ASSERT 303号(2003年2月15日)

【投稿】 希薄な「証拠」と切迫するイラク攻撃
【意見交換】労働運動の過去・現在・未来を考える懇話会(その2)
【本の紹介】 『国際金融同盟 ナチスとアメリカ企業の陰謀』

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【投稿】希薄な「証拠」と切迫するイラク攻撃

<<意気込むパウエル>>
 2/5、イラクの大量破壊兵器問題に関し米国のパウエル国務長官は、国連安全保障理事会の外相級会合の議場に二つの大型スクリーンを準備し、まずは「イラクは安保理決議1441が与えた最後の機会を失った」と断言。米情報当局が傍受したとされる、イラクの共和国防衛隊の幹部が昨年11月の査察再開直前に、「改造車」を発見されることを懸念する会話が生々しく議場に流された。
 続いて最近、化学兵器用の空弾頭が見つかったタジの化学兵器貯蔵施設の衛星写真を示し、使用可能な化学兵器用の貯蔵施設を査察直前の昨年12月に汚染除去したと指摘。さらに昨年11月、査察の2日前に弾道ミサイル施設から関連部品を積んだ車列が出ていく衛星写真をスライドに映し出し、「バグダッド郊外のヤシ林などにロケット発射装置を隠した」などと指摘。
 さらに大型トラックを使った可動式の生物兵器施設のイラストを示し、「こうしたトラックが18台以上あり、炭疽菌などを製造できる」ものだと説明。
 問題のテロ組織・アルカイダとの関係については、ヨルダン出身のパレスチナ人でオサマ・ビンラディン氏やアルカイダメンバーの関係者とされるザルカウィ氏について「バグダッドで活動していることをつかんでいる」と述べ、同氏のネットワークがイラクを拠点にしており、それが欧州各国やロシアなどにも及んでいると強調。
 こうしたイラク側の姿勢をパウエル氏は「フセイン政権は大量破壊兵器の武装解除に何ら行動を起こしておらず、自らを深刻な結末に追い込んでいる」、「フセイン政権に武装解除の意図は全くない」と批判。度重なる査察への非協力や隠蔽工作が、武力行使の根拠になる「重大な決議違反」にあたるのは明らかだと強調した。微妙なバランス感覚を見せて、ブッシュ大統領の性急さを牽制してきたかに見られてきたパウエル氏であったが、「親分(大統領)が腹を固め、パウエルは忠犬に戻った」(1/23米CNN)と評されるのも当然な意気込みであった。さあ、アメリカが外交努力を続けるのも、あと数週間が限度、国連決議があろうがなかろうが、単独でも先制攻撃を行うとの意思表明でもあった。

<<「重大な証拠」の希薄さ>>
 しかしこれらの証拠は実に希薄なものである。来日中で、1991〜98年に国連大量破壊兵器廃棄特別委員会のイラク査察を担当したスコット・リッター氏が6日、東京大学駒場キャンパスの講堂で会見し、パウエル米国務長官の報告について、「確たる事実がなく、空想的な言葉を並べ立てただけで証拠ではない」と痛烈に批判し反論している。
 リッター氏は、パウエル氏が提示した衛星写真は「査察官を送って調べればわかること」であり、通信傍受記録は「誰がいつどこで何について語っているものなのかの情報がなければ、評価できない。何も意味しない」と述べ、亡命者の証言については「亡命者の素性がわからなければ、証拠にならない」ものである。
 また、イラクが所有しているとする化学兵器製造用のトラック18台については「写真もなく、ただ絵だけ。過去にアメリカ政府から同様の疑いを提示され、実際に2台のトラックを調査したが、食品用のトラックだった」と説明。
 さらに射程距離1200kmのミサイルについては「長距離ミサイルは製造、組み立て、試射を経ないと実用化できないが、これまでの査察でその過程は見つかっていない。あれは完全な嘘だ」と指摘。
 イラクとアルカイダの関係についても「CIAとFBIは、パウエル報告について非常に遺憾で、この報告を裏付ける情報をもっていないと声明を出している。パウエルの報告は、米高官が世界に向かって嘘をついたということになる」とまで非難している。リッター氏の主張は正鵠を得ていると言えよう。同氏は、「アメリカ政府は戦争を決定している。アメリカ国内の世論が決定的に変わらない限り、2月中には開戦になるのではないか」と予測している。
 問題は、この程度の証拠であれ、それほど重大なものであれば、なぜ、事実をつかんだと言う昨年11月以来、2カ月以上もの間、国連の武器査察団に対して隠し続けてきたのかということであろう。査察団に情報が提供されていれば、査察団はただちにそれらを実地に検証し得たはずなのである。しかし現実は、ボヤけて不明瞭な建物の航空写真と、どのようにでも解釈できる録音テープ、それに名前も特定できないイラク脱走者による日付すらない報告書、そしてイラク内でのアルカイーダについての「組織図」にしか過ぎなかったのである。

