ASSERT 279号(2001年2月17日発行)

【投稿】  「3月経済危機」説の現実的可能性
【コラム】 ひとりごと −ぼちぼち、今年も春闘−
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【書評】  『がん患者学――長期生存をとげた患者に学ぶ』

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【投稿】「3月経済危機」説の現実的可能性

<<グリーンスパン日銀総裁?>>
 2/9、日銀は、政府も市場もほとんど予想していなかった緊急利下げの記者会見を行った。すでに前日の2/8、13000円の危機ラインを割り始めた株価、政権危機どころか深刻な経済危機に発展しかねない事態に、「日銀総裁を速水氏から、利下げに踏み切ったグリーンスパンFRB議長に代えてしまえ」などと自民党幹部が露骨な圧力をかけていた最中である。打つ手もなくただ傍観しているだけで危機を深化させてきた宮沢財務相が「意外だった」と、評価はすれど口を開けたままの放心状態である。日銀は、95/9に1%から0.5%に引き下げた公定歩合を今回さらに0.35%に引き下げることによって、決算年度末の「3月危機説」を未然に防ぎ、「市場全体の安定の確保につなげる」と強調する。
 はたしてその効果は如何。誰しもが疑いを持っている。日銀は昨年8月、ゼロ金利政策を解除したが、それでも誘導目標金利は0.25%である。対するアメリカは、景気失速の危機感から1/3の緊急利下げに続いて、1/31に再び追加利下げを行ったが、その結果の公定歩合は5.0%、短期のフェデラルファンド金利は年5.5%である。この格差こそがアメリカに資金を吸い寄せてきたともいえよう。日本の金利が1%以下、0.5%からさらに0.35%へという、これほど限りなくゼロに近い金利水準の中で、多少の程度金利を動かしても景気や株価に大きく影響を与えるようなものではないことは自明である。問われているのはむしろ政策の一貫性と的確性であろう。そしてこの点にこそ国際的にも国内的にも日本の信頼性が欠如しているのである。

<<危険な兆候>>
 日銀は表向きは、「3月末の資金需要に対応するための通常措置」というのだが、金融関係者は「日銀が大型倒産を察知して、先手を打ったのではないか」という。日銀が恐れる最大の不安は第二次金融危機と連鎖倒産の再燃である。日経平均株価が13000円を割って、12966円まで下落した2/8、東京三菱をはじめとした主力銀行株が軒並み売られ、昨年来の安値を更新している。とりわけ目立つのがみずほホールディングス(一勧、富士、興銀)株価の安値更新である。みずほは3行統合によって、他の3都銀グループ(住友・さくら連合、三和・東海、東京三菱)よりも持ち合い株解消数が多く、強い売り圧力にさらされ、1/25には700円台を割り込み、2/6にはついに600円割れ寸前まで売られている(50円額面換算)。年明け以降の高値からこの2/6までの各行の株価の下落率は、みずほが21.5%、あさひ銀19.7%、大和銀16.2%、東京三菱13.6%、東海12.7%、さくら銀11.9%、三和11.0%、住銀8.9%など、金融株が軒並み売り浴びせられている。
 すでにこれら金融資本には9兆円もの公的資本注入が行われてきたのであるが、そのほとんどが不良債権の代名詞ともなったゼネコン、不動産、流通企業の延命・救済資金に流し込まれ、いまだ増えつづけその詳細さえ明らかに出来ないほどの不良債権をさらに生み出しているのである。一昨年の公的資本注入は、銀行統合を加速させ、四大グループへの再編を促したが、逆に金融システムのもろさと不安定要因をいっそう拡大するという危険な兆候を帯びはじめてきたのである。

