ASSERT 231号(1997年2月15日)
【投稿】 ドル高・円安は何を問いかけているか
【投稿】 公務員国籍条項撤廃を巡る新たな展開  
【投稿】 春闘再構築か、見直しか−97春闘で問われる課題−
【投稿】 生き証人・姜徳景さんを追悼して
【投稿】 重油回収ボランティア報告

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(投稿) ドル高・円安は何を問いかけているか
<<同床異夢のG7>>
 2/8、ベルリンで主要七ヶ国蔵相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれた。会議は「為替市場の著しい不均衡(円高ドル安)は是正された」として、「今後の為替レートは経済の基礎的条件を反映すべきで、過度の変動は望ましくない」、したがって「今後の為替動向を監視し、適切な協力をする」ことで合意したという。三塚蔵相は日本の主張が取り入れられたと胸を張ったのであるが、それぞれまったくの同床異夢であり、G7の協調には参加者自身がそれほど期待してもおらず、市場自身も冷めた反応しか示していないのが実態である。むしろ日本の経済運営については、特別減税の廃止や消費税率の引き上げによる景気失速について多くの懸念、不信感が露骨に示され、その弁解に日本側がしどろもどろのていたらくであったといえよう。
 1$=120円を突破し、今や125円台にまで接近してきたドル高・円安については、2年前の1$=80円に比べて50%以上も上昇しており、三塚蔵相は「極度の円安は好ましくない」としきりに訴えたが、ルービン米財務長官は「ドル高は米国経済を支えている」という基本姿勢をあくまでも堅持し続けた。ドイツのワイゲル蔵相にいたっては「1年前はドル安で対応に苦慮したが、現在は満足している」と、マルク安容認の姿勢を明瞭に示したのである。
 かろうじて共同戦線を張れたのはイギリスであるが、こちらは逆にポンド高であり、英ポンドの対マルク相場が、ドル高・マルク安の輪をかける形で半年間に17%も上昇し、「さらにポンド高が進めば、英経済の競争力は損なわれる」(メージャー首相)ことから、そしてさらには欧州通過統合実現へマルク安を容認するドイツとフランスの路線への対抗上、ドル高是正要求を消極的に支持する程度にしか過ぎなかったのである。

<<綱渡りのドル高維持>>
 しかし米国のドル高維持の基本姿勢も、ある意味では綱渡り的なものである。ドル高は、第一に、海外からの資本流入の増大によって米長期金利の安定につながり、さらにはインフレ抑制、物価安定にも寄与する。しかし、ここで逆にドル高是正の必要性を認めれば、それと同時に長期金利の上昇、株価暴落というシナリオが急浮上しかねない状況にあることも事実である。
 グリーンスパン米連邦準備理事会議長は「資源の稼働率が高い米国経済にあって、急テンポに増加する輸入は物価の安全弁を提供している」(1/21米上院予算委員会)としているが、ドル高は、一方で米経済の海外資金への依存度を急速に高めてもいる。96年の外資直接投資の年間総額は950億$を超える見込みで、95年の608億$をはるかにこえている。なにしろ、公定歩合は日本が0.5%、ドイツが2.5%に対して、アメリカは5%であり、米国は外資にとって最高の市場なのである。とりわけ日本の超低金利、不良債権を大量に抱えた金融機関への不安から、高利回りの米国債などの購入に日本の資金が猛烈に流れ込んで、円相場の下落、ドル相場と米株価上昇の原動力にさえなっている現状である。しかしその先行きは、ジャパンマネーが景気の冷え込みや株安でいつ米国債を売りに出すかという不安におびえ、この状態がいつまで続くのか誰も予測し得ない事態に突入しており、ちょっとしたきかっけで株価が暴落しかねない危険な状況をももたらしているのである。

