ASSERT 254号(1999年1月25日)
投稿】 希望と危惧の政治・経済
【新春対談】 吉村励さんを訪ねて
【投稿】 ユーロ誕生雑感

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投稿  希望と危惧の政治・経済

◆ユーロのメリット
 新年明けの1/4は、ユーロの登場とその順調な滑り出しで希望を持たせるものであったが、それもつかの間、今年は昨年にも増して内外の政治経済にとって波乱と撹乱要因が目白押しであることが鮮明になってきている。
 まずは1/4、世界金融市場におけるユーロ取引きは、予想を上回るユーロ高水準でスタート、「第二の基軸通貨」ユーロヘの期待の高さを裏付けたといえよう。「ドル・ユーロ二大通貨時代の幕間け」である。時差の関係からまずはアジア市場で最初に取引きされ、東京市場では1ユーロ=132.58円、欧州金融市場では1.1827ドルで取引きされ、初期設定価格を超えて、ユーロの優勢を海外に示すこととなった。EUの統合欧州経済に対する期待感から、株価指数もフランクフルトで5.7%、パリで5.2%、ミラノで5.9%それぞれ上昇したが、一方、ユーロに参加していない英国の株式市場では一時大幅値下げを演じ、欧州市場でユーロ登場の恩恵に浴さなかったのは英国市場だけという違いを際立たせた。
 伊勢神宮参拝もそこそこに急いでEU諸国に駆けつけた小渕首相、「円とユーロの安定に日欧が協調」、「ドル、ユーロ、円の三極通貨体制確立を目指す」とぶち上げたが、果たしてその意味するところ理解をしているのであろうか。いわばその当然の結果としての1ドル=108円(1/11)といったドル安・円高の進行に慌てて市場介入せざるを得なかったのは日本であり、円である。アメリカの投機市場はそれを見越してドル売り・円買い攻勢を仕掛け、まんまと引っかけられたのである。
 フランスのジョスパン首相は「ユーロのメリットの一つは欧州がドル支配から逃れることだ」と言い放った。EU(欧州連合)11カ国の内、スペインとアイルランド以外はすべて中道左派かあるいは社民党勢力が政権を担当している。これら諸国は、アメリカンスタンダード=グローバル化という、アメリカ主導でアメリカにのみ利益をもたらす、しかも極めて投機的で独占的、得手勝手な市場原理主義、自由放任主義にいかに対抗するかという政治的経済的政策形成と合意に努力を傾注し、ようやくのところでユーロの登場に結実させたのである。まだまだ前途多難であるといえよう。しかし世界最大の債務国が他国を犠牲に好景気を謳歌し、これがまかり通っているのはあくまでもドルが基軸通貨であるという特権を握っているからに過ぎない。こうしたものに対抗し、国際的・社会的規制を加え、各国の連携と連帯を強め、資本の横暴を許さない経済的社会的対案こそが求められている。世界的な投機的行為で莫大な利益を上げてきたジョージ・ソロス氏までが「今や市場原理主義こそが全体主義よりも大きな脅威になっている。それは社会に破壊的、退廃的な影響を及ほしている」と叫び出した。
 ところが世界最大の債権国である日本への期待と要望に反して、日本の与党にも野党にもそうした対案どころか責務や意識さえ見当たらず、ドル支配とそれへの追随を前提にしたつぎはぎ政策に終始しているのが現状だといえよう。「三極通貨体制」どころか円の国際化自身さえも、近隣諸国から信用されていないのが現実であろう。

