ASSERT 281号(2001年4月21日)

【投稿】 自民党政権崩壊への序曲
【投稿】 千葉県知事選を振り返って
【書評】『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』

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【投稿】自民党政権崩壊への序曲

<<「卒業旅行」>>
 「死に体」と化してしまった森・自公保政権の政治的空白期をねらうかのように重大な政治的選択が行われている。「時間の無駄」とまで揶揄された日米首脳会談ではあったが、クリントン時代から一転して軍事優先・強行対決姿勢を鮮明に打ち出しつつあるブッシュ政権。かれらは、もはや退場するしかない森政権をうまく利用したつもりであろう。ブッシュ大統領は森首相との会談で、“日本のような強固な同盟国との協力で平和を維持できる”として、日本が同盟国にふさわしい軍事的役割を果たすように求め、アジア・太平洋地域の政治的軍事的緊張や紛争に日米共同で対処することを求め、戦争マニュアルとしての新ガイドライン(日米防衛協力のための指針)が有事の際に遅滞なく機能するような法整備を要請したのである。
 訪米も、もはや「卒業旅行」気分でしかない森首相は、深く検討することもなくすべていうがまま「Yes I do」を連発してきたのであろう。いやむしろ失礼な訪米へのご機嫌取りの意味もあって、当初から日米首脳会談で意図的に「有事法制の検討」を持ち出すハラであった。事実、渡米当日の3/19、防衛大卒業式の訓示で「日米同盟関係の重要性」から、いきなり「有事法制は、自衛隊が文民統制の下で国家・国民の安全を確保するために必要であり、平時においてこそ備えておくべきものである。政府として、法制化を視野に入れた所要の検討を鋭意進める」と言い放ったのである。そして日米首脳会談でこの「有事法制の整備」を対米公約としてしまった。「ボランティアの義務化」を「自衛隊で」という人物である、何を密約してきたかきな臭い限りである。

<<「日本の政治的意思の問題だ」>>
 日本経済の「政治的不況」、「日本発の国際金融危機」については、当初「教訓をたれるつもりはない」としてきたブッシュ政権であったが、日米首脳会談では「教訓」どころか、「不良債権の早期処理」という日本政府の具体的課題に介入。ブッシュが「米国内には日本は不良債権問題に全力で取り組んでいないという見方がある。友人として心配だ」と詰め寄ると、森はこれまでろくに取り組んでこなかったという弱みからか、一転して「全力で取り組む」、「半年くらいで結論を出したい」とこれまたいとも簡単に公約してしまったのである。首脳会談の事前打合せでは日米経済一般について意見交換するだけのはずであったものが、日米共同声明で「不良債権に効果的に対処する」という一文が入り、日本側が削除を申し入れたが拒否され、引き下がるというお粗末さである。
 その後もアメリカ側の苛立ちはますます増大している。4/4、FRBのグリーンスパン議長が米議会で「世界第2位の日本経済の低迷が他国に影響を与えないことはあり得ない」、「アジア地域に連鎖的な影響が出かねない」と強い調子で日本を非難、オニール財務長官も同日、緊急経済対策の決定が遅れたことに「率直に言って残念だ」と文句をつけ、リンゼー大統領補佐官は「(長引く不況の解決は)日本の政治的意思の問題だ」とバッサリである。バブル経済の過熱に浮かれ、それが破綻し、清算過程にはいるやその責任を他国に転嫁する、日米双方ともその責任や原因をなすりつけあう、よくある常套手段であろう。しかしその重荷を勝手に持ち込み、約束されてはたまったものではない。

