アサート 199号(1994年6月15日)
【投稿】 コンピュータ業界をめぐる買収・合併
 いまパソコン(パーソナルコンピュータ)を筆頭にコンピュータ業界は大きく揺れ動いている。ソフトウェア分野では相次いで企業の買収・合併がおこなわれ、業界は大きく再編成されようとしており、さながらサバイバル合戦である。
 アメリカの業界アナリストは次のようにいっている。
 「1920年には、およそ300ものアメリカの会社が自動車を製造していた。1930年になると、この数字は25に落ち、1940年には10となった。そして、今では自動車メーカーは3社にすぎない。そのスピードが速いだけで、同じことがソフトウェア業界でも起きている。0から始めて1億台のPCを作るのには20年もかからない。このペースでいけば、1年前に始まったこのソフトウェア業界の淘汰にかかるのは、長くても5年というところだろう。」
 もちろん日本でもいずれこうした事態は避けられないことは、今、人気あるソフトウェアのほとんどがアメリカでつくられたものをローカラズ(日本語化)したものであることからも予測できる。
これらを押し進める背景には
 @ハードウェアのコストパフォーマンス強化
 Aダウンサイジング
 Bソフトウェアの高機能化と高度化
 Cコンピューティングとコミュニケーションの集約
がある。
 私は印刷業に携わる者であるが、この産業においてももはやコンピュータを理解し、操作し、生産の道具としてこれらを駆使できない企業は存在を危うくさせている。そして、顕著なことは、いままでの印刷機器メーカーの専用システムに代わり、これら一般に市販されているパソコンとソフトウェアが生産に直結したことによって、新しい生産の工程と価格競争を生みだしつつあることだろう。とくに、コンピュータをめぐるこの3年ほどの大きな変化がこれらを決定的な局面にまで押し進めていることは疑いの余地のないことである。
 例えば、先の@〜Cの点についてもう少し言及するとしよう。
 @については、日本国内においてはここ1年半ぐらいは特に顕著である。ちなみに、私がやっと昨年の暮れで3年間のローンを払い終わったシステムは、当時100万円相当のものであったが、今ではその2倍以上の演算能力とソフトウェアの実行処理を行えるものが現在15万円相当である。今は100万円もつぎ込めば、およそ個人ユースでは能力を持て余す最高のパソコンシステムを揃えられるのである。
 かつて、「ジャパン アズ ナンバーワン」といわれた日本的生産の特徴は、何よりも「安くて高品質」を売りものとしていたが、これは完全にアメリカにとって代わられたといえるだろう。日本の多くのパソコン生産がいまや海外に委託され、日本で作っているものは半導体チップぐらいなものになってしまうだろう。東京の秋葉原の電機街で、家電製品の売上をパソコンの売上が抜いたということは象徴的である。家電製品もほとんど海外生産となっているが、売れる商品がないことや価格が廉価であることから、企業収益がよくないらしい。ちなみに株主総会での報告では昨年、大手メーカーはリストラを敢行して管理職を含めた大幅な合理化に踏み切ったこともあり、来年度には企業収益を回復する見通しをたてているというし、さらにこれまで日本経済を牽引してきた自動車・電機産業などが軒並み海外へ生産をシフトさせていることは、雇用環境をいっそう悪化させかねない。
 Aのダウンサイジングとは何だろう。簡単に言えば、おおよそ次のようなことである。パソコンの処理能力が飛躍的に高まり、生産だけでなく管理・監督部門でのコンピュータの広範な利用が急速に進展したことにより、昔ながらのメインフレームと呼ばれる大規模でピラミッド型の中央集中管理的なコンピュータシステムはその役割を終え、高度な処理能力を備えた水平分散処理型のネットワークシステムが需要をのばしている。以前は情報処理部門は多くの人から隔離された場所であり、ひとつの処理をさせるにも、専門のプログラマーなりシステムエンジニアが介在しなければ動かなかったが、今では作業者自身が簡単なオペレートでこれらの処理をパソコンに代行させることが出きるようになった。高価な値段でシステムの維持費だけでも莫大なメインフレームは売れなくなり、日常の生産・管理・監督業務の大半がパソコンによるネットワークシステムで処理できるようになったのである。そして個人でも簡単にそして平等にこれらの技術と情報を得られるような時代となったといえる。
