アサート 203号(1994年10月15日)
書籍のすすめ】 ニッポン貧困最前線
   「ケースワーカーと呼ばれる人々」 久田 恵 文芸春秋社 1,700円
 今年7月25日に発行されたこの本の表には「福祉現場の知られざるドラマ」「政府の締め付けとマスコミの福祉たたきの間にはさまれながら、日本の貧困層と直接向き合ってきたケースワーカーたち。これまで書かれることのなかった彼らの悩み、怒り、喜びを通して、豊かな時代の見えない貧困を描いた衝撃のルポルタージュ。」と書かれています。わが国において国民の生存権を守るために、いや、国民の生存権を守ることを最終的に直接の職務としている人たちがいったいどんな仕事をしているのか、ぜひこの本を読んで知っていただきたいと思いますし、考えていただきたいと思います。
 私は、数年前から自治体の福祉職場でケースワーカーとして働いています。それまでは、「ケースワーカー」という言葉を聞いたことはありましたが、どんな仕事をしているのかほとんど知りませんでした。今にして思えば、何年か前に「暴力団員が外車に乗りながら生活保護を受けている、国から生活費を援助してもらっていることがある」という話しを聞いたことがありましたが、まさかその暴力団員の「相談」に乗りながら、「援助」していたと避難されていた人がケースワーカーだったなんてことは自分がケースワーカーになって初めて実感できたのでした。

 それから何年かして、労働組合をやっている他市の仲間−−−彼は地方分権、自治体改革に興味がある−−−に「君はケースワーカーやっているのか、うちの市の福祉の職員、悶々としているというか、ドロドロしているというか、そういう実態なんだ。だが、本来福祉の仕事はすばらしい仕事のはずだ。福祉現場の苦悩を踏まえたうえで、その仕事のすばらしさ、やりがいを文章にまとめてよ」と言われたことがある。それに対し私は「うーん、ぼくにはまだ・・・」と考え込んでしまった。福祉職場、とりわけケースワーカーの苦悩は当然わかる、仕事のすばらしさもわかっている(と思っている)。しかし、この苦悩とすばらしさはなかなか調和しない。だから、後輩に助言するときでも「仕事なんだから」「割り切って」という言葉が付くときがしばしばある。読者の中の経験豊富な先輩からは「おしかり」を受けるかもしれませんが。
 でも、私はぜひこの本を読んでいただきたいと思います、読者のみなさんにも、職場の同僚にも上司にも。
 日本は、高齢社会になっており、今後もますますものすごいスピードで進展していきます。いまの日本のマスコミで、行政で、人々の間で、労働組合で高齢者福祉、老人福祉はメジャーな話題のひとつです。一方、生活保護は、日本の福祉制度の中では、予算人員などの面で(従って、期待度も??)低下の傾向にあります。しかしながら、生活保護(ケースワーカー)は、現在メジャーなテーマとなっている高齢社会(高齢者)のさまざまなことに対して、個々の事例(ケースワーク)として、ずっと取り組んできたのです。しかし、そういうことは取り上げられない、話題にならない、人からも評価はされない、「大変な仕事」といって慰められることはあっても。一方、「今夏の猛暑にクーラー処分せよと強引に指導し、老人が死にかかり」生活保護は薄情だ、不正受給を見逃していた、と批判はいっぱい。この本には、そういう事例がいっぱい書いてあり、読んだ人によっては「福祉はなんて無駄な金を使っているんだ」と思うかもしれませんが、同時に、日本の福祉制度の中で生活保護が占めている特別な位置−−−生活保護が福祉の根幹であるという−−−が、何となく感じられると思います。

 憲法25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定しています。その理念を具体化したのが生活保護法です。かつて日本のエネルギー政策が「石炭から石油に」替わったとき、九州や北海道で地域の経済が、町の経済が崩壊しました。その中で、人々の「生存権」を保障してきたのが生活保護(ケースワーカー)です。今日、高齢社会のためのさまざまな施策が議論され、取り組みされていますが、それらの高齢者施策によっても、生活していくための必要不可欠な諸条件が整わないとき生活保護(ケースワーカー)の出番となるのです。 

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