ASSERT 304号(2003年3月22日発行)

【投稿】 対イラク攻撃--秒読みの破局的事態がもたらすもの--
【投稿】 小泉構造改革の経済学批判
     ―竹中平蔵「あしたの経済学」を読んでー 井本 実
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【投稿】 対イラク攻撃--秒読みの破局的事態がもたらすもの--

<<「100万分の1程度の確率」>>
 本紙が発行される頃にはすでに、米軍が対イラク攻撃に突入しているかもしれない。3/14、パウエル米国務長官は「国連決議なしでの攻撃もある」ことを明確にし、3/17をイラクの大量破壊兵器武装解除の最終期限と設定し、25万にも及ぶ膨大な軍事力の集結と危険極まりない一進一退の恫喝と脅迫の瀬戸際外交によって、戦争回避の可能性は「100万分の1程度の確率」(仏シラク大統領)と絶望的である。しかし昨年12月以来、ブッシュ政権は何度も単独先制攻撃をふりかざしながら、今日までそれを実行することも、撤回することもできずにあせりとあがきの袋小路に迷い込んできたことも事実である。ベトナム反戦運動以来の、それをも上回る世界中の人々の反戦の声が、開戦に踏み切ることを抑えこんできたのである。戦争突入をストップさせる可能性は存在している。
 当初は、テレビ評論家があまねく予言していた「そのうちにブッシュにスリ寄る」はずのドイツもフランスも米英の武力行使容認決議案を拒否し、「査察継続」をあくまでも主張し、仏ロは「拒否権行使もあり得る」ことを明確にし、ブッシュ政権は開戦直前になっても、日本の間抜けた支持以外には、西側の足場さえ固められず、石油利権や援助をエサにしたロシアや中国の寝返り策も功を奏せず、中間派諸国の取り込みにも失敗し、彼らにとっては誤算、誤算の連続であった。
 すでにアナン国連事務総長は「安保理決議なしの武力行使は国連憲章違反だ」と米国の武力行使を批判している。この段階にいたってもなおブッシュを支持するのは、先進諸国といわれる中では日本ぐらいであろう。もはや事態は、イラクの武装解除問題どころか、国連の存在意義にもかかわる、多国間の協調と協力、平和と安全をめぐる国際秩序の破壊問題にまで直面している。世界から孤立した戦争への突入は、良きものは何ももたらさず、悪しきことばかりを山積させ、世界の政治・経済に壊滅的な打撃を与える可能性さえ提起している。

<<ブッシュ・パパの忠告>>
 米国内では、戦争煽動議員がフランス語排斥運動を展開し、フレンチフライやフレンチトーストをフリーダムフライやフリーダムトーストにメニューを変更させたり、フランス語起源のレストランをイーティングルームにするのかといった皮肉まで飛び出す雰囲気が醸成されている。しかしますます高まる一方の反戦の訴えの前に、ブッシュ政権は明らかに孤立し始めていると言えよう。9・11テロの前に沈黙を余儀なくされていた人々までが反ブッシュの立場を鮮明に打ち出し始めたのである。
 ケネディ米上院議員(民主)は、3月4日、「ブッシュ大統領は、共に戦争を戦う同盟国がごく少数でも仮にゼロでもイラクとの戦争にただひたすらに突っ走ろうとしており、それによって国際社会の善意の多くを逃してしまっている。」「戦争は最後の手段でなくてはならない。査察団が現場にいて前進がある限りは、我々は平和にチャンスを与えなければならない。」「核の脅威を何らもたらしていない国との戦争へと突っ走りながら、今まさに核を保有していると誇示している国とは対話をしようともしないというのは重大な誤りだ」と、明確な批判を公然と展開している。
 さらに、カーター元米大統領は、3/9付のニューヨーク・タイムズ紙へ論説を寄せ、対イラク戦争の準備を進めるブッシュ政権は、国際法の尊重と同盟関係に基づく2世紀以上の超党派外交路線に根本的変化をもたらすものだと批判し、「我が国が今宣言している、政権を交替させ、地域にパックス・アメリカーナを樹立するという目標」に国際的な認可は与えられてないと明言し、「9・11攻撃以来、アメリカに寄せられてきた心からの同情と友情の多くが、むなしく失われてしまっている」と重大な警告を発している。
 さらに致命的なのは、3/10に、大統領の父親、ブッシュ・パパ元大統領までが、東部ボストン郊外のタフツ大学で講演し、「国際社会の協調なしにイラクを侵攻すれば、パレスチナ和平が完全に破壊されてしまう」「嫌悪感を乗り越え、フランスやドイツと仲良くすべきだ」などと語り、「アメリカの単独侵攻に反対する人々の意見には道理がある」として、アメリカ単独でのイラク侵攻に反対を表明したことである。

