ASSERT 290号(2002年1月26日)

【投稿】 「戦争の年」の「不審船・日本」
【投稿】 「雇用春闘」−問われ出したワークシェアリング−
【書評】 『フェミニズムと科学/技術』(小川眞理子著)
【投稿】 自治労再生への道とは
【講演録】 「21世紀のグランドデザインをどう描くか」(その2) 
           公立はこだて未来大学 小野 暸教授

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【投稿】 「戦争の年」の「不審船・日本」

<<羽織袴で「有事立法」>>
 新年早々、危険な足音が闊歩し始めている。杞憂に終わることを望みたいところであるが、流れ出した勢いを止めるに足る力が結集されてはいない。読売新聞1/1、1面TOP記事の大見出しは「安保基本法制定の方針」、「武力攻撃・テロ対処、首相権限強化」、「私権制限も盛る」である。一日前の、年末12月31日に、政府が安全保障基本法を次期通常国会に提出することをあきらかにした、というのである。他紙が報道していない中での読売一流の挑発的な煽り行為であるが、首相が首相だけに無視できない。
 案の定、1月4日の新春記者会見で羽織袴姿で登場した小泉首相は、この読売記事に応えるかのように、「有事法制に対して強い反対の議論もあることは事実でありますが……国民に不安と危害を及ぼさないような体制を、法的な面においても、現実の各省庁の対応においても、しっかりと整備していくことが政府の責任ではないかと思いまして、今年通常国会に真剣にこの問題を議論し、できることから法整備を進めていきたいと思っております」と、有事法制提案への強い意欲を改めて表明したのである。
 しかも、12月の不審船事件をネタにして、「『有事』は、戦争だけではない。テロも不審船や拉致(らち)問題もある。我々日本人としては理解に苦しむような不可解な意図と、そして装備をして、能力を持って日本に危害を与えるかもしれないというようなグループが存在しているということも見逃すことはできない」と言い、これまで検討されてきた有事法制からさらに進めて、「日本が侵略された場合」だけでなく、テロ事件や不審船のような「不可解な」事態に際しても、総理大臣が「緊急事態」を宣言して、国民の権利の制限等をおこなうことを可能にしようというものである。

<<“国家的自己欺瞞”>>
 具体的には、〈1〉首相が安全保障会議を通じて各閣僚を統括し、政府が一体となって危機や非常事態に対応できる体制を作る〈2〉国民の義務、私権の制限と憲法の基本的人権とのかかわりをはっきりさせる〈3〉国民の避難・誘導や私有財産の損失補てん、戦争捕虜の取り扱い――などを盛り込み、また、日米安保条約に基づいて自衛隊と共同行動する在日米軍の行動についても、日米地位協定改定と合わせ、基本法で規定する方向だという。まさに「戦争のできる国家体制」づくりである。
 同じ1/1付の読売社説は、「憲法解釈の変更が必要だ」として、「自衛隊創設後、内閣法制局が組み立ててきた“国家的自己欺瞞”ともいうべき憲法解釈を根本的に変えることである」として、「当面、政府がなすべきことは、『集団的自衛権は保持しているが行使できない』などとする論理の混乱した憲法解釈を、『行使できる』と変更することである」と政府に指図し、さらには「衆参両院の憲法調査会も、『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』とある憲法第九条第2項を改正するよう、早急に結論を出すべきだ」と督促している。同社説は言う。「変化の兆しは見える。テロ特措法をめぐる国会論議では、『自衛隊は戦力』との小泉首相の国会発言が、さしたる騒ぎにもならなかった。同時テロ発生以前なら、この発言だけで法案審議が空中分解しただろう」。憲法第九条を破棄しても「さしたる騒ぎにはならない」、憎むべき戦後平和憲法をぶち壊す千載一遇のチャンスと見ているのであろう。

