ASSERT 277号(2000年12月16日)

【投稿】  「政治的不況」と「不安の連鎖」
【投稿】 高速増殖炉「もんじゅ」運転再開の動きと
                      原子力長期計画
【投稿】 労働組合運動の危機か、連合運動の危機か
読者の声】 

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(投稿) 「政治的不況」と「不安の連鎖」

<<「政治的不況の蔓延」?>> 
 アメリカ大統領選をめぐる事態の混乱と迷走は、目を覆うばかりである。多くの不正と無法行為がまかり通り、選挙実務を公明正大にする「国際選挙監視団」をもっとも必要としている国、数百年前の間接選挙制度、交通・通信・情報革命に取り残された非民主主義的選挙制度に拘泥している国として世界にその姿をさらけ出したとも言えよう。ロシア議会で「アメリカに選挙監視団を送るべきだ」という議案が提出されても(可決はされなかった)、まともな反論が出来ない事態である。ゴア・ブッシュ接戦の結果は、全米で34万票も得票が少ないブッシュが政権につく可能性を示し、フロリダ州でゴアがたとえ逆転したとしても、いずれも不安定な政権にならざるを得ないと予測されている。これに同調したかのようなニューヨーク株式市場の株価の下落は、いよいよバブル清算不況の到来を予測させるものであるが、この大統領選をめぐる政治的迷走が直接間接影響していることも否定し得ないことであろう。
 政治的危機と経済的危機は不測不離とも言える。現在国際経済の中で最も警戒されているアルゼンチンの危機は、デラルア政権の弱体化、地方政府との対立、与党内抗争の激化で経済破綻、デフォルト(債務不履行)宣言寸前の状態である。行き詰まりが表面化すれば他の南米諸国に波及することは必至であろう。これまでアジア通貨危機の影響をそれ程受けてこなかったといわれるフィリピンでも、エストラダ大統領弾劾を巡る混乱の中で通貨は史上最安値を更新し、経済危機の瀬戸際に立たされている。インドネシアやタイでも政治的不安定から債務問題が再浮上し、台湾でも新政権の経済政策の混乱が深刻な影響を与えており、韓国では財閥系企業再編に伴う労資の対立は先鋭化し、経済実態に深刻な影響を与えている。アジア経済危機から脱出し、回復を続けてきたといわれるアジア経済全体がここに来て再び、アメリカ経済の失速傾向、原油高等も加わって、暗雲が立ち込め始めたのである。
 一向に回復傾向が定まらない日本経済の状態は、まさにこの「政治的不況の蔓延」に先鞭をつけた、そしていまだに政治的不況を深化させ続けている国として特筆されよう。

<<「渦巻きの最中だ」>>
 経企庁は12/4、新基準(93SNA)に基づく国民所得統計速報を発表した。この新基準、93SNAとは国連統計委員会が93年に勧告したGDP統計作成方法の国際標準ルールである。とかく疑問が呈されてきた日本のGDP統計も、今回の7-9月期から新方式に切り替えられたわけである。しかし作成方法が変更されにもかかわらず、政府経済見通しには取り入れない、「変更が大きすぎて影響が予測しがたい」としている。変更の第1は、ソフトウェア投資を民間設備投資や公共投資に計上すること、これによって約5兆円、GDPの約1%、規模が拡大する。第2は医療費で、全額個人消費であったものが、自己負担分だけが個人消費、保険負担分は政府最終消費支出となり、これにより国民医療費の約三分の二に当たる約20兆円が個人消費から政府消費に移行する。第3に、政府の社会資本の減価償却費をサービス額とみなして政府最終消費支出に計上、これによって約10兆円、第1と第3で計約15兆円、約2.5%、GDP総額が増加し、政府最終消費支出は約1.6倍に膨張する。これによって実体経済との整合性、国際的な比較可能性がこれまでよりは高まったわけであるが、ある意味では「これまでとは全く別の統計」(経企庁)とも言えよう。
 この新基準に基づいて計算しなおすと、マイナスだった97年の成長率がプラス0.2%に、98年はマイナス1.9%がマイナス0.6%に改定される。マイナス成長を理由に退陣に追い込まれた橋本内閣、マイナス成長を理由に史上最大規模の公共事業をばら撒いた小渕政権は一体なんだったのか、改めて問い直されることでもある。元首相の橋本氏が今回の改造内閣で再び行革担当相として閣僚に復帰して、弱体・死に体内閣の森首相を無視して独自性を押し出そうとしている政治的意図の背景要因でもある。
 ともあれ、新基準に基づいた7-9月期GDP統計を発表した堺屋長官は、「高原でやや上昇、倒産件数が増え、株価が下落する現実もあり、プラス・マイナス渦巻きの最中だ」などと自分でも解釈しがたい、わけのわからない認識を披露している。

