ASSERT 299号(2002年10月26日

【投稿】 核開発疑惑と日朝交渉 by 生駒 敬
【投稿】 迷走する日朝関係 by 大阪O
【投稿】 東電の原発点検記録改ざん(その2)
          --気密試験のデータ操作疑惑について--   by 福井R
【追悼】 拉致と刷還、善隣と友好--辛基秀さんを偲んで--
【詩】 もういちど飲みたかった--辛基秀さんよ--  by 大木 透
【書評】 『父さんのからだを返して--父親を骨格標本にされたエスキモーの少年』

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【投稿】 核開発疑惑と日朝交渉>>

<<「忌まわしい出来事」>>
 9/17の日朝首脳会談で、朝鮮民主主義人民共和国の金正日労働党総書記は、日本人拉致は「1970年代から80年代に特殊機関の一部が行った」と述べて北朝鮮国家権力の関与を認めることとなった。「特殊機関の一部で妄動、英雄主義があった」こと、その結果の拉致であったことを一転して認め、「忌まわしい出来事でおわびしたい。今後、二度とこのような事案が発生しないようにする」と謝罪したのである。この8月まで「日本人拉致問題など存在しない」と言い続けてきたことからすれば、大きな転換と言えよう。さらに不審船問題についても「軍部の一部が行ったものと思われ、今後さらに調査をして、このような問題が一切生じないよう適切な措置をとる」と発言し、核開発疑惑についても「関連するすべての国際合意を遵守する」ことを明確にし、ミサイル問題についても「今後、期限なく発射を凍結する」と言明したのである。これまでにない事態の転換である。
 しかしその転換が、政治的経済的に窮地に立たされている金正日政権の対外交渉カードの一つの方便に過ぎないとすれば、疑惑を一層深めさせ、誠意ある交渉と信頼感を喪失させる事態をも招きかねない。金正日政権にとっても、この転換を成し遂げられるかどうかという、重大な岐路に立ったと言えよう。
 一方、日本側にとってこの際忘れてならないことは、北朝鮮側は今回、「拉致」の事実を認め謝罪したのであるが、日本側は北朝鮮側に対していまだ国家の行為としての強制連行や拉致、従軍慰安婦問題などを認めてはいないという現実である。もちろんこれらは今後の日朝交渉にゆだねられることになるのであるが、いわば「敵失」に乗じた高慢な交渉は厳しく排除されなければならない。

<<絶好のタイミング>>
 そしてこの交渉と拉致被害者の帰国訪問中という絶好のタイミングを計算していたかのように、米国務省当局は「ケリー米国務次官補の訪朝時に北朝鮮当局は核開発疑惑を認めた」という情報をリークしたのである。パキスタンからのウラン濃縮施設購入の証拠を掴んだと言うのであるが、アメリカの同盟国パキスタンはその施設をどこから導入したのであろうか。虚虚実実のだましあいなのであろうか。いずれにしてもすでに掌握していた事実の暴露は、明らかに日朝首脳会談・国交正常化交渉への牽制と言えよう。「反テロ先制攻撃論」者や軍需産業の利益を代表するブッシュ政権中枢にとっては、北朝鮮との「一触即発状態」を維持しておくことがかれらの利害にかなうのである。
 アメリカは以前から朝鮮半島を戦域ミサイル防衛システム(TMD)の最前線と位置付け、韓国と日本をその戦略配置に巻き込むことが、アメリカの軍需産業にとって最大の関心事であった。膨大な予算を必要とするTMDは、そもそも敵側(北朝鮮)のミサイルを発射後の航行途中で打ち落とすものではなく、まだ発射台にあるミサイルを地上で破壊する先制攻撃システムなのである。彼らにとってはこんなものが無用の長物と化してしまうような平和的な事態の進展は許し難いことなのである。
 10/17、米CNNのメインキャスターが元国連大使に「核開発疑惑について疑惑だけでもイラクを攻撃する話があるのであれば、あると認めた北朝鮮に対しては自動的に軍事行動ということにはならないのか?」などと物騒な質問をし、その放送が流される事態である。

<<支持率の急回復>>
 しかしこの核疑惑については、小泉首相自身が「金総書記は核査察を全面的に受け入れると言った」と明言している。ところがこの会談に同席していた安倍官房副長官が「話は出なかった」と暴露している。アメリカは明らかにこの隙をついたのであろう。アメリカは北朝鮮に対する日・米・韓の緊密な同盟と一致した姿勢を確保しようと懸命ではあるが、すでに韓国側はアメリカの「反テロ先制攻撃論」には組みしないことを明確にしており、小泉政権にとっても日朝国交正常化交渉をぶち壊すことは、この間の外交パフォーマンスによって支持率を急回復させてきた政権基盤を崩壊させかねない。
 小泉首相自身は、当初は今回の日朝交渉について、アメリカ側と入念に打合せもし、その容認される範囲内で直接交渉に踏み切ったのであろう。しかし交渉の結果は意外な事態の進展をもたらした。「アメリカの思惑」を超える事態をもたらしたのである。米紙ウォールストリート・ジャーナルは「小泉は訪朝によって支持率を回復したいのであろうが、訪朝は悪の枢軸を利するだけだ」という批判記事を出している。しかし、アメリカのイラク攻撃に対する発言においても小泉首相は「イラク攻撃には国際的道義性が必要」といった、「先制攻撃論」とは一線を画した微妙な発言をしてもいる。与党内では日朝交渉不要論が噴出し出している。
 こうした事態を反映するかのように、マスコミ各社の緊急世論調査は小泉内閣の支持率が大幅に上昇していることを報じており、朝日51%→61%、毎日43%→67%、読売45.7%→66.1%と、軒並み10〜20%増、テレビ局調査では70%以上の支持率である。世論は、不審船問題や拉致問題の存在とその解決をも含めて、平和的な交渉と善隣・友好関係の樹立を求めているのである。小泉内閣は自らの政権の延命を図るのであれば、もはや、逆方向での後戻りはできない段階に自らを立たせたと言えよう。
(生駒 敬)