◆ブラジル・クライシス
 問題の米株式市場は、1/8、ハイテク、インターネット関連株の急騰と年末の課税対象を翌年にずらす米株式市場特有の「1月効果」を受けて最高値を更新、終値9643.32ドルを記録し、またもや株価「1万ドル突破近し」と騒がれ、それも1月中にと楽観論が流れ出した。実際にはこれは「バブルいよいよきわまれり」といったところであり、米連邦制度準備理事会FRBは「企業収益では正当化できない」、「株価の破壊的な下落を招く恐れがある」と警告に必死である(1/12リプリン副議長)。実体経済は確かに、年末12月の米国の製造業界の生産動向指数を見ても、11月の48.6から45.1にさらに下降しており、これで7カ月連続50以下を記録、明らかにアメリカの製造業の生産は収縮が続いていることを示している。
 そして1/12には、米株式市場の平均株価は9474.68$に下落、翌日のウォールストリートジャーナル紙は「荒れ狂った市場」と形容し、先行きさらに不透明であることを印象づけた。さらにこれに追い打ちをかけたのが「ブラジル・クライシス」であった。
 1/13、ブラジル中央銀行は突如、ドル連動相場制をとっている通貨レアルの約7.6%の切り下げを発表したのである。これは直ちにニューヨーク市場、ユーロ、東南アジア、中国、香港、東京に波及し軒並み大幅下落を記録することとなった。
 NY市場のダウ工業30種平均は228.63ポイント安の9120.93ポイント、昨年9/1のアジア・ロシア危機の時の222ポイント下落以来の大幅な下落であり、年初来の値上がり分がすべて吹き飛んでしまった。同時に「1万ドル突破近し」も急速にしぼんでしまった。ユーロの動揺、影響も厳しいといえよう。
 ブラジル通貨切り下げ問題は、当然、同国に融資している大銀行の株価に影響することは必至である。昨年6月末現在の米銀のブラジル向け融資残高は167憶ドル、ヘツジファンド経由や直接投資を入れるとさらに膨れ上がっており、ついでドイツの127憶ドル、日本の51億ドルと続いている(BIS国際決済鈍行調べ)。すでにこの「ブラジル・クライシス」によって相当のダメージを受ける金融機関には、アメリカのシティグループ、JPモルガン、バンクボストン、フランスのソシエテ・ジェネラル、ドイツのドレスナー、オラン
ダのABNアムロ、スペインのバンコ・ビルバオ・ビスカヤ、バンコ・サンタンデールなどの名前が取り沙汰されている。
 1/15付けフイナンシヤルタイムズは、これは「予想外の通貨切り下げ」であるが、「このブラジル問題はそう簡単には終わらないだろう」とコメントしている。

◆中南米発国際金融危機
1/15、ブラジル中央銀行は膨大な外貨流出に歯止めがかけられず、ついに通貨レアルの固定相場制を放棄、事実上の変動相場制への移行を容認することとなった。カルドゾ大統領は「すべてはコントロール下にある」と虚勢を張っていたが、ついに口先だけのコントロールも放棄せぎるを得なくなった。昨年のロシア危機の際には、700憶ドル強を誇った外貨準備があっという間に400億ドル台にまで減少したのであるが、今回は一日に10憶ドル以上が流出するという事態にもはや切り下げた固定相場刺さえも維持できなくなったのである。
 これによって対外債務の支払いは一層困難となり、総額1千憶ドルを超える対外債務の今度は国家的モラトリアムという崩悪のシナリオさえ予想されだしている。もちろんそうした最悪の事態を避けるべく、あわただしい動きが展開されているが、影響を受けるのは
先進国だけではなく、むしろ中南米諸国であり、中でもアルゼンチンは同国通貨ペソとドルを一対一で固定する固定相場制を採用しており、切り下げで維持するか、それを放棄するか迫られており、それは当然ベネズエラ、チリなどにも広がり、中南米全体に通貨切り下げの連鎖が広がり、再び世界的な問題へと急速に発展する危険性を秘めているといえよう。
 この「ブラジル・クライシス」のきっかけは、1/6、ブラジル連邦政府に134億ドルの債務を持つミナスジエライス州のフランコ知事が財源不足を理由に90日間の一方的モラトリアム(支払停止)を宣言し、政府の緊縮政策に反旗を翻したことにあった。この背景には、ブラジル政府が昨年8月のロシアの金融危機が波及してきた時に、IMFと緊急協議を行い、10月末には政府支出の大幅カットと増税によって財政赤字を3年間で半減させるという緊縮計画を打ち出しことに端を発している。「経済再生の旗手」として二期目に入ったばかりのカルドゾ政権は、IMFの融資条件を守るために、増税はもちろん、年金負担の引き上げ、教育・福祉予算の削減、地方への債務の押し付けをはかる大規模な緊縮財政計画を発表、これによって11月にはIMFから410憶ドルの資金援助を取り付けた。これによって一時は為替や株の相場は安定を取り戻したかにみえたが、わずか2カ月余りで今回の通貨切り下げ、変動相場制への移行に追い込まれたわけである。IMFや日米欧主要七カ国G7の対応がいかにお粗末であったかを全世界に示すことになったともいえよう。

