ASSERT 298号(2002年9月21日)

【投稿】 米・新保守主義--対イラク先制攻撃論がもたらすもの by 生駒 敬
【投稿】 「劇場型民主主義」の行方〜「観客」と「舞台」の一体化を〜 by 江川 明
【投稿】 まかり通る隠蔽工作・・原子力行政の破綻 by 佐野 秀夫
【投稿】 「予防保全型」安全管理の崩壊 by 福井R
【投稿】 勘違いしている人も多いので
【コラム】 ひとりごと---日朝首脳会談に思うこと--

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【投稿】 米・新保守主義--対イラク先制攻撃論がもたらすもの by 生駒 敬

<<「アルマゲドンの可能性」>>
 米国のイラク軍事攻撃がいよいよ現実的可能性を帯び出してきた。しかしそれは同時に、全世界にさまざまな矛盾と対立、問題を投げかけており、スコウクロフト元米大統領補佐官に言わせれば、イラク攻撃は「中東地域全体を煮えたぎった大釜に変え、世界規模の対テロ作戦をぶち壊しかねない」ものであり(8/4CBS「フェイス・ザ・ネーション」での発言)、さらにこのイラク攻撃は、「イスラエルを巻き込んだ核兵器によるアルマゲドン(世界最終戦争)」となる可能性を警告している(8/15ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿「サダムを攻撃するな」)。
 ブッシュ米大統領は、9/12の国連演説で「単独でもイラク攻撃を辞さず」との強硬姿勢を示し、続いて国連に対し数週間以内をめどとしたイラクに対する期限付の大量破壊兵器査察受け入れ決議を要求、「国連が気骨のあるところを示す好機だ」と突き放し、決議採択に手間取れば米国は単独で行動することを明らかにし、「はっきりさせておく。問題に対処する必要に迫られれば、米国はやる」と断言(8/14、キャンプデービッドでの発言)。同日、チェイニー米副大統領も「国連がやらなければ米国がやるということだ」と念を押し、核兵器の使用さえ公言しかねない焦燥感に駆られた露骨で危険な姿勢が明らかになってきた。このチェイニー副大統領はすでに8月末に「フセインはうまく偽装し、武器を隠してしまうから、査察チームを派遣しても無駄だ。今すぐイラクを攻撃した方がいい」と述べている。

<<イラク攻撃「細部計画」>>
 すでにイラク攻撃の「細部計画」が暴露されている。7/5以来、1ヶ月近くに渡ってニューヨークタイムズ紙が報道した「戦争計画」によると、「米国はイラクの南・北・西方など3方面から、25万人の陸・海・空軍が同時に攻め込む作戦計画を打ち立て」、さらに「海兵隊と歩兵をクエートに進撃させると同時に、数百機の戦闘機がトルコ、カタールなど8カ国の基地から発進し、イラクの空港・鉄道・光ケーブル通信網を掃討」し、その際の前進基地は、ヨルダンを利用、首都バクダットを先に掃討するというものである。
 ラムズフェルド国防長官が、こうした「秘密情報の流出は、テロリストらの行動を阻止すべき国家の能力を阻害し、米国人らの生命を危うくしている」と、省幹部に「警告メモ」を発した国防長官のそのメモまで報じられ、「政府が意図的にリーク」している可能性も指摘されている。
 9/14のイランとサウジアラビア首脳会談で両首脳はイラク攻撃反対で一致し、サウジ国王代行のアブドラ皇太子は「イラクに対する攻撃はイラク国民とともに、周辺国に取り返しのつかない損害を与える」との姿勢を明らかにしている。こうしたサウジアラビアのイラク攻撃反対姿勢で駐留米軍基地が使用不可能な事態に対応して、すでにカタールの首都ドーハ南部のウデイド空軍基地では、施設の拡張・新設工事が急ピッチで進んでおり、カタール政府はイラク攻撃との関係は否定しているが、外相は、「米国の要請をはねつけるだけの力はわれわれにはない」と、対イラク戦での米軍への基地提供を容認する発言をしている。一方ヨルダンの外相は「演習は自軍の戦力強化が目的」と述べ、イラク攻撃で米軍への協力の意思がないことを明言している。
 9/4ロイター報道によると、この1カ月で3回にわたって米軍軍事海上輸送船団(MSC)が、米南東部海岸から「戦車などをペルシャ湾にある港湾まで兵器を輸送するため」、一般貨物船をチャーターしたことを米国防省は認めたという。着々と一方的軍事攻撃体制が進められているのである。

<<ネオコン四人組>>
 しかし、こうした事態にもかかわらず、ブッシュ政権は孤立を深めている。国連決議を無視した一方的な対イラク攻撃には、イギリス以外のほぼすべての国が反対し、すでにドイツのシュレーダー首相は、「私が首相を勤める限り、ドイツがイラクに対する軍事介入に加担することはない」と、イラクへの軍事行動への反対をあらためて表明し、こうした姿勢は欧州各国の支持を得ているとの認識を示し、さらに「アメリカで話が進んでいるイラク攻撃は対テロ軍事行動と全く異なる」ものだとして、そうした事態が進行した場合、クエート駐留のドイツ連邦軍を撤収することも明確にしている(8/4ベルリンでの記者会見)。9/5のニューヨークタイムズ紙は、このシュレーダー首相の「イラク攻撃反対論」を1ページ全面を使って大きく取り上げ、「仮に国連決議があっても反対」と断言し、「苦言を呈することこそ親友の義務」と言い切るシュレーダー氏の明確なメッセージを伝えている。同じ親友でも露払いか旗持ち役に終始している小泉首相との歴然たる違いが浮き彫りにされている。
 当然、米国内でも反対論が沸騰し出している。ブッシュ政権の登場とともに台頭してきた「新保守主義派」(ネオ・コンサバティブ、略称「ネオコン」)、その中心であるチェイニー副大統領=ラムズフェルド国防長官=ウォルホヴィッツ国防副長官=パール国防政策委員会委員長という「四人組」が孤立し始めたのである。彼らは、従来型保守勢力の妥協や協調、均衡戦略を排し、単独行動をあえて実行し、力による秩序、強力な同盟関係、アメリカの利益にかなうグローバルスタンダードの拡大を追求し、「アメリカの秩序」を実現する「アメリカ一強主義」(ユニラテラリズム)に基づいた「新帝国」の実現を夢みているのである。京都議定書や包括的核実験禁止条約(CTBT)からの離脱、大陸間弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの一方的脱退、等がその現れであり、核攻撃を含めた先制攻撃論の合理化がそのもっとも危険な様相を呈していると言えよう。

