ASSERT 260号(1999年7月24日)
【投稿】GDP1.9%成長!?の怪
【投稿】バルカンから朝鮮半島へ

        
見えてきた新たな「有事」の姿
【討論】
労働運動の未来を考える意見交換会(その2)

トップページに戻る

【投稿】GDP1.9%成長!?の怪

<『ホンマかいな』>
 6/10に、まるで小渕首相のサミット初参加にタイミングを合わせたかのように発表された「GDP(国内総生産)1.9%プラス成長」(年率換算7.9%)は、内外に大きな驚きをもって迎えられたことは周知のとおりである。発表した堺屋経企庁長官自身が、「大変高い成長率で、初めて見たときは『ホンマかいな』と驚いた」と語っている。97年第4四半期から6期連続、戦後最悪のマイナス成長を記録し続けてきた事態から、プラス成長へのまさにビッグニュースであった。
 しかしこの実態とかけ離れた発表に多くの疑問が提起され、「景気粉飾決算」報道が各紙誌で取り上げられた。中でも大蔵省幹部が明かす統計上のトリックはリアルであった。
 その匿名の大蔵省幹部が明かすカラクリとは、「統計上のトリック?それはあえて否定しないね。すべては小渕政権が掲げた国際公約『GDP0.5%』実現のためだったんだ。官邸から『是が非でもGDP0.5%を実現せよ』という指示が降りてきた。そこでわれわれは『成長率にゲタを履かせる』操作をした。…前年度末の1-3月期GDPを押し上げて、次年度のGDPを上げることをわれわれは『ゲタを履かせる』と呼んでいる。そして0.5%から逆算して作った数字が、今回の1.9%だったのだ。当初、1-3月期のGDPを2%に持っていけば、その後の各四半期のGDPがマイナス0.2%になっても平均GDPは0.5%を達成することができると考えていた。だから、そのために3月に巨額の公共投資をブチ込んでカサ上げしたわけだ」。実際に、GDP1.9%増の内、半分近い0.9%を公共投資が占めている。しかもそれは3月に集中している。

<「結果として出てきた」ゲタ>
 これには当然、経企庁が反発せざるを得ない。堺屋長官自身が「粉飾決算報道は事実無根」と表明、「GDP算出を行っているのは経企庁です。今回のGDP算出に当たり、大蔵省から何らかの指示や依頼があったという事実はありません」と強硬な抗議が行われた。ところが、これに対して、「1-3月期のGDPにおいて、公共事業の伸びの部分が大きく影響を与えている。小渕政権として国際公約であるGDP0.5%を実現するために、逆算的に1〜3月期ににいわゆるゲタを履かせたのではないかということです。前倒しで公共事業が増えている。これは、粉飾ではないんですか?」との反論に対して、堺屋長官「1-3月期の数字が高ければ次年度の数字は確かに高くなります。その場合に言う、ゲタとは、結果として出てくるもので、意図して履かせるものではありません。GDP1.9%の数字が出たときに驚いたのは事実ですが、景気回復宣言どころか、景気底打ち宣言すら、われわれはしていませんよ」と答えている(『週刊ポスト』7/16号、「堺屋長官が本誌に抗議、激論90分」)。薮蛇とはこのことか、結果としてゲタを履かせていることを認めているのである。
 米主要紙も多くが「偶然」、「突発的現象」、「政府による数字操作」といった解説をつけており、7/11付けウォールストリート・ジャーナルは「政府の負債が膨大化するというツケだけが残り、発展途上国並みの新たな危機に遭遇する可能性がある」と指摘している。

<「息切れ」対策の「息切れ」へ>
 ここでむしろ問題なのはこうして、税金を湯水のようにつぎ込んで嵩上げされた「上げ底」がプラス・マイナスいずれの方向に向かうかにかかっているといえよう。すでに堺屋長官は、「公共事業が息切れする前に補正予算が必要」と、このままだと秋以降に「息切れ」することを認めている。試算では、公的資本形成は前期に前倒し実施しすぎたために、99年度後半は約3兆円減少することが明らかになっている。
 一方、産業界がとなえる「過剰三兄弟」=過剰債務・過剰設備・過剰雇用の調整・解消はこれからが本番であり、進行し始めたばかりである。株価はこれをリストラの進行・「雇用なき成長」と評価して歓迎し、1万8000円台に上昇しているが、これらは一方ではむしろ倒産を増大させ、設備投資を減少させ、失業者を増大させ、結果として景気後退を一層促進させるものであり、デフレ圧力をさらに強めるものでもある。とすれば、99年度後半ばかりか、来年度以降も中長期的に公共事業の増大をさらに維持し続けねばならないということになってしまう。
 すでに99年度末の国と地方の財政赤字、長期借入金残高は、当初見込みでも600兆円を超えている。これは名目GDP比で120%を上回っており、先進国中で最悪の水準に達している。補正予算の連続と前倒し実施はもはや限界に達しつつあるといえよう。財政の破綻には必ずツケが回ってくるし、その前に国債の増発そのものが金利を急騰させ、それこそ「発展途上国並みの新たな危機に遭遇する可能性」が増大しているのである。