◆自民党右派応援団
 99年度中の「ハツキリとしたプラス成長」を公約とした小渕首相にとっても、こうした事態の進展は気が気ではないはずである。このまま行けば公約実現など望むべくもないし、連続マイナス成長が見えている。第一、圧倒的多数の給与所得者が実質増税になるような減税案を出して、この不況下にさらに消費を冷えこます大愚策をだしながら、景気回復など期待するほうがおかしいとも言えよう。しかしそんなことはそしらぬ振りで、10%台の支持率しかない小渕政権が不人気などどこ吹く風で居座り、自自連立で「平成の保守合同」を成立させ、自民総主流派体制構築で、任期一杯ビころか続投の意欲まで見せているという。
「ブラジル・クライシス」の最中、1/14、自自連立政権発足の記者会見が行われ、小渕首相は「小沢氏は豪速球、私は若干軟投型」などとのんきなことをいい、「新たな日米協力のための指針(ガイドライン)については、早急に国会で審議いただき、成立・承認をいただきたい。いずれにしても日本の安全保障の遂行という観点では自民党も自由党の考え方にはいささかの相違はない」として、あたかも最大の問題が安全保障問題にあり、連立形成のかなめであるかのように述べ、自由党の小沢党首もこれに呼応して「わが党の主張がほぼそのまま両党の合意として確定し、来週から始まる通常国会で法律の必要なものは速やかな成立をめざし、・‥」と応じている。
 そもそも自由党は連立の条件の一番目に掲げていた消費税の凍結と抜本的見なおしがいつの問にやら腰砕けとなって、引っ込めてしまったのである。「その代わりに独自性を浮かび上がらせる論点に安全保障問題を取り上げ、「武力行使と一体化」した行動は取れないとする従来の政府の憲法解釈に、「普通の国」の海外派兵の合法化を対置して、この点では自由党に負けず劣らずの改憲・武力行使派が控えていることを援軍にして、自民党右派応援団に堕してしまったのである。
 かくして、国連平和維持軍の本体活動への参加凍結の解除が、まともな議論も無いまま合意されたことの危険性が、新ガイドライン関連法から、有事関連諸法令の成立と、有事の際に機能する新国家機関の成立も急ピッチで準備されていることに露骨に表れている。
 コーエン米国防長官が来日して新ガイドライン関連法の成立に尻叩きに精を出し、自自連立に援護射撃に走り回ったことは間違いない。そしてこのところアメリカ側から意図的に強調されている北朝鮮のミサイル・核開発疑惑。これらは確かに一種の危険な兆候をあらわしているとも言えよう。

◆パンカーバスター
 先般の米軍のイラク空爆では、攻撃開始直後という異例に早い支持表明を行ったのは小渕政権だけであった。このイラク空爆でアメリカは、地下軍事施設を破壊するための「新兵器」の実験を行ったといわれる。「バンカーバスター」と呼ばれる新型爆弾GBU−28は着弾地点では爆発せず、地下数十メートルまで突き進んでから爆発する、重さ約2トンの新型兵器である。相手が核施設であれば接爆発から放射性物質のバラ撒きまで不測の事態を起こしかねない危険極まりない兵器である。
 自由党の小沢党首は週刊ポストの1/15.22号インタビューに応えて、「政治問題としては朝鮮半島が緊迫する可能性が一つあります」「あるときに、アメリカは、今のKEDOを中心とした枠組みを再検討せざるを得なくなることもある。つまり2月だか3月に、アメリカ議会は対北糾鮮の重油支援の実施を認めないことになるかもしれない。それは、KEDOの約束を破棄すること、スキームを破棄することでしょう。それは大変な事態を覚悟しなけりゃやれないよ。だから、日本にとってはイラクの時の何十倍も大変な事態になるということだ」「その意味では、日本の国自身が実質的な戦場になることも考えておかなければならない」「(アメリカが北桝鮮を爆撃する事態というのは)起こり得るかもしれない」と述べている。「バンカー・バスター」と重ねあわせると、何とも危険で胡散臭い示唆である。
 野党はこうした連中が主導する保守連立政権にいかに対応するのかが厳しく問われていると言えよう。       (生駒 敬)