アサート 269号(2000年4月22日)
【投稿】 南北首脳会談と東アジア情勢  by大阪O
<韓・朝・中「三方一両得」>
 韓国と北朝鮮は6月に平壌で初の首脳会談を開催することで合意した。
 朝鮮半島は、世界的な冷戦構造の崩壊後も、北朝鮮のあまりに特異な政治体制のため、あたかも「ロスト・ワールド」の様な環境におかれてきた。
 この間北朝鮮は経済、農業政策の失敗と軍事最優先政策により、危機的状況か継続している。金正日政権はこうした八方ふさかりの状況を打開し、大規模な経済支援を獲得するため、核疑惑をめぐる「瀬戸際外交」をも利用した対米交渉を、最優先として進めてきたが、画期的な進展は見られなかった。
 交渉が膝着状態に陥る中、アメリカは昨年の「ぺリー報告」で金正日体制の存続を認めはしたものの、それはあくまでも台湾問題を軸とした中国への牽制・沖縄米軍基地の存続を含めた、極東10万人体制維持を主眼としたアジア政策合理化の一環であり、いわば「生かさぬよう、殺さぬよう」とも言える戦略の推進を明らかにした。
 こうしたアメリカの意思からは、必要最小限の以上の本格的援助は望むべくもないし、対日交渉についても継続は確認されたものの、粒致疑惑か論点になれば、とん挫してしまうのは明白である。
 そこで北朝鮮は、北朝鮮の脅威を口実としたアメリカによる圧力増大を阻止したい中国と、密接な連絡を取り合い、対韓関係を突破口として局面打開に動いたものと考えられる。
 南北会談開催に中国が絡んでいることは、中国内で事前折衝か行われたこと、韓国と対等で話をする事など「ひれ伏す」に等しい屈辱と考える北朝鮮から、こうした発想が出てくるとは考えにくいこと、中国としては北朝鮮支援を軽減したいことなどから、ほぼ確実であろうし、むしろ中国サイドから北朝鮮に対して働きかけがあったのかもしれない。
 いずれにしてもこれにより、韓国からの大規模経済支援か実現すれば、北朝鮮はようやく一息つけるであろうし、中国としては、極東における米軍の存在理由となっている朝鮮半島情勢が緩和の方向に迎えぱ、対外政策上極めて有利な条件を手に入れることができる。
 さらに韓国の金大中政権としても、これまでの「太陽政策」の正しさを証明し、政権基盤を一層固めると共に、朝鮮半島情勢に関わる政治的イニシアティブ確立に向け、大きく前進する事となる。
 こうして、韓国、北朝鮮、中国三者の思惑、利害が一致したことによって初めての南北首脳会談が実現する運びとなったのであり、その意味で単なる政治的パフォーマンスではあり得ない。
 
<予想される紐余曲折>
 こうした徴妙なバランスの上に成り立っている首脳会談であるが、今後順調に開催され、何らかの成果を上げるまでには、様々な動きがあるだろう。
 まず、発表直後に行われた韓国総選挙では、南北首脳会談が与党民主党に対して、思ったほどの追い風にはならず、第一党の座を確保できなかった事が上げられる。
 このことは、韓国国民がムード先行の首脳会談を、冷静な目で見ているためであるが、金大中政権としては、出だしで蹟いた感は否めない。会談の目的、援助の内容について国内的な合意形成か必要になり、何らかの見直しか求められる事もあり得るだろう。
 さらにアメリカは今回の会談について、表面上は歓迎の意向を示してはいるか、中国の動向、韓国の自立志向を注視しなから、朝鮮半島情勢の「過度の緊張緩和」というアメリカの戦略に抵触する事態にならないよう、今後韓国政府と交渉の内容について調整を進めるだろう。
 北朝鮮でも金正日総書記の腹は固まっているとしても、軍の強硬派か、武装工作員潜入や海上での銃撃戦の様な、武力行使に及ぶ可能性か無いとは言えない。
 この様に会談実現までは予断を許さないものがあり、ー・度だけでは大きな成果などは期待はできないし、「会うことに意義かある」とまで言われている。
 しかし今回の会談では、南北首脳の直接対話で朝鮮半島を巡る問題は解決していく、とのルールをつくることができるかが、最も重要な課題である。
 一端そうしたレールが引けれぱ、アメリカ、中国の意図とは離れて事態は動き出すかもしれないし、むしろ米中の戦略も修正を余儀なくされる方向ヘ進むかもしれない。
 これらの動きが、総合的に東アジアの緊張綬和へと動いていくかはどうかは、沖縄問題を中心とした我が国の安全保障政策にも、大きな影響を及ぼすのは言うまでもない。
 ところか日本政府は、この事態に対し十分な対応をとり得ていない。当面韓国との連絡の緊密化、北朝鮮との国交正常化交渉は継続するだろうが、明確な対朝鮮半島政策を持たない森政権は、差し迫る総選挙対策に忙殺され、傍観者の席に甘んじざるを得ないだろう。(大阪・O) 

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