ASSERT 242号(1998年1月24日)

【投稿】 日本発の金融・経済恐慌の可能性
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(投稿) 日本発の金融・経済恐慌の可能性

<<首相演説、株安に拍車>>
 1/12、通常国会開会冒頭、橋本首相は異例の金融経済演説を行い、「日本発の金融恐慌、経済恐慌は決して起こさない」と強い決意を表明、「金融システムを断固として守る」などと力説した。だが市場の反応は冷たく、「政策の新味がない」、「空虚な演説」だとして、その日の東京証券取引所の平均株価は330円安の1万4664円に急落、95/7以来、2年半ぶりの安値を記録し、首相の演説がかえって株安に拍車をかけたことを立証してしまった。年末12/17に突如意表をついて発表した2兆円減税の効果は二日ぐらいは持ちこたえたが、今回はその日の内に後手後手の弥縫策がたちまち見破られてしまったといえよう。
 兜町では、「バブルのピークから最近まで、株価は橋本首相が一人で下げた」とまでこき下ろされていると言う。バブルピーク時、89/12/29の平均株価は3万8915円、この時、橋本氏は海部政権の蔵相、大手証券会社の損失補填スキャンダルが発覚、株価はそれ以後一貫して下がり続け、91/11/5退任時の株価が2万4950円、1万4000円も落ち込ませた。その後、連立政権を経て、橋本氏が政権を担うようになってから、一旦は2万円台を回復していた株価をさらに1万4000円台にまで落ち込ませた訳である。橋本氏が蔵相、首相の地位にある間に実に2万5000円ほども下落させてしまった疫病神、「信用崩壊」の象徴であり、「政権を換えることが信頼回復の第一歩」とまで言われる事態に突入しているわけである。
<<対照的なクリントン大統領>>
 一方、クリントン米大統領はセックススキャンダルやらホワイトウォーター疑惑など個人的には深刻な問題を抱えてはいるが、経済政策に関しては表面上は順風満帆である。98年冒頭、1/5、同大統領は、破顔一笑、98年度予算では、その赤字額が220億ドルにまで縮小し、99会計年度予算では連邦政府の年間財政が黒字に転換することを正式に発表したのである。当初は、年間財政の赤字解消は2002年に達成される予定であったが、税収が予測をはるかに上回ったために、赤字削減速度が急上昇し、予定を3年も早めることが可能となってきた。99年度予算を待たずして、98年度ですでに赤字が解消される可能性も高まっている。最高時には2900億$もあった財政赤字であるが、好況持続によって税収見積りを大幅に超過する事態となり、橋本首相とは対照的な立場に立てたわけである。
 しかし、今日の世界的な通貨・金融不安の震源地は、実は米国自身にあることを忘れてはならないであろう。それは減少するどころか、増え続けている米国の経常収支赤字とその結果としての膨大な対外債務にこそある。80年代に入って累増した経常収支赤字は96年でも1480億$を超え、その累積である対外純債務は95年末時点で8300億$、GDP比率は11%にまでなっている。この対外債務は日本を最大債権国とする米国以外の国の民間資本と公的資本によって賄われているのである。赤字国債以外の何物でもない米財務省証券のほぼ3分の1が外国によって保有され、米国経済を米国以外の国が処分・換金することもままならずにとにもかくにも支えているのが実態なのである。こんなことがいつまでも続く保証はないし、橋本首相自身が資金引き上げの誘惑に言及し、中国を含めたそうした発言の度にニューヨーク株式市場は大きく動揺し、おびえてきたことは、周知の通りである。

<<国防長官のアジア歴訪>>
 それは、クリントンのはしゃぎぶりとは逆に、グリーンスパン米連邦準備制度議長が、米経済についてインフレ傾向はみられないが、むしろ物価の値下がり傾向から、デフレの危険性を指摘、株価や不動産の暴落が金融組織の崩壊につながる可能性とその深刻さを強調し、1929年の株式市場の崩壊、それに引き続いた30年代の「大恐慌」がこの現象の好例であると警告を発する事態なのである。(1/5付けウォールストリートジャーナル)
 事実、アジア諸国の通貨の対ドル価値が軒並み大暴落したことから、同地域の購買力は大幅に低下し、米国の対アジア輸出が激減し、反対にアジア製品価格の低下によって輸入が激増、貿易赤字が膨らむという悪循環が今年からよりいっそう表面化することは間違いないことである。すでに、その影響を直接的に受けているのが米国の製造業部門と輸出業者である。
 米国はこれまでアジアの危機は各国の政策や構造に原因があると主張し続け、ルービン財務長官も「強いドルは国益」と繰り返してきたのであるが、アジア経済危機が米国経済成長の足を引っ張りかねない事態を目前にして、クリントン政権は、政府高官を東南アジア各国に派遣し、米国とIMFが通貨を保証するため自国通貨を米ドルに換金しないよう呼びかけざるをえなくなっている。
 タイをはじめ韓国やマレーシアでは軍備近代化を凍結する見込みで、米軍事産業にとっては大打撃、さらに韓国では米軍の駐留費用負担が困難になり、米国が負担するか、米本土に呼び戻すかの選択を迫られている。コーエン国防長官自らが出張し、アジア通貨危機救済への取り組みを広報、1/20には東京へも訪問、米軍事外交の焦燥感を露骨に示さざるを得ない事態である。

