ASSERT 249号(1998年8月22日)
【投稿】  短命・小渕新内閣退場への道
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【投稿】短命・小渕新内閣退場への道

◆「生気に欠ける」内閣の登場
 前号で紹介した「(橋本氏の)かわりはさらにひどいかもしれない」、「冷めたピザのように生気に欠ける」、「自身ではほとんど決断しない名目だけの頭首」(7/13付けニューヨークタイムズ紙)とこきおろされた小渕新内閣が現実のものとなった。しかもこの指摘どおりの情けない事態の進行である。ここまで皮肉られても何の反発力さえもみせず、新内閣組閣の出発点からして、いやがり、固辞している「最大、最強の人」=宮沢氏に入閣してもらわなければ組閣もできないと駄々をこね、自らの自信の無さと無責任さを公言して恥じないスタートである。おまけに国民にNOを突きつけられた参院選敗北の最大の責任者=橋本前首相を外交最高顧問にまで据えてしまった。みずからの力で日本の政治・経済・外交の新しい展望を切り開こうと言う気迫も気概も見せることのできない日本政治のお恥ずかしい実態を世界にさらけ出したのである。
 それでもいくつかの新しい組閣人事を行いはしたが、野党を取り込むような大胆さにも欠け、やはり保守一党独裁時代のたらい回し人事の踏襲である。参院選の結果が突きつけたこうした自民党政治への重く鋭い批判には何の反省の姿勢も見られない。早速始まった国会の論戦でも、「日本発の世界恐慌」説を吹き飛ばす小渕新首相の絶好のアピールの機会にもかかわらず、まともに正面から応えられず、時々変に上ずって声を荒げはするが、内容ある論戦には程遠く、ほとんどが官僚が作成したおざなりな答弁文章を味気なく読むだけである。文字通り「生気に欠ける」、出発の当初から「短命・中継ぎ政権」論が横行するレイムダック=「死に体」内閣の登場である。こんな内閣は一日も早く退場してもらわなければなるまい。

◆蔵相不適格者の再登場
 その新内閣は経済再生内閣と自らを銘打ったが、「宮沢蔵相固まる」の報道が一斉になされた7/28こは、東京市場では日経平均株価が170円上昇したが、逆にニューヨーク市場では一時200ドルを超える急落となった。ウォール街では、小渕政権=宮沢蔵相の登場は、日本経済の不況脱出どころか、「世界恐慌の始まり」と受け止められたともいえよう。
 経済再生を全面的に託された宮沢氏こそは、バブル経済を生み、問題先送りで日本経済を不況に突き落とした張本人であるともいえる。中曽根、竹下両内閣の蔵相当時、円高不況対策を名目に地価高騰を煽る従来型・ゼネコン重視の公共事業の大判振る舞いと、超低金利政策を取り、バブル絶頂期にあってもなお、「経済の動きに行政の対応が遅れがちなことは否定しません」(87/11国会答弁)と放置し、さらにそのツケがまわってきたバブル崩壊後に首相になってからも、金融機関の不良債権問題が表面化した92年8月、公的資金導入をめぐって右往左往し、結局は問題の先送りに奔走、見通しの甘さと決断力の無さでは「最大、最強の人」を実証してきた札付きの人物である。ある意味では問題先送り、見通しの甘さ、決断力の無さという小渕内閣を象徴する人事である。
 8/11の衆参両院本会議場での野党の追及に、宮沢蔵相自身が「バブル経済発生の前後、何年間か政府におり、この状態に適切に対応できなかったことを今でも反省している」、「過剰流動性がやがて不動産、株への投資になることは分かっていた」にもかかわらず「総量規制が90年に行われたのは遅かった」、「大変申し訳なく思っている」と陳謝せざるをえない、その責任の重さを問われはしても、今やもはや御用済みの蔵相不適格者なのである。こんな人物をこの難局期に蔵相に据えたのは、小渕政権は最初から経済再建に失敗したときの責任回避に走ることを前提にしており、宮沢蔵相は、失敗することを見越した「リストラ要員」ではないかとまでいわれる始末である。

◆まやかしの6兆円所得税減税
 問題はその経済再生政策である。小渕首相は6兆円減税をその柱に据え、基本方針として、6兆円のうち法人税減税2兆円、所得税・住民税を4兆円に配分することと、年収3000万円以上の最高税率を現行の65%から50%に引き下げ、さらに課税最低限を引き下げないという方針を打ち出した。
 ところがここには明らかなトリックが隠されている。昨年から進行中の現在の4兆円特別減税は、あくまでも1年限りの特別減税であって、来年からは廃止されることが不明確にされているのである。そのことをあいまいにしたまま、ことさら「6兆円減税」などと特別減税の上にさらに6兆円が追加されるかのような印象を与える言い方で内外の厳しい批判を切り抜けようと言う、いずれは化けの皮がはがれるあさましい魂胆である。
 この特別減税の廃止と課税最低限を引き下げないという方針は、実際は特別減税実施前の97年の課税水準に逆戻りすることを意味しており、来年度から4兆円の減税が実施されても、年収900万円以下の所得層は特別減税実施前の97年の課税水準に逆戻りして実質増税となる。年収900万円から約1150万円までの層についても、97年よりは減税となるものの、特別減税が実施された今年と比較すると、やはり実質増税となる。つまるところ、大幅な減税の恩恵を受けるのは年収約1150万円を超える層だけという、あからさまな金持ち優遇減税である。
「今年の4兆円特別減税は定額減税だから、どの所得層も減税額は一律13万7500円で、年収491万0000円までは納税額0円だった」、こんなことは続けられない、課税最低限度は特別減税実施前の水準に戻すという宣言である。これでは、納税者の約94%を占める所得約1150万円以下の世帯では、期待に反して増税となり、今年よりも多い税金を納めなければならない。内需拡大、消費の活発化どころか、景気を冷えこます実質増税、不況深化政策でしかない。
 しかしこうしたまやかしの減税を具体化するに当たって、小渕内閣は早くも迷走を始めてしまった。宮沢蔵相と自民党税制調査会の協議で、各所得層の税率を一律に引き下げる「定率減税」の方針が打ち出され、6兆円の内訳も、紆余曲折、所得税・地方税が5兆円、法人税1兆円案が浮上、さらに今回も恒久減税ではなく、緊急の景気対策減税と位置づけ、改めて抜本的な税制見直しを議論するという「二段階方式」を取る方針が出されてきたのである。またもや問題先送り、その場しのぎの禰方策である。財源論議もしないままの、本格的な増税の動きが見え隠れしている減税論議なのである。

