青年の旗 184号(1993年2月15日)
【ロシアレポート】 「ロシア軍のなかの宗教活動」 by横山 健史
 ベレストロイカの一環として1988年にロシアのキリスト教受容千年祭が国家的行事として祝われ、かつて「アヘン」とされ弾庄を受けてきた宗教が公式に復活した。そして一昨年の連邦崩壊を機に、社会の表舞台に姿を現してきた。
 現在の宗教への高い関心の背景には、第一に崩壊後に生じた不安定な社会状況がある。経済の破綻や蔓延する腐敗の絶望感から、人々が宗教に救いを求めるケースはきわめて多い。加えて、社会秩序の乱れや物質の欠乏とともに宗教が人々を惹きつける大きな要因は、強烈なイデオロギー国家の崩壊によって生じた、イデオロギーの空白にある。近ごろ、軍部においても宗教性が高まっているが、このことを端的に示しているようで興味深い。 昨年末、軍部内の宗教問題に関する調査を行ったロシア連邦軍軍事社会学・心理学および法制センターは、宗教への傾斜が高まったと伝えている。報告によると、アンケートの回答者のうち、@25%の兵士は自らを信徒と見なし、A38%の兵士は宗教への明確な関心を示していない。また、B30%の兵士は自らを末信徒と見なしている。しかしA、Bは同時に、無神論への信仰を草味するものではない。堅固に無神論を支持し、そのプロパガンダに努める兵士はわずか10%に過ぎなかった。
 軍事社会学者の見解によれば、これらの数字は、第一に社会における価値観と価値志向の変化を、そしてさまざまな団体による宗教活動の活発化を反映しているという。調査によって、今日、宗教がおよぼす影響が一般的に強まっていることが明きらかとなったが、特に顕著なのは、若い兵士(義務兵役の兵士や若い将校ら)の中に信仰者が増え、それに応じて無神論者がかなり減少したということでる。
 アンケートに答えた59%の兵士は、軍と教会の友好的な関係を維持すべきであると見なしている。彼らの考えでは、宗教性の高まりは今後、人々の行動様式や態度、また憐れみや同情といった人間の資質の発展に肯定的な影響を与えるだろうということである。
 かつてロシア軍には、ピョートルー世の時代から、海軍においては専任の聖職者がいたし、また陸軍においては行軍の際には必ず聖職者が参加していた。そして1913年までは、すべての近衛連隊および警備隊には軍のための教会があった。しかし革命後、それまで軍の精神的支柱であった宗教はまったく逆の評価を受け、無神論がそれに取ってかわった。極端から極端への移行であったけれども、共産主義は十分に宗教の役割を果たした。ところが、共産主義体制が崩壊した現在、軍内には兵役に対する明確な意識が欠如し、その空白を埋めるかのように宗教への関心が高まってきている。また前述のように、彼らへの布教活動も活発に行われている。特に。プロテスタント諸派など外来宗教の活動には目を見張るものがある。一方、千年の歴史をもつロシア正教会は、もともと保守的な教会体質に加えて経済的困難も重なり押されぎみであるが、いずれにせよ、軍内部における宗教活動は活発化している。
 こうした動きを見ると、経済状態と同様、社会主義体制と連邦崩壊の後遺症が克服され、信教の自由、良心の自由が健全な市民生活の一部となるにはなお多くの時間がかかるものと思われる。 

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