<債権回収→倒産の手段>
 もちろんこれまでの景気対策が効を奏しているものもあるといえよう。しかしそれらは余りにも金融資本救済とばら撒き型公共投資に偏りすぎてきた。最も重視されなければならないGDPの6割以上を占める個人消費に対してはむしろ消費を冷え込ませる政策に終始し、自公連携の象徴となった地域振興券は消費拡大にほとんど寄与せず、その成果を上げることもできないほどの惨澹たる無駄遣いであることを周知させたとも言えよう。
 また、昨年10月から実施された信用保証協会による特別保証は、確かにこの間の中小企業の倒産減少に貢献してきたことは間違いないと言えよう。すでにこの保証付き融資を受けた企業は75万社を超え、その額はすでに16兆円を超えている。しかしこれは逆に言えば、これら多くの企業が金融資本から見放され、融資も受けられなかったことを如実に示している。問題は、これら特別保証の返済が始まる10月を待たずに、特別保証融資後の倒産がすでに500件を超え、月毎に急増してきていることである。
銀行は融資を拡大するよりはむしろ、債権回収の手段としてこれを利用し、この公的資金によって回収すれば倒産させるというもっとも悪質な行動を拡大させたのである。ここでも公的資金が完全に死に金と化し、特別保証融資が新たな不良債権をさらに追加する事態をもたらしかねないのである。本格的なリストラの進行はこうした事態をさらに拡大、進行させるであろう。
 このところ沈静化していた倒産件数も、8年ぶりに1000件割れとなった2月の955件を底にして、すでに3月1269件、4月1166件、5月1360件(帝国データバンク調べ)と再び増大してきていることは見逃し得ないことである。
 日銀短観(6月調査)は、大企業・製造業を中心に景況感が改善してきていると、GDPプラス成長を裏付けるかのような発表をして浮かれている背後で、事態は楽観し得ない現実を突きつけているといえよう。

<中高年の自殺ラッシュ>
 警察庁が7/1に発表した98年の自殺者数は史上初めて3万人を突破し、3万2863人に上ったことが明らかになった。毎日毎日、1日に90人もの人々が自殺をしているのである。特徴的なことは、40〜64歳の働き盛りの中高年の自殺者が1万6540人と、前年より38%も増大したことである。それは自殺者全体の約半分を占め、その内男性が1万2669人となっている。
 さらに問題なのは、原因・動機別では、「経済・生活問題」が6058人と、前年より70%も増えていることである。その内、40〜64歳は4490人と74%を超えている。
 当然のこととはいえ、中高年の家出も急増している。98年中に警察が捜索願いを受理した家出人数だけでも8万9388人、50代の家出人は16.9%も増大、その結果、街には中高年のホームレスがあふれ、東京・隅田川の堤防や大阪城公園にはブルーのビニールテントが所狭しと並び、駅構内や地下街通路もダンボールや新聞紙上で寝、ネクタイ姿のホームレスまで目立ち始めているという状況である。
 7/16に発表された「98年の国民生活基礎調査」によっても、52.1%の世帯が暮らしの状況を「大変苦しい」か「やや苦しい」と答えている。「苦しい」と感じる世帯が5割を超えたのは、73年の調査開始以来初めてのことである。
 政府・与党は、「70万人以上の雇用を作る」として緊急雇用対策費5429億円の補正予算を組んだが、自治体の事務作業を民間に委託するなど実施対象や具体策が不明で実効性の疑わしい小手先の対策を寄せ集め、水ぶくれさせるために公明党対策用の「少子化対策交付金」2003億円をこの緊急雇用対策費に潜り込ませている。金融機関の救済には60兆円もの公的資金を投入し、ばら撒き型公共投資には事業規模で100兆円を超える対策を実施してきながら、雇用対策にはこのありさまである。逆立ちした政策の根本的な転換こそが求められているといえよう。
(生駒 敬)