ASSERT No.300 (2002年11月23日発行)

【投稿】 日本発「デフレの嵐」の危険性 by 生駒 敬
【投稿】 自壊の道歩む北朝鮮 by 大阪O
【投稿】 障害者福祉サービスはどうなるか
                --支援費制度の問題点--
【書評】 三浦明博  『滅びのモノクローム』

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【投稿】 日本発「デフレの嵐」の危険性

<<「日本病」への感染>>
 世界経済に暗雲が立ち込めている。米・日・独、いずれの経済大国も景気低迷が深刻化し始め、これまでとは違ったデフレ型の世界同時不況・恐慌状態にすでに突入しているのではないかという指摘が現実性を帯び出してきている。しかもそれは短期間で克服され得るようなものではなく、短くても3〜5年、10年はかかるとさえ論じられている。最も注目されているデフレ恐慌の震源地は日本である。それは、デフレ型不況からの脱出策が一切講じられることなく放置され、事態の深刻さに気付き始めて打たれ出した対処策が、デフレ型の暴力的な経済破壊・デフレスパイラルをいっそう加速させ、その悪影響を世界に波及させかねない無謀なものだからである。
 米誌ニューズウィークは「景気回復の遅れをずっと責められてきた日本が、世界同時不況の責任を問われても驚きはない。それより重要なのは、日本経済が破綻したらアメリカとドイツにどんな影響があるのか、両国が日本と同じ道をたどる可能性はあるのかという問題だ」と論じ、「ドイツでは、すでに『日本病』に感染したのではという懸念が広がっている。不景気にもかかわらず政治家と『裕福な国民』には危機感がないなど、日本とドイツには類似点が多い。失業率が2けたに達し、経済成長率もヨーロッパで最低水準のドイツは、ますます日本に酷似してきた」。そして「すでにアメリカでは、自動車やパソコンといった一部の高級消費財で価格下落の兆候がみられ」、「株価の低迷とともに、米国債の価値は上がっている。日本の状況が悪化すれば、日本の金融機関が資産を処分しようとして、米国債を売却する可能性は高くなる。米国債市場から日本が撤退すれば、全世界規模のデフレに陥る危険はますます高まる」と、分析する。(11/6号「世界を襲うニッポン発デフレの嵐」)
 そのきっかけは、当然金融不安であろう。ここ数週間の間に東京株式市場の株価は、19年前の水準に急落し、建設、流通に加え、銀行株価も今や「100円ショップ」とまで言われる事態に落ち込んでいる。

<<「これほどの不幸はない」>>
 11/14の東京株式市場の動きは象徴的である。この日午前の取引終了間際、英タイムズ紙が奥田碩・日本経団連会長が「来月にも四大銀行のうち、少なくとも一行は国有化を余儀なくされる可能性がある」と語ったと報道、世界最大規模を誇ったはずのメガバンク・UFJホールディングス株はたちまち狼狽売りに翻弄され、制限値のストップ安まで売り込まれ、奥田氏がこのような発言の事実はなく、抗議し訂正を申し入れているとのコメントが伝えられ、やや持ち直したのもつかの間、大引け間際になると再度銀行株への売りが急増、UFJに加えてみずほホールディングス株もストップ安になるまで売り込まれる事態となった。
 ここには当然のことだが、前段がある。10/16付米誌ニューズウィークに竹中平蔵金融担当大臣が、「四つのメガバンクは大きすぎてつぶせないのでは?」という同誌の質問に対し、「『大きすぎてつぶせない』とは思わない」と答えていた。ところがこの記事について竹中大臣は、10/24の衆議院予算委員会で、「インタビューは英語で行われ、日本語で報じられるときに意訳された」と主張し、「そのような発言はいっさいしていない」と述べ、発言が市場で波紋を呼び、株価の急落を招いた原因は同誌の「翻訳ミス」にあると示唆した。これに対し、ニューズウィーク誌11/6号は、「率直過ぎて訳せない発言はない」といかにも皮肉たっぷりなタイトルの反論を掲載し、「一切していない」と竹中氏が主張する問題発言の原文まで掲載して、「自らの発言に責任を持たない政治家と同じ感覚の持ち主になってしまったとしたら、これほどの不幸はない」と、断じている。
 発言をころころと変え、責任を持たないのは竹中氏の特徴とも言えよう。小渕、森、小泉の3代の首相に仕えたこの4年間、放漫財政も緊縮財政も時の政権に都合良くあわせ、小渕内閣・経済戦略会議メンバーとして「バブルの清算は2年で終える」と答申したのも忘れ、アメリカの流行にあわせてITバブルを煽り、「IT革命が日本を救う」と主張していたことも今やわれ関せず。今度は「ハイリスク・ハイリターンの時代が到来した」と主張、「弱い企業は早く市場から退出させたほうがいい」と論じ、「マーケットに聞け」が氏の常套句となり、経済のマネーゲーム化と賭博化に身を任せる、無責任この上ない存在とも言えよう。マグドナルドから未公開株を譲られたり、住民税をまぬかれるために毎年1/1現在の住民票を小刻みに米国に移していることを指摘されてもまともに答えられない人物が金融相兼経済財政相という要職に居座っているのである。