 Bはとくに昨年あたりから顕著な動向であり、今後ますます、パソコンとそのソフトウェアは使いやすくなり、同時にリアルタイムで数値や文字、制止画や動画など様々なデータを一括して処理できるようになってきている。そして、しかもハードウェアの異なるアーキテクチャを超えてデータの互換が可能な方向へと向かっている。これは昨今「マルチメディア」という言葉に代表されていることであるが、内容的にはまだまだメディアの特徴を生かしたものとはなっていない。また様々なアプリケーションにおける同様なインターフェースの採用により、操作性は自動車を運転するが如く、統一されたものになりつつある。アメリカは世界中のソフトウェアのほとんどを供給しているが、この国で起きているソフトウェア会社の吸収合併・買収はすざまじい。
 Cはアメリカで「スーパー情報ハイウェイ」といわれていることと密接に結びついているし、日本でも次の新しい産業として昨今持ち上げられている。アメリカでの例では、今まで音声のみを運んでいたケーブルやラジオの周波数を使って、デジタルのビデオ信号を送れるような技術の見通しがついてきたため、電話会社の新製品として登場する予定である。今ある電話回線に取り付けられ、電話とテレビ用出力機能をもったボックスである。電話回線がテレビ番組を吸収するこの機器の実態はコンピュータそのものである。映画を見たり、ゲームをしたり、データベースやネットワーク通信にアクセスしたりといった双方向のデジタルサービス通信がこれで可能となる。したがって、NTTなどの通信電話会社だけでなく、家電メーカーやゲームメーカー、パソコンメーカーなどありとあらゆる関連産業がここに参入をもくろんでいる。

 さて、では自分の周りをみるとどうであろう。日本ではアメリカに比べパソコンの普及率は極めて低い。企業においてもアメリカに比べ3年から5年以上は遅れているといわれている。だが、まちがいなく以上述べたことは夢物語ではなく、近々にアメリカでは現実となることである。もはや「技術立国」を売り物にしてきた日本も、アメリカに大きく遅れをとろうとしている。日本の大手企業はどんどんこの事業にアメリカで参入しているが、自分の国ではさっぱりである。これでは再び、「ジャパンバッシング」にあうことはうけあいである。業界の再編もまだまだこれからが本番であろうから、国内事業のたち上げを急がなければ雇用環境はよりいっそう悪化するだろう。
 最後に、パソコン雑誌ASCII(アスキー)に載っていた、アメリカ在住の日本人プログラマーが書いていたことを紹介しよう。
 「確かにこちらは田舎です。すべてが日本ほど丁寧ではないし、給与も安いですが、セントラルヒーティング付きの家1軒(土地200坪、建物60坪程度)が1500万円以下であり、20代の終わりには大抵の人が家を持てます。果物、野菜、肉は、東京地区の1/2から1/10くらいの値段です。出勤前後に9ホールのゴルフが700円でできます。近くに8カ所のスキー場があり、一番近いところは20分で行けます。高速道路や駐車代をとられることもありません。……また大学が2つあります。ブリガム・ヤング大学と少し離れたソルトレイクシティの、アラン・ケイの出たユタ大学で、この2つのコンピュータ学科の卒業生たちがノベルとワードパーフェクト(注)に大きなプラスをもたらしています。いわゆる日本でも名の通った一流大学ではないのですが、こんな田舎に世界的なソフトウェア産業が成り立っていて、私のような外国人の雇用があるのです……」
(注:ノベルはつい最近ワードパーフェクトを買収した。ノベルは、ソフト業界のナンバーワンともくされるマイクロソフトに対抗できる唯一のメーカーと注目されている)(東京 Woz) 

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