アサート 251号(1998年10月24日)
【本の紹介】 「子どものトラウマ」 西澤 哲 著 講談社現代新書
 「トラウマ」という言葉をご存知だろうか。「心的外傷」とか訳されている。アメリカでは子どもへの虐待に対する研究の中で1960年代から使われてきた考え方らしいが、日本では1995年の阪神大震災を契機に注目されるようになった。「トラウマ」とは一言で言えば大事故、戦争、暴力等によって大きな被害を被った人の心理的・精神的なダメージであり、幼いころ受けた心の傷は10年、20年を経てもその人の精神的な健康に著しい影響を与えつづけることがありえる。
この本では、子どもへの虐待に焦点を当て、「トラウマ」という観点からその現状、扱われ方、心理的影響、研究の歴史を概観し、次に虐待する親の側からもその背景について述べている。最後に、その治療や臨床心理的な援助についての展望を示している。最近の子どもをめぐる現状を見るとき、ただ「理解できない」と突き放すのではなく、もっと心のヒダに分け入って彼らを理解する必要があるかもしれない。逆に、様々な問題の子どもの心に対する影響について十分に慎重である必要があるだろう。
「トラウマ」という考え方はその際の一つのアプローチの仕方として有効であろう。最近は、この「トラウマ」という考え方を背景とした「アダルトチルドレン」「インナーチャイルド」「癒し」といったタイトルの本が本屋にたくさん並んでいて、一種のブームの様相を示している。しかし、「トラウマ」の一面的な解釈には、「子どもの問題を何でも家庭や親の問題にしてしまう」という批判のあることも付け加えておく。
内容的にはやや難しいが、新書版の読みやすい分量であり、具体的な実践を背景にしているため、人間の心や子育てに関心のある人には実におもしろく示唆に富んだ本である。
(若松一郎) 

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