ASSERT 296号(2002年7月27日発行)

【投稿】 ドル暴落とグローバルスタンダードの破綻
【現地報告】 「東大阪市長選挙結果に一番驚いているのは誰か?」
【投稿】 住民基本台帳ネットワークの問題点
【書評】 『バングラデシュ/生存と関係のフィールドワーク』

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【投稿】ドル暴落とグローバルスタンダードの破綻

<<「株式テロ」>>
 ニューヨーク株式市場は、5/17の高値10353ドルを天井にほぼ一本調子で暴落を続け、6/26、ついに8カ月ぶりに一時9000ドルを割り込み、同じく7/19には一時8000ドルをも割り込み、昨年9/21の同時多発テロ後の最安値をも下回り、暴落相場を前にして、市場関係者にとっては「底値が見えない」展開となってきた。数時間で400ドルも暴落する事態は「株式テロ」とまで形容され、「底値は7500ドル」とされているが、これも怪しくなってきている。
 危機感を抱いたブッシュ大統領は、7/15、「われわれの経済の基盤は強固だ。景気は回復してきている」と演説し、暴落の背景にある一連の企業会計不正問題について「米企業は国民のために責任があることを認識する必要がある」と強調したのであったが、市場には何のインパクトも与えず続落。すでにその前の7/9には直接ウォール街に乗り込み、ウォール街で不正を犯した経営者らへの罰則強化を打ち出したが、大統領自身の「企業に甘い」姿勢が見透かされ、やはり続落している。
 事実、大統領がウォール街で示した対策のなかで、企業の経営者が自社金融で、自社株を購入するのを禁じるべきだと大統領は語ったのであるが、ブッシュ自身がハーケン・エナジー社の役員としてこれをやっていたことが発覚、しかも同社が2300万ドルの損失を発表する直前に85万ドル相当の自社株を売却、インサイダー取引の疑いで証券取引委員会(SEC)の取調べを受けていたが、なぜか告発が見送られている。しかも同社は、エンロンと同様の簿外取引で子会社・アロハ石油の株式を社内関係者に売却し、800万ドルの売却益を計上したが、それに必要な資金を当の売却相手に融資していたのである。7/3、アリ・フライシャー大統領報道官は、これは「会計手続き」の問題で、エンロンの不正行為とはまったく異なると述べたが、誰も信用するものはいない。

<<「粉飾大国」>>
 エンロン疑惑に深く関与しているブッシュ自身はもちろんのこと、ブッシュ政権の閣僚が軒並み一連の疑惑の当事者であることが、事態を一層悪化させている。副大統領のチェイニーは、エネルギー大手、ハリバートンの経営者(CEO)のときに、まだ契約が成立していない長期プロジェクトの売り上げを収入として計上していた不正経理が明らかにされ、今年5月SECが予備調査に着手したにもかかわらず、説明責任を果たさず、沈黙を守ったままである。財務長官のオニールもアルコア株の売却をめぐって疑惑が持たれている。ホワイト陸軍長官も、マネーゲームと詐欺商法で破綻したエンロンの元重役として数百万ドルを手にしている。不正企業を“腐ったリンゴたち”とののしったリンゼー経済担当補佐官は手持ち株を8000ドル台で売り逃げする事態である。
 さらにここにきて次々に発覚する大手企業の粉飾決算と不正取り引きは、市場への信頼を根底から揺るがせている。
 米二位の通信大手ワールドコムは、経費分の金額を無形固定資産に計上して、38億ドル余りの粉飾決算をしていたことが明らかになり、ついに破綻。バイオ大手イムクローン・システムズは、同社が開発した抗癌剤の認可見送りが発表される前日に自社株売却を試み、前CEO(最高経営責任者)がインサイダー取引疑惑で逮捕。複合企業タイコ・インターナショナルの前CEO、デニス・コズロウスキは、1300万ドル相当の絵画にかかる100万ドルの税金を脱税した容疑でこれまた逮捕。ケーブルテレビ会社のアデルフィア・コミュニケーションズは、創業者一族への簿外融資が数十億ドルにのぼることが判明、リガスCEOが辞任。ゼロックスは、97年からの5年間で売上高を64億ドル水増ししていたと発表。米証券大手メリルリンチは、社内のアナリストがくずと呼んでいた株を買い推奨していた疑いで、1億ドルの罰金支払い。 ……
 こうした続々と明らかになってきている不正経理の疑いは、通信大手グローバル・クロッシング、エネルギー大手のダイナジー、小売り大手のKマート、複合大手のゼネラル・エレクトリック(GE)などの有名巨大企業、多業種に広がり、今や「粉飾大国」と化した米国資本主義そのものが不信の対象となりつつあるといえよう。

