アサート 196号(1994年3月15日)
【投稿】 ジリノフスキー現象とは何か
 去る3月10日、「ロシア総選挙後の政治経済情勢 ジリノフスキーとは」と題して、ボイチェフスキー・モスクワ大学経済学部教授、藤本和貴夫・大阪大学教授を講師に講演会がもたれた(現社研、ニュービジネスサロン共催)。昨年12月のロシア連邦議会選挙で突如第1党に躍りでてきた自由民主党、そしてジリノフスキー党首のネオナチ的言動が世界の注目をあびたことは周知のことである。講演会では、この問題を中心にその後のロシアの政治経済情勢をめぐって熱心で活発な質疑応答が行われたが、以下にボイチェフスキー教授のジリノフスキー現象の解明にしぼって、その要旨を報告したい。
 まず、ロシア自由民主党は、選挙に当たってごく普通のスローガンを掲げていたこと、そのスローガンは混迷する政治経済情勢ではロシアの民衆の意向をある意味では的確に捉えていたといえる。第1に、犯罪と汚職の増大を糾弾し、これと闘う姿勢を明確にしたこと。第2に、現政権の急進改革路線は貧困化しかもたらさなかったこと。第3に、西側に屈服・従属するような外交政策の転換を要求したこと。第4に、旧ソ連を構成していた14共和国内で圧迫を受けているロシア民族の名誉と地位の保証を要求したこと。そして、西側的改革を拒否し、強いロシアを復活させようというスローガン。
 これに対して改革派は、もはや大衆から見放され、主要な役割を果たし得なくなっている旧共産党諸派を主敵として、共産党の復権阻止を選挙運動の中心に据え、現実の政治経済改革で明確な対案を持っていなかった。こうした「赤の恐怖」で票を稼ぐ路線は、エリツィン・ガイダルのショック療法的な急進経済改革路線の評価でも分岐を深め、改革派を大きく分裂させてしまった。そして現実に、IMF受け売りのガイダルの急進改革路線は、インフレと物不足、経済の混迷現象をいっそう加速させ、汚職と腐敗、犯罪の急増、マフィアの大規模な支配と暗躍をもたらした。こうして社会経済状況は、ガイダル政策をもはや信じ得るような状況ではなく、政府に対する信頼も急速に失われている状況下で、「主要な敵は、赤だ」というキャンペーンは、改革派にいくべき支持をジリノフスキー側に追いやったといえる。そして連邦崩壊と共に苦境に立たされている多くの軍人、とりわけ中堅幹部の軍の支持を、「強いロシアの復活」を唱えるジリノフスキー陣営は巧みに獲得した。
 ところでジリノフスキーの党をヒットラーの党とダブらせて考えることについては、当時の状況とは大きく異なっていることをまず考慮に入れるべきであろう。まず第1に、彼らは、自らをファシストではなく中道派だと位置づけている。そして現実の社会経済状況に即応した政策を掲げている。問題は、それが極めて拝外主義的なことである。誇りも自尊心も失った客観的状況から抜け出す道を、ロシア民族主義に求めている。バルト三国のロシア人がひどい目にあっているから何とかしろといえば、誰も反対できないような状況の中で、ジリノフスキーの党だけがロシア人を救えと叫んだわけである。国民は共産党にはもうあきあきした、民主派や改革派は国を貧困に導いたし、まともな政策でまとまってもいない。ジリノフスキーを積極的に支持したというよりは、それに代わるべきよりましなものがなかったのである。そして投票権を持つ住民の50%が棄権をしたのである。
 ジリノフスキー自身は決して愚か者ではなく、賢い人間ではあるが、冷静な男ではない。彼よりも冷静であり、より権威のある人物が登場してくれば、ファシストの党にもっていける可能性もあるかも知れないが、そうたやすくはない。その意味では彼らのウルトラ民族主義、侵略的民族主義の危険性を見逃すことは出来ない。しかし選挙戦術としての反ファッショ委員会というようなものでは、それはゲームと取引の場でしかない。ポポフ、サプチャークを中心とする民主改革運動を初め、民主派は客観的に大きな力を持っており、その考え方も正しいといえよう。その意味では民主派が改革と統一の路線について合意する必要があるし、何よりも再団結することが要請されている。(大阪、GAN/IKM) 

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