ASSERT 264号(1999年11月20日)
【投稿】 小渕政権の迷走と介護保険問題
【投稿】 緊急雇用対策と地方自治体
【投稿】 Y2K問題を考える
【書評】  ミステリー新人賞と社会--
   --新野剛志『八月のマルクス』(99.9.9.発行)--

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【投稿】 小渕政権の迷走と介護保険問題

<小泉元厚相「倒閣運動」宣言>
 自自公連立の小渕政権は、いよいよ抜き差しならない迷走状態に突入し始めたと言えよう。
 周知のように、すでに小泉元厚相は「自自公連立政権は即刻解体し、小渕総理も即刻退陣すべし。倒閣運動という新しい仕事に入る」と宣言している。10/30には、横浜で開かれた民主党議員主催の公開討論会に出席して、「自由党と公明党の言いなりになる政権なら、ないほうがいい。小渕総理は退陣してもらいたい」と発言して、民主党との共闘にまで言及、自民党内においても「介護サービスだけ実施して、負担はさせないというのは選挙目当てがミエミエだ。こんな見え透いたウソはすぐに国民に見破られる。自自公連立政権に反対しようということで加藤前幹事長とも一致した」(『週刊現代』11/20号)と断言する事態である。
 一方、自民・公明だけで衆参とも過半数を超える現実に、小沢・自由党の焦り、発言力低下への危機感から自由党も迷走し出した。10/15,16の小渕・小沢のゴルフ場会談で、小沢氏の方から自民党への「合流」を持ちかけ、できれば「保守再編」を名目に「今国会中」と期限を切って調整を要請した。しかしこれが報道されるや、党内の反発に慌てて「自民党への合流など要請していない」と否定してみせたが、その一方で「政策実現のためにともに力を合わせて実行していこうという仲間がいれば、いっしょに手を携えて協力してやるのは当然」と開き直ってもいる。事実上、自由党内の多くが「合流」に期待せざるを得なくなっている。しかし、自民党内で「合流」を歓迎しているのは江藤・亀井派のみ、加藤、山崎派は反対を鮮明にし、主流派の森派でも異論が続出、肝心の小渕派でも慎重論と警戒論が大勢を占め、もはや両者とも身動きが取れない事態である。

<「介護保険版地域振興券」>
 そこで再び小沢・自由党は連立政権離脱の瀬戸際政策をとり始めた。突如、介護の財源を全額消費税でまかなう「税方式」への転換が入れられなければ「連立の根幹にかかわる問題だ」(11/11、小沢・記者会見)として、介護保険問題を裏取引の道具立てに利用し始めたのである。
 そもそも初めに連立ありきで、政策合意は後回しにして、適当に妥協すれば何とかなるだろうという、こうした連立政権のあり方そのものに問題があったのであり、そのツケが回ってきているに過ぎないものとも言えよう。しかし問題なのは、来年4月実施にまでこぎつけてきた介護保険という年来の重要な政策課題を、政権延命の手段、裏取引材料としてしか見ることのできない小渕政権、現在の自自公三党の無責任きわまりない姿勢、路線変更を何ら説明すらできない不真面目な態度である。
 その典型が、実施を半年後に控えて、自自公連立政権発足と同時に提起されてきた与党三党合意である。それがあの「保険料の半年間凍結」と「家族介護への現金支給」である。サービスの供給を開始しながら、保険料の徴収は見合わせるという、明らかに迫りつつある選挙対策ミエミエのばら撒き発想である。当面の保険料負担が緩和されるかのように見せること、これだけの発想である。民主党が批判しているように、これは露骨に「選挙までは徴収しません、終わったら取りますという発想」にしかすぎない。総額1兆円近くに上る財政負担は国債増発でまかない、後は野となれ山となれ、選挙さえしのげばそれでいいというでたらめさである。三党は、地域振興券に代表されるご機嫌取り型のポピュリズムの先陣争いを展開しているにすぎないのである。