<<「日本に鼻も引っかけない」>>
 95年春には4400$台であったニューヨーク市場の平均株価が、この2/3には6809$にまで急上昇し、史上最高値を更新している。一方、89年末に39000円近くまで上昇した東京株式市場の平均株価は、97/1初めにはわずか5日間で2000円以上も下落し、現在1万7000〜8000円台を上下している。
 メリルリンチの経済学者スタインバーグ氏は、「ドルの価値は経済のファンダメンタルズを反映している。米国経済は6年間拡大してきたが、まだその活力は失われていない。それに反して日本の経済はデフレ状態で、大きな金融業界の問題を未だに処理しきれずに残している」と指摘しているが、それにしてもアメリカのこの異常株高はバブル状況を明らかに示しており、アメリカ経済の、貧富、低所得・高所得の危険な二極分解状況を推し進めているとも言えよう。バブル状況の裏側では、西側先進国の中でも医療保険未加入者数と貧困率では最高水準の実態が厳然として控えているのである。
 2/4、クリントン大統領は年頭教書を発表したが、米国の自画自賛と米国至上主義をあらためて確認し、対外政策に関連して、アジア、東アジア重視の姿勢を鮮明にしたが、中国については6回も言及し、韓国、北朝鮮にも言及したが、ついに「日本」には触れずじまいであった。翌日慌てた梶山官房長官が「クリントン大統領は日本に言及しなかったけれども、アメリカが日本を重要としていることに変わりはない」とわざわざ記者会見せざるをえないような、日本の地位の低下である。なにしろ、昨年後半には、中国の対米貿易黒字が日本のそれを上回ったのである。まさに「かつて『日本を手本に』などと、日本を賛美したり、逆に日本叩きを商売にした者たちは今では日本に鼻も引っかけない」(1/29クリスチャン・サイエンス・モニター紙)事態である。
 しかし事態はそう単純ではない。ジャパンマネーや日本の景気動向次第で米経済が大きく揺さぶられかねない事態が進行していることも事実なのである。「ドル高は国益」(ルービン財務長官)といっても、米自動車工業会などの不満は高まっており、今年1月の米自動車販売は、米自動車大手三社が前年同月比1%増にとどまったのに対して、日本車は23%も増えている。

<<裏目に出た在庫ゼロ方式>>
 このドル高・円安の利益をこれ幸いと享受して、フル操業に入っていたトヨタ自動車が、ブレーキ部品工場の火災事故で、トヨタ自慢の在庫ゼロ方式が裏目に出て、トヨタ全工場の生産が完全にストップするという皮肉な事態を生み出している。火災事故自体は単純なものであるが、いつでも発生し得るものであり、こうした不安定要因は、日米経済関係により深く、より深刻な形で広範に存在しているとも言えよう。
 日本の円安・株価の下落は、明らかに現在の自民党・橋本政権に対する不信、政権基盤の脆さに対する不安、増税と減税中止による景気後退政策への懸念、不良債権処理のもたつきと金融不安の再度の拡大、等々の反映であることは間違いないであろう。しかしそれは同時に、日本経済の構造問題に根ざす株安・円安でもあり、これまで誇りにしてきた日本型システムの崩壊、いわば「金属疲労」のあらわれともいえよう。
 もはや害悪しかもたらさないあの中曽根元首相が、「日本は沈没寸前だ。再建の見通しがつくまでは死んでも死にきれない」として「新進党をも視野に入れた行革大連合」をまたもや提唱し、暗躍している。梶山官房長官と新進党の小沢党首が密談し、「保保連合の準備」かと騒がれ、これに対抗して1/29には自民党のYKKMKと呼ばれる山崎政調会長、小泉厚相、加藤幹事長、森総務会長、亀井建設相らが「反『保保連合』の結集」かと噂された会合を企画、その内の一人が「昔の仲良し組(新進党)と組めば、かつての力を取り戻せると思っている人達がいる。時計の歯車を戻そうとしてもだめだ」(1/29朝日)と発言。野党は、それぞれに埋没して、手をこまねいて見守っている。「金属疲労」は、政界全体にまで及んでいるのである。
 自民党が議会内少数派でありながら、無修正で通りかねない97年度予算案の抜本的修正を、野党は断固として要求し、貫徹すべきであろう。それさえなしえなければ、政治不信はいよいよもって増大し、全政党が見離されていくであろう。
(生駒 敬)