ASSERT 248号(1998年7月25日)
【投稿】 自民党内閣決別を宣言した参院選
【レポート】 参議院選挙を考える
【書評】 「戦後50余年」--戦争=国家の「経済行為」と個人の関係を問う
   --小澤眞人+NHK取材班『赤紙──男たちはこうして戦場へ送られた』
   --鬼内仙次『島の墓標──私の「戦艦大和」』
【読者の声】 --織田氏と依辺氏の意見にひとこと--
【投稿】  98ワールド・カップ観戦記

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【投稿】 自民党内閣決別を宣言した参院選

<<「予想を越える食い違い」>>
 7/12の参院選挙は、事前のあらゆる予想に反して自民党・橋本政権の記録的な敗北をもたらした。筆者自身の予想も外れた、投票率もその結果も今後に希望を持たせる力強い誤算であった。もちろん、各新聞社・通信社の予測も大きく外れた。いずれの予測も直前の世論調査で、自民党は現有61議席プラス6マイナス7の範囲内であり、「第一党の自民の惨敗を予測できなかった今回の調査は、最悪の結果だった」(朝日新聞・世論調査室長)、「誤差と言うにはあまりに予想を越える食い違いだった」(参詣新聞・編集局次長兼政治部長)と反省しきりである。政局通を売りにしているインサイダー誌の高野編集長でさえ「自民党が改選数を上回って63〜65程度を獲得する平凡な結果になる可能性が大きい」と予測していたのである。
 このところ国政選挙のたびに、投票率は下がりつづけてきており、しかも今年に入ってからの各地の補欠選挙で自民党が全勝してきた。前回、95年の参院選の投票率は44.5%と過去最低を記録し、今回も当初の予測ではさらに最低記録更新の可能性が予測され、40%を切った場合の選挙の有効性までもが議論されていた。ところが今回、投票率がとりわけ都市部で大きく伸び、結果は58.8%と、14.3%も上昇したのである。
 共産党の不破委員長までもが、比例区で819万を超えた得票について、「赤旗読者の3倍以上、党員の20数倍の票です。どこにいるのかつかみようがない」(7/17朝日インタビュー)と言う始末である。

<<「怒りが爆発した」>>
 自民党の惨敗は、「国民の汗水たらした税金を、いとも簡単に倒産する銀行にまわして救済する。銀行の経営責任は問わずに、公的資金で自民党に都合の良い使い方を平然と行う暴挙」、「少しばかりの減税」で逃げて、「国民にアメ玉をしゃぶらせ、言いくるめるなど許せない政治手段、なりふりかまわぬ橋本政権に、多くの国民の怒りが爆発した」(7/16朝日「声」欄)という声に端的に代表されていると言えよう。

 これは明らかに自民党内閣への決別であり、不況期に消費税導入・社会保障負担増大・緊縮財政などと言う橋本内閣のおよそ庶民の生活要求からかけ離れた経済失政への厳しい審判であり、ここまでこうした政権を居座り続けさせてきた自・社・さ連合政権、ふがいない野党の存在感の薄さ、ていたらくに対する拒絶回答だと言えよう。

 その結果が、自民党は、比例区の得票率、わずかに25%という大敗、都市部の3〜4人区では議席ゼロという壊滅的打撃を被り、61議席の「勝敗ライン」どころか、44議席、保守系無所属を入れても47議席という惨敗をもたらした。
 直前に閣外協力を解消した社民党は改選議席12に対して半分以下の5、さきがけは1議席も取れず、その政治的敗北は決定的であり、根本的な路線転換がない限りは両党とも政党としての存在自体もはや再浮上し難いものとなった。
 公明党と自由党は投票率の上昇にもかかわらず、横ばいに終わり、その結果、公明は自民、民主に次ぐ第三党の地位を共産に明け渡すこととなった。

