ASSERT 226号(1996年9月21日)
【投稿】 「沖縄解散」と「民主党」の登場
【投稿】 「丸山真男について思うこと」(日記より)  
【本の紹介】  松下圭一著 「日本の自治・分権」・田島義介著 「地方分権事始め」
【書評】 戦後歴史教育の克服と「健康なナショナリズム」の主張は何をめざすか
【投稿】 これからの安全保障について
【投稿】 国際ダムサミットin長良川に参加して

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(投稿)  「沖縄解散」と「民主党」の登場

<<「投票に込められた沖縄県民の願い」>>
 やはり、9月8日の「米軍基地の整理・縮小と日米地位協定の見直しについて賛否を問う」沖縄県民投票の結果は、国政を大きく揺るがしたといえよう。投票率は59.53%と、期待された高さにはいたらなかったが、県内で最大の基礎票を持つ自民党が棄権を呼びかけ、軍用地主らで作る土地連も事実上棄権し、基地従業員の中からも沖駐労が棄権を決めていた中で、なおかつ先月の新潟県・巻町の原発の是非を問う住民投票とは違って、当初から県民の圧倒的意思が基地縮小を求め、投票の結果が見えていたことからすれば、その成功の意義には計り知れないものがある。
 投票総数54万1638の内、賛成票が48万2538、反対票は4万6232、有効投票に占める賛成比率は実に91.26%である。有権者数90万9832に占める賛成者の比率は53.05%となり、全有権者数の過半数を超えている。投票用紙に基地反対の思いを文字で書いたり、不満を書き込んだり、「ガンバレ」と激励の言葉を記したり、「×」の記号を使うなどして無効とされた票は1万2856にも達している。
 この投票結果を受けて開かれた9/10の大田知事との会談で、橋本首相は「県民投票に込められた沖縄県民の願いを厳粛に受け止める」と述べるにとどまらず、基地の整理・統合・縮小や日米地位協定の見直し、沖縄振興の特別調整費50億円の早期計上、沖縄関連施策検討のための「沖縄政策協議会」を設置する考えを提示、「沖縄県からは、アクションプログラムという沖縄県民の夢と希望を踏まえたプランが出ている。われわれはそれを踏まえて努力しようとしている」と述べ、それらを緊急の閣議決定として発表し、総理談話で「米軍の兵力構成を含む軍事態勢について、継続的に米国と協議してまいります」とまで約束したのである。これらはまさに、今回の県民投票が押し出したものだといえよう。

<<「苦しく、厳しい決定」>>
 9/13、大田知事は「私の全てが問われる、苦しく、厳しい決定だった」として、米軍用地の強制使用に必要な公告・縦覧の代行に応じることを表明した。知事の言うように「一県の行政には力の限界がある。特別立法の問題がなくて、代行拒否で問題が解決するのならば拒否するが、産業振興、雇用などの問題も総合的にしないと基地問題は解決しない」という厳しい現実がある。9/12の反戦地主会の代行拒否要請に対し、知事は「要請は重く受け止める。基地問題についてはこれまでできる限りのことをやっており、その気持ちはいささかも変わらない。しかし、日米の問題であり、県側が当事者となれず、靴の上からかゆいところをかくような思いできた」ことを率直に語っている。
 9/13、県庁を訪れた共産党・志位書記局長に対して大田知事は「仮に代行を拒否したとしても、基地は残る。基地を放置するとか、交渉を諦めるというゆとりはない。反対というのは非常に簡単だ。政府を引き込み、一つ一つ交渉し、解決して行かねばならない。金で取り引きしたわけではない。沖縄の問題はたかが50億円で取り引きできるような問題ではない」と声を荒げたという。
 大田沖縄県政について、「琉球日報」社説は、「過去の県政と比較して際立って違うのは、その政策や行政目標を達成するための戦略、戦術を意識し、駆使している点であろう。それは日米政府との交渉からマスコミへの対応まで徹底している」(9/13)と評価している。確かにその通りであろう。それでも「苦しく、厳しい決定」であるという現実は変わらないし、新たな難問が待ちかまえていることは間違いない。

