ASSERT 250号(1998年9月25日)
【投稿】 「危機をさらに悪化させる」指導者たち
【投稿】 「戦後民主主義を問い直すNO7(続き)」
【投稿】 「建設省にレッドカード!長良川DAY98」
【書評】 司法制度改革とリーガル・ミステリー

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投稿 「危機をさらに悪化させる」指導者たち

<<「モニカ・ミサイル」>>
「ポーラ・ジョーンズよりダウ・ジョーンズが大事」、今年1月、クリントン米大統領のセクハラ訴訟が却下されたとき、こんなセリフがはやったと言う。右肩上がりの株価に不安感が漂い始めたときである。まだクリントンは高い支持率に自信満々であった。だが、この訴訟の証言過程で浮かび上がってきたホワイトハウス研修生モニカ・ルィンスキーとの不倫疑惑は大統領権限を利用した偽証疑惑へと発展し、8月には一部謝罪と開き直りで乗り切りを策し、焦点そらしか、アフガニスタンとスーダンのあやしげな「国際テロ拠点」への報復攻撃を行った。危険な火遊びは外にまで拡大されたのである。北朝鮮の「テポドン」どころではない。その巡航ミサイルは「モニカ・ミサイル」と皮肉られる始末である。
 9/11アメリカ連邦議会はスター特別検査官のクリントン大統領の偽証疑惑に関する報告書を公開し、インターネットでも全文公開した。この11、12の二日間だけでも約600万人がインターネットからダウンロードしたという。再びクリントンは、深刻な表情で謝罪を表明した。「モニカ・ミサイル」の逆襲である。次には証言模様のビデオ録画が公開される。またここでも謝罪せざるを得ないのであろう。かくして謝罪のタイミングが後手後手に回り、政治的効果が一向に上がらない、さらに「追い詰められなければ、謝らない」、それがさらに自らを追い詰めてしまう。日本の政府・自民党のこの間の政変劇、不良債権問題と同一の過程でもある。
 この間、ニューヨーク株式市場のダウ・ジョーンズ工業株30種平均が8/27(357ドル下落、史上3番目)に急落して以後、下落は止まらず、8/31には512ドル下落(史上2番目)し、7月につけたピークの9338ドルから、今や7000ドル台にまで暴落、ダッチロール状の乱高下を繰り返している。もはや一時期「ニューエコノミー」論でもてはやされたような楽観論は影を潜めてしまった。

<<「弱くて、頼りにならない」>>
 9/2付けのワシントン・ポストは「弱い指導者たちが危機をさらに悪化させる」という見出しを掲げて「世界は経済崩壊の危機に直面しているというのに、これを救うことができる世界的指導者は誰もいない。先進国のどこを見ても、弱い指導者や頼りにならない国際機関しか見当たらない。最も重要な存在であるはずのG7諸国は、従来ならば協力して世界の経済危機を乗り越えるところだが、彼らはそれぞれの国内問題を抱えてかつてなかったほど弱体化している」、「クリントン大統領はルィンスキー疑惑による辞任要求で気が散っているし、日本の小渕首相は、銀行システムへの対応の仕方で批判を浴びており、ドイツのコール首相も再選が危ぶまれ、その政治生命が危機にさらされている。いうまでもなく、ロシアのエリツィン大統領は経済政治問題で身動きが取れない」といらだちを隠し切れない。
 今回の8月以来の世界的な同時的株式市場の危機は、「日本発」よりも「ロシア発」の形態を取った。8/14にエリツィン大統領が、ルーブルの切り下げは絶対にありえないと断言したその三日後の8/17、ロシア政府とロシア中央銀行は、ルーブル切り下げのみならず、国債の償還繰り延べや民間対外債務支払いの一次停止を一方的に発表したのである。何しろ公定歩合が150%、国家予算の50%以上が国債の利払いに当てられ、その短期国債の利率が1ヵ月もので実に210%という高率の異常さである。国際投機資本がこの高利に殺到し、食い物にし、そして見切りをつけて引き上げるのも当然である。
 そうした中で、8/27には、とうとうルーブルと外貨の交換を停止し、ロシア市場は事実上機能停止状態に陥ったのである。たちまちニューヨークはもちろん全世界に「株式市場のメルトダウン」といわれるほどの全面安を波及させた。すでにロシアではインフレ高進、銀行取付が始まっており、事実上、国家的デフォルト(支払不能)の危機が進行しているといえよう。これまでIMFや世銀、2国間ベースで与えた巨額の対露支援は底無しの腐敗と投機の泥沼の中に藻くずと消え、これまでIMFや米国が要求してきた処方箋は一体なんだったのかという深刻な疑念が世界的規模で浮上し、「鎖国」政策の正当性が公然と語られ、各国に波及し、マレーシアはついにその実施に踏み切り出す事態である。

