ASSERT 252号(1998年11月21日)
【投稿】  経済危機の進行と与野党再編
【投稿】 労基法「改正」によせて
【投稿】 自治研集会に参加して
【投稿】 「テポドン」の落ちる日
【書評】  特攻隊員から平和運動へ

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(投稿) 経済危機の進行と与野党再編

<<「どうか受け取って頂きたい」>>
 先の国会で成立した「金融再生」関連法や「早期健全化」法などによって、60兆円の公的資金を金融機関に投入する法的枠組みが決定された。98年度当初予算の税収が58兆5220億円であることからすると、この1年間の税収をもこえる巨大な金額があれよあれよというまに決定されてしまったのである。
 今年3月決算の直前に、大手銀行21行と地銀3行に横並びのリストラ策を提出させ、各行まんべんなく一斉資本注入を行い、約1兆8156億円の公的資金が投入されてまだ半年しか経っていない。当時も今回も「貸し渋り対策」のために投入するのであって、「経営健全銀行」にしか投入しないと言明された。
 しかし現実は、健全だったはずの長銀はその後すぐに経営危機を表面化させ、長銀に資本注入された政府保有の長銀優先株約1700億円はただの紙屑となり、貴重な税金がどぶに捨て去られたも同然の事態となった。貸し渋りの方も、公的資金投入直後の4月以降より一層ひどくなった。実際に、公的資金投入直後の4月の貸出平均残高は前年比4.08%減で、3月の同2.92%減よりもさらに悪くなっている。公的資金を受け入れた直後から「貸し渋り」「資金回収」をさらに強化し、「金融収縮」があらゆる分野に拡大し、景気をさらに悪化させてきたことは周知の通りである。公約とはまるで逆行する事態が進行してきたといえよう。
 そして今回、この10/28、金融監督庁は「公的資金60兆円」についての説明会を行い、そこに大手18行の担当部長を招集、同庁の浜中次長は「金融システムの安定のためには各行一斉に資本注入を行う必要がある。どうか受け取っていただきたい。」と述べたという。各行一斉に投げ銭を与えるから受け取れというのである。その異常な感覚は通常の理解の限度を超えている。
 10/24には、自民党金融問題調査会幹部は、都銀9行、長信銀2行の幹部が会談した際に、「公的資金を投入しても、経営陣の退陣は求めない」と明言して、経営責任不問の密約まで交わしている。その論理は「都銀の内、2〜3行はすでに深刻な経営危機に直面しており、早く公的資金を投入しないと破綻しかねない。そうした銀行だけを救済すれば、市場でどこが危ない銀行かが分かってしまう。それを分からないようにするには、責任を不問にして大手18行すべて同時に公的資金を入れるしかない」(自民幹部談、11/13週刊ポスト)と内幕を暴露している。
 まさに銀行の経営危機と経営責任を不問にするための60兆円投入である。さんざん克服が叫ばれてきた護送船団方式がまたぞろ事態を支配しようとしているわけである。まず日本興業銀行が資本注入受け入れを申請することを発表、同行の株価が92円高となったのを受けて、経営危機がささやかれている富士、さくら、大和、あさひなどが横並び一斉資本注入の機会を今か今かと待ち構えている。

