アサート 272号(2000年7月22日)
【投稿】 首脳会談後の軍事バランス
 6月13日から15日まで平壌で開催された金大中大統領と金正日総書記の南北首脳会談は、「予想以上の成果」をあげて終了した。「共同声明」で明らかにされた合意点は、統一問題の自主的解決、離散家族の再会、経済文化の相互交流、などである。とりわけ、統一問題については、南北双方の統一構想をたたき台として検討していくことが確認され、大きな前進と評価されている。
以上の合意点は確かに画期的なことであるが、今回金総書記が最も踏み込んだ認識を示したのは、会談終了後に伝えられた米軍の韓国駐留容認である。
なぜ、北朝鮮が在韓米軍についての、これまでの公式見解や対応を根本から覆すような見解を明らかにしたのか。それはアメリカからの援助を引き出す「歴史的妥協」である。
 先日、米朝ミサイル協議が行われたが、アメリカが事前に韓国に伝えた北朝鮮のミサイル輸出額は年1億ドルであり、これまで北朝鮮が要求していた輸出停止の見返り額の10億ドルとは、10倍の開きがある。
さらにアメリカは見返りは、金銭的補償ではなく経済制裁の緩和で行うとしており、ミサイルを材料に援助を引き出すことは困難になっている。
また、すでに「核兵器開発」についてはKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)の枠組みで支援が決まっており、北朝鮮としてはアメリカに対するカードが尽きてきたのである。
そこで、奥の手、ある意味では禁じ手=「武力統一構想」を放棄するに等しい、在韓米軍容認というカードを切ってきたわけだ。
アメリカは首脳会談前から、在極東米軍10万人体制を揺るがすような「過度の緊張緩和」に対する牽制球を投げており、会談後も「期待を持ちすぎてはならない」などと
アメリカ抜きで協議が進むことについての懸念を繰り返してきた。
朝鮮半島での事態の激変について、アメリカは本気で心配していたようで、オルブライト国務長官が金大中大統領から直接、北朝鮮の意向を聞いて納得したのである。
またこの間の「影の主役」と言っても良い中国は、この件については沈黙を守っているが、あからさまな反発を示さないのは、事前にアメリカのNMD(「本土」ミサイル防衛システム)放棄を迫る材料ともなる在韓米軍容認を了承していたことを窺わせる。
さらにロシアのプーチン大統領も先の江沢民主席との会談、その後の訪朝によってこれらのことを確認し、朝鮮半島情勢に対する影響力を確保するだろう。
こうして、在韓米軍問題についての当事者、周辺国の共通認識が固まる中、8月と言われる北朝鮮高官の訪米によって、最終的な確認がなされるものと思われる。
これにより当面極東の軍事バランスは、沖縄駐留米軍も含め大きく変化することは無くなった(ただしNMD計画が不安定要素であるが、主要国の反対、技術的不安から配備計画については頓挫しつつある)。
 同時にこのことは南北緊張緩和の進展が在韓米軍の撤退から沖縄基地縮小ヘつながる、と言うシナリオを描いていた「平和勢力」の期待を挫くことにもなったが、この際国家のしたたかさを充分認識すべきであろう。
また、日本政府も、サミット外相会議では議長国でありながら、総括文書で北朝鮮に対しては「建設的対応を求める」という表現を盛り込んだものの、今後の具体的対応については明確とはなっていない。アセアン地域フォーラムでの日朝外相会談以降にどの様に事態が進展するか注目される。 (大阪 O) 

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