万人に達した。景気が下降局面に入った90年から増加に転じ、貧困層と規定される家庭(家族4人、年収が13924ドル=約170万円以下)の割合は10.7%から11.5%に上昇し、黒人の貧困層比率は30%を起す事態である。
 クリントン優位・プッシュ苦戦といわれる大統領戦をなんとか挽回しようとして、プッシュ大統領は、とにかく速効を求めて武器輸出の拡大に乗り出し、軍需産業大手ゼネラル・ダイナミクス社製造工場で、台湾への150機のF16戦闘機売却を発表、続いてマクダネル・ダグラス社の工場では「サウジアラビアに72機のF15戦闘機を売却する。これで皆さんの雇用は守れる」と、文字どおり選挙目当ての発表で危険きわまりない行動に乗り出している。
 これに対するクリントン候補の政策構想の核心は、インフラ整備を中心とする公共投資の拡大と中所得者向け減税で景気を浮揚し、同時に増税・歳出削減によって財政赤字の大幅な削減(1996年度までに財政赤字を半減させる)を目指す点にある。一律減税・歳出削減一点張りのプッシュ構想に対決するこのクリントノミツタスの勝敗は、今後の行方を大きく左右するといえよう。

<動揺する日本経済>
 日本経済もこうした状況と無縁では有り得ない。今年4−6月期の実質経済成長率は、年率換算で1.1%という低成長(政府見通し3.5%)に落ち込んでいる。現象的には地価の下落や株価の低迷というバブル経済の崩壊で始まった景気後退が、生産や消費、設備投資など実体経済そのものの中にまで現れてきている。
 成長をリードしてきた自動車、電機、機械の「ご三家」は、国内販売不振に加えて、通貨不安と円高基調、貿易摩擦による輸出抑制要因が大きく作用し始めている。GNPの6割近くを占める個人消費の環境も、雇用面、所得面とも悪くなっている。百貨店販売は昨年から弱かったが前年比マイナスになったのは今年3月からである。スーパーやチェーンストアの売上も伸びが鈍化している。あれほど騒いで行われた利下げにもかかわらず、盛返すはずの中小企業分野の設備投資も依然として低迷している。そしてバブル期を通じていわば地価や株価の上昇を前提としてきた日本的経営が大きく揺らぎ始めたのである。
 ただし、住宅建設は7月からバブル以前の好況期を上回る年140−150万戸のペースに上昇してきており、鉱工業生産指数も7−9月期には4期ぶりにプラスに転じる見通しとなってきている。事態は一方的に進行するものではなく、回復と落ち込みがせめぎあいながら進展している。

<銀行の−つや二つつぶれても>
 10兆70恥億円にも及ぶ政府の総合経済対策は、確かに日経平均株価を約5000円も押し上げ一時19000円台を回復させた。だがその後は再び低調そのものである。確かにその影響と効果は今後とも過小評価できないほどの規模である。しかしこの総合経済対策では銀行救済を大きな柱としたのであるが、各界からたちまち大きな反撃を受けた。土地や株の投機者に融資して、いわゆる「バブル」に手を貸した銀行を公的資金を使って救済するというのは何事かというわけである。銀行の一つや二つつぶれても構わないという自民党幹部まで現れた。金融システムの危機を煽ってきた経済企画庁は「不良資産の額は金融界全体で支えきれないほどの大きさではなく、冷静な対応が求められる」と言い出した。しかし破綻のリスクを抱えている中小金融機関、農協、生保、揖保は戦戦恐恐としている実態である。92年3月末現在の都銀、長期信用銀行、信託銀行の不良債権総額は大蔵省の公式見解で7兆9900億円、実際には20−30兆円に達しているとの見方が多く、不良債権額が経常利益を上回る規模にまでなっている。

<財界が所得税減税要望>
 10月5日、関経連は「消費は落込み続け不況色を強めている。本年度から2年間に限り、戻し減税による思い切った所得税減税を実施すべきだ」とする93年度税制改正に関する意見をまとめた。東京商工会議所も同様な意見を出している。しかしそれは同時に消費税の大幅な税率アップを求めるという矛盾したものである。
 ところで85年の家計の借入残高は可処分所得の67%であったが、90年には94%にまで急増している。さらにクレジットカードの普及ともあいまって年間可処分所得に対する消費者信用残高の比率は90年に22.5%を記録、米国を初めて上回ったのである。家計の収入に占める利払いの割合も5%近くに高まっており、バブル時代に増やした借入金の返済圧力が高まり、消費抑制傾向が顕在化せぎるをえない状況に立ち至っている。
 一方、所得税収の国民所得比を見ると、80年代の中ごろに6%程度であったものが、現在では7.2%になっている。これは実質的な増税にほかならない。また一人当りの国民所得に対する所得税課税最低限の比率でみても、さらに低所得層にまで課税範囲が拡大されている。これを最低限、80年代中ごろの水準に戻すには、所得税を国民所得比で1.2%強減税しなければならない。これは約4兆円の減税規模でなければならないことを示している。

<危機打開への運>
 世界同時不況、同時株安、日米欧同時債務デフレという不気味な状況は、ソ連東欧旧社会主義圏の底知れない経済的崩壊状況とあいまって、今何の不況がこれまでになく深く、かつ長期に及ぶ可能性を一方では示している。しかしそれは同時に、グローバルであると同時に相互依存的な国際関係の進展、そして冷戦体制崩壊の中で、事態を打開できる多様で実現可能な幾つもの選択枝を提供しているともいえよう。
 何よりも徹底した軍事費の削減、軍需から民需への転換、軍事費の平和と協力への配当、地球環境防衛への共同行動、環境の保護と改善に向けたエネルギー・都市・住宅・交通問題、廃棄物、下水、ゴミ処理など人類共通の利益に立った社会資本投資と蓄積、これらは世界的な課題であると同時に、個々の国の必要不可欠な課題となっており、その社会的経済的効果ははかりしれないほど大きくなってきている。そしてこうした方向と離れた政策提起は混乱と危機をしか招かないであろう。
(生駒 敬)