ASSERT 288号(2001年11月24日発行)

【投稿】  行き詰まる小泉政権
【投稿】  リストラ攻撃と「解雇」ルールの法制化
【寄稿】 「小野義彦と私 --敗戦前後--」(その2)
【書評】 『〈大人〉の条件』(門脇厚司・佐高信、岩波書店)
【詩】 呼び換え遊び   by  大木 透

トップページに戻る

【投稿】 行き詰まる小泉政権

<<「決断症候群」>>
 いま、「決断症候群」なるものが蔓延し始め、政治の世界を覆っていると言う(11/10朝日夕刊、杉田敦・法政大教授)。同氏によると、「これに『罹る』と、まず自覚症状としては、気分が非常に軽やかになる。これまでいろいろと悩んできたのは、すべてどうでも良いことであり、物事はきわめて単純で、自分はずっと前から結論を知っていたのだと言う気分がする」。この程度であればそれほど問題がないのかもしれない。ところが、「恐るべきことに、最も顕著な『症例』はこの国の中枢部に出現した。『何をすべきかはわかっている。そんなものは常識だ。あとは実行あるのみ』という勇ましげな声が永田町のほうから響いてくる。自衛隊の派遣、治安対策、さらには有事立法に至るまでがまるで議論の余地がない自明なことのように扱われ、問答無用の形で実施されようとしている」。「テロは断じて許せない! したがって報復戦争への参戦は当然の常識である」とする小泉首相の論理。胸を張って肩をいからしているが、「テロリズムこそは、最もひどい決断症候群の帰結である。しかしそれに対抗しようとして、自分たちが思考を停止してしまってはどうしようもない。考えることは何もないという知的退廃が社会を覆ったとしたら、それこそが本当の危機の始まりである。」これは、小泉首相がこの症候群の重症患者であると言う診断であると同時に、この「決断症候群」の社会への蔓延を食い止めなければならないという貴重な警告とも言えよう。

<<「小泉氏の話法」>>
 もう一つ。池澤夏樹氏が「小泉氏の話法」(インターネットコラム「新世紀へようこそ」−10/14付)で指摘されている危険な誘導論法がある。その論法は、「不得意、不得手なことは官僚のメモをぼそぼそと読み上げる。にわか仕込みでもこれで行くと決断したことに関しては一方的にガンガンまくし立てる。いずれの場合も対話と説得など論外である。テロは悪い。したがって根絶しなければならない。自衛隊を出す以外の方法は最初から視野に入っていない。『それがなぜいけないのですか!』−これは問いのように見えますが問いではありません。小泉話法による断定の典型です。問いかけるように見えて、実際には反論を遮断している。後になってファシズムを糾弾するのは簡単です。しかし、振り返ってみれば、そのときには国民はこぞって支持したのです。わかりやすい敵を指差し、闘いを煽る。みながその気になって棒を持って走り出す。そういう方へ誘導する話法があるのです。この誘導的な話法が徹底的に改良されて、今、ブッシュ氏や小泉氏によって使われています。一歩の距離を置いて、冷めた頭で彼らの言うことを聞きましょう。」これもまた、いま最も必要で不可欠な提言と言えよう。
 自ら省みることのない症状と話法の典型が、首相の靖国神社参拝に対して「参拝は違憲である」との訴訟に対するコメントである。「話にならんね。世の中おかしい人たちがいるもんだ。もう話にならんよ。」(11/1付各紙夕刊)。これがすべてを物語っている。「おかしくて、話にならん」のは首相自身である。内外の情勢の中で自らが置かれた立場が見えない、自らのおかしさや滑稽さがまるで見えない、そんな生易しいものではない。憲法遵守の義務さえ忘れた、基本的人権を真っ向から否定するファシストの論理である。化けの皮がはがれつつあるが、こんな首相であっても、いやむしろそれだからこそ高支持率が続いているとも言えよう。