<<「国民がもっと怒らんといかん」>>
 旧住専の不良債権の回収に取り組んでいる中坊公平氏が指摘しているように、バブル期に不良で悪質な融資案件を旧住専に紹介して暴利をむさぼり、ごみ箱のように利用しながら、関与者責任を一切認めず、その後始末に税金を投入させたのは、これら大手金融機関である。
 旧住専7社が抱え込んだ不良債権の中でもタチの悪い劣悪債権は5200件にも上り、そのうち紹介責任が明確な134件の内、住友銀行だけで72件も占めているという。中坊氏が社長の住宅金融債権管理機構は今年6月、そのうちの2件について、不公平な紹介、重要な事実を故意に隠して紹介した責任を問い、48億円の損害賠償を求めて住友銀行を提訴、裁判が進行中である。ここでも住友はたとえ「モラル違反」であっても、法律違反がなければ何をしてもいいし、犯罪に問われることはありえないという姿勢を撮り続けており、「裁判で負けない限り払わない」という態度である。
 中坊氏は住専処理の6850億円の何百倍にも当たる公的資金の投入について、「法律違反がなければ何をしてもいいという」、「こんなモラルのない金融機関に、いったい国民の税金をもらう受け皿としての適格性があるんだろうか、と大いに疑問があります。」、「あえていえば、金融機関一般が悪いのではなしに、大手銀行の経営者が問題やと思います」、「今の貸し渋りでも大手銀行が先頭を切っている。」
 中坊氏は「銀行経営者が変わることへの期待よりも、国民がもっと怒らんといかん。国民が怒らん限り、銀行経営者は責任も取らずにぬくぬくとしているやろ」(10/25日経)と断言している。「公共的だから」といっては税金をもらい、「私企業だから」といっては責任逃れをし、情報開示さえも拒否する、こうした大銀行に対しもっと怒りを結集せよというわけである。まさにしかり、溜飲を下げるだけではなく、こうした事態を放置している政府機関、与野党の責任が追及されなければならない。
 9/1の衆院特別委員会で長銀への公的資金投入問題で責任を問われた金融管理審査委員会の佐々波委員長は「個別行の経営内容については把握していない」と述べて、本来なすべき義務をさえ放棄して省みず、その無責任ぶりをさらけ出し、全くズサンでいいかげんな「審査」で税金をドブに捨てるようにばら撒いたことについては、反省の一言も述べることができなかった。これが公的資金投入の是非を審査し、決定を下す機関の責任者であり、さきの金融監督庁の態度といい、あきれるばかりではあるが、こうした事態が放置され、責任が問われない限り、よりいっそう事態は悪化していくであろう。

<<野中氏の立ち回り>>
 ところで「長銀は債務超過ではない」と繰り返してきた政府が、なぜ土壇場で長銀破綻に向けて方向転換をしたのであろうか。野中官房長官は、長銀の救済合併先である住友信託の社長を首相公邸に呼びつけ、小渕首相から直接の合併要請をさせ、公的資金を投入してでも破綻前の住信との合併を画策していとこと、日米首脳会談で小渕首相はクリントン大統領に対して長銀はつぶさないとまで公約していたことからすれば当然の疑問が浮上してくる。しかも同行がが法的手続きに委ねられることによって、これまで隠し通してきた粉飾決算、不良債権隠し、政治家がらみの迂回不正融資などの実態が暴かれることに、とりわけそれらに深く関わってきた宮沢派が抵抗してきたことも良く知られている。
 しかし一旦崩れ出した堰は止められなかったのであろう。すでに債務超過である実態が長銀内部からさえ具体的な数字をもって流れ出し、金融監督庁も、9月末時点で1600億円の自己資本があるが、有価証券の含み損が5000億円で、これを考慮すると「実質債務超過」であると発表せざるを得なくなった。しかも長銀は破綻した日本リースの債務保証予約をひそかに実行していたことも明るみに出た。今年3月期の有価証券報告書にも記載していなかった。債務保証であれば記載が必要だが、「予約」であれば記載を逃れられるとして編み出され、他の銀行やゼネコンなどでも多用されているという。しかしこれは明らかに証券取引法違反の虚偽記載に該当するものであり、刑事罰を問われることが相当な犯罪である。そして実際に長銀は株価が急落した今年6月、農林中金に補償額に見合う有価証券担保を提供していた。農林中金向けの1300億円を含め、こうした保証予約は2000億円に上っていたという。この日本リースには、農協系金融機関が3588億円、長銀本体が2557億円、住友信託が1549億円、三菱信託が1482億円、など多くの金融機関が債権を抱え込んでいたのである。
 もはやここまでくれば救いようがない。しかも野党3党が一致して長銀への公的資金投入に反対しており、長銀問題と金融再生6法案が完全にリンクすることとなった。野中官房長官は、長銀をあきらめる代わりに6法案の成立を民主党との間で確認、しかも菅党首との間で、そのことによる内閣の責任を問わないという約束まで取りつけた。このことによって菅党首は野党間の不協和音と足並みの不一致の口実にされることともなった。野中氏は小渕内閣の延命と同時に野党間にも楔を入れたともいえよう。
 野中氏は直ちに記者会見で、長銀救済の最大のネックだった日本リース問題をとりあげ、日本リースへの債権放棄は認めないと言明、これによって直ちに日本リースは破産、長銀救済は音を立てて崩れ去ったのである。
 野中氏はさらにもう一つの手を打った。「個人的な感情を横においてでも、基本的な政策で一致する」党との連携をぶち上げ、自民党との連立に党再生の望みを託している自由党の本音を利用して、早期健全化法案については自由党と交渉し、合意を推進したのである。かくして6法案は自由、公明、民主で、早期健全化法案は自民、公明、自由で成立させ、臨時国会は閉幕した。

