ASSERT 245号(1998年4月24日)

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【書評】 「何となく日本人、いつまでも日本人」を歴史的視点から批判
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投稿 「橋本首相=現代のフーバー大統領」論

<<アメリカの現在=バブル期日本?>>
 4/6、ニューヨーク株式市場は史上最高値を更新しつづけ、ついに9000ドルを超えた。4/14には、さらに9110.20ドルの終値を記録した。95/3に4000ドル台、昨年6月に8000ドル台を突破してから9ヵ月あまりでしかない。1万ドル台は「時間の問題、おそらく2000年以前に達成されるでしょう」(4/7ウォールストリート・ジャーナル、エコノミストのE・ヤルデニ)とまで言われている。6000ドルを超えた頃でも、内外のエコノミストがアメリカ経済がバブルの領域に入ったと強く警告していたが、それを嘲笑うかのような上昇である。
 問題なのは、1月以来、今年第1四半期の企業売り上げは落ち込み、それにともない減収予想が報道され、企業業績不振予測が報じられているにもかかわらず、株価が上昇していることである。米国の貿易赤字は、1996年の1481億8000万ドルから、97年には1664億5000万ドルに上昇、史上2番目の最大赤字を記録、昨年後半の第4四半期だけでも456億2000万ドルの赤字である。アジアの経済危機によって今年に入ってもさらに赤字が拡大しており、事実、昨年10月まで前年同月比で二桁近い伸びを続けてきた米国製品の対アジア輸出は、昨年11月からは前年割れに転じ、今年1月には11.4%減と大幅な落ち込みを記録している。ところがそのあおりを食って行き場を失った世界中の投機資金が、不安と危険と高まる投機性を同居させた米国市場に還流、集中する実態が急激な株価上昇に象徴されているとも言えよう。
 4/12付けNYタイムズは、豊かさと裕福さの点で現在の米国は、バブル絶頂から崩壊直前の、1989年の日本に似ており、現在の米国経済には多くの危険要素があると指摘している。

<<アメリカ「ハゲタカ・マネー」の襲来>>
 周知のように80年代後半、日本企業はロックフェラービルや有名ビルを次から次へと買いあさり、ゴルフコースから映画会社までを買いまくったが、今やほとんど手放してしまっている。今回は逆の事態の到来である。
 これまで高度成長を謳歌してきたアジア経済の崩壊過程が、米資本にとってはアジア進出の絶好のチャンスとして、「通貨安と株安を利用してアジアの戦略企業を安く買い叩く好機」到来として浮上してきたわけである。それを後押しすべく、経済のグローバル化を盾に、米政府・財務省とIMFは、救済資金供与と抱き合わせで、アジア各国に資本市場開放や敵対的M&Aの容認を一挙に実現させつつある。
 すでにシティコープは韓国のソウル銀行はじめ数行との買収交渉、タイではファースト・バンク、シティ・バンクなどの過半数株式取得へ乗り出し、チェース銀行も韓国の韓一銀行の買収・経営権取得に動いている。今や、この地域の商業銀行、証券会社は投げ売り状態で、さながらバーゲンセールの様相を呈しているといわれる。こうして米欧多国籍企業と大銀行が、韓国、タイ、インドネシア、香港、シンガポールなどの主力企業、金融機関を買い取ろうとしている。もちろん、不良債権を切り捨てた良いとこ取りである。
 今や43億ドルもあれば、現代建設や三星電気、大宇重工、LG電子、LG化学など韓国10大財閥の中核企業の株式の三分の一を買い占め、経営権を握ることができる状態である。GMは大宇自動車、フォードは起亜自動車、サムスン自動車の買収に乗り出し、エクソンがタイ・ペトロケミカルを傘下に収めている。
 当然、日本に対してもこれまでにない好機到来として動き出している。メリルリンチはすでに自主廃業した山一証券のリテール部門の買収を決め、「山一難民」を引き取り、GEキャピタルが東邦生命と合弁事業設立に乗り出した。
 さらに、日本の大手金融機関が抱える大量の不良債権を、担保の土地やビルごと極端な安値で買い受けており、米国資本がこの1年間に買い取った日本の土地やビルは約200億ドル=2兆6000億円に達している。それも融資額=簿価の10分の1以下、平均7〜8%で投げ売りされているという。1000億円のビルなら70〜80億円という極端なダンピングである。これが国内売買であれば、不当廉売として贈与税が課せられ、損失分は回収義務を負わされるが、外資であれば売りっぱなしが許されるというわけで、投げ売りがまかり通っている状態である。