<<救済策発表後に危機が進行>>
 問題のアジア金融危機は、昨年末以来の巨額の救済融資やIMFの救済政策の決定、実行にもかかわらず、さらに悪化、むしろ救済策発表後に通貨危機が進行するという皮肉な結果を進行させている。
 インドネシア・ルピアは1/8、1日で15%も下落、1月初めからの下げ幅は40%を超えている。IMFの庶民に犠牲を強いる救済条件に反発して、生活防衛のため、食料品などの買いだめ騒動、大衆暴動にまで発展する事態を招来しているのである。翌日、1/9のニューヨーク株式市場はこの危機の進展に連動、前日比222.20ドル安、市場4番目の下げ幅を記録している。
 これまでなんとか余波を食い止めてきた香港、中国までも金融不安が徐々に表面化し始めており、香港では、香港ドル売り圧力が強く、株や不動産価格が下げどまらず、中国の国有企業は香港市場から資金調達が出来ず、頼みの輸出も、大幅な通貨切り下げの東南アジアに押され、米財務省証券の売却や、泥沼の切り下げ競争に巻き込まれてでも、人民元切り下げもやむなしといった論調が出てきている。
 米国でも、国際金融支援もIMFの緊急融資条件が厳しすぎて、各国のデフレを深刻化させるだけだと言う批判が飛び出してきており、1/6付けニューヨーク・タイムズ紙は「しかし、政府は以外と早く経済難にまた直面することになるかもしれない。
あれほど急激に発展を遂げていたアジア諸国が現在のような危機に苦しんでいることは、我々への警告でもある」と指摘している。

<<アメリカの狙い>>
 1/5付けワシントン・ポスト紙は、「90年に日本の不景気が始まって以来、世界第2位の経済大国は未だにその低調に苦しむ」「日本経済はほとんど成長しておらず、株式市場も不動産市場も冷却しきっている」「銀行は不良債権で負債に埋もれ、消費者の自信はなくなり、企業の破産は歴史的な規模となっている」「さらに日本の失業率は第二次世界大戦以来最高水準にまで高まっている」「現行制度の頂点に居座る官僚と族議員らは、現行制度を少しいじるだけで戦後最大級の経済危機を乗り切れると信じ込んでいる」「日本の政策指導者達は実質的な改革を実行するだけの能力もその意思も示していない」と、一種の米国の共通認識を示している。確かに事実であろう。
 1/9、米財務省のサマーズ副長官は日本経済の現状について「国際的な信認を得るには不十分であり、アジア経済の混乱の大きな原因となっている」とまで指摘している。米国自身の責任を不問にすればこれも事実であろう。
 何が問題なのであろうか。日本の企業業績をみると、この景気低迷下にあっても、97年度まで6年連続の増収増益である。しかしその実態をよく見ると、日本経済は現在明らかに、2極分化しつつあるともいえよう。巨大独占体を中心とした製造業は国際競争力が強く、貿易黒字の拡大が続き、3期連続の増収増益を確保している。その一方で、非製造業、特に金融、不動産、建設はバブル期のぼろ儲けから一転して不良資産を抱えて、業績が低迷、不良債権処理の遅れがよりいっそうの不良債権の拡大と危機をもたらすという悪循環に陥っている。
 新日鉄の斉藤社長は「かつて1日で3億円の赤字だったが、現在は1日に3億円の黒字となっている」と語っているが、一方金融業界の昨年9月末の不良債権は21兆7300億円であったが、このほど発表された大蔵・日銀認定の問題含み債権は79兆円にも達している。
 アメリカの狙いは明らかにこの非製造業、とりわけ金融業において、ビッグバンと早期是正措置の圧力をかけ、総額1200兆円にも達する日本の預貯金を外資系に逃避させ、アメリカ資本による金融市場の支配力を一挙に拡大しようというものであろう。

<<「TOO LITTLE , TOO LATE」>>
 問題はこうした事態の急進展にあってもなお、たしかに「日本の政策指導者達は実質的な改革を実行するだけの能力もその意思も示していない」ことにあるといえよう。橋本内閣のあまりにもみみっちく、あまりにも遅きに失した=「TOO LITTLE , TOOLATE」と言われる経済政策の失敗がその象徴である。9兆円を超える負担増によって経済不況を招いた以上は、それらを取り消すか、9兆円を超える減税が実施されない限りは消費は回復しないことは当然であろう。
 一方、野党にとってこれほどの自民党政権打倒、政権交代の好機はないにもかかわらず、ところがこれまた情けないかな、分裂・再統一の茶番劇、現実離れした空虚で無内容なスローガンを繰り返すだけである。逆に野党から自民党への移籍が増え、ついに自民党は衆院では単独過半数を回復、参院でも過半数に迫りつつある。これによって政官財の既得権益と族議員ばっこの自民党単独政権の構図が完全に復活し、その結果、「TOO LITTLE , TOO LATE」な政策しか提起できず、結局現在の経済危機を招き、ひいてはそれが「日本発の金融・経済恐慌」に発展しかねないともいえよう。
 民主党をはじめとした6会派からなる「民友連」は、減税については6兆円の恒久減税が必要だと主張しているが、せめてこの主張ぐらいは終始一貫譲ることなく最後まで貫徹しなければ、政治不信は一層増大し、誰からも相手にされなくなるであろう。(生駒 敬)