アサート 293号(2002年4月20日)

【投稿】 中東の危険な事態と「有事立法」  
【投稿】 虚構に基づく有事法制の問題点  
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【投稿】  中東の危険な事態と「有事立法」  by 生駒 敬

<<「平和安全法案」とは?!>>
 4/16に閣議決定されるという有事法制関連法案は、1)包括法案(平和安全法案)、2)自衛隊法改正案、3)安全保障会議設置法改正案、の三法案であると言う(4/7付朝日)。いよいよ問題の有事法制が成立に向かって動き出したのであろう。4/10、自民・公明・保守3与党幹事長、国会対策委員長会談は、今国会で成立させる方針で合意、小泉首相自身が「すべての法案を成立させる努力をしてくれると思う」と語り、景気・経済対策は放棄していながら、期待も要望もされてもいない有事法制だけは強行突破姿勢を露骨に示している。自民党の歴代内閣が陰に陽に何度も持ち出し、その度に頓挫、挫折し、世論の抵抗の前に日の目を見なかったものが、ここに危険な現実性を帯びだしたのである。政治的経済的混迷と掛け声だけの無為無策、政界の腐敗疑惑と支持率半減でぐらつき出した小泉政権の焦燥と焦りが、最も危険な策動に収斂されようとしているとも言えよう。
 この包括法案は、「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」と言い、略称を「平和安全法案」と称している。真っ向から憲法に敵対し、国家総動員体制を構築する戦争法案を、「平和安全法案」とは、いかにも人々をなめきった、陰険な手口である。「戦争法案」を「平和法案」にすりかえて、これでも反対するのかと開き直り、武力行使と戦争行為を合法化し、「戦時動員体制」を一気呵成に準備する。
 地方自治体はもちろんのこと、あらゆる公共機関・施設、放送・電力・医療・流通・輸送機関などを戦時動員体制の管理下に置き、民間企業や一般国民にも強制的な「協力義務」を課し、総理大臣と自衛隊に強大な「非常時大権」を与える、これが今回の「有事立法」の本質である。有事立法を認めている民主党や、自衛戦力の活用を提唱している共産党への配慮から、「武力攻撃事態への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限することがあってはならない」と申し訳程度に条項を付加しているが、ことごとく「自由と権利」を否定するための法律である。これは日本国憲法第九条が「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と高らかに宣言した規定を完全に否定するものであり、憲法九条放棄宣言、つまりは武力行使・戦争犯罪加担を宣言するものである。

<<「週刊誌政局」>>
 おりしも国会は、「週刊誌政局」と言われる事態である。ムネオ疑惑から、辻元清美議員の失脚、続く田中前外相疑惑、加藤紘一元幹事長疑惑と失脚、社民党・土井党首周辺疑惑等々、暴露合戦はとどまるところを知らない。しかしこれらの経緯をよくよく見てみると、有事立法を進める側に実に都合よく展開されている。いずれも疑惑を追及され、政治的に辱められているのは、有事立法推進側には邪魔者と判断される政敵である。ロシア、中国、朝鮮などと実務的交渉を行い、独自の外交チャンネルをもち、展開できる人物、アメリカ一辺倒ではなく、冷戦的思考を拒否する、あるいはそれを鋭く追及する人物、等々が狙われている。次に狙われる人物まで想定できよう。もちろん、狙われる側の問題やふがいなさには落胆を禁じえない。しかし、秘書給与疑惑などは、480人の衆議院議員の内、100人以上が親族を秘書として届け出ており、給与ピンはねなど常態化しており、自民党を先頭に保守系議員の多くは政官業癒着の産物であり、彼らの多くは企業癒着秘書を派遣させている。小泉首相自身が親族企業に利益供与・便宜行為を行っている。
 さらに「機密費は国政の遂行上不可欠なもの」とされ、政治的には重要な意味を持っている「官房機密費」疑惑に至っては、「国家の機密」として弁明できるような支出は何一つないというあきれた実態である。共産党をのぞく全与野党の議員に国会対策としてばら撒かれた飲食代、パーティ券代、背広代、ゴルフ用品代、同窓会費まで機密費とは、何をかいわんやである。こうしたことは徹底的に暴かれるべきであるが、追及されているのは現政権の政敵ばかりである。周知のことではあるが、共産党までが「給与の一部を強制的に党に寄付させられていた」として元秘書から告発されている。
 かくして4/11の党首討論などは、まったく事態の本質に迫ることのない精彩のなさをさらけだしただけであった。民主党の鳩山代表などは「総理、初心に戻りなさい」などといったピンボケで小泉首相を助け、共産党の志位委員長は「国益」を売り渡すムネオ疑惑で二元外交を詳細に取り上げ、現外務省や冷戦派を大いに喜ばせ、社民党の土井党首は有事法制の危険性を述べたが、秘書問題の陳謝で時間切れとなり、小泉首相への追及とはならなかった。一人、小泉首相だけがニンマリといった構図である。

<<「悪の三人組」>>
 しかし事態は危険な様相を呈し始めていると言えよう。中東情勢が悪化の一途をたどっているなか、ラムズフェルド米国防長官が「自爆テロの背後にはイラクのフセインがいる」と表明、フセインが自爆テロの実行者の遺族に報償金を出しているとして、今回の危機を無理矢理「悪の枢軸国」イラクに結びつけ、イラク侵攻への実力行使をほのめかし始めたことである。さらにチェイニー米副大統領が急遽、英国と中東11ヶ国を歴訪したのであるが、これもイラク侵攻への根回しとみなされている。
 イスラエル軍によるパレスチナ暫定統治機構本部の占拠、パレスチナ主要都市への戦車部隊の侵攻と殺戮、こうしたイスラエル・シャロン政権の強攻策の背景には、明らかにブッシュ政権のイラクへの戦線拡大政策への期待が読み取れよう。シャロンは石油利権と軍需利権に支えられたブッシュの好戦的性格を熟知しており、たとえ全アラブを敵に回しても、「対テロ戦争」で米軍がイラクに侵攻しさえすれば、西岸地区を含めた全占領地域の実力支配を確保できると踏んでいるのである。すでに米誌各誌は、五月に再び湾岸戦争かと論じ始めている。
 だがそのような危険な事態への進展は、欧州、アラブの一層の反発を招き、アメリカとイスラエルを孤立化させかねない。進むに進めず、退くに退けない、しかし軍事行動拡大への態勢が着々と準備されている。そして次の標的である「悪の枢軸」国家・北朝鮮への挑発と敵対が入念に準備されている。その前線基地となる日本に、戦時動員体制が不可欠であるとして「特別報告」をまとめたのがアーミテージ米国務副長官である。年末以来、今年に入って「有事立法」を声高に叫び出した小泉首相の魂胆もこの線上のものであろう。ブッシュ・シャロン・小泉=「悪の三人組」の登場は世界の嫌われ者にしかなりえない。しかし日本の政局は実に鈍感にしか対応し得ていない。反撃の世論形成が急務と言えよう。
(生駒 敬)

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