<<「48時間で決着」>>
 それでも米国では、対イラク攻撃に政治的経済的利益を当て込む新保守派(ネオコンサバティブ)を中心に「イラク攻撃は短期で決着がつく」「長くても数週間で終了」、ラムズフェルド国防長官などは「48時間で決着をつける」と豪語し、「短期でフセイン政権を打倒すれば、原油は一時急騰してもすぐに20ドル程度に下落し、株価も急回復する」などとと予測し、盛んに楽観論が流されている。
 ところが市場の動きは、彼らの希望的観測や楽観論とは正反対の動きを非常に明瞭に示している。NYダウは、今年に入って1000ドルも下げ、1930年代以来最悪の下落を記録しているが、この三月上旬の動きだけを見ても、3日、イラクが弾道ミサイルの廃棄を始めたとの報道などから、緊張緩和観測に買いが先行する場面が展開されたが、5日にパウエル米国務長官の発言で「戦争は不可避」との懸念が強まると、6日には安値で7659ドルまで下落。さらに、国連でイラク情勢を巡る意見の対立が強まり、ブレア英首相が米単独のイラク攻撃を示唆した3/12には、大幅安値で7416ドルまで下落。しかし、翌日、米英提出の安保理修正新決議案の採決先送りで、米国の国際的孤立観測が和らぎ、フライシャー米報道官が「(国連での討議が)来週まで続くかもしれない」とし、「大統領は更に外交努力を進める意向」と発表するや、4%前後の暴騰・上昇に転じている。明らかに市場は、米国の孤立が対米投資の減少をさらに促進させ、単独攻撃は戦費負担を一層拡大させ、米国の貿易赤字、経常赤字、財政赤字をさらに悪化させるものと判断しているのである。
 12年前の湾岸戦争との決定的違いは、戦費約610億ドルの内、アメリカは70億ドル、1割強の負担でしかなかった。サウジアラビア168億ドル、クウェート160億ドル、日本110億ドル、ドイツ50億ドル等で、潤沢な資金のお釣りまで頂戴できたのであった。しかし今回の単独先制攻撃には、すすんで戦費を負担するところは皆無である。最大供出国であったサウジは次の標的とさえみなされる今回の戦争にはそもそも組みし得ず、供出を見送る可能性が大であり、他の湾岸諸国でも基地提供の見返りに援助と利権が要求され、トルコやエジプトなどは最初から見返りをのみ要求している。ドイツは拠出しないことを言明しており、当てにできるのはイギリス、スペイン、日本などごく少数、額も低額にしかなりえない。しかも今回は、1兆9000億ドルとも見込まれる占領コストが重くのしかかってくる。