<<自共合唱の「自共対決」論>>
 こうした結果を大きく左右した無党派層の積極的な登場が、自民党政権に取って代わることが期待されている民主党、自民党への批判票としての存在価値が評価されている共産党という意味ある温度差を持ちながらも、自民党に政権交代を迫るほどの「民主・共産ブーム」をもたらしたことは明らかであろう。
 各種出口調査でも明らかになっているように、無党派層の30%が民主党に、20%が共産党に投票している(自民、公明は各10%、社民、自由は各8%)。とりわけ、事前には苦戦を予想されていた民主党がこれを背景に18議席から27議席(無所属入党を含めると30議席)へと躍進した意味は大きいと言えよう。共産党もこれによって6議席から15議席へと、2.5倍増となった。
 ここで共産党がしきりに声高く叫んでいる「自共対決」論を検討しておこう。彼らがことさらにこれを叫ぶのは、共産党以外はすべて真の野党ではなく、与党の一翼であり、自民党翼賛政党であり、第二自民であるといった周知の我田引水のセクト的な主張が前面に出たものである。これに呼応して自民党が、逆にこれを利用して反共主義で票を稼ごうと言う見え透いた共産党へのおべんちゃらと持ち上げを行ってきたわけである。今回も自民党幹事長までが「自共対決」を強調して、真の論点、政策対決をすりかえる論法に利用したと言えよう。その意味では自民党を利する論法でしかない。共産党が今後もこうした独善的な姿勢を取り続けるならば、有権者から見放されることは必定である。
 しかし今回多くの有権者は実に絶妙な配分をしたと言えよう。民主党に政権交代のチャンスをより多く与えると同時に第二自民党化への傾向に釘をさし、さらに共産党に対しては批判政党としてとどまるのか、より大きく反自民勢力の統一に貢献するのかという試練を与えたのである。共産党の不破委員長は首相指名で民主党の菅代表指名もあり得ると言っている。これは大いに歓迎すべきことであろう。しかしその一方で「今度の結果は自民党が不況対策で迷走したからではなく」、「自共対決の構図がはっきり出た」からだなどと言っているようでは先が思いやられよう。

<<「冷めたピザ」>>
 選挙の結果、自民党は参院過半数の127議席を20議席以上割り込んだ。社民、さきがけとの閣外協力を取り付けたとしても124議席、あるいは自由党との保保連合を組んだとしても118議席、いずれも過半数に届かない。公明とならば、130議席になり、かろうじて過半数を確保できる。さっそく旧公明・新党平和の神崎代表は「参院選は統一首相候補を立てて争った選挙ではなかった」として民主党からの誘いを拒否して独自路線を表明(7/13記者会見)し、自民党と民主党の間でキャスチングボートをちらつかせている。もちろん重心は大きく自民党に傾いている。
 衆議院で過半数を確保している自民党は、次期首相を目指して派閥間抗争が再燃している。最有力候補で党内多数派を掌握している小渕氏は、内外共に不評判極まりない。7/13付けニューヨークタイムズ紙は、「(橋本氏の)かわりはさらにひどいかもしれない」、「冷めたピザのように生気に欠ける」、「自身ではほとんど決断しない名目だけの頭首」、「首相になっても党長老のかいらいに過ぎないだろう」などと徹底的にこき下ろされている。その小渕氏、「総合力と調整力」を前面に掲げているが、橋本首相との違いを問われて、「なかなか難しいところだが、閣内で相補ってきたのだから」(7/20朝日)と、確かにまるで気力も生彩もほとんど感じられない。
 「小渕氏では選挙の顔にならない」として、「トップの決心」を掲げる梶山氏は、(金融危機の認識について)「官房長官だった私が知らなかったのだから、橋本首相はもっと現状を知らなかったと思う」という程度の認識である。「首相の覚悟」を掲げる小泉氏も、「低投票率は変わらない、という錯覚があった」という甘さである。
いずれも小渕氏は外相、梶山氏は官房長官、小泉氏は厚相として、橋本政権の中枢に位置し、今回の惨敗に責任を持った連中ばかりである。彼ら以外に首相候補者がいないとすれば、自民党は、もはや救い難い状況に陥っていると言えよう。
 橋本首相退陣後の7/13月曜日の株価は、上昇に転じた。不況と貧乏神のエースの降板は、市場にとってプラス材料ととらえられたのである。しかし後継首相がこんな状態では、深まりつつあるアジア経済危機の第二段階をさらに深刻化させ、日本発の世界経済危機を現実化させかねない。衆議院を解散に追い込む野党の攻勢と政策一致が緊急に要請されている。これほど内外の厳しい眼が日本の政局に注がれていることはないと言えよう。
(生駒 敬)