<<山ほどある地雷原>>
 それでも各金融機関は、まだ含み益のあるうちに保有株を売却し、時価評価制への会計制度の変更に伴う持ち合い株の解消売りに走らざるを得ない。こうして市場に放出される株の総額は9兆円にも達するといわれる。3月末の決算期に向けて株価はさらに下落することはあれども、上昇する要因はほとんどない。常に他力本願で依存してきたアメリカ経済に暗雲が立ち込め、バブル経済がはじけ始めたニューヨーク市場との連鎖下落はさらに大きな不安要因である。
 かくして株価次第で3月期決算を迎えられずに倒産に追い込まれる企業、金融機関が出てくる、大型倒産の可能性が現実味を帯び始めたのである。
 とりわけ、保有株「含み益」の限界株価=13000円割れが続行する事態になれば(すでに12500円説まで出されている=1/23『エコノミスト』誌)、「含み益」どころか「含み損」(金融庁の試算では、大手16行で5兆円近くの含み損が出る)を抱え、確実に大手都銀の一角が崩れる可能性が大といえよう。現在、市場で売りターゲットにされているみずほグループ、大和銀行、中央三井信託などが、「3月経済危機」の引き金の役割を果たしかねないともいえよう。地銀、第二地銀はすでに「含み益」を使い切っており、相次ぐ破綻と解約に見回れている生保、債権放棄ラッシュのゼネコン、流通、不良債権の山と化したノンバンク、オリコをはじめ経営不安がささやかれている信販業界、地雷原は山ほどあり、どこが引き金をひいてもおかしくはない。

<<「渦巻き」から「踊り場」へ>>
 おりしも、2/8、昨年12月に発表された2000/7-9月期の国内総生産(GDP)速報値が大幅に下方修正され、当初のプラス成長(0.2%、年率換算1.0%)どころか、実は-0.6%、年率換算-2.4%のマイナス成長であったことが明らかにされた。「景気は緩やかに改善」といいながら、「高原でやや上昇、プラス・マイナス渦巻きの最中だ」などとわけのわからない説明をしていた堺屋・経企庁長官が森内閣改造を機にこれ幸いと逃げ出したわけである。今度はさすがに「上昇」とは言えず、「景気は減速傾向」ではあるが、「踊り場的な状況」であると、言葉の言い換えに終始するだけ、首相のコメントさえない。現状を打破する政策も気概も持ち得ていない泥舟・森内閣の無責任、無方針ぶりを象徴する事態である。
 日経世論調査(2/7付)によると、今後の景気の先行きについて「当分、良くなるとは思えない」=66.9%、「今後さらに悪化する」=20.5%、合わせて87.4%、実に9割近くが政府・与党の発表を信頼しておらず、このまま森内閣が続く限りさらに景気は悪化すると見ていることを示している。同じ調査の森内閣支持率は発足以来最低の15.7%、不支持率70.6%、毎日2/6付は支持率14%、不支持率62%と、通常ならばとっくに政権崩壊している支持率・不支持率である。

<<「森の耳に念仏」>>
 ピー音で消されることになった「私が総理大臣をやったほうがよっぽどマシよ」という自民党宮城県連のCM、主婦が怒りで森首相をコキ下ろす場面は今や圧倒的多数の人々の共通の感情であろう。そこへさらに怒りを重ねさせる、与党・官僚の買収においてリクルート事件をも上回るKSD疑惑、底知れぬ腐敗と堕落に使い回されてきた内閣官房機密費疑惑、現在の連立政権は存在するだけで悪の権化と化しているともいえよう。しかし当事者は全く鈍感であり、言葉だけは「お詫び」を連発しているが、反省のかけらさえない。首相をはじめ幹部のすべてが連座しているKSD疑惑では、かえって開き直り、「適正に処理した政治資金である」と強弁し、機密費疑惑では公開要求すら拒否し、増額までを要求するような傲慢さである。
 宇和島水産高校の実習船が米原潜に沈没させられた事件でも、知らされてから1時間以上もゴルフに興じ、質問する記者に「どうしてここまで入ってくるの。ここはプライベートですよ」と食って掛かる森首相。やはり衝突してから1時間以上も救助もせずにただ見張りつづけていた米原潜の軍人たち、これらの共通の度しがたい体質、民主主義と人権感覚の喪失には怒りが渦巻くのは当然である。
 2/6の国会代表質問で社民党の土井たかこ党首が「正直なところ今回、森総理への質問はやめようと考えていた。各省庁の文章を寄せ集めた施政方針演説に質問してもむなしいだけではないか」と糾弾し、「一刻も早く辞任し、政権の一新を」要求している。これだけ言われても「森の耳に念仏」、ニヤニヤ笑って正面から答弁できない。民主党の一部にはこんな「森を生殺しにしたまま参院選に突入するのがベスト」として退陣要求を控える意見まで出ているが、果たして正しいのであろうか。自民党がそれこそ3月危機を控えてまたもや闇合意で森首相の首をすげかえ、野党の足下をすくう作戦に出るであろう。野党のイニシャチブで森内閣を退陣に追い込めるのかどうかが問われているのではないだろうか。
(生駒 敬)