アサート 282号(2001年5月26日)
【投稿】 米中緊張激化と李前総統訪日
<その場しのぎの日本政府>
4月1日アメリカの電子偵察機が中国軍戦闘機と空中接触、海南島に緊急着陸した問題の余熱がさめないなか、台湾の李登輝前総統が来日した。
明確な対台湾方針を持たない日本政府、外務省は当初、ビザ申請はされない、されても取り下げられるものと高をくくっていたが、李氏側の決意の強さに、慌てふためき右往左往する結果となった。
結局ビザ発給は、政策の変更ではなくて、自民党内の力関係の変化によって許可された。
一方李氏の訪日反対論についても、中国政府の主張に配慮するものばかりで、日本の主体的判断はいかにあるべきかについては示されなかった。
 このような状況では、人道上の問題として正面から押してくる李氏側に抗すべくもなかったのである。李氏の病気治療のための訪日が問題だとするなら、フジモリ前ペルー大統領の滞日を認めていることの方がよほど問題だろう。
中国側は対抗措置として、李鵬首相の訪日延期などを打ち出したが、日本の今回の対応は彌縫策であることと、直後に内閣が交代し「親中派」の田中外相が「今後ビザ発給はしない」と表明したこともあり、教科書問題、首相の靖国参拝問題を抱えるものの、日中関係はひとまず落ち着きを取り戻したと観てよい。

<大きく踏み込んだブッシュ政権>
一方米中関係については、偵察機の乗員の引き渡しは交渉は粛々と進んだものの、事件の背景にはブッシュ政権の抜本的とも言える対中政策の見直しが存在するため、当分の間は緊張関係が続くだろう。
前クリントン政権は、中国を「戦略的パートナー」と位置づけ、「人権問題」への言及をおこなう一方で、IMF加盟問題や最恵国待遇で最大限の便宜を図ってきた。しかしブッシュ政権は中国を「戦略的競争相手」と見なすしたうえで、台湾についてはイージス艦の売却は見送られたが、8千トン級駆逐艦などの売却を決定したうえ、陳水扁総統の入国を許可するなど、日本とは比べものにならないほどの肩入れを進めている。
 この様なアメリカ政府の対応をみれば、アジア地域におけるアメリカの戦略的関心が朝鮮半島から、台湾〜南シナ海方面へ移行したことが明らかとなっている。ブッシュ政権は、クリントン政権があやふやな対応をしている間に、中国が東南アジア地域への影響力と軍事能力を拡大していったと、苦々しく思っている。
 ベトナムとの領有権が問題となっているパラセル(西沙)諸島については、中越戦争時には地上戦で苦杯をなめた中国軍も制空権、制海権は容易に確保するだろう。
また、フィリピンとの間にあるプラタス(東沙)諸島については、中国が拠点を構築するなど実効支配を既成事実化している。対するフィリピンは政情が不安定であり、国軍も国防より内政に関心が高く、海、空軍力はあまりに貧弱である。
 ベトナム戦争後の冷戦時代は米、ソの軍事的プレゼンスで相対的な安定を保っていたこの地域には、NATO型の軍事同盟や地域安定システムが存在しないことから、冷戦崩壊でカムラン湾からソ連軍が消え、スービックからアメリカ軍が消えたあとの空白に、中国がカンボジアの時ように間接的ではなく、直接的に入り込んだ形となっているのである。
台湾については、近年強化された独自の戦力に加え、米空母機動部隊という後ろ盾があるため、中国は現在のところ総統選挙ごとの言葉による警告(恫喝)以上の行動はしていない。
しかし、中国内陸部から台湾海峡に展開する空母部隊が攻撃可能な戦域ミサイルが完成すれば、軍事バランスは一気に不安定なものとなるだろう。
さらに、過去の経過からアメリカとベトナム、フィリピンとの軍事協力は、たやすくは進展しないだろう。

<地域安定への日本の役割>
こうしたことから、アーミテージ国務副長官や政府系研究者は東アジア戦略見直しにかかる具体的対応を提言しているが、それらを総合すると、@中国のミサイルの脅威にさらされる沖縄から、空軍や海兵隊などの部隊をグアム島などへ後退させる。Aその空白と同盟国の疑念を解消するためNMD(米本土ミサイル防衛)、TMD(戦域ミサイル防衛)を統合し、アジア地域への配備を進める。B日本に対し集団的自衛権の行使を求め、東アジアの有事には日米で対処する、こととなる。
日本は、李前総統の訪日許可で無意識のうちに、アメリカの描く戦略に一歩踏み込んだと言える。もちろん基本的な戦略が定まっていないので、揺り戻しも考えられる(中国はそこに「期待」しているわけだ)が、アメリカに引きずられていく可能性が大きい。
自衛隊はすでに強襲揚陸艦を配備し、今後予定されている、空中給油機、軽空母などの装備化が実現すれば、東南アジア全域への戦略的展開能力を持つこととなり、アメリカの「イコールパートナー」、「東南アジアの警察官」として登場することも可能となる。
しかし一方でこうした部隊や装備は、東ティモールのような事態やもっと大規模な内乱が発生し、国際的協調の下での軍事介入が求められた場合にも、有効に活用できるのであり、東南アジア地域安定に役立つものである。
実際、世界の趨勢にに基づく現実的な可能性から言えば、台湾、南シナ海でのパワーゲームは続くものの、米中間で大規模で破滅的な紛争が勃発する恐れは低い。それゆえ日本としては、東南アジア地域の安定に資するための政策を第一義的に追求すべきであり、軍事力整備にあたっても、そうした方向性(PKFやPKOへの参加など)を明確にしなければならない。
 ニュージーランド政府は、国軍をPKF、PKO対応部隊へ特化する方針を明らかにしたが、日本も参考とすべきだろう。
 小泉首相は、集団的自衛権の容認について前向きの姿勢を示しているが、アメリカへのリップサービスのつもりでも、有事法制論議と併せて全面戦争や「日本本土決戦」を前提とした、頭に血が上った、冷戦時代のような話を持ち出すのは、あまりに軽率である(おまけに「靖国参拝」とくれば「近々お国のために死んでもらうかもしれません」と言っている、と考える人がでても仕方がない)し、新装備も侵略の準備でしかないということになる。
参議院選挙前の今こそ、なし崩し的な政策転換と決別し、台湾、東南アジアを包括する総合的なアジア戦略を明らかにすることが与野党に求められている。(大阪O)

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