<<巧妙な罠?>>
 それはある意味では、小泉政権は完全な行き詰まり状態に逢着していることの反映であるとも言えよう。日米ともに、深刻な景気後退と、グローバリズムの覆い難き矛盾が露出し始めていた、ちょうどそのようなときに9/11の前代未聞のテロ攻撃が仕掛けられた。アメリカ権力中枢の一角が密接に絡んだ仕組まれた、巧妙な罠ではないかという陰謀説が真実味を帯びてくる所以でもある。日米両政権とも戦争熱に浮かされ突っ走ってはいるが、背後の両国経済は深刻な事態に直面しており、世界同時経済恐慌への不安とおびえから脱却する展望はそう簡単には見い出し得ない。いわばテロ攻撃は救いの神でもあった。当面はすべてをそれになすりつけることはできよう。しかし、冷戦崩壊後の今日、軍事経済化と戦争特需で景気を領導できるような時代ではない。兵器の在庫一掃と、新兵器開発で潤うのは一部軍需産業とガス・石油油田支配をもくろむエネルギー関連独占だけであろう。テロを挑発し、巧妙な罠を仕掛けることに利益を見い出すこれらのグループがブッシュ大統領を取り巻いていることは周知のことである。
 しかし、報復戦争開始後も、米国経済の落ち込みは止まらず、ついに失業率は1年前の3.9%から5.4%までハネ上がり、7―9月期のGDPは0.4%減と8年半ぶりのマイナス、9月の個人消費も14年半ぶりの前月比1.8%減、9月の米耐久財受注の大幅な落ち込み(予想前月比-1.3%のところ、-8.5%)である。NYダウが8000ドル台に下落する可能性も取り沙汰され、米連邦準備制度理事会(FRB)が金利を実に40年ぶりの低金利(FF金利2.0%)に引き下げさげざるをえない事態である。しかも報復戦争は、逆にいつ襲われるとも予測し得ない報復テロの悪循環の泥沼を人々のうえに重くのしかからせ、消費を減退させ、テロ対策としての安全対策費や保険料の高騰、輸送・物流コストの増大などさまざまなマイナス要因を増大させる。テロを孤立させ、世界規模での貧富の膨大な格差を縮小する平和と協調と交渉の大胆な政策がとられない限り、こうしたマイナス要因は解消しない。

<<「12月危機」説>>
 日本経済の後退は、米国経済以上に著しいとも言えよう。ほとんどの大手企業の中間決算が下方修正となり、リストラ人員削減は過去最大規模とも言える段階に達しており、9月の完全失業率が過去最高の5.3%に上昇し、なかでも24歳以下の男性の失業率が12%を超えるという深刻な事態である。そして年内に失業率=7〜8%説まで出されている。さらに、政府の01年度経済見通しがプラス1.7%成長からマイナス0.9%成長に下方修正され、小泉内閣からは反転成長する展望が全く見い出し得ないという悲観的予測が大半を占め、日経平均が再び1万円割れを迎え、9/21につけた9,383円の安値を下回る可能性もあり、不良債権問題は解決するどころかさらに解決不能な段階に拡大しそうな勢いである。
 抜本的な構造改革による景気回復を掲げながら、やったのはブッシュ政権追随のテロ対策立法と自衛隊派遣くらいで、景気回復・経済政策は完全に手詰まり、「非常事態なのに何もやっていない」(堺屋太一・内閣特別顧問)とコキおろされる始末である。
 これまでなりを潜めていた自民党内の動きもきな臭くなり始めている。野中元幹事長が小泉氏をボロクソにけなした自民党の行革推進本部長会議の議事録が週刊誌にすっぱ抜かれたり、前幹事長の古賀誠・道路調査会長は「抵抗勢力といわれることに何の抵抗もない」と公言し、橋本派や江藤・亀井派を中心とする議員55人が、「未来創造議連」(代表幹事・松岡利勝)なる反小泉の勉強会を設立するなど、「12月危機」説にむけた動きがあわただしい。
 こうした事態にもかかわらず、野党の動きが見えてこない。事態を打開する野党の奮起が望まれる。(生駒 敬)