ASSERT 305号(2003年4月19日発行)

投稿】  バグダッド陥落と次なる標的
【投稿】 ピースラリー・パレードに参加して
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【投稿】 バグダッド陥落と次なる標的

<<1発7000万円>>
 あっけないともいえる首都・バグダッドの陥落は、今回の米英の対イラク戦争の本質をかいまみせたのではないだろうか。すでに開戦前から制空権を100%牛耳られ、幾度にもわたる査察によって事実上の武装解除に追い込まれ、丸裸にされた軍隊に対して、米英軍はIT武装をした大量破壊兵器の大砲列を敷き、30万にも及ぶ大軍が陸海空から一方的に襲いかかったのである。これは圧倒的な軍事力を用いた主権侵犯行為以外の何ものでもない、まさに古典的な侵略戦争の典型ともいえよう。結果としてイラクは米帝国の植民地属国となり、傀儡政権の下でイラクの最高支配者は米大統領となる路線が敷かれたのである。国際法も国際社会の意向をも無視した古典的な侵略戦争ではあったが、しかしその破壊力、残虐性は前世紀の比ではない。1発7000万円もする米ロッキード・マーチン社製のトマホークミサイルが740発も発射され、これだけで518億円があっという間に消費され、いたるところを瓦礫と化し、何千ものイラク民衆を虐殺・傷害し、1発2000万円の新型地中貫通爆弾・バンカーバスターも最低4回発射され、軍事施設どころか民家まで粉々にし、多くの民衆が生き埋めにされ、いまや死体の発掘さえ不可能という事態をもたらし、その使用を公然と認めた劣化ウラン弾は今後何世代にもわたって病魔を蔓延させ、土地を汚染し続けることは間違いない。開戦から3週間で12,000発にもおよぶ各種ミサイルや精密誘導爆弾がすでに疲弊し弱体化されていた国土と民衆の上に雨あられと落とされたのである。これは、「神の意志」を掲げたブッシュ・米帝国の戦争がどれほど道徳的にも退廃・破産しているかの証左ともいえよう。
そもそも「大量破壊兵器は必ず見つかる」(フランクス中央軍司令官)とか、「フセインが化学兵器の使用を許可した」(ブッシュ大統領) として、米英が開戦の理由としてきた大量破壊兵器や核兵器、生物・化学兵器の存在など今やその証拠すら見つけられず、米中央軍のブルックス准将は「懸念されたイラク側の使用は現時点ではない」として、フセインの残党狩りに焦点を移し、「開戦理由」などもはや重要ではないという強盗の論理で、油田確保や戦利品の獲得に本命があることをはしなくも自ら暴露している。
この点では、対イラク国連査察委員会UNMOVICのブリクス委員長が、4/9、「この戦争がずっと前から計画されていたことの証拠がある」として、昨年10月にブッシュ大統領が国連の査察を支援すると委員長に述べた当時から、「ブッシュ政権内には、(査察に)懐疑的で、政権転換の工作を進めていた人々がいた」と述べ、3月のはじめには「米国と英国の政府内のタカ派は、忍耐がきかなくなっていた」、として、「