ASSERT 289号(2001年12月22日)

【投稿】   ABM制限条約脱退と「報復戦争」の継続 
【講演録】  「21世紀のグランドデザインをどう描くか」(その1) 
           公立はこだて未来大学 小野 暸教授
【コラム】   ひとりごと ---労組内のあれこれを暴露---

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【投稿】ABM制限条約脱退と「報復戦争」の継続

<<絶妙のタイミング>>
 21世紀の最初の1年が、平和と協力への明かるい展望ではなく、露骨な報復合戦の拡大と途方もない軍事拡大路線を鮮明にし始めたことは実に憂慮すべき事態の展開と言えよう。12/13、ブッシュ米大統領は、米国が72年に旧ソ連と結んだ大陸間弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約から一方的に脱退することを関係各国に通告した。ブッシュは言う。「いまや最大の脅威は、テロリストや大量破壊兵器を入手しようとするならず者国家である。ABM制限条約はこれらの攻撃から国民を守る能力を開発する妨げになる」と。これほど厚かましく、身勝手な論理はない。テロ行為と宇宙戦争計画とは何の関係もないし、緊急焦眉の課題でもない。しかし、これを無理矢理関係付けることに、テロリストがブッシュを大いに助けることとなった。同じ12/13、9/11のテロ攻撃がビンラディン一派の犯行であり、ビンラディン自身が主犯であることを証明しているとする証言ビデオを公表している。
 ここにはたまたま日が一致しただけではない意図的な情報操作が見え隠れしている。ブッシュ政権の任期末までに本土ミサイル防衛(MD)配備を軌道に乗せるには、2002年の来春にはアラスカ州にミサイル迎撃ミサイル・サイロの建設開始作業に着手する必要があり、6ヶ月前の条約脱退通告期限が間近に迫っていたのである。事前に通告意図を伝えられた米上院バイデン外交委員長は、12/12、大陸間弾道ミサイルによる米国攻撃は差し迫ったものではなく、議会を無視した決定に対しては法的措置をとる可能性もあると言明していた。
 出所も内容もいかがわしく、当初公開を渋っていたにもかかわらず一転して公開に踏み切ったのは、この公開直前にABM制限条約脱退通告を発表していたからであろう。国際的な批判をかいくぐる絶妙のタイミングでビデオを公開したのである。ブッシュ大統領は「このビデオを見れば、この男が有罪であるだけでなく、良心のひとかけらもない人間だということがわかったはずだ」と得意満面で記者団に語っている。このビンラディン証言ビデオによって、ABM条約脱退も米軍自身が「炭素菌生産」に関与していたニュースも吹っ飛んでしまったのである。

<<「スターウォーズの息子」>>
 かくして、フリーハンドを手に入れた米国は、冷戦期のレーガン、ブッシュ・シニア以来の宇宙空間軍事化計画・「スターウォーズの息子」に乗り出し、同じ12/13にはネバダ核実験場で再び未臨界核実験を強行している。20世紀末の冷戦構造の崩壊と終結は、核兵器を「冷戦の遺物」として、いよいよ核軍縮が現実の確固たる課題となるかの期待を抱かせたのであるが、アメリカの一方的覇権の確立とともに、歯車は逆転しだした。平和と軍縮、緊張緩和と国際的協力への期待は、冷戦期のものであって、冷戦終結後はその根拠を失い、夢想と化したかの情勢を生み出している。いまやブッシュ政権はABM制限条約こそが「冷戦の遺物」だと開き直り、次は包括的核実験禁止条約(CTBT)など一連の核軍縮関連国際協定からの一方的離脱の動きに乗り出そうとしている。
 そしてブッシュ大統領は、たとえアフガンで停戦協定が実現したとしても、「対テロ戦争はアフガニスタンを越えて継続される。テロリストをかばい支持する国家には罰が下される」として、このブッシュ政権の原則を侵犯した諸国は「敵性体制」とみなされ、「十分な償いをさせられるだろう」としてさらなる戦争拡大を合理化し、「第2次反テロ戦争」の「うってつけの目標」としてイラクやソマリアへの攻撃を示唆している。
 地球温暖化防止京都議定書からの一方的離脱、世界人種差別撤廃会議からの脱会・退場や、地雷除去、生物科学兵器の禁止など国際的合意をことごとく妨害し、自己の帝国主義的覇権への一方的追随を強要する、これこそが「ならず者」国家の典型と言えよう。国家的テロ行為と不法占領を国是としたかのようなイスラエルは、こうした事態の展開に便乗して、93年の平和的解決に向けたオスロ合意は破棄されたとして、テロ攻撃を批判・非難するパレスチナ自治政府までを「テロ支援組織」として勝手に「認定」し、自治政府施設に白昼公然と軍事攻撃を行い、これを正当な「報復戦争」だと叫ぶ。ブッシュとイスラエルのシャロン、この二人の「ならず者」、そうしてこうした彼らを正当化させ、我が物顔にさせるテロ組織の民衆を犠牲にしたテロ攻撃、彼らは両者不可欠の一体のものとさえ言えよう。不即不離・両者一体となった陰謀説がまことしやかに流される根源でもある。

<<「われわれ二つの海軍」>>
 しかし、逆転する事態の真の根源は、冷戦終結の成果を軍縮と緊張緩和、国際協力に結びつけず、帝国主義的覇権と独占的支配に結び付け、富を独占し、不公平と格差を拡大し、差別と貧困と環境破壊を野放しにし、民主主義のよって立つ基盤を破壊してきた、アメリカを先頭とする先進諸国の側にあることは間違いない。かれら同盟軍がよってたかって最新鋭戦闘機やミサイル、新型大量破壊兵器を使って猛爆撃すれば、事態の成り行きは見えていよう。しかし、冷戦期の矛盾をそのまま体現し国力も疲弊させられてきたタリバン政権を崩壊させ、内戦にも終止符が打たれたとしても、それは表面上のことであって、事態はまったく解決しないどころか、むしろより深刻な憎悪や新たな内戦を生み育て、いつ噴き出すかも見えない報復攻撃応酬の果てしない泥沼に足をとられることとなろう。テロ撲滅戦争を「どこまでも続ける」と公言するブッシュ大統領には事態を解決し、世界に希望をもたらすような未来はないといえよう。
 ブッシュ大統領は12/7、アフガン攻撃に参加した空母エンタープライズに乗り込み、60年前の日本軍国主義の真珠湾攻撃に言及した後、「ファシズムの後継者であるテロリストを打ち負かす戦いは、停戦協定によって終結されるべきではない」と言明、「過去に敵だった日本が現在、最良の友人であることを誇りとする。現在われわれ二つの海軍が並んでテロとの戦いに従事している」として、日本の「海軍」派遣を高く評価し、小泉首相は悦に入っている。「どこまでも続く」戦争への日本の一層の協力、そしてミサイル防衛構想へのさらなる協力拡大が焦眉の課題となってこよう。来年1月には東京でアフガン復興国際会議が開かれる。米軍の連日の猛爆で廃墟と化したアフガンの復興は、容易なことではない。掛け声だけでうわべを取り繕った援助の見せびらかしでは通用しないであろう。「報復戦争」加担の当事者となった日本、その小泉首相がブッシュと並んで援助をちらつかせても、二人の危険な思慮浅き正義感づらしたカウボーイ精神は、世界の平和と協力を願う人々の思いとはかけ離れた、憎悪の対象となろう。(生駒 敬)