<<「対テロ戦争対象国」>>
 すでにブッシュ大統領は、「われわれのテロとの戦争はアフガニスタンをはるかに超えている」、「2002年は戦争の年になろう」と広言している。米誌ニューズウィーク1月2/9日号は「本誌が得た情報によれば、米軍の統合参謀本部は、イラク国境の南と北にそれぞれ五万人の兵力を送り込み、首都バグダッドを挟み撃ちにする作戦プランを検討している。…時期が来ればフセインと対決すると、ブッシュは折に触れて語ってきた。そのタイミングは刻々と近づいている」と報じたが、米軍高官は即刻これを否定している。しかしその理由が「イラクでの作戦は、最低15万人の戦闘要員が必要」で、口実がまだ見つからず、海洋発射巡航ミサイルの保有数も対アフガン戦で50発前後に減少し、増産待ちということにすぎない。ニューズウィーク誌は、2002年初夏までが限界だと見ている。
 その一方で同時に、ウォルフォウィッツ国防副長官は、アフガニスタン後の対テロ戦争対象国として、ソマリア、イエメン、インドネシア、フィリピンの四カ国の名を挙げ(1/8付ニューヨークタイムズ)、すでに特殊部隊が投入されていることを示唆し、「国際テロ組織追跡は、アフガニスタンでのアルカイダ根絶を待つ必要はない」としている。国連の承認も国際的合意も何もない、一方的戦争行為、国家的テロルの新たな国際化に踏み出そうとしている。
 日本もこれに一枚加わろうと言うわけであろう。「北朝鮮もテロ支援国家」に仕立て上げ、緊張を一気に高め、機密保護法・有事立法の制定・テロ対策特措法の恒久化・憲法9条の破棄、そして弾道ミサイル防衛体制と米軍指揮下の戦争行為への参加、こうした危険なシナリオがすでに動き始めているのだともいえよう。

<<日本は国際社会の『不審船』>>
 昨年末12/22に起きた東シナ海公海上での銃撃・撃沈事件は、そもそもの発端からして12/18の米軍軍事衛星偵察情報による北朝鮮からの「不審船」の自衛隊への通報から始まっており、その後の無線交信の傍受、海上自衛対P3C哨戒機による船舶の発見と追跡、イージス艦の急派、そして海上保安庁への通報、船体射撃と武力行使、すべてが周到に仕組まれたかのような軍事作戦以外の何物でもないといえよう。
 しかも海上保安庁の巡視船は、炎上・沈没により漂流している当該船舶の乗員の救助も行わずに放置するという、国連海洋法条約の明白な違反行為を行っている。しかし海上保安庁によれば、国民から寄せられた電子メールの98%は不審船の沈没を支持する内容だったという。北朝鮮側の不可解な行動に乗じた、一方的な都合の良い情報だけで操作するお得意の大本営作戦である。
 「今回の事件で最もぞっとしたのは、沈没した不審船の生存者が真冬のいてつく海に取り残されたことだ。海上保安庁の船舶はサーチライトで生存者を発見していたが、救助しなかった。これが巡視船のすることか。あるいは、彼らのほうこそ不審船だったのか。」、ニューズウィーク1/16号「日本は国際社会の『不審船』だ」と題するコラムでデーナ・ルイス氏がこう述べて、「日本はこの数ヶ月、軍事的関与の枠を国境の外ばかりか、平和国家というこれまでのイメージを超えるレベルにまで広げてきた」と指摘し、「軍事的関与の枠を超えてまで世界の安全保障に貢献しようとするなら、戦争責任を気にする平和国家として振る舞うのはやめるべきだ」と直言している。氏によると、日本政府は、戦時中のアメリカ人捕虜に対して行った日本軍の強制労働と残虐行為の責任・補償を求める改正案を廃案に追い込むことをブッシュ政権に働きかけ、その「裏取引」として対テロ戦争への自衛隊派遣を提起したと言う。「これでは、日本はやはりずるがしこい国だと思われても仕方がない」と述べている。「裏取引」の正体見たりである。
 日本がなすべきことは、軍事的緊張を意図的に高めるのではなく、北朝鮮との平和的友好的な関係改善への努力を第一義的に優先させることである。それは可能であるばかりか、国際社会がもっとも日本に期待していることでもあろう。野党側がこの件に関してもっと果たす役割を自覚し、行動すべきであろう。いかにも努力もイニシャチブも足りないのではないだろうか。(生駒 敬)