<<解決不能の「基地たらい回し」政策>>
 政府が米国に提示している普天間ヘリポートの嘉手納基地への統合案は、地元3市(沖縄、嘉手納、北谷)の強い反発を招き、「基地の整理・縮小は全く表に出ず、経済振興だけが表に出てきた。日本政府のスケジュールに振り回されている感じがする」と県の対応への不快感を表明している。ヘリコプター訓練の伊江島実施案はさらに問題を広げている。基地の固定化と強化さえちらついている。米軍用地の強制使用手続き自身でさえ、知事の代行応諾が表明されたとはいえ、何千人にも及ぶ地権者が存在し、収用委の審理の成り行きいかんではまだまだ波乱含みである。そして実弾砲撃演習の本土移転もまた、政府の説得は難航し、各地で反対運動を活性化させ、基地を抱える自治体自身が住民投票を考える動きも出始めている。
 その意味では、県民投票を頂点とした沖縄の叫びが、安保や基地問題が一沖縄県の問題ではなく、避けて通れない全国民的課題とさせてきたともいえる。今や兵力の削減を伴わない基地の統合や分散化は、米兵犯罪や演習被害、広範な基地公害をなくすことにはならないことが誰の目にも明らかになっている。兵力の削減に踏み込んで、日米安保の堅持を前提とした「基地のたらい回し」政策を根本的に問い直し、軍縮の方向へのイニシャチブ、軍縮につながる安全保障の枠組みへと変えていく努力なくしては事態の抜本的な解決はありえないといえよう。沖縄県が提起している、2015年までに基地をゼロにする「基地返還アクションプログラム」が真剣に全国民的プログラムとならなければならないのである。

<<「疑惑・消費税隠し」解散から「沖縄解散」へ>>
 橋本首相は9/17日に沖縄を訪問し、続いて9/23に訪米、24日には国連演説と日米首脳会談を行い、普天間飛行場の返還問題を「クリントン大統領との直接交渉でまとめ、共同声明を出す段取りを描いている」という。嘉手納基地への機能移転で譲歩を取り付け、それを土産に帰日後、抜く手も見せず解散という戦略である。背後にうごめく事態の本質は、ことをそう単純には運ばせないであろう。いずれにしても、橋本首相は沖縄と米軍基地いうハードルを越さない限り、自らのイニシャチブによる衆院解散・総選挙の展望が開けないばかりか、政権維持自体が困難に直面することが自明である。であればこそ、表面上の身繕いに力を入れ、大田知事との会談では異例づくめの対応をし、米側にはあの手この手の取引を持ちかけているのであろう。
 そして今や10/20,27の投票日を前提に、堰を切るように流れ出した解散の動きは、自民党復党議員の続出で混迷の度を深める新進党と、第三極形成にもたつく鳩山新党の迷走を見越した、自らのリークで誘導したものであり、ここにきてもはや制御が効かない事態に突入している。たしかに、93年の総選挙で38年に及ぶ自民党単独政権が崩壊して以来、細川、羽田、村山、橋本と四代の連立政権が誕生したが、どれ一つとして解散・総選挙によって国民の審判を問うてはいない。しかし今回の解散・総選挙への動きは、明らかに加藤幹事長のヤミ献金疑惑、橋本首相自身が深く関与していると言われる政官薬業界のエイズ疑惑隠し、新進党の「今世紀中は消費税の3%据え置き」法案の攻勢にさらされる前に解散してしまおうという、「疑惑隠し」「食い逃げ」「消費税隠し」の総選挙であろう。それだけに、これを「沖縄解散」として成果を誇示して局面打開を図ろうというわけである。

