ASSERT 241号(1997年12月20日)
【投稿】 まやかしの国債発行か、所得税減税か
【投稿】 小野義彦没後7年に寄せて(その1) 
【投稿】 南京1937ーDON'TCRY,NANKINGー」を観て
【書評】  鎌田慧『大杉榮──自由への疾走』
【投稿】 日本悲観論を考える(その2)

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(投稿) まやかしの国債発行か、所得税減税か

<<号泣せんばかりの涙、涙>>
 前号で株価暴落を取り上げ、日本の金融システムが戦後初の機能麻痺に陥っていることを問題にした直後から、あれよあれよという間に事態が急進展してきている。北海道拓殖銀行、山一証券、徳陽シティ銀行の破綻と、金融機関の破産の連続である。毎日新聞社のエコノミスト誌の大見出しは「金融恐慌 本当に来た」(12/2号)、「銀行・証券 連鎖崩壊」(12/9号)、「金融恐慌シナリオ」(12/16号)と、事態の急迫に警鐘を鳴らしている。さらにそれは1930年代の世界恐慌との類似性を論議する動きにまで発展している。事態の進展は単純ではありえないし、歴史が同じ形態を取って繰り返されることはありえないであろう。
 であればこそ、現実の具体的で、それぞれに固有な特徴と本質を見ておく必要があるように思われる。その筆頭は、山一証券の破綻の経緯である。
 11/24自主廃業を発表した同社の野沢社長は涙を流しながら記者会見し、「社員に責任はありません、社員は悪くない。社員を助けてやってください」と号泣せんばかりの姿がテレビで何度も放映されていたことは周知の通りである。
 ところが、ここに至る直前まで、同社の株が大量に売買されていた。旧経営陣は、廃業を前提にいわばインサイダー取引として大量に彼らの個人所有株を売り急ぎ、他方、社員や顧客には「破綻はありえない」として、「安値はチャンスでもある。会社に忠誠心があるなら、客にも社員にも山一株を買わせろ」と指示を出し(12/7朝日)、11/19からの3日間だけで、山一証券自身を通じた取り引きだけでも、「買い」が約7300万株、「売り」が約3400万株、と「買い」が大幅に超過したという。

<<山一の空売り>>
 実は1ヵ月以上も前から、「山一の空売り」(借株を高値で売り、安値で買い戻して借株を返し、差益を稼ぐ)が断続的に行われており、これには海外投機筋のみならず、山一経営陣も大きく関与していた。その売買のピークが11/20であった。この日、日本経済新聞が山一の2000年までのリストラ合理化計画を評価し、これをメインバンクの富士銀行が支援するという談話を掲載。前日まで58円に急落していた山一株が一挙に出来高トップに躍り出て、約2倍の108円のストップ高を記録する。ところがその同じ日経が11/22には「山一、自主廃業」情報を掲載すると、当の山一と富士銀行に通告、事実、朝刊トップに掲載するという事態に進展。週明けの24日には情報通り自主廃業を決定している。この一連の経過には明らかに意図的な情報操作と大蔵省からの情報リークがみえみえである。とにかく、山一株は一転して「売り殺到」でストップ安を続け、27日にはついに1円にまで下がり、今や紙屑となってしまったのである。この3日間の間に買われた山一株は2億株を上回り、その資金約200億円があっというまに失われ、その背後でぼろ儲けをしたのが、投機筋と実は山一経営陣そのものであったことは間違いない。彼らにいっぱい食わされた一般投資家や山一の顧客、それに会社からの要請と愛社精神、差益獲得のチャンス到来と、借金をしてまで自社株買いに走った山一の多くの一般社員が犠牲者であった。
 これにはさらに尾ひれがつく。山一経営陣がわざわざ自社株買いの貸付金を社員に提供したのは、倒産後の給料、ボーナス、退職金を棒引きにする陰謀であったというものである。その後の事態は結果としてこの事を立証しているとも言えよう。記者会見でいくら社長に涙を流されても、怒りは納まらないであろう。