<<ユーロへの切り替え>>
 すでにブッシュ政権の登場以来の二年間で、前任者のクリントン政権が赤字を脱却し、その後の4年間で築いた財政黒字を、すべて食い潰してしまっており、今年の財政赤字は過去最大の4020億ドルになると予測され、今や、アメリカ連邦政府の国債発行残高は6兆4000億ドル、アメリカのGDPと同額に達し、すでに米議会が決めた国債発行上限に達してしまっており、これ以上の国債を発行できない、ドル暴落への信頼喪失寸前の状態である。経済論理から言えば、信頼性回復には戦争回避以外に道は残されてはいないのである。アイヒェル・ドイツ蔵相はこうした事態に、「今、我々にできる有効な景気対策は戦争を阻止することだ」と断言している。こうした視点がブッシュに追随するだけの小泉政権に最も欠けているものである。
 しかし、ここまで事態を不安定化させたブッシュ政権の戦争挑発政策によって、石油価格は不安な上下動を繰り返し、すでに原油先物相場は湾岸戦争以来、12年ぶりという高値をつけており、今や1バレル当たり数ドルの「戦争プレミアム」まで上乗せされている状態である。現在1バレル=35ドル前後の原油価格が80ドルに達する可能性さえ論じられている。こうした中で、たとえ上々の首尾で短期間のうちにイラクを占領し、米政府がイラクの石油産業を占有したところで、一部の軍需資本と石油資本が儲かるだけで、のしかかる戦争と占領のコストにはとても見合うものではない。
 しかもアメリカがもたらしたこうした事態の進行の中で、石油取引の決済通貨が、今やドルからユーロに移る兆候が明瞭になりだしている。当然のことでもあろうが、イラクはすでに2000年から石油決済通貨をユーロに切り替えており、「悪の枢軸」指名を受けたイランもこれに追随する構えを見せている。中東の産油国のなかにも、資産保存のために不
安定なドルからユーロに切り換えようとする動きも出だしている。すでに産油国のベネズエラでチャベス政権が登場し、石油決済をユーロ建てに切り換えようとしたがために、アメリカからクーデターを画策されたといわれている。
 現実にイラク危機の進行と共に、ドル安・ユーロ高現象が際立ってきており、自立・連帯したヨーロッパ経済圏の確立と「ドル本位制」崩壊へのユーロ戦略の正しさをも立証しているとも言えよう。

<<「舞い上がっている」>>
 ブッシュに追随する日本でも、日経平均株価がついに8000円を割り、3/11の終値はついにバブル後最安値の7975円を下回る7862円という悲惨な事態である。これは実に20年前の水準で、小泉政権の政治的経済的無策を象徴する危機的状況の端的な現われといえよう。これは戦争を阻止することに一切の努力を傾けず、むしろ危険極まりない政治的経済的破局を招きかねない戦争政策に加担してきたツケでもある。奥田碩日本経団連会長までが、米英主導のイラク攻撃を支持する発言をするほど、この国の政財界の指導者は無能無策なのであろう。
 小泉政権はもはやこうした事態の中で、世界のどこからも相手にされなくなっている。米英の対イラク武力行使を容認する新決議を求めた国連大使の原口演説に、ブッシュ政権の高官は「大統領は小泉首相に抱きついてキスしたい気分だろう」と語ったという(2/23付朝日)が、拍手のひとつすら起きない。すでに国連の安保理審議では、世界のどこの国も日本抜きで動き、見向きもされない事態である。ところがこの演説について、小泉首相は「武力行使を求めたわけではない。曲解、誤解しないで下さい」と言い訳したかと思うと、その舌の根も乾かないうちに、国連で「平和的解決」を訴えたフランスの外相を「舞い上がっている」とこき下ろし、「フセインよりブッシュの方が悪いみたいだ」とブッシュの弁護を買って出る始末である。何かしなければという結論が、首相、外相、副大臣が先頭に立ってODA援助を圧力にして非常任理事国に電話をかけまくり、「米国の武力行使容認決議」賛成を強要する、ミニ・ブッシュ外交である。これではどこからも相手にされないのは当然と言えよう。イギリスのブレア政権では、閣僚の抗議辞任まで続出しているのに、日本ではまるで音無し、公明党に至ってはこれまでの平和政策もどこへやら、小泉首相と一緒にフランス批判まで展開するお粗末ぶりである。
 民主党はここで踏ん張らなくてどこで踏ん張れるのであろうか。野党の奮起とそれを上回る平和の声の結集が望まれる。
(生駒 敬)