ASSERT 285号(2001年8月25日)

【投稿】    デフレスパイラルの危険性 
【誌上討論】  参議院選挙 その結果をどう考えるか(その1) 

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【投稿】 デフレスパイラルの危険性 

<<ごろ寝休暇を直撃>>
 ごろ寝休暇を宣言した小泉首相を直撃するかのように、東京株式市場の株価は三日連続の下落、8/17、日経平均株価は1万1445円、バブル後最安値を更新した。この一ヶ月の間に四度も最安値を更新している。事態は容易ならざる展開と言えよう。
 一回目は参院選の最中、7/23、1万1609円の最安値を記録。5/7の所信表明演説に期待した株価は1万4529円をピークに下落し続け、1万2000円台を低迷、7/30、参院選の自民党圧勝が逆に株価を下落させ、バブル崩壊後の最安値を再び更新、1万1000円台半ばに落ち込み、8/13にはこれも更新、1万1477円に下落、そして8/17の続落である。
 同じ8/17、ニューヨーク株式市場もほぼ全面安となり、V字型やU字型回復の楽観的な希望的観測は影をひそめ、IMFがドル暴落の可能性を示唆し、バブル景気崩壊の本格化と「回復は来年以降にずれ込む」との悲観的観測が市場を覆っている。
 危機感を抱いた日銀が、8/14、急遽これまで否定していた金融の量的緩和を決定、金融機関の当座預金口座の残高を5兆円から6兆円に拡大し、長期国債の買い切り額を月4千億円から6千億円に増額、要するに日銀が金融機関から債権や手形などを大量に買い取り、過剰なカネ余り状態を作り出し、円安でデフレに歯止めをかけ、株価にテコ入れして景気を下支えしようという魂胆であったが、これもあえなく焼け石に水、株価もたった一日で逆戻り、為替も意に反して円高傾向を強め始め、むしろマイナス材料として受け取られる事態が進行している。
 首相たるもの、こんな事態にごろ寝などしている場合ではなかろうが、「株価に一喜一憂しない」と繰り返した手前、ただ拱手傍観しているだけである。市場の警告も受け止めることができないのは、近隣諸国の憂慮や警告も受け止めることができずに靖国参拝を強行してわが意を得たりと悦に入っている歴史認識ゼロ、稚拙な政治思想と同一線上の経済認識ゼロ、無策無内容なパフォーマンスの当然の帰結ともいえよう。

<<すべて「下方修正」>>
 4月末に小泉政権が発足してから3カ月余り、この間に平均株価は三千円以上も下落し、サラリーマン世帯の収入は2カ月連続マイナス、同じく消費支出は36万9000円から30万4000円に縮小、失業率は4.7%から4.9%へ、鉱工業生産指数は3カ月連続で前年比マイナス(ピーク時から5ヶ月で-8%)、倒産負債総額も4カ月連続で1兆円を超えるという惨たんたる状態が進行している。まさに小泉政権下で庶民の生活を直撃するデフレスパイラルが、「痛み」を耐えろといわんばかりに加速しはじめているといえよう。
 8/10、政府が発表した8月の月例経済報告は、前月の「景気は悪化している」から「さらに悪化している」に下方修正されたが、これも3月は「足踏み」だったものが、6、7月は「悪化」、そして8月の「さらに悪化」となったのであるが、問題はその「さらに悪化」の中身である。生産は「引き続き減少」が→「大幅に減少」、輸出「減少」→「大幅に減少」、設備投資「頭打ち」→「減少」、雇用「一部で底堅さ」→「求人や残業時間も弱含んでいる」、住宅着工「弱含んでいる」→「減少」というようにすべてがマイナスなのである。経済財政諮問会議自身が「景気の悪化が加速され、非常に厳しい」と分析し、「2〜3年はデフレ傾向が続く」と自らの無策・無責任を棚に上げて投げ出している状態である。
 しかもこれが「構造改革なくして成長なし」という、その「改革」の結果の一時的な落ち込みならまだしも、「改革」に全く手もつけられていない、単なるスローガン、パフォーマンスの段階からこの事態である。小泉政権のお題目と化した「改革」は、すでにその程度と軽さが見破られたともいえようし、また「改革」が自らの無策・失政の責任回避の用語と化したともいえよう。