<<潤う「軍用機・ミサイル部門」>>
 すでに、イラクに対する国連査察団(UNMOVIC)を率いるブリクス委員長は、査察団は、移動生物兵器研究所について「何の証拠」も目にしておらず、イラクとアルカイーダのリンクについて「何の説得力のある兆候」もなく、イラク内外の大量破壊兵器(WMD)物資隠蔽と輸送をイラクが行ったという証拠もないと述べている。
 それでも、たしかにイラク側が、国連査察団の行動に制限を加えたり、事実を隠したり、証拠を隠滅させたりする可能性は否定し得ないし、あり得ることであろう。かりにパウエル氏の上げた証拠が全て事実であったとしても、そのことによって「イラクの差し迫った脅威」なるものが存在し、これを撃破するために、核攻撃をも含む先制攻撃が今現在緊急に必要とされているなどとは、とても言えるものではない。イラクは、湾岸戦争以来の厳しい制裁の現実として、北部と南部の飛行禁止空域を設定され、頻繁かつ日常茶飯事に米英軍機からの空爆攻撃を繰り返され、他の諸国を脅かすことなどできる現実ではないし、それを突破する力もないと言えよう。
 むしろこれまでのフセイン政権が行ってきた、イランに対する戦争、80年代後半のクルド人大虐殺、そして、91年の「イラク民衆蜂起」に対する残酷な弾圧などはすべて、アメリカからの公然かつ隠然たる支援を受けて犯されたものであり、そもそもクウェート侵略自体も、一部アメリカからのサジェスチョンと挑発に乗せられ、米国が介入しないであろうと手前勝手に行動した結果でもあった。これによって、米軍需産業と石油資本は多いに潤ったのである。彼らにとっては、火種を残し、今またその機会がめぐってきたのだから、これを逃す手はないといったところであろう。
 それは、1/30に発表された米航空・防衛大手ボーイングの10〜12月期決算は、最終利益が前年同期(1億ドル)の約6倍の5億9千万ドルに達し、コンディット最高経営責任者(CEO)は「今後数年は防衛部門の売上高が5割以上に達するだろう。2002年は航空機から人工衛星まで、わが社の民間部門は業績が落ち込んだが、防衛部門は大きく伸びた」と説明、「軍用機・ミサイル部門は前年同期比で10%増の約38億ドルに伸びた」という事実に象徴的である。

<<「先制攻撃は自衛権の範囲」>>
 小泉首相はこの段階に来て、明らかに重要な一歩を踏み出した。2/6の衆院予算委員会で、パウエル米国務長官の示した「証拠」について、「イラクの大量破壊兵器に関する疑惑は深まった。日本も国際社会の一員として、(米国の)同盟国として責任ある対応をしていかなければならない」と述べ、米国がイラクへの武力行使に踏み切った場合、支持表明する考えを明瞭にし始めたのである。首相官邸で記者団に突っ込まれると、「(イラクへの武力行使に関する新決議があった方が)望ましいことは望ましい。(新決議がない場合)議論を見ながら、国際協調体制をとることが望ましい」と述べ、さらに突っ込まれると、「同盟関係だから」などと軽率な発言で自主性を放棄し、福田官房長官などは、米軍への支持は「明白」と言い出す始末である。
 すでに川口外相が、1/24の国会質疑で「大量破壊兵器阻止への日本の責任」とか「ミサイル攻撃を阻止するための先制攻撃は自衛権の範囲」などと、先制攻撃論を明らかに擁護し、しかもそれを「自衛権の範囲」だなどという危険極まりない論法を持ち出してきたのである。ここまで来れば戦前の軍部独裁思想と紙一重である。
 政府はさらに1/30、米国が独自に開発し、2004年からアラスカ州に実戦配備するミサイル防衛システムの一部を導入する方向で検討に入ったことを明らかにしている。北朝鮮の弾道ミサイル「ノドン」などの迎撃を目的としており、現在、見直し作業を進めている「防衛計画の大綱」に盛り込む考えだという。具体的には、イージス艦に搭載するSMD、陸上から迎撃するPAC3など米国のミサイル迎撃システムの一部で、実戦配備するには、レーダー機能を強化し、イージス艦を改修する必要もあるという。
 これに呼応するかのように、自民党の防衛政策に関する委員会は、武器輸出3原則を緩和する方向で見直し、防衛産業の維持に努めることや憲法9条を改正して自衛隊を正式に「軍隊」と位置づけることなどを検討すべきだとする提言をまとめている。(NHK2/5報道)

<<「イラクは私たちに何をしたのでしょう」>>
 こうした動きに対抗して、今アメリカでは新しい反戦運動の波が急速に広がろうとしている。1/18の反戦デモは従来にない幅と規模で全米で展開されたが、2/15、16にはさらにこれを上回ると予測されている。日本でもヨーロッパでもその輪が大きく広がろうとしている。
 今アメリカで話題のCMは、女優のスーザン・サランドンが「アメリカの若者たちが遺体袋に入れられて帰ってくる前に、イラクで女性や子供たちが命を落とす前に、知っておきたいことがあります」と、ブラウン管から語りかける。「イラクは私たちに何をしたのでしょう」と。画面はエド・ペック元駐イラク米大使に切り替わり、「『何もしていない』が、その答えだ。イラクは9.11テロとも、アルカイダとも関係がない。イラク侵攻はテロリズムを抑制するどころか、助長するだけだ」と語る。そして、燃え盛る戦火をバックにメッセージが浮かぶ。「なぜ戦争を急ぐのか。まず査察の成功を」、というものである。この反戦CMは、リベラル系市民団体「トゥルー・マジョリティー・ドット・コム」の出資によるものだという。
 新しいタイプの戦争に対して、新しいタイプの反戦運動が呼応し、広がりを見せようとしているともいえよう。これが戦争を押しとどめる力になるまでにはさらに広範な世論の結集が要請されている。
(生駒 敬)