<<「仮に議会が反対しても」>>
 こうしたネオコン勢力に対して、身内であるはずのスコウクロフト元国家安全保障問題担当大統領補佐官ら共和党の重鎮が、同盟国の同意も取りつけずにイラクを先制攻撃すれば、世界的な支持が失われるおそれがあるばかりか、アメリカ史上初めての「侵略」を犯すことになりかねないと表明し出したのである。前述のスコウクロフト発言がそうである。こうした流れに、ベーカー元国務長官、キッシンジャー元国務長官も加わり、ブッシュ・パパ政権の国務長官であったイーグルバーガーもABCニュースで「すべての同盟国が反対する中で、なぜ今イラク攻撃を行われなければならないのか」と疑問を投げかける事態となっている。そしてブッシュ・パパ元大統領までもそれに加わったと見られている。マンデラ前南アフリカ大統領は、イラク攻撃に強い反対の姿勢を伝えるために、「ブッシュ大統領を説得するために何度も電話をしたがコンタクトが取れなかった」、そこでブッシュ・パパと会話し、「息子・ブッシュ」を説得するよう頼んだことを明らかにしている。
 さすがのブッシュも動揺しだし、9/4には、上下両院の議会指導者と会って「議会の意見を聞く」という約束をし、「友人や同盟国だけでなく、議会の助言も求めるつもりだ」、自分は「忍耐強い男」だと強調し、戦争だけが選択肢ではないとほのめかしさえし、「あらゆる選択肢を考え、外交交渉や情報の面で何ができるかを検討する」と述べた。しかしその舌の根も乾かないうちに、「仮に議会が反対してもそれには拘束されない」と言い出す始末である。
 米ABCテレビが9/3に公表した8/28の世論調査によると、「イラクへの軍事行動を支持する」という意見が、前回8/11は、69%であったのが56%に急落、「同盟諸国が反対でも軍事行動に賛成」は前回54%から39%に急落している。ブッシュ大統領に対する全般的な支持率も61%に低下している。昨年のテロ攻撃直後の90%を越えるような支持はもはや再現し得ない事態となっている。株式バブル崩壊後の行き詰まりをもこの際、軍需経済と戦争政策によって盛り返そうと言う周知の政策には、熱狂的な支持などとても得られない事態といえよう。

<<「過度な期待」>>
 先ごろ行われた日米合同の世論調査(8月31〜9月1日・朝日新聞、8月22〜25日・米ハリス社)によると、ブッシュ政権が検討しているイラクへの軍事行動に、賛成が日本=14%に対し、米国=57%、反対が日本=77%に対し、米国=37%であった。イラクへの軍事行動に日本は「協力したほうがいい」が20%に対し、「協力しないほうがいい」が69%に達している。日本の世論の圧倒的多数は、イラク攻撃に反対し、米軍への協力にも反対しているのである。
 こうした最中に突如、小泉首相のピョンヤン訪問、日朝首脳会談が発表された。記者会見では「1年ぐらい前から水面下でいろいろな交渉をしてきた」と述べているが、実際には7月のブルネイでの日朝外相会談、その後の局長級協議からだと見られている。そこには秋以降のイラク攻撃を見据えたブッシュ政権の意向が働いていると言う見方である。先走り、勇み足に過ぎた「悪の枢軸」発言で、「ならず者国家」を同時に叩くことはいかにアメリカといえども不可能である。当面するイラク攻撃戦略に集中せざるを得ない事態の中で、北朝鮮と関係の深い中国、ロシアを同時に敵に回す愚策はとれない。当面は事態を安定化させる積極的な必要性があった。そこにブッシュ盟友を自負する小泉首相のパフォーマンス外交、側面支援外交が浮上したのだともいえよう。事実、福田官房長官は『米国には事前に報告した』と述べ、了承も得ていることを明らかにしている。
 小泉首相は「日本人拉致問題の解決なくして日朝正常化交渉なし」といった高圧的な態度をとりながら、9月17日だけの日帰り会談では懸案を解決することなどそもそも不可能であろう。懸案解決の前提には、強制的な植民地支配に対する不法性を認めた上での謝罪及び賠償、戦中の国家及び個人への被害に対する賠償が、最重要議題として提起され、解決の方向性が示されることが必要なのである。
 小泉首相は記者会見で「過度の期待はしないでほしい」と述べたが、「過度な期待」が全世界から寄せられているのである。首脳会談の積極的意義を認めつつも、それがブッシュ政権の単なる露払い役なのかどうかを全世界が注視していると言えよう。(生駒 敬)