<<「救国内閣」論の登場>>
 しかし橋本再選戦略には、まだまだ予測し難い難問が浮上しており、一挙に崩れ去る難関も待ちかまえていると言える。一つは自民党内の保保連合の動きと消費税見直しの動きであり、もう一つは第三極新党の形成とそのあなどりがたい動向である。 9/4、梶山官房長官は、安保、経済などの政策で一致できれば、「選挙後の展望として、大きな方向でイデオロギーが違わないなら救国内閣を作っていい」と発言したのである。この梶山氏の語感には「新進党の小沢氏との保保を匂わせるニュアンスがある」として亀井静香組織広報本部長が「真意をいぶかる。これ以上の選挙妨害はない。小沢氏との保保連立で動く議員は10人もいない。500%ありえない」と反論した。与野党の底流で、すでに首班指名をめぐる暗闘が始まったことは確かだといえよう。
 さらに同じ9/4、自民党議員グループ「改革を進める会」(会長・深谷前自治相)は「国民の理解が得られるまで消費税率の引き上げを凍結する」という意見書をまとめたのである。これには衆参議員23l、代理25人が参加している。深谷氏は記者会見で「行革をせずに当たり前のように消費税をアップするのはいかがなものか」と述べ、亀井静香組織広報本部長も「党内のさまざまな意見を抑えつけるべきではない。引き上げを一度決めたら二度と変更しないのでは弾力性がない」として「凍結」の検討を言い出し、野中幹事長代理も「世論調査を見ると消費税率引き上げへの抵抗は強い」と同調(9/3自民党役員連絡会)している。
 本来こうした場合、庶民の立場から最も敏感に反応すべき社民党は、これに対し村山党首が「与党内の足並みを乱すような発言が出るのはいかがなものか」として「凍結」論を批判する有り様である。6850億円の住専予算処理でも、武村さきがけ党首と共に「もうきまったことだから」と原案での成立にこだわり続けたあの立場である。

<<第三極「民主党」の登場>>
 開口一番、「政治は愛です!」「リベラルとは愛です!」などと言い始めて新党論を語り、「母に、弟と一緒の党になったらと言われた」と、鳩山御殿での恒例の花見会で、こんな発言をする鳩山由紀夫氏の、細川氏に劣らぬ若殿様ぶりは、第三極新党への期待を大いに冷ましてしまったといえよう。ハト派、リベラルを自認する鳩山氏が、改憲・軍拡論者である新進党の船田厳氏との連携を突如発表し、自民党へ戻りたい船田氏の本心に疑問が呈されると「船田はどうでもよい」と一転する。「武村氏は排除する」というのは、弟の邦雄がそう主張するからだと言い切る。離党届を出す弟が笑顔で新進党幹部に送り出されて新党の舵取りをしようという構図は、どう見ても小沢一郎氏のシナリオであろう。小沢氏の非民主的手法を批判して、羽田政権を離れた鳩山氏が、こうした日替わり発言や一貫性の欠如、言動の矛盾によって、めまぐるしい迷走経路をたどってきたことが、第三極への大きな結集を妨げてきたといえよう。しかしそれもここにきてようやく、菅直人氏の登場によって「仕切り直し」が行われ、民主党の結成が提唱され、その基本理念と基本政策が発表されるに至った。
 その基本政策では、「戦後生まれ・戦後育ちの世代」が政治の中心を担う世代交代の促進を前面に打ち出し、「日本社会はアジアの人々に対する植民地支配と侵略戦争に明瞭な責任を果たしていない。元従軍慰安婦などの問題に対する深い反省と謝罪を明確にする」ことを明らかにし、「沖縄に過度に集中している米軍の施設・区域の整理、縮小に勢力的に取り組む。在日米軍基地は、国際情勢の変化にともない「常時駐留なき安保」をも選択枝の一つとした平和の配当を追求する」こと、「共生型市場経済」、環境立国の立場の明示、人権基本法制定を含めて総合的「人権保障プログラム」の策定、等々を掲げている。
 新党がここで大きく勢力を結集し、その政策実現への道筋を明確にし、自民、新進保保連合勢力に対するより大きな第三極を形成するならば、連立・連合政権の主導権を確保することは十分可能であり、日本の政治の活性化につながることは疑いないといえよう。(生駒 敬)