<<偏在した繁栄の危険性>>
 果たしてこうした事がいつまでも続けられるものであろうか。NYタイムズが指摘するように、現在の米国経済には多くの危険要素がありすぎるほどであり、いつ爆発してもおかしくない事態に突入しつつあるとも言えよう。
 その最大の問題は、これまで何度も指摘してきたように、国際決済通貨としての基軸通貨の特権を利用したドル紙幣ばらまきの借金体質である。確かに双子の赤字といわれた財政赤字の方はこの間、急速に改善してきている。これこそがアメリカ経済再生の証であると主張されている。しかしもう一方の一国の収支バランスである経常収支の赤字は、むしろ拡大傾向にありその対外債務は1兆ドルを超してしまっている。
つまりアメリカは、依然として世界最大の借金国、とっくに破産してもおかしくはない債務国なのである。
 赤字のままで成長率が高いということは、黒字による裏付けがなくなってしまった紙切れにしか過ぎないドル紙幣で他国の生産物を借金して購入していることを意味しており、これは必ず破綻せざるを得ないものである。現に外国からの重層的な借金の積み重ねを続けることで高度成長を維持してきたタイやインドネシア、韓国などで、ついに見せかけの成長が破綻し、為替相場が急落し、借金体質の脆さと弱さが露呈された、それと同じようなことがアメリカでも起こる危険性を増大させているのである。
 もう一つは、株価上昇の背景である。89年から95年にかけて、失業率が低下し、平均所得が増加した景気回復期に、米国の中間層の所得は3.4%低下したのであるが、これは戦後初めてのことである。このことは、ごく一部の高所得者層がますます富を貯え、それ以外の大部分の家計の所得は低下し、所得格差が一層拡大していることを示している。そしてこの間、米国の製造業就業者は先進国で唯一、実質賃金の下落に見舞われており、逆に言えば、賃金を労働生産性で割った単位労働コストがほぼ一貫して低下していく過程で、株価が上昇してきていることである。
 ニューエコノミー論者が言う生産性の向上も、一部の業種にかぎられた現象であり、全体的には労働者にしわ寄せがいっている。生産性が上昇しているのは、非効率部門をアウトソーシングしたハイテク製造業であり、その他の業種に負担を強いているに過ぎない。しかもその労働生産性の向上がまったく賃金に反映されてこなかったのである。つまりアメリカ経済は借金と労働者の犠牲の上に、そして他の諸国の忍従と犠牲の上に一部に偏在した繁栄を謳歌しているともいえよう。

<<日本がクラッシュすれば>>
 しかしこうした事態は、歴史的にもすでに1920年代に、同様に製造業の単位労働コストが低下するとともに、株価が急上昇し、結局最後は大暴落した恐慌を経験している。こうしたアメリカ経済の本質的な弱点が克服されない限り、株価を安定させ、ドルを下げたくても下げられない、いつ急落するかもしれないという危険な綱渡りが続くことは間違いないといえよう。
 英エコノミスト誌4/11号は、「日本がクラッシュ(破綻)すれば」と題する巻頭論文を掲載、ニューヨーク株式市場崩落の危険性が高まっていることを警告している。その中で、もっとも大きなリスクは「危険なほど過大評価されているように見える」ニューヨーク株価が日本からの予期せぬ悪いニュースで崩落することだと指摘。さらに、米国民の株式保有は今や、直接あるいは投資信託や年金プランを通じて1980年代のほぼ倍の規模に膨れ上がっている点を強調し、米経済は以前に比べ株価下落に弱い体質になっていることに注意を喚起している。
 この点は確かに、米国民の資産構成が大きく変化してきており、90年には不動産がトップで33%、株式が12%であったものが、97年には株式28%と逆転、トップに立っている。家計の株式残高も、90年には1兆7610億ドルから、97年には5兆7380億ドルにまで膨らんでいる。グリーンスパンFRB(米連邦準備制度理事会)議長は「1年か1年半後に、後悔する投資家が出てくる可能性も十分ある」と不安を表明するような事態である。
 一方、「貯蓄超大国」の異名を取る日本では、一般消費者の貯蓄高平均が過去4年間で初めて縮小したことが判明した。昨年1997年、日本の一世帯当たりの貯蓄平均は1635万で、前年比1.3%減少している。経済企画庁の発表では、増税と賃金減少が直接原因であるという。当然のことである。それでも日本の貯蓄総額は1200兆円で、日本人口の倍である米国のそれを2.5倍も上回っている。
 さらにこのところ鋭い論評と分析で注目されているリチャード・クー氏は、「景気以外の指標を見れば、日本は貿易収支、外貨準備ともに世界最大であり、何のリスクもない。…日本経済が景気後退に陥った最大の原因は、財政再建を急ぎすぎ、97年度予算で極端な緊縮財政を組んだことにある。…消費税率を上げず、特別減税を廃止せず、社会保障費も上げなければ、現在の状況を招くことはなかったであろう。」(「エコノミスト」4/21号)と指摘している。