実質国内総生産・GDPの推移    2000年 (単位10億円)

1999年度 1-3月期 4-6月期 7-9月期 寄与度
実質国内総生産 525,695.8 531,437.2 532,640.2 533,916.7 0.2
前期比成長率 1.4 2.4 0.2 0.2
年率換算 - 10.0 0.9 1.0
民間最終消費支出 289,454,2 289,823.2 290,194.1 290,300.5
前期比 1.5 2.0 0.1 0.0 0.0
民間住宅 20.504.0 20,977.0 19,846.1 19,938.4
前期比 5.1 4.6 ▲5.4 0.5 0.0
民間企業設備 81,102.3 83,288.1 81,205.3 87,554.0
前期比 ▲1.0 1.0 ▲2.5 7.8 1.2
民間在庫品増加 ▲698.9 ▲464.2 ▲171.4 ▲777.2
前期比 - - - - ▲0.1
政府最終消費支出 83.202.9 84,219.6 85,244.6 85,704.4
前期比 4.0 1.0 1.2 0.5 0.1
公定固定資本形成 40,421.8 39,989.5 42,139.9 37,617.9
前期比 ▲0.7 1.5 5.4 ▲10.7 ▲0.8
公的在庫品増加 87.3 180.3 159.3 52.1
前期比 - - - - ▲0.0
財貨サービス純増加 11,622.3 13,423.7 14,022.3 13,526.6
前期比 2.0 20.1 4.5 ▲3.5 ▲0.1
財貨サービスの輸出 54,605.7 57,523.4 59,840.7 59,865.7
前期比 5.3 4.4 4.0 0.0 0.0
財貨サービスの輸入 42,983.4 44,099.7 45,818.4 46,339.1
前期比 6.2 0.4 3.9 1.1 ▲0.1

<<「不安の連鎖」>>
 今回のGDP統計で明らかになったことは、三期連続のプラス成長だったにもかかわらず、肝心の個人消費は、前期比0.0%増、前年同月比マイナスという低迷ぶりが依然として重くのしかかっていることである。さらに特徴的なのは、いよいよこれまでのような公共事業費増大が景気拡大にプラス要因とならなくなってきたことである。公共事業の支出額を示す「公的固定資本形成」は前期比−10.7%の大幅減少となっているが、今年度当初予算の国の公共事業費は、前年度と同額の9兆4307億円という巨額のばら撒き予算であった。それにもかかわらず、受けて実行する側の地方公共団体の公共事業が前期比で大幅マイナスとなり、もはや深刻な財政危機にあえぐ地方自治体にとって何の効果もない重荷でしかなくなってきている公共事業の実体を現してきたのである。バブル崩壊以降、90年代に入って11回にわたる巨額の公共事業投入政策の結果がこれである。GDPの6割を占める個人消費の増加にはほとんど寄与しなかったばかりか、大手建設資本・ゼネコンの延命、これらに野放図に貸し付け、不良債権を増大させてきた金融資本の救済、そしてこれらにむらがる公共事業分捕りをめぐる汚職・腐敗の金城湯池を提供してきた、いまだにこれを転換できない政策の貧困を象徴的に示しているのである。
 総務庁が12/7に発表した10月の家計調査によると、全世帯の消費支出は5月以降4ヶ月連続の実質減少、9月実質増加、10月は再び実質減少となっている。しかも消費支出の内訳を見ていくと、全体で減少しているにもかかわらず、教育費で11.9%、交通通信費で2.0%、医療費で1.0%それぞれ支出が増加している。個人消費の義務的負担部門だけは確実に上昇しているのである。
 日銀が9月下旬に実施した「生活意識におけるアンケート調査」によると、消費支出を前年比実質減少させている人々が4割に達し、その理由の最多回答の第1位が「将来の仕事や収入に不安がある」=6割、第2位が「年金や社会保障の給付が少なくなるとの不安から」=54.8%、第3位「不景気やリストラ等による収入の頭打ちや減少から」=49.2%、そして「増税や社会保障負担の不安」=36%と、「不安の連鎖」が消費低迷の根本原因となっていることを的確に示している。

