ASSERT 196号(1994年3月15日)
【投稿】 日米対立の新段階
【投稿】 革新の論理と日本社会党の立場 by 鈴木市蔵
【投稿】 受け身から「ASSERT」への脱却
【投稿】 政治改革は進んでも改革できない日本社会党
【投稿】 ジリノフスキー現象とは何か
【映画紹介】 戦争が生んだ「悪」と「善」
          映画『シンドラーのリスト』を観て
【本の紹介】 「知」の正体へのアプローチ
 
『免疫の意味論』、 『自己創出する生命 普遍と個の物語』
 『ワンダフルライフ パージエス頁岩と生物進化の物語』

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(投稿) 日米対立の新段階---スーパー301条の復活---

 先月の日米首脳会談は、「大人の関係」の始まりであったはずだが、クリントン政権はもはやがまんも限界に来たのか、対日制裁を前提にした悪名高いスーパー301条を復活させた。ただし、制裁を前提にした交渉までの猶予期間を6カ月に延長しており、その間に対日包括協議再開で全て合意に持ち込もうという戦略である。
 これに対しては、ブラッドリー上院議員が米政府の対日政策に対して「国内政治優先の一種の日本たたきだ。長期的、戦略的な関係への配慮が足りない」と批判しており、また米航空機最大手のボーイングは「世界の貿易システムを傷つけ、日米間の貿易交渉を険悪なものにする法的手段を取らないよう望んでいる」との談話を公表している。
 さらにニューヨークタイムズ3/5付社説は「スーパー301条を復活させたことは不必要であり危険な誤った決定である。これは多国間交渉による通商上の問題解決を公約している米国の立場をないがしろにするものだ。スーパー301条は重要な同盟国との貿易戦争につながりかねないうえ、貿易障壁の撤廃にカを入れている細川首相の政治基盤をさらに弱める危険性を持っている。また米国の貿易赤字は、米国人が自国で生産する以上の製品を外国から買った結果であり、日本に自動車やコンピューターなどの米国製品を購入するように強要しても貿易赤字が大きく減少することはないだろう。さらに日本の貿易黒字が米国の雇用を奪っているというのも事実に反することだ」と、厳しく批判している。

「対日制裁実施せよ!」85%が賛成
 しかしこのほどAP通信が実施した世論調査(全米の成人1,003人対象)によると、調査対象の70%が日本製品の米国での販売を制限することに賛成、58%が日本製品に輸入関税を課すことに同意、44%が個人的に日本製品をボイコットすると答えている。そして日本が市場開放を拒否し続けた場合、これら一三つの制裁・報復の内少なくとも一つを実施するべきだと解答した人は実に85%に達している。
 一方で米国の景気について言えば、今年になって昨年10−12月の国内総生産(GDP)の実質成長率が年率換算で7.5%に上方修正されたことで、米景気の本格的な回復が鮮明になっている。年明け以降も堅調な乗用車販売などを映し、4%程度の成長を維持しているとの見方が多い。さらに1月の耐久財受注が前月比3.7%の大幅増加、同月の鉱工業生産も前月比0.5%の上昇で、米連邦準備理事会はここに来て景気過熱を防ぐ「予防的引き締め」に傾斜している。しかし米景気回復それ自体は、対日貿易赤字を是正するものではない。むしろこれまでのところ日本が高度部品を製造し、米がそれに構造的に依存していることからすれば、逆にさらに増人する可能性さえある。そして日本の市場が完全に開放されたとしても、現在年間600億$の米国の対日貿易不均衡の是正は年間90−180億$でしかないことは米経済人統領諮問委員会も指摘しているところである。

「建て前」から「本音」の日米関係
 こうした中でのスーパー301条の復活は、日米摩擦がこれまでとは違った新たな段階にきていることを示しているといえよう。かつては米ソ冷戦時代であり、「建て前」で議論せざるを得なかったし、対ソ共同歩調を優先して日米対立を脇に置いてでも、米国は経済問題よりも政治・軍事・安全保障問題を重視せざるをえなかった。ある意味では日本は米ソが緊張激化と軍拡競争に明け暮れ、疲弊していくことに最大の成長要因を持っていたと
もいえ、過去の米政権に甘やかされ、またそれにつけ込んできたともいえる。
 しかし冷戦崩壊後、事態は大きく様変わりしたのである。相互に利用・依存する関係は、本来の相互共存関係のあるべき姿をめぐって「建て前」ではなく、「本音」を出し合わざるを得ない関係に立ち至ったのである。米政権内には、日本弱体化期待を露骨に表明し、「1$=70円にすれば日本は米国の相手でなくなる」と発言するものまで現れている。クリストフアー米国務長官は「日米間の政治的小競り合いが、全面的な貿易戦争に発展することはない」と必死に言明しているが、冷静な対応がなければそのようになり得る可能性を示しているといえよう。
 一方、日本経済の深刻な低迷は、このところようやく上向きの指標が出始めている。日銀の2月時点の短期経済観測調査によると製造業の業況判断が、横ばいにとどまり、6月の予測は彼やかな改善を見込んでいる。生産、住宅、消費などの景気指標でも、金融超緩和と地価の落ち着きで、住宅建設が好調を続け、1月の住宅着工戸数は20.7%増の106.097戸で87年10月以来約6年ぶりの高い伸び。2、3月が前年並であっても93年度の住宅着工戸数が150万戸台に乗せることが確実となっている。消費支出も10月から3カ月連続前年を上回り、それに応じて、家具や台所・洗面所関連製品、家電機器や音響・映像機器も売上が回復し始めている。しかし依然として回復力は鈍く、不安定でもある。日米経済双方ともに、政治的経済的相互関係の微妙な揺らぎがたちまち経済の不安定化をもたらすような状態に立たされている。急激な円高は日本の株価の急落につながり、それは日本の資金の米国から引き揚げをもたらし、当然米国の資金需要圧迫と長期金利上昇など、双方とも“返り血”を浴びる関係にある。

問われる日本の政策
 そうした意味では、これまで以上に日本の国内政策が国際的意味と責任を持つようになってきたことは否定できないことであろう。ところが細川内閣の新年度予算は所得減税の件を除くと緊縮予算そのものである。新年度の一般歳出は94年度の当初予算に対して2.3%しか伸びていない。また5兆5千億円の所得税減税にしても1年限りをうたっており、一方で社会保障負担の1.2兆円増が予定されているほか、税外負担も引き卜げられるものが多い。大蔵省や官僚の財源論に振り回された結果が、せっかくの景気対策を台無しにし、国際的評価も低めているのである。
 少なくとも3年以上にわたる大型減税と社会資本投資拡大の大胆なパッケージを打ち出すべきであろう。そして日本経済の活力を弱めている独占資本の寡頭支配体制、談合・カルテル的体制、中小企業に犠牲転嫁する系列支配体制を打破する政策を明瞭にする必要があろう。
                  (T.T)