<<日銀が世界一の不良銀行>>
 ここで、「自主廃業」という方針が実にうさんくさいといえよう。「破産」となると、法的整理として第三者の管財人が入り、経営の実態、粉飾決算の手口、政治家、裏世界などの特定顧客・「優良」・税金逃れの顧客の状況、「飛ばし」の実態、簿外債務の全容が明らかになりかねない。これを恐れた大蔵・政界・山一一体の疑惑隠し、情報秘匿が「自主廃業」を選択させ、意図的な情報操作をしてまでそこに追い込んだものといえる。大蔵省の証券局長などは、山一の自主廃業は「市場の宣告」であり、「望ましい」ことであるなどとニヤニヤしながら記者会見をしていたが、市場に何らの情報公開もしない、不信感を募らせるだけの日本の金融システム当局者の寒々とした無責任極まる実態が浮き彫りになっただけである。
 ここでさらに重要な問題は、この山一証券破綻で、こうした問題での情報開示や制限を一切問わないままに、「臨時異例の措置」だとして日銀特融を行ったことである。それはこれまでの「証券会社に特融は出さない」という原則を踏み外していることである。もともと銀行、信金、信組などが扱っている預金が元本保証されているのに対し、そもそも元本保証されていない証券会社や投資信託会社のリスクの伴う金融商品についてまで日銀特融がありえるのかという根本的疑問を、この際、金融システム安定化のためにはやむをえないとして一挙に野放しの拡大をしたことである。さらにこれによって、個人の預金だけではなく、預金保険法では保護されていない外貨預金、生命保険会社の債券などまでが全額保護されることになった。
 ここに日銀特融は、無利子・無担保・無制限の特別融資として、返済される見通しもない乱脈融資そのものになりかねない事態に直面しているのである。現在その総額は、11月末で、3兆4500億円に達しており、2001年3月までは、資金供給を続けるとしている。最悪の場合、日銀は回収不能な、膨大な不良債権を持ち続け、日銀が世界一の不良銀行に転落する現実的可能性が大であるといえよう。

<<「新型国債」のまやかし>>
 さらにこの機に乗じて登場してきた財投資金の投入は、さらに不透明な隠れ借金を上乗せして、国民の目を欺くものといえよう。投入論の本命は梶山前官房長官が出した試案であるが、政府が保有しているNTTや日本たばこ産業などの株式売却益を担保にした「新型国債」なるものを提唱し、破綻寸前の銀行などが出す優先株を一般財源で買い取ろうというものである。旧国鉄債務の28兆円をはじめ、財投がらみの長期債務は巨額に膨れ上がっており、これにさらに民間の不良債権を、預金者保護を名目に、実際には不良債権を税金で買い上げ、政府の不良債権に付け替えるだけのものである。この提案には明らかなまやかしがある。政府保有株の売却益は国債の元利を返す資金に充当されるもので、その返済財源を先に食いつぶしてしまおうというのがこの提案の本質である。
 経営に不安のある金融機関が発行する株式を公的資金で買い取り、破綻を事前に防ごうという考えは、情報開示や透明性、自己責任が求められる金融改革の流れに完全に反するものである。銀行業界は超低金利のもとで、年間8兆円もの業務純益を上げ、中小零細事業者には貸し渋り、厳しい取り立てを行い、その中小零細には介入同然のディスクロージャ(情報開示)を要求しながら、みずからに対しては徹底してディスクロージャを拒否してきたのが実態である。
 全国銀行協会の佐伯会長自身が「(不良債権処理は)きわめて順調に進んでいる。年間の業務純益は8兆円ほどあるから全体としては償却は終わりに近づいている」(12/1日経)と言明しているほどである。さらに今回の預金保険法改正で、経営困難な銀行同士の
合併にまで資金援助できる道を開いて、福徳銀行となにわ銀行の合併(来年10月)にこれを適用することを大蔵省は言明したのであるが、肝心の両銀行は、合併合意に際し、「不良債権は3年以内に処理を完了する」と公表しており、自力処理を約束している銀行にまで押し付け資金援助の道を開いている。そこには明らかに意図的な政治的錯誤があるといえよう。