<<いつどこから噴出してもおかしくはない>>
 世界的な経済恐慌への進展は、日米を含めてもはや世界のいつどこから噴出してもおかしくはない事態といえよう。今回の同時株安の影響を最も大きく受けたのは中南米諸国であった。アジアが1年かけて下がった分を、中南米はほんの1ヵ月で下げ、株やブレイディ債、為替の急落が襲ったのである。原材料(石油、鉱産物、コーヒー、農産品)が輸出のほぼ半分を占める中南米にとって、アジアの需要後退に伴う一次産品価格の急落(商品価格指数で昨年7月以来、25%下落、原油価格も約1/3下落)、そしてのしかかる対外債務の重圧(年間の元利返済額/年間の財・サービス輸出額(デット・サービス・レシオ)は、途上国平均が17%なのに対し、ラテンアメリカ平均は34%と大きい)がさらに増大したことは、大きな動揺をもたらしている。
 次の国際投機資本の攻撃目標はブラジルかあるいは別の中南米諸国かといわれている。しかしこの地域には、米銀のラテンアメリカ向け融資が634億ドルに達しており、しかもアメリカの中南米向け輸出は全輸出の2割を占めるだけに、市場暴落による米国の輸出への悪影響は、アジア市場の暴落よりも影響が大である。
 通貨の切り下げを回避しつづけている中国も、今後は火種になる可能性が多いにあるといえよう。中国はすでに事実上、元を切り下げているといわれる。それは闇市場でのレートがすでに10%前後下がっており、政府がそれを放置しているからである。中国の闇市場は、総貿易額の実に8割にも達する。公式レートが闇レートと乖離すれば、これまでは政府が外貨準備を使って統一してきたのであるが、今回は背に腹は変えられず、放置している。香港経済も第1四半期はマイナス2.8%(13年ぶりのマイナス成長〕、第2四半期も、さらに悪化し、マイナス4.8%となり、当初目標の3〜4%成長など夢幻となってしまった。こうした中であくまでも元の切り下げを回避し、香港ドルの米ドル連動制を維持しようとすれば、国際投機資本の格好の餌食となることは眼に見えている。

<<ドル・バブルがもたらしたもの>>
 こうした国際投機資本の資金調達は、ロシアの通貨危機でも明らかになったように、史上最低金利の日本円でまかなわれている。これを、バブル状態にありながらも基軸通貨の特権を利用できるドル通貨に変えて投機的な金融戦争を仕掛け、グローバル化した市場を巨額の資金移動で席巻し、翻弄しているわけである。貿易の取引額が年間5兆ドルに対し、為替の取引額が1日で1兆6000億ドルという途方もない乖離である。世界中からアメリカに流れ込んだ過剰な資本が、実体経済への投資よりも投機的な為替差益とマネーゲームでの一獲千金を目指して世界を徘徊しているわけである。

 ウォール街は、「資本移動と金融の自由化」を旗印に、こうして冷戦崩壊後の世界の金融市場の支配を目指してきたのであるが、しかしこのようなモノとサービスの実態とかけ離れた巨大なマネー経済の投機攻勢が、いよいよ自らに跳ね返り始めたのである。今やアメリカの経済と市場は自らが撒き散らしてきた投機攻勢におびえ、バブル崩壊の危機に瀕しているとも言えよう。
 これまでは世界の資金は黙っていてもアメリカへ流れ込んできた。世界最大の債権国であるにもかかわらず、その高い経済成長率を維持し得たのは、海外からの資本流入でまかなわれてきたからでもある。とりわけ97年以降は、1年間で3割も上昇した株価が世界の資金を引き付けた。だが今やその魅力が失われ、いつ暴落するかもしれない、不安要因となってきた。すでに過去最低利回りになっている債券も魅力がなくなってきた。すでに多くの資金が逃避を始めだしたのである。すでに日欧の通貨が乱高下とは言え急上昇し始めており、今後はアメリカへの資本流入が急速に鈍化する事態が予測され、米国株は96年12月の6400ドルかそれ以下まで下げるだろうといわれる状態である。
 今回の世界同時株安の根本的な原因は、一昨年来、香港からアジア発、日本発、ロシア発とめぐってきたものが、実はそれは本来アメリカ発のものであり、ドル・バブルにこそその原因があることを明らかにしたとも言えよう。