<<「9月危機」>>
 9/7に発表が予定されている4―6月期のGDPが、こうした事態の中で大幅マイナスになるのは確実だといえよう。株式市場は当然、月末から9月にかけて売り一色、1万1000円割れから、さらには1万円割れも避けられないという観測がしきりである。1万円割れとなればまさに恐慌である。
 金融機関の中間決算が集中する9月は、平均株価1万円割れで巨額の含み損を抱えた金融パニックの深刻な事態に突入する「9月危機」が現実化しかねない。すでに、バブル後最安値更新を主導しているのは大手銀行株であり、みずほホールディングス、三菱東京FG、UFJ、三井住友の4大グループ、そして大和銀とあさひ銀の6銘柄すべてが年初来安値を更新している。
 当然、欧米の格付け会社による日本の金融機関の格下げも相次いでいる。8/6、英米系のフィッチは、地銀4行を含む17行の財務格付けを一斉に1段階引き下げ、みずほホールディングスと傘下の一勧、富士、興銀3行、三和、東海など12行はD(収益性や将来性に問題あり)からDとE(重大な問題を抱え外部支援が必要)の中間のD/Eに、中央三井信託、安田信託、足利、北陸の4行はD/Eから最低評価のEに格下げしている。米系のムーディーズも同じ日、東京三菱銀の財務格付けをDプラスからD(時として外部サポートが必要になる可能性がある)に引下げ、日本の金融機関への警告を発している。
 さらに要注意なのが国債価格急落の可能性である。8/2、財務省が8月発行の20年国債の競争入札を行ったが、応札倍率は1.38倍と12年ぶりの低水準に終わり、6月下旬に1.1%台だった10年物国債の利回りは、7/24には1.4%を突破、国債離れが進行し始めていることである。
 9月金融危機が現実化すれば、国債を買う余力どころか、10月以降、もはやカバーしきれなくなっている流通大手やゼネコンを次々と見放し、連鎖的に地方銀行から大手の一部まで金融機関の破綻も相次ぐと予想されよう。さらに、これは同時的に株価再下落→不況拡大というデフレスパイラルを一気に加速させかねないものである。小泉政権がのんきに構えて舵取りを誤れば、以前のどの政権のときにも増して深刻な事態に突入することが確かだといえよう。

<<「キーワード」>>
 ところが、ここまで景気が底なし状態に陥ってきても、今や守旧派も安心して叫ぶ「構造改革なくして成長なし」などの掛け声ばかりで、何ひとつ具体的な対策をとろうとしていないのが小泉政権である。今こそ緊急かつ大規模にセーフティネットをはりめぐらし、倒産や失業の急増に対処できる施策が要請されているにもかかわらず、逆に倒産や失業をさらに増大させ、デフレスパイラルをいっそう加速させる政策にご執心である。
 8/7、小泉政権にとって初めてとなる来年度の概算要求基準の大枠を決定した。その特徴は、(1)国債発行は30兆円以下にする、(2)全体から5兆円削り、そのうち2兆円を構造改革の重点分野に回す、(3)その結果、総額3兆円の歳出削減をする、というものである。小泉首相は、「30兆、5兆、2兆。これが今回の概算要求基準のキーワードだな。国債発行を30兆円以下に抑え、歳出を5兆円カット、重点分野に2兆円増額というのが大枠だ」といかにも得意げである。問題はどこを削って5兆円を捻出するかである。要求基準では公共事業、地方交付税、ODAをそれぞれ1兆円、社会保障関係の自然増(1兆円)を7000億円程度に抑えるなどとしている。セーフティネット予算への配慮は皆無である。出てくるものは社会保障負担のいっそうの増大、地方交付税のカットに象徴される弱者への負担増大政策であり、個人消費をさらに冷え込ませる政策である。
 焦点となっている補正予算についても、塩川財務相は9月7日の4―6月期のGDP速報を受けて、直ちに編成に着手できるように準備を進めていく考えを明らかにしているが、これがまた「改革」とは無縁のゼネコン救済の補正予算がみえみえであり、ただ目先を変えるために「都市再生」を名目に、地方分を都市の道路整備に振り替えたり、財源も前年度の決算余剰金2381億円を全額回し、赤字国債の増発も検討するというのでは、守旧派の手法そのままである。
 8/4付、朝日新聞世論調査(1、2日実施)では、内閣支持率は69%で、5月の84%から15ポイント減の急落である。それでもまだこれほどの支持率があると見るのか、空前の高支持率もようやくその本質が問われ出したと見るのか、注視する必要があると言えよう。
(生駒 敬)