◆「十月暴落説」の引き金
 現在、ニューヨーク株式市場の「十月暴落説」が各紙誌に登場し始めている。日本企業の中間決算の内容が明らかになる10月、恐慌の引き金が引かれるというわけである。最も注目されているのは、経営危機が表面化している複数の大手銀行の破綻問題である。
 すでに発足したばかりの金融監督庁は、この7月から大手銀行19行への緊急検査に着手しており、経営危機がすでに表面化している日本長期信用銀行を手始めに、都銀9行、長信銀3行、信託銀行7行の資産内容を子会社を含めて洗い直し、正確な不良債権の実態をつかみ、問題行には早期是正措置を発動し、経営改善命令から業務停止命令まで最終的な「銀行処分」に乗り出す方針が一応は明らかにされている。検査結果が出そろう9月末までには、大手銀行同士の合併・再編、米銀や欧州銀行との碇携・再編の動きが加速されようとしている。都銀9行のうち2行は、問題の不良債権処理を3年間以内に処理する経営体力がないと見なされ、ブリッジバンク移行が噂される事態である。
 しかしこのブリッジバンク構想、「受け皿銀行」の登場は、これまでの整理回収銀行にはなかった「健全な借り手企業への融資機能を持つ」のが特徴である。住専の破綻が表面化してから6年、やり方次第では、金を借りまくった乱脈企業まで助けかねない。いやむしろそうした大手建設ゼネコンを救済することを目的に、30兆円という多額の税金を融資の原資に、こうした不良融資先に税金の大盤振る舞いで資金を注ぎ込み、問題企業の延命に手を貸すという、いわば「平成の暴挙」が準備されているのである。
 しかもこの破綻金融機関や健全な借り手企業の認定基準が曖昧で、政治や行政による窓意的な裁量の余地が大きすぎる。もちろん政府・自民党の狙いはそこにこそあり、政権党のうまみをそこから引き出そうと言う魂胆である。しかしそうした情報公開に逆行し、責任追及を不問にした構想、その上に不良債権について、引き当て義務も開示義務も従来通りというのであれば、金融の再生など夢、幻となり、そのことがかえって世界的な不信を増大させ、世界恐慌の引き金役を果たすこととなろう。

◆「日本悪玉論」の合唱
 8/12日付けのワシントン・ポストの記事は、クリントン大統領、ルービン財務長官、アーロン商務次官などの発言を引用し「小渕政府の対応がおざなりで、世界的に不況が拡がるとすると、それは日本の責任」といった「日本悪玉論」が明快になってきた、と解説を付けている。米当局者も責任回避に必死である。1ドル=146円という急激な円安に急遽、意表を突く形で2年10ケ月ぶりの日米協調介入が行われたのは、つい2ケ月前の6/17であった。ところが小渕政権登場後の8/11には、円はついに147円台に下落、90年8月以来の8年ぶりの最安値を更新した。同日、東京市場の平均株価も銀行株を中心に売り物が殺到、一時315円安まで下落した。それは直ちにニューヨーク、香港、シンガポールなど東南アジア市場にも波及している。ニューヨークのダウ平均株価は一時250ドル以上も急落している。しかし今回は協調介入は行われず、アメリカに加えて中国も「日本政府の経済改革が具体性を欠き、果敢な行動をとらないことが円の劣勢の要因の一つだ」、「円の疲弊の最大の被害者はアジア諸国だ」(8/12付け人民日報)とする「日本悪玉論」の合唱に加わった。
 減税法案と金融再編促進関連6法案をめぐる与野党の対決は、いよいよこれからが本番である。臨時国会会期末の9月末には、あらゆる意味で日本の政治・経済・外交が問われる転換点となる可能性が浮上している。第4四半期の10〜12月期、「日本版ブリッジバンク」構想も何ら有効な打開策にならず、うやむやな先延ばし処理だけで終始し、現実の銀行破綻だけが明らかになれば、それはすぐさま「日本売り」であり、「世界恐慌の火付け役」となることが自明である。野党側も参院選に勝利したとはいえ、こうした経済危機打開の方針、処方箋については一致しておらず、対案の基本姿勢も不明確なのが実状だといえよう。しかし破綻金融機関の処理については民主、平和・改革、自由党は対案を一本化させる方向が確認されている。これをさらに前進させ、自民党の分裂と小渕内閣不信任案可決にまで持っていけるのかどうか、今や自民党よりも野党のそれぞれの方針と政策こそが問われ、内外注視の的になっている。端的には民主、共産、両党の姿勢が問われているのではないだろうか。   (生駒 敬)