<<「消える銀行」候補>>
 もちろんこうしたアメリカの政策に追随してきた日本の責任も免れるものではない。最近、アメリカ側からの日本問題についての内政干渉的発言や言及に対して、日本側が反発してみせたり、苛立ちを隠しきれないでいるが、同じ穴のむじなである。日本は、95年8月以降、ドル高・円安政策に意識的に切り替え、また同年9月以降は、バブル崩壊後の金融資本救済を露骨な目的とした超低金利政策を採用した。こうして日本からアメリカへの資本逃避を自ら積極的に促進してきたのである。日本の市場の魅力を放棄してきたその結果が、日本の金融資本の不良債権の肥大化であったことは、当然とも言えよう。
 たとえ円高ドル安にふれても、このままいけば日本の株価は当面、1万1000〜1万2000円程度まで下落する可能性が言われている。日経平均が1万4000円の水準でも、大手銀行19行の含み損は4兆円前後に達すると推定されている。今や実質上破綻が自明となっている長銀に加え、すでに「負け組み」とされている大和、日本債券信用、さくら、富士、安田信託が、「消える銀行」候補に上げられる事態である。さくらは急遽、トヨタ自動車や三井物産など三井グループに対して3000億円規模の増資を要請することに踏み切り、瀕死の事態乗り切りに必死である。
 ここまで来ても、政府・自民党はいまだに迷走を繰り返し、当然のことながらそのぶれがいよいよ大きくなり、解決能力も意欲もないことがあからさまになりつつある。金融再生トータルプランの柱に据えたブリッジバンク方式は、大手銀行には使えない、「too big to fail 大きすぎてつぶせない」として自ら放棄してしまった。
 9/4に訪米した宮沢蔵相はルービン財務長官の一方的な要請に何の反論もできず、ただうなだれて同意しただけであったという。彼が唯一明言したことは「長銀は絶対につぶさない」との約束であった。しかしそれも怪しくなってきた。すでに臨時国会終了後の宮沢蔵相辞任説まで流されている。

<<なぜ「検査結果は開示しない」のか>>
 この長銀について、宮沢氏は蔵相就任当時、国会答弁で「資金繰りには問題がない。債務超過ではなく、つぶれることはない」と再三にわたって発言した。ところが8月末になると「今は大丈夫だが、公的資金がなければ長銀は破綻する」(8/27衆院予算委員会)、として事実上長銀が債務超過状態にあることを認めたのである。ところが今年3月、金融危機管理審査委員会が、長銀に対して健全な銀行(自己資本比率8%以上)として、1700億円もの公的資金を投入してしまっていた。それがわずか5ヶ月後に5000億円以上の公的資金、実は1兆2000億円以上が必要になったという事実について具体的な事実解明や情報開示を何一つなしえなかったのである。
 そこには宮沢蔵相では解明しようにもし得ない理由が存在していた。長銀系列ノンバンクの中で最大の不良債権を抱えている日本リースを清算しないで、5000億円に上る債権放棄を行ってまで存続させようとしている理由である。この「日本リース」の大口融資先には、住宅金融債権管理機構(中坊社長)から貸金返還の訴訟を起こされている宮沢氏のファミリー企業・太陽エステートが再び不良債権リストに登場しているのである。さらにこの日本リースの不良債権リストには、太陽エステートを初め他にも大蔵官僚や政治家とのつながりが次々に明るみに出かねない癒着・トンネル企業が多数存在しているという。
 大蔵省や日銀の「検査結果は開示しない」という方針をうけて、独立検査部門として発足し、情報開示を約束したはずの金融監督庁までが、ほぼ終了している検査終了後も、個別銀行の検査結果を発表しない方針を取ろうとしている。金融機関の自主開示を待つというが、何の信頼性もない自主開示などなきに等しいといえよう。
 このようにすべてにおいて不透明かつ正当性を確保できない、情報公開なしで公的資金を注ぎ込もうとする腐敗と汚辱にまみれた護送船団方式が、かえって金融不安拡大の原因となっていることが誰の目にも明らかになりつつある。
 野党三会派との合意内容は、破綻前の長銀への公的資金導入をめぐって実は合意がなされていなかったというていたらくである。小渕首相は前評判どおり、政策的指導性も何ら発揮できず、牽引力もリーダーシップもないことがより一層鮮明となった。首相は本来なら長銀処理を終え、金融再生法案も成立させた上で訪米し、クリントン大統領との会談に臨む予定であったが、それもむなしくついえ去った。不幸中の幸いか、いまや日米両首脳ともお先真っ暗であることだけは共有できる嘆きか。
 もはや退場願うしか道は残されていないといえよう。野党、政権奪還の政策と展望が問われている。(生駒 敬)