<<同一人物の本音>>
 そこで、自公保与党3党が株価急落、デフレ突入など与党の無為・無策批判をかわすために急ごしらえでデッチ上げたのが「緊急経済対策」(4/4)。その主要な柱は、(1)不良債権処理、(2)株式買い上げ機構の創設、(3)都市部の土地流動化、(4)証券市場の活性化であるが、いずれも全く具体性に欠けている。しかしこれらが具体化されるに際しては、きわめて重要で危険な政策転換が行われる可能性が指摘できる。
 まず、その時期について。銀行が保有する持ち合い株を買い上げる「取得機構」設立法案の提出時期をめぐって、“金融界に異論もあるので慎重に……”として9月メドを主張する柳沢金融担当相に対して、亀井・自民政調会長が“緊急事態なんだ”“なにもしないなら政府なんてなくてもいい”と激しくかみつき、怒鳴り合いとなり、麻生経済財政担当相が“和やかな意見交換とはとても言えない雰囲気だった”という。
 この「株式買い上げ機構」は、時価会計制度導入に伴って急増している銀行の持ち合い株解消売りをここで吸収して、株価を維持しようという狙いである。しかし問題は、買い上げた株式が売却時に下がっていれば損失が出るし、売れなければ丸損。それに符号を合わせるかのように宮沢財務相が「仮に損失が生まれるとしたら、財政で面倒を見ることも考えたらどうか」と本音を出した。つまり実際は、金融機関が保有していて、株価下落でそれ自体が不良債権化した持ち合い株だけをわざわざ買い取り、結局はこれまた公的資金によって銀行を救済し、それにつらなる不良債権企業を救済しようというものである。底無しの財政出動へのゴーサインでもある。
 これが「日本の財政は破局に近い状況だ」と発言した同一人物の本音なのである。すでに660兆円にも達している財政赤字、もはや返済不可能であろう。たとえ消費税率を現行の2倍、10%に引き上げたとしても赤字解消には100年以上もかかってしまう。それならこの際、積極的なインフレ政策に転換し、日銀には国債の買い切りオペの増額を迫り、市場に札束をあふれさせ、ハイパ−インフレを現出させ、財政赤字もチャラにしてしまえ、これが本音であり、こうした危険な政策へ転換しだした証左でもある。しかもこのような重大な政策転換が、この政治的空白期を狙うかのようにしてろくに議論もされない中でまかり通ろうとしているのである。

<<「橋龍暴落」>>
 4/6、橋本派が橋本龍太郎元首相擁立で固まったとの報道が出始めると、みるみる株価は下がり続け、緊急経済対策への失望ともあいまって、土日を挟んだ2営業日で800円も下落。市場では「本当に橋龍が再登板したら1万2000円割れ」の声まで出ている。さらに4/9、「総裁選は橋龍本命」のニュースが流れるや、平均株価は542円安の大暴落。明らかな「橋龍暴落」である。前回の首相在任中(96年1月〜98年7月)に日経平均を2万2666円(96年6月)から1万6201円(98年7月)まで下げた疫病神の再登場というわけであろう。
 橋本氏は、急ごしらえの「200日プラン」なるものを発表して「私が総理の時に財政再建を急いだことが、今の不況の原因であることをおわびし、その悔しさをバネに状況を乗り切りたい」、「景気対策か財政再建かという分け方はおかしい。2つは両立する」などと言っているが、誰も相手になどしていないのである。ところが自民党の派閥力学は、「主流派になり続けること」、地位と利権の配分に関与することがすべてであり、深刻化する経済危機や増税・福祉・生活・年金等の不安などまるで眼中にない。
 4/10、自民党の全国幹事長会議では、九州を中心に各地の地方組織から「地方の持ち票を4票にしろ」という要求が相次いだが、執行部は強引に3票で押し切り、「小泉ブーム」の押さえ込みに必死の体である。24日の総裁選では、たとえ1回目の投票で橋龍が過半数を取れなくても、決選投票で亀井が橋本に乗る「1.3位連合」が成立して、橋本総裁誕生という筋書きが描かれている。こんな筋書きはよりいっそうの反発を拡大し、参院選では手痛い敗北が決定的となるばかりであろう。そして橋本総裁が誕生したとしても、任期は9月までの暫定政権でしかない。
 小泉氏が派閥を飛び出し、派閥を超えた支持を呼びかけ、さらに現在の与党3党以外にも協力の可能性を示唆したことは、注目すべき事態であろう。野党はこうした事態を傍観していてはならないし、政界の再編に向けて積極的な関与と行動を起こすべきであろう。
(生駒 敬)