<逆行の典型>
 しかし提起されている問題はそんなことで済むものではない。こうした介護保険の制度の根幹にかかわる不可解極まりない路線変更が許されるならば、膨大な国民的ツケが回ってくるのである。
 直ちに、全国市長会や全国知事会など、自治体の全国組織は相次いで、保険料徴収の半年延期策を批判する声明を出しており、自民党内においてすら猛反発を受け、合意形成は不可能な状態となっている。小渕首相は、臨時国会冒頭の所信表明演説で、介護保険制度の根幹にかかわる将来の負担方式に言及できないまま、三党合意の「誠実な実行」を約束したが、それすら、自由、公明から不徹底であると抗議を受ける始末である。
 確かに現在提起されている介護保険制度には問題が多く存在していると言えよう。無収入の対象者からの保険料徴収、年金からの天引き、"保険料あって介護なし"になりかねないサービス供給体制、自治体間格差、等々解決していかなければならない問題は山積している。しかしこうした問題の解決は、中央集権・押し付け型の福祉から、地方自治と住民参加、地域のイニシャチブを支援し、人的資本に投資し、地域と福祉を活性化させる社会的資本投資に改編し、より効果的でより民主的な参加を誘う分権型・自立型の福祉の中でこそ解決されるべきものである。給付額がトップダウンで決まるような非民主的なやり方、生計費や家族介護の慰労金なるものを直接支給し、保護と管理を押し付けるような中央お伺い型・くれてやる・お恵み・押し付け・ばら撒き型・資源浪費型福祉はもはや時代の要請に逆行するものでしかない。三党合意はこうした逆行の典型だとも言えよう。

<アテ外れの自自公連立>
 それでもあえてこうした逆行を無理やり押し通そうとしている小渕政権の意図は、より一層事態が悪化する前に混迷する現在の政局を是が非でも乗り切りたいと言う焦りとも言えよう。
 明らかに小渕政権は自自公三党連立政権の合意以来、すべての世論調査で支持率が急速に低下してきており、とりわけ公明党を加えた連立には厳しい批判が急増している。今や自自公連立を「評価する」ものは20%前後、「評価しない」が65%前後に達する事態である。このまま選挙に突入すれば、自自公の大敗は間違いない。自民党の森幹事長などは責任回避のために弱気論を吹聴して回り、連立への配慮から自民党は過半数の250議席どころか、前回選挙の239議席にも届かないと語り、野中前官房長官は「比例が20議席削減されるとすると、せいぜい210〜215議席」と分析している。実際、9月の参院長野補選では、公明推薦の自民党候補は総得票の3割も取れずに惨敗している。
 自民党にしてみれば、数の絶対優位を確保したにもかかわらず、自自公連立は完全にアテが外れたのである。政権発足わずか1カ月で空中分解寸前の事態である。
 今や小渕首相自身が自自公連立政権の積極的成果を語れない、臨時国会の冒頭の所信表明演説でも、まずは謝罪表明から始めざるを得なかった。東海村臨界事故と自由党推薦・西村前防衛政務次官の起用問題である。いずれも「核」に対する基本姿勢が問われている重大な問題であった。しかし首相の謝罪は、組閣の派閥抗争に明け暮れて東海村臨界事故に何ら対処できなかった責任や、以前からいわくつきの問題行動・問題発言を繰り返し、「核を持たないところが一番危険なんだ。日本が一番危ない」「核とは抑止力なんですよ。強姦しても何にも罰せられんのやったら、オレらみんな強姦魔になってるやん」と公言してはばからない西村氏を防衛政務次官に起用した責任については、驚くほどずさんで、その場限りの謝罪、責任者として厳しく省みる姿勢がまったく感じられない、正面から答えようとしない、首相の政治姿勢がこれほど如実に現れたものはないであろう。「人のいいオジサン」の正体見たりである。

<「選挙準備は7合目まできた」>
 そこでこのところ急速に登場してきたのが、早期解散・総選挙論の台頭である。野中前官房長官が、「選挙準備は7合目まできた」「何があっても対応できるように、準備を進めている」「首相が決断すれば24時間以内に選挙準備を終える」などと発言。さらに青木官房長官も「来年7月の沖縄サミットと解散はまったく関係ない」と早期解散を意図的に流し始めている。
 介護保険料徴収の半年間延期と家族介護への現金支給が急遽登場し、ゴリ押しされてきた理由の第一はこの総選挙対策にあると言えよう。自自公批判かわしの人気取り策で守勢を挽回しようというわけである。
 さらに野党側の体制が整っていないうちに解散・総選挙を急いだ方が有利であるという判断である。とりわけ民主党の選挙準備が大幅に遅れており、これまで民主党が公認した候補は、小選挙区と比例代表の重複候補が169人、比例単独候補が14人の計183人にすぎない。300におよぶ全小選挙区はもちろん、党が目標として掲げている「250人以上の公認候補(推薦も含む)」はまだまだ先の話である。解散風で野党を揺さぶるだけではなく、この際、年末か年明け早々の解散・総選挙を断行する現実性が浮上してきた理由でもある。しかしこれは自民党にとって危険なカケでもあると言えよう。今や税金のばら撒きで支持が集められるといった単純な事態ではない。必ずそのツケが膨大な形で回ってくることを庶民の誰もが感じ始めているのである。野党側には、逆に大きな政局転換のチャンスがめぐってきており、それを生かす努力こそが求められていると言えよう。
(生駒 敬)