ASSERT 269号(2000年4月22日)
【投稿】 森「新生内閣」の旧態依然のうさん臭さ
【投稿】 南北首脳会談と東アジア情勢
【書評】 『グラムシは世界でどう読まれているか』
【コラム】
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   「三国人」

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【投稿】 森「新生内閣」の旧態依然のうさん臭さ

<<「日本新生内閣」への不信表明>>
 4/14、ニューヨーク株式市場はついに過去最大、ダウ平均617ドルの下げ幅(下落率5.7%)を記録し、マネーゲームに賭けてきた金融市場に冷水を浴びせかけることとなった。ハイテク株を牽引力としてきたナスダック総合指数も355ポイント下落(9.7%)、3/10の最高値からすると34%もの下落であり、ダウ、ナスダックとも売り一色の総崩れ、史上最大の下げ幅となり、「ネットバブル」の危うさともろさを如実に示すこととなった。87年10月のブラックマンデーの下げ幅508ドル、下落率22.6%からすれば、下げ幅は上回っているが、下落率はまだそこまでは及んでいない。これが一過性の乱高下なのか、「調整」の範囲内なのか、さらなる暴落の引き金なのか、予断を許さない事態に突入しているといえよう。
 4/16、ワシントンで開かれていたG7(主要7カ国蔵相・中央銀行総裁会議)共同声明はアメリカ経済の底堅さと力強さをことさらに強調しているが、株価急落の事態に動揺を隠せず、不安を押さえ込むことに議論が集中した結果でもあった。宮沢蔵相らのいう「日本経済の自律的回復の動き」などまるで信用されず、なすすべもなく「民需が回復していない」、個人消費の回復に結びつかない日本の経済政策への苛立ちと注文が共同声明の中に盛り込まれることとなった。それは誕生したばかりの森新内閣のキャッチコピー、「経済新生内閣」、「日本新生内閣」へのあからさまな不信の表明の場となった。

<<「不適切な人物」>>
 この森新内閣は、誕生の過程そのものから悪臭ふんぷんたる日本の密室政治の特徴をいかんなく発揮し、世界中から不信と奇異の眼で見られている。小渕前首相が突然脳梗塞で倒れ、後継者選びが行なわれている最中から、ニューヨーク・タイムズ(4/4付け)は、「日本の国民は24時間以上にわたって病状の深刻さを隠蔽する誤った情報を与えられ」、「職務をまっとうする能力も持ち合わせていそうもない」人物に政権が暫定的に移行したことを知らされ、その上「有力候補者である河野外相も森幹事長も、明確な政治方針は明らかにしていない。青木首相代理に期待する人はほとんどいない」、「日本の首相の非常事態に、株式市場は動じるどころか、強ささえ見せた」と実に手厳しい。さらに森氏が後継首相に選ばれると、同紙9日付けは、「日本ほど、政治的指導者として不適切な人物を選ぶ国は他にない」とまで書いている。この森氏については、ワシントン・ポスト(5日付け)も、「忍耐と党への忠誠」だけによって選ばれたと書かれ、「日本政治の秘密主義が国民を苛立たせる」(9日付けワシントン・タイムズ)、「日本の抱える問題は”オブチ”以上に大きい」、「日本の自民党政治はまったく機能不全に陥っていて、だれが首相になっても同じだ」(ウォールストリート・ジャーナル紙)、「クレムリンのような秘密主義」(英・ガーディアン紙)、「先進国で首相の病状について隠し事をしたり、権力不在が起きたりするのは」アンビリーバブルだ(英・インディペンデント紙)と、酷評さんざんである。
 ところが国内ではこの秘密主義・密室協議を堂々と弁護し、「官房長官は事態の深刻さに悩みぬき、冷静沈着に行動し、私ならとてもああはできなかった」(野中・自民党幹事長、4/16NHK日曜討論)と一切反省もせず、それをまた公明党(冬柴幹事長)が擁護するというあきれた事態である。何の事はない、どさくさ紛れに、内閣と党を牛耳るカナメを押さえ、消去法で残っただけで政策も信念も希薄で言うことを聞かざるをえない新首相を立てた。そして両氏ともどもこうした過程の密室協議と裏取引によってそれぞれの地位と基盤を強化した、まさにこれらのことにしごくご満悦なのである。

