アサート 304号(2003年3月22日)

【投稿】 増幅される「北朝鮮脅威論」 by 大阪O

 イラク情勢に関しては、おそらく本号が読者の手に届く頃には、アメリカ、イギリスを中心とする国々による攻撃が開始され、全世界の耳目が集中していることだろう。
 しかし、その一方で北朝鮮に対しては、世界的関心があるとは言えず、日、米、韓、中、露の周辺関係国でも温度差があるのは明白である。
アメリカは、北朝鮮の核兵器開発疑惑や挑発行動に対して、警告を発するとともに、予備兵力の一部をアジア地域に展開し、韓国との合同軍事演習を行うなどしている。しかし、現時点では対イラクの様な明確な武力行使方針があるわけではない。当面は突き放しておけ、という方針だ。
対北融和政策を掲げ誕生した韓国の廬新政権は、国内の反米世論を背景にアメリカに北朝鮮との協議の推進や、軍事行動の自制を求めるなど、一方的な思い入れの傾向はあるものの、きわめて冷静に対処している。
中国やロシアは、北朝鮮の核武装や軍事的冒険主義を牽制しつつ、自らの外交戦略におけるカードとして使おうとしている。
とりわけ中国としては、北朝鮮は対アメリカの緩衝地帯として重要であり、その核兵器開発も日本の核兵器保有の呼び水になりかねない、との観点から反対しているのである。 さらに大量脱北者を防ぐために「北朝鮮は生かさぬよう殺さぬよう」という政策を、採っているのである。このように周辺国がきわめてクールに北朝鮮政策を進めているのに対して、一人混乱し、熱くなっているのが日本政府である。
この間、新聞、テレビでは北朝鮮の内情紹介ともに、シュミレーションと称する「危機煽り」が繰り広げられている。北朝鮮という異常な統治体制をとる国家に対する警戒感を持つのは当然だとしても、根拠のない憶測や拡大解釈をもとに、政策を進めるのはきわめて危険である。いくつか問題点を指摘したい。
第一に、現在盛んに言われているのが核兵器問題である。北朝鮮が核兵器開発を進めていること自体は間違いないが、すでにそれを保有しているという事実はない。 アメリカ政府も「そういう情報がある」というレベルの憶測を、述べているに過ぎない。もし本当に北朝鮮が核武装していた場合、もしくは差し迫った状況であるなら、対応はもっとエスカレートし、
第二に、明日にでもノドンやテポドンが飛んでくるという想定も、納得できる理由がなく荒唐無稽な憶測である。実験を行うの可能性は高いものの、軍事的に対韓国、対アメリカシフトをとる北朝鮮が、アメリカの自動参戦を招く、日本へのミサイル攻撃を行うメリットはない。日本にミサイルが着弾する事態として考えられるのは、38度線で本格的交戦が始まった場合、すなわち「第2次」朝鮮戦争以外にはない。
 また、自衛隊はなにも対応できないと言われているが、朝鮮戦争が始まった時点ですでに周辺事態法が発動されている状況だから、何もできない訳がないのである。それを「ある日突然」というあり得ない前提で論議をするから「最初は災害出動で」などとという話になるのである。
自衛隊が能力的に北朝鮮に反撃できないというのも、眉唾ものである。自衛隊は以前は「自衛隊機の航続距離が短いから無理」と言っていた。
これはそもそも、石川県の小松基地からの往復を絶対条件とするため、不可能なのであって、「第2次」朝鮮戦争が勃発し日本も攻撃を受けた場合、九州地方の民間空港や韓国内の米軍基地の使用も考えられるのである。これは性能の問題ではなく、運用、政府間の調整の問題である。
自衛隊も「技術的には可能ですが、運用上に無理です」と言えば良いのを、装備を獲得したいがために方便を使ったのである。
しかしそれを理由に空中給油機導入を獲得すると、今度は「精密誘導爆弾がないから無理」と言う。アメリカ以外に精密誘導爆弾を保有している国はない。それではそれ以外の国は対地攻撃ができないのか。
「第1次」湾岸戦争の場合、イギリス軍は超低空飛行でイラク軍基地攻撃を行った。確かにアメリカ軍に比べ犠牲は大きかったが、「精密誘導爆弾がないから無理」などとは言わなかった。
自衛隊は「怖いから無理です」と言っているのと同じだ。「精密誘導兵器がほしい」とはっきり言えばどうか。こうして対北朝鮮を口実に偵察衛星も打ち上げるのであるし、弾道ミサイル防衛システムも導入しようというのである。
もちろん、日本にミサイルが撃ち込まれても「第2次」朝鮮戦争への参戦となる反撃を行えば良いと言うことではない。「第1次」湾岸戦争時、イスラエルでさえ38発もスカッドミサイルを撃ち込まれたにもかかわらず、アメリカの要請で自制をした。
「第2次」朝鮮戦争の場合も、周辺国は日本の参戦を拒むだろうことを、考慮しなければならない。(ただ生物・化学兵器が使用されれば話は別である)
第三に、「第2次」朝鮮戦争が始まれば北朝鮮から10万人規模の大量難民が押し寄せその中に武装工作員が潜入している、という想定もデタラメである。
以前にも書いたが、対外戦争は国民に求心力が働く事態であり、難民流出=遠心力が働くのは内戦や国内に抑圧者がいる場合だ。つまり現在がそうした状況だが日本に直接くる難民(脱北者)はいない。さらに敗戦で金正日体制が崩壊した場合は、抑圧者がいなくなるし、国際的な支援も直接受けられる訳で、大量難民が発生する理由がないのである。 その場合「難民」となるのは、国民の報復を恐れる特権階級だろうが、戦時下、占領下で何人敵国である日本へ行こうとするのか、またその手段をどうするのだろうか。
武装工作員については噴飯ものである。工作員が忠誠を誓う体制は崩壊しているのである。
 確かに「難民」のなかには「元」工作員が存在するかもしれないが、追求を恐れて命からがら逃げ出すと言うのが、実状であろう。
唯一戦争で大量難民が発生する可能性があるのは、敗戦にもかかわらず弱体化した金体制が残り、放置される時である。この場合でも難民は、韓国、中国、ロシアに向かうだろう。
以上のように現在流布されている北朝鮮脅威論は、的をはずしたものであり、まっとうなな論議、政策立案を妨げるものである。「平壌宣言」から半年が経過したが、政府は拉致問題も含め明確な方針を示していない。それどころか小泉首相は北朝鮮政策を「拉致被害者家族の会」に丸投げしているようである。
今こそ、冷静な分析、論議が望まれるのである。(大阪O) 

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