<<「われわれは慢心していた」>>
 さらにこうした不正を監視し、摘発すべき米証券取引委員会(SEC)がほとんど役に立たなかったことが問題視されており、93年から昨年まで同委員会の委員長であったアーサー・レビットは、「今の問題は、市場の番人たちがほとんど番人としての役割を果たせなかったことだ。われわれは常に同じ勢力の抵抗にあってきた」、「投資家保護のための提案のほとんどは、規制緩和好きの議会の抵抗にあった。監査問題ではとくに抵抗が強かった。会計事務所は四つか五つのロビー会社を雇って妨害しようとした。それがうまくいかないとみると、監査とコンサルティングの兼業禁止案をつぶすためにSECの予算を削らせようとした」、「アメリカの基準、アメリカの規制、そしてアメリカ流の資本主義。それを売り込むことに熱心なあまり、われわれはひどく慢心していた」と告白している(ニューズウィーク日本版7/17号)。
 エンロンと会計事務所アンダーセンの悪巧みに見られるように、今や監査法人や会計事務所の独立性など誰も信じてはいないし、証券会社のアナリストの銀行投資部門からの独立性など、メルリンチ社内の電子メールで「大嘘」と暴露され、各証券会社が独自の検証委員会を設けたがその信頼性など相手にもされない事態となっている。
 現在のSEC委員長ハービー・ビットも、長年、会計事務所の弁護士を務めてきたことから信頼し難いとして辞任を求められており、民主党は、SECからも独立した規制機関を新設する法案を準備する事態である。
 「市場メカニズム」という「見えざる手」にまかせておけば、いかなる規制も必要ではないし、経済は活性化するし、個人の利益追求が全体の利益にもかなうという、最大限利潤追求者の得手勝手な論理、強欲推進者の論理が、単に他者の犠牲と社会全体、世界の諸国の犠牲の上に成り立っていたことが今一度明らかにされ、化けの皮がはがされたのだともいえよう。
 そして、グローバルスタンダードを標榜する米企業の会計処理が公開性と透明性に反して、実にいいかげんで、ウソと不正で塗り固められたバブルにしかすぎなかったという厳然たる事実こそが、株式市場の暴落とドル安、米国からの資金逃避、そして長期的なドル資産離れの元凶であるといえよう。

<<ギブアップ>>
 問題は、今回の世界同時株安が、単なる調整局面にとどまらず、どこまで下落するか底値が不明な事態に立ち至っていることにあるといえよう。日本の平均株価も1万円割れ寸前であり、ドル安はすでに1ドル=115円に突入している。
 小泉内閣の発足以来、政府の景気判断は「悪化」続きであったが、3月に「下げ止まりの兆し」となり、4月に「底入れに向けた動き」が出て、5月に「底入れ宣言」、そして7月は「持ち直し」と宣言、6月の日銀短観を受けて、「景気底入れが裏付けられた。2002年下期には企業収益が回復することが今回の数値に出ている」と、希望的な予測だけの何の根拠もない見通しの明るさを述べ立てた。ところがその間にも事態は劇的に変化しているにもかかわらず、竹中経財相は「米国経済の大崩れはない」、「円高の影響は過大評価」と、経済実態をまるで意図的に見ようともしないあきれた経済学者である。
 「底打ち宣言」は2カ月ともたなかったばかりか、円高は唯一好調な輸出企業に深刻なダメージを与え、業績のV字形回復は望むべくもなく、株安は金融機関の含み損、不良債権をさらに膨らませ、秋口には再び金融恐慌の事態さえ招きかねない。にもかかわらず、小泉内閣は、何の対策も打ち出せず、首相を先頭に「われ関せず」、どの閣僚も事態の打開策なし、コメントさえなし、という無能ぶりを発揮している。政権維持に汲々とし、今や求心力さえ失い、「一内閣一閣僚」もギブアップ、内閣の閣僚入れ替えに腐心するばかりである。こうした政権は一刻も早く打倒されなければならないにもかかわらず、民主党は長野知事選や二ヶ月先の党首選で混迷し、野党側にもその覇気がない。こんなギブアップは願い下げである。小泉内閣打倒に向けて野党は奮起すべきであろう。
(生駒 敬)