<<「小渕国葬計画」論>>
 そして政局は急速に早期解散・総選挙へと動き出している。これまで早期解散などありえないと、沖縄サミット以降に設定されていた政治日程が急遽繰り上げとなってきたのである。森内閣発足直後の各新聞の世論調査で支持率が40%を越し、政権発足直後の支持率としては小渕政権発足時よりも高い数字となり、自民党の支持率も3月の20%台から30%に上昇した。今回、自由党の連立政権離脱劇のさ中、突然脳梗塞で倒れ、昏睡状態に陥り、生死の境で入院状態が続いている小渕前首相への「同情ムード」が消えない今のうちにというわけである。大平首相が選挙期間中に死去した80年の衆参同日選挙で、苦戦必至といわれながら同情票を集め、衆院で26議席増の大勝を獲得した、あの「2匹目のドジョウ」を狙っている。それだけでは不安なので、小渕氏に万が一のことがあれば「国葬をもって全国民が弔意を表すという」国葬計画まで浮上しているという(週刊ポスト4/21号)。あわよくば「弔い合戦」に持ち込み、同情票にすがらなければ支持を獲得できない、この同情論が消えないうちにという、なんともさもしい魂胆である。
 しかし彼らが考えるほど事態は甘くはないと言えよう。共同通信社がこの4/6に行った緊急世論調査によると、自公保連立を「評価する」という回答はわずかに25%、「評価しない」がその倍以上の54%にも達している。評価しない理由も、「創価学会を支持母体とする公明党が政権に参加している」、「単なる数合わせにすぎず、国会の空洞化につながる」と連立の実態に胡散臭さを感じ、拒否感が表明されているのである。

<<"ノミの心臓"の怒鳴りぐせ>>
 4月10・11の両日実施された朝日新聞の全国世論調査でも、この政権は長続きしないという回答がなんと70%にも達している。世論は厳しい目で見ていると言えよう。それでも森新政権が、小渕内閣とは違った現状を打破する新たな政策を打ち出すというならまだしも、就任あいさつで「前政権の課題継承」しか表明できない、単なるお飾りで、どこが「日本新生内閣」、「経済再生内閣」なのか、まるで無内容極まりない「新政権のスタート」となった。
 しかもこの森新首相、外形標準課税やディーゼル排ガス規制で点を稼ぎながらも一連の差別的反動的放言で自ら孤立を深めている石原慎太郎都知事と同じ青嵐会出身である。石原と同根なのか、"ノミの心臓"とヤユされながら、すぐにカッとなって失言を繰り返す、「エイズが来た」、「大阪タンつぼ」発言など、ごく最近でも「沖縄教組というのは共産党が支配していますから、沖縄の先生、沖縄に二つある琉球新報、沖縄タイムスは何でも政府に反対。ですから子どももみんなそう教わっている」(3/20の放言)などと発言し、追及されると「子どもみたいなこと聞くな!」と取材記者を怒鳴りつけることで有名な、そんな程度のお粗末さしか持ち合わせていない政治家である。「理念がない」「政策がない」「節操がない」、そして失言には事欠かない、こんな政治家が首相という地位につくことができる、日本の政治の貧困さを象徴する事態である。少しでも長引けば馬脚をあらわして、石原知事と同じように重大な舌下事件を起こしかねない人物だけに、その内に取り替えられる短命内閣とも言えよう。野党にとっては政権交代の絶好のチャンスでもある。こんな状況のもとでも、民主党を初めとする野党が優位に立てないようなら、その存在価値そのものが問われるのではないだろうか。
(生駒 敬)