<<「ハゲタカの代理人」>>
 この竹中氏、政府の「総合デフレ対策」をまとめる10/29の政府・与党協議の席上、山崎拓・自民党幹事長が「あんたのところには米国のファンドから日本の銀行を買いたいという話が来ているそうじゃないか」との追及に、「い、いえ、幹事長、そんな話はありません」と懸命に否定したと報道されているが、すでにUFJの米銀・シティバンクへの売り渡し画策があたかも既定の事実として週刊誌などで流されている。金融不安の火に油を注いでいるのは竹中氏自身なのである。
 こうした竹中氏の無責任な放言に、とりわけ与党幹部から一斉に竹中批判が噴出し始め、あの中曽根元首相が「学者大臣への丸投げはまずい」と言い出し、亀井前政調会長は「(竹中氏は米国の)ハゲタカ(ファンド)の代理人だ」とこきおろし、野中元幹事長までが「国民に選ばれた政党、政治家がないがしろにされている」と怒りを表明、保守党の野田党首は「無定見で学者の良心に欠ける」と毒づく始末である。
 竹中氏に経済政策を丸投げしてきた小泉首相は、「完全実施する」と繰り返してきたペイオフもいとも簡単にあきらめ、さらに「新規国債発行30兆円枠」も今や風前の灯、経済政策をことごとく転換させても、その説明さえまともにできない、そこで竹中金融相の“政策強化”という造語に飛びつき、「これは政策強化だ」と鸚鵡返しの答弁しかできない。自民党の青木幹事長が参院本会議の代表質問で「首相に欠けているのは経済問題に対するリーダーシップだ」などと痛烈に首相を批判せざるをえない事態である。
 問題は、政府の「総合デフレ対策」が実におざなりな、切り貼りにしか過ぎないことにある。「不良債権処理の加速策」「産業再生」「セーフティーネット」を3本柱としているが、産業再生策として、過剰債務企業を再生させる「産業再生機構」の新設が目玉となっている。銀行が抱える不良債権のうち、再生可能とみられる企業は今後設立される「産業再生機構」で再建が図られるとしているが、その財政的裏づけは預金保険機構の15兆円を当てにしているだけである。さらにセーフティーネットは、旧来の中小企業政策の化粧直しだけ、最も重要な雇用対策にいたっては、就業支援の奨励金、雇用保険の見直しを盛り込んだだけである。

<<デフレ「加速策」>>
 むしろ小泉内閣にとっての最大の関心は「不良債権処理の加速策」にあるといえよう。「05年3月までに不良債権処理を終える」と対米公約したことで、何が何でも資産査定を厳格化し、大手銀行に公的資金を注入して一時期でも表面上の不良債権を減らすことが自己目的と化してしまっている。問題は、デフレ化が進行している不況状況下では、このような加速策は景気回復につながらないばかりか、むしろデフレに拍車をかけ、さらなる経済恐慌状態をもたらすことが鮮明になりつつある。
 すでに金融機関が96〜01年度の6年間に処理した不良債権の累計は約57兆円に達している。これによってバブル崩壊により生じた不良債権の約8割が処理されたと推計されている。ところが同じ期間に新たに発生した不良債権総額は約68兆円ともいわれる。この間のデフレ進行による新たな不良債権が、処理した以上に上積みされたと言えよう。とりわけ、不良債権処理の原資となってきた株式含み益は、その限界と言われてきた平均株価12000円を大きく割り込み、限界値=11979円を5/23につけて以降、5ヶ月連続下がり続け、11/14の平均株価は8303円という事態である。まさに小泉政権がもたらした株価下落で、不良債権処理の原資は枯渇し、逆に不良債権を増大させてしまったのである。
 この間の教訓は、いくら公的資金を投入しても、デフレの進行・景気悪化と不良債権の新規発生を食い止めないかぎりは、表面上の一時的な改善にしかならず、またもや再注入という事態が予測されることである。
 それではなぜこのような愚策に固執するのであろうか。竹中プロジェクトチームの再生案には、不良資産の「旧勘定」と正常資産の「新勘定」に分離して、「旧勘定」は整理回収機構に一括売却し、正常資産を引き継ぐ「新勘定」の部分は、経営陣を一新して存続させるとしているが、ここがくせものであり、外資・ハゲタカファンドへの身売りの根拠ともなっているところである。五兆円もの公的資金を投入して、10億円で外資に売り飛ばされた旧長銀・現新生銀行の例にもあるように、より甘い餌がハゲタカに提供されようとしているとも言えよう。

<<「勝ち過ぎじゃないの?」>>
 11/5付朝日の世論調査によると、小泉内閣の総合デフレ対策を75%が「期待できない」とし、63%が「(首相は経済政策で)指導力を発揮していない」と厳しい判断を下している。ところが、小泉内閣支持率の方は前回より上昇し、65%の支持率である。どの世論調査でも7割近くが小泉内閣の経済政策をまったく評価しておらず、今回の総合デフレ対策についても「期待できない」と答えている。ところが、日朝交渉と北朝鮮の拉致事件によって、不況への不安と怒りが北朝鮮の悪役に収斂し、小泉首相の「毅然たる態度」がナショナリズムとない交ぜになって、支持率の上昇をもたらしている。
 10/27に行われた衆参の統一補欠選挙でも、「全敗もあり得る」とされた予想どころか、5勝1敗1分けで、小泉首相は「勝ち過ぎじゃないの?予想以上にいいね」と浮かれている。しかし深刻なのは、全選挙区で過去最低となった低投票率である。参院千葉にいたってはたったの24%である。投票率が2割や3割という事態は、完全な政治不信の表明とも言えよう。
 このような異常な状況をもたらした責任は、野党側にも大きくあると言えよう。とりわけ民主党のふがいなさは目を覆いたくなる事態であり、社民党に至っては、存立の危機に瀕し、共産党のセクト主義は自民党を大いに喜ばせている。野党側は、小泉政権のデフレ強化策について何ら対案を示し得ず、事態の成り行きを傍観し、責任を放棄していると言っても過言ではない。この際、反デフレ政策と平和・善隣友好外交を明確に打ち出した野党共通の対案を示さない限り、展望は開けないと言えよう。(生駒 敬)