<<MAMIZU(真水)の要求>>
 4/3付けワシントンタイムズで、ソニーの大賀会長が「橋本首相は世界を恐慌に導いたハーバート・フーバー大統領の二の舞を演じかねない。このまま放置すれば日本が世界の不況の口火となる」と発言したことが、アメリカでは大きく取り上げられている。
 こうした発言にさらに力を得て、このところアメリカの日本叩きは一層激しく、執拗で、しかも具体的である。ルービン財務長官は訪米した宮沢元首相に対し、単刀直入に「MAMIZU(真水)で8兆〜10兆円の減税はできないか」、「5%の消費税を元の3%に戻せないか」と迫った事実が明らかにされている。
 こうした一連の欧米からの対日要求や批判に対し、松永蔵相が「日本の経済政策は日本が決めること」と反発したり、加藤・自民党幹事長が「外国の助言に基づいて政策を決めることはしない」と反発する意見を公表する事態に進展、4/9付けNYタイムズは、「最近のクリントン政権の細かな忠告は行き過ぎで、忠告というよりは命令に近い」と反省を促したが、しかし同時に、米国が日本の内政にこと細かく指図していることを非難する山崎政調会長に対し、「80年代、日本経済が最高潮にあった頃、日本は同じことを米国にしていた」と釘をさしている。4/10付けワシントンポストは「日本の遅い対応」という見出しで、「日本は昔から外圧がないと変化が起こらない国である」と突き放している。
 4/15から開かれたG7蔵相・中央銀行総裁会議でも、松永蔵相が、橋本政権が先に発表した総合経済対策を説明したが、「各国代表はそれにほとんど満足しておらず」、ルービン財務長官は「松永蔵相に対する失望を隠そうともせず、効果を見届けるまで安心できない」と発言(4/16NYタイムズ)する始末である。
 このまま行けば、5/15からのバーミンガム・サミットでは、日本だけが各国から「袋叩き」にされると憂慮し、もはや時間的余裕もなくなってきた橋本首相はついにもやもやっとした中途半端な路線転換に踏み出さざるを得なくなったのであろう。これまでの間違いについて一言の謝罪の言葉すらなく、政策転換であることも認めず、「政治責任というが、目の前の経済危機に対し、何もしないほうが政治責任を問われる」などとまるで他人事のように開き直り、4/9、今年2月から実施している2兆円の所得税・住民税の特別減税にさらに2兆円の上積みをすること、来年度も2兆円規模の減税を継続すること、その他福祉、教育、投資分野での政策減税を検討することなどを盛り込んだ景気対策を発表した。それでも翌4/10の東京株式市場は、逆に200円近く値下がり。市場は何も評価しないことを示した。対策は、総じて小出しで、かつあまりにも遅い、まさにtoo little too late なのである。そして本来、アメリカに対して要求すべきことには、全く口をつぐんでしまっている。橋本首相が現代のフーバー大統領になる可能性は大いに有り得るとも言えよう。
(生駒 敬)