<<「消費税還元」セールの大当たり>>
 ところで、1スーパーストアが始めた「消費税5%還元セール」が大当たりし、今や大手スーパーが全国の系列店で期限付きではあるが、一斉に「消費税還元」、「消費税抜き」を売り物にセールを展開、そこでは売り上げを急増させている。昨年4月以来の不況下に強行された消費税引き上げと増税政策、医療費負担増大がいかに消費を冷え込まさせてきたかを如実に示すものであった。
 ルービン米財務長官等から消費税引き下げや一時停止を提起されてもかたくなに拒否してきた政府・自民党内にもがぜん不協和音が吹き出し始めた。危機的な経済状況の深化と自民党政権存続の崖っぷちの状況が、どの野党と手を組むかによって大きく政策を揺れ動かしているのである。
 11/10、自民党役員連絡会で武藤元外相は、「消費を喚起しないと景気は良くならない。自分は(自民党税調会長として)消費税率を上げた張本人だが、この際、反省も込めて引き下げを提案したい」と発言、日経連の三好副会長までが「経済危機を救うためには、5%から3%に2年間ぐらいは引き止めておく」ことを提起し出した。

 ここにはもちろん、自民党との保保連立をめざす自由党の「消費税は一時的に0%に凍結する」という政策との連動が見て取れる。自由党の凍結政策は一方で、一旦0%にした翌年から1年ごとに毎年消費税を2、4、6%、と段階的に引き上げていく、そうすれば各年度ごとに「駆け込み需要がさらに増大する」というまやかし的な政策が控えている。
 一方、公明党との連携で急遽浮上してきた商品券支給構想は、ほとんどの世論調査でそっぽを向かれ、愚策だとけなされているが、それでも額も対象も縮小して「ふるさとクーポン」とか「地域振興クーポン」などとして合意を確認している。しかしその実施に当たっては、「デザインを決め、それを印刷する手間と経費」、「そのデザイン等を周知徹底させる手間と経費」、「対象者本人に確実に商品券を届ける手間と経費」、「使用された商品券を集計する商店、銀行、役所の手間と経費」、いずれも「手間と経費がかかりすぎる。」(10/31読売、山家・第一勧銀総研専務理事)し、商品券偽造の危険、防止用の透かし印刷等々、次から次へと難題が吹き出し、政府・自民党内でこれに触れることがタブー視されてきた。
 そこへ消費税問題である。明らかに自公から自自への軸足の移動が見え隠れしているといえよう。参院の過半数127に対して自民党は23足りない。これに対し、自由党は12、公明党は24である。しかし公明は1党だけで自民と手を組むことに躊躇しており、自民党は公明を間に挟んで、民主と自由をてんびんにかけながらも、次第に保保路線への移行が明確になろうとしている。またぞろ中曽根やいかがわしい連中がしゅん動し始めた。短期間の臨時国会終了前後の内閣改造によって野党から閣僚を取り込み、事実上の連立政権とする構想が急浮上し始めた。
 こうした自民党の延命に手を貸すのかどうか、今度こそ民主党の存在価値が試されているといえよう。(生駒 敬)