日銀「生活意識に関するアンケート調査」
(9月下旬〜10月上旬実施、20歳以上4000人対象)
1年前と比べた収入  1年前と比べた支出
----------------------------------------
減った 41.8%  減らしている 38.9%
変わらない 51.0  変わらない 54.5
増えた 7.1  増やしている 6.5
----------------------------------------

支出を減らしている理由(複数回答)
----------------------------------------
将来の仕事や収入への不安 59.3%
年金や社会保障給付が減少する不安 54.8
不景気やリストラによる収入の減少 49.2
増税や社会保障負担増大の不安 36.7
欲しい商品やサービスがないから 10.8
----------------------------------------

<<「まる投げ」内閣>>
 ところが今回の内閣改造は、こうした「不安の連鎖」を断ち切るものではなく、よりいっそう不安を煽り立てるものだといえよう。宮沢蔵相や堺屋経企庁長官に「おまかせ」内閣であったものが、今回は「死に体」となった分、与党三党、利権争奪派閥への「まる投げ」内閣(12/6朝日)となってしまったのである。
 ポストの分捕りでも、橋本派と江藤・亀井派が抗争を展開、森首相は人事権の行使さえ放棄、保守党の“扇千景・国土交通相”構想が出ると、公明党は“こちらが環境相では軽く見られる”と格上げを要求、創価学会員を広言する“坂口力を厚生労働相で処遇しろ”とゴリ押し、醜いドタバタ組閣であった。
 来年3月までの短命内閣を見越して各党各派閥とも無責任極まりなく、将来の増税をさらに膨らませる国債増発、景気回復に無益の利権バラマキ公共事業、「地域振興券」を連想させる我田引水の利権予算が当然のごとくまかり通ろうとしている。公共事業費は今年度並みの9兆4000億円をしっかりと確保、ITの衣をかぶせただけの旧態依然のハコモノ事業、建設・土木工事である。整備新幹線に至っては、今年度当初予算比4倍以上の突出ぶりである。いずれも赤字と膨大な維持経費が重くのしかかってくるものである。
 ところがその一方で、課税最低限の引き下げが検討され、さらに今国会では70歳以上の老人医療費を現在の定額制から薬代込みの低率制に改悪し、庶民の負担増大路線を確実に敷いている。消費税増税がやむをえない当然の課題であり、いつ提起されてもおかしくはないという政治状況が着々と築かれているのである。こうした「不安の連鎖」を断ち切る前提条件、腐敗しきった現在の政治体制については全く不問に付されているがゆえに、不安は払拭され得ないのである。
 このような政治状況を打破する責任は、野党にこそかけられているのだが、民主党の鳩山党首はどうしたわけか、こうした「不安の連鎖」と闘うのではなく、憲法9条の改定に物議をかもし、共産党は自民党同様の解釈改憲で自衛隊活用論にエネルギーを注ぐというていたらくである。民主党も含めた自民、公明等、あらゆる政党が敗北した最近の長野、東京、栃木の選挙結果を真剣に受け止めるべきであろう。
(生駒 敬)

読者の声
○いつもありがとうございます。
たのしみによんでいます。
99年度分、00年度分、01年度分を送金させていただきます。
なお、残りはカンパという形にさせていただきたいと思います。(大阪:山本)

○小野先生の墓参会に参加できなくて本当に残念でした。みどり夫人のお元気のご様子、佐野君のメールで拝見し、喜ばしく思いました。皆さまのご健闘に敬意を表します。僅少ですが、カンパを送ります。 大木 透