<<東京の動向に全神経を集中>>
 12/7、自民党の山崎政調会長が「(政府の)外貨準備を金融機関の経営体質強化のために使うことも一案ではないか。外国の債券を売ってドル預金する手だてなどこれから議論したい」と発言した。政府保有の米国債などの売却で調達したドル資金を外国為替管理特別会計を通じて都市銀行などに預ける「外貨預託」を前向きに検討する考えを示したのである。
 12/8付けニューヨーク・タイムズはただちにこれに反応、「日本政府、財務省証券売却を示唆」という見出しで、「日本が売却を始めたら、証券価格が暴落し、金利が急騰する」、「米国の株式市場が大幅に値下がりし、世界市場に悪影響を及ぼす」可能性を指摘し、さらに同日のウォールストリート・ジャーナルも、日本政府が、資金確保を米国債権売却によって捻出する場合には、急激な円高・ドル安を招く懸念があると指摘、今ウォール街の通貨取引業者は「日本の経済刺激政策法案のニュースに全神経を集中」させていると報じている。日本の政府当局者、与党の一挙一動が直ちに世界市場の動向に関与し、左右しかねない不安定な事態が進行している証左でもある。ホワトハウス当局者は、「全く軽率な発言だ。他国の国債売却などは静かにやるべきで、公然と口にするとは失礼だ」(12/10日経)と述べているが、彼らとて東京の動向に全神経を集中しているとも言えよう。
 アメリカでは、1930年代の世界恐慌との類似性を論議する動きが活発になっており、アメリカン・エンタープライズ研究所のJ・メイキン主任研究員は「30年代の世界恐慌を特徴づける3条件が整う兆しが出ている」と指摘する(12/5日経)。3条件とは、デフレ、通貨の切下げ競争、保護主義である。すでに前の二つは今回のアジアの通貨危機の中で現在進行中である。その結果としてアメリカの貿易赤字が再び増え始め、7-9月期で15.5%増加、米経常収支赤字も11.4%拡大している。議会では大統領に一括通商交渉権を与える法案が否決され、保護主義ムードが活性化している。12/8付けワシントン・ポストは、昨今の米国議会は「国際化恐怖症(Globalphobia)」に陥っていると形容し、米国が孤立主義・保護主義に傾斜し始めていることに警告を発している。
 欧州は通貨統合という目標に向けて財政赤字削減一辺倒に押し流され、日本は赤字国債脱却が自己目的化して、いずれも景気浮揚政策に逆行する政策に拘泥しているのが現実の姿である。「かつて米国でもフーバー大統領が景気後退期に均衡財政を主張した。その結果、彼は1929年の大恐慌を招いた。」(ドーンブッシュ・MIT教授、12/10日経)このドーンブッシュ教授、「アジアは日本を中心にして大恐慌に入り始めているかもしれない」とも指摘している。

<<「緊急事態です。買ってください」>>
 ここで共通に根本的に問われているのは、バブル経営やデタラメ経営破綻の尻拭いのための後ろ向きの対策や、財政健全化至上主義という硬直的な姿勢の堅持ではなく、実体経済を活性化させる景気浮揚政策であるといえよう。
 決定的で本質的なことは、経済成長がマイナス成長に転換し始め、個人消費の不振がきわめて深刻になってきていることである。今年度の個人消費が前年度比で、実に戦後初めて減少する可能性、物価上昇率を差し引いた実質ベースの予測で、0.7-0.8%の減少がほぼ確実となっている。昨年、96年度の個人消費の総額は、「民間最終消費支出」として実質285兆円、国内総生産(GDP)の6割を占めていたものが、戦後初の減少を記録しようとしているのである。
 企業倒産も「過去最悪の年」になり、11月までの累計で負債総額が11兆2749億円に達しており、年間で12兆円に迫る勢いとなっており、この中には、山一や北海道拓殖銀行は含まれていない。百貨店、スーパーの売り上げもほとんどが昨年実績を下回っており、好調だったパソコン関係も苦戦続きで、売上高前年割れの状態が続いている。海外旅行ブームも今や円安と景気低迷のダブルパンチで、17年ぶりに前年を下回ろうとしている。
 大手紳士服専門店のコナカとアオキインターナショナルが「緊急事態です。買ってください。お願いします。」と悲鳴にも似た叫びを大書したチラシを新聞に折り込み、最大85%割引まで打ち出しているが、紳士服専門店各社は軒並み前年実績割れである。
 こうした事態は、4月の消費税率引き上げ、特別減税打ち切り、社会保険料負担の増大、医療費負担の引き上げ、全体で9兆円を超える負担増、実質可処分所得の大幅な減少があったことからすれば当然のことである。この点では明らかな政策不況である。金融機関破綻処理への公的資金導入はさらに税負担を増大させることにしかつながらない。
 今、決定的に必要なのは、史上最大規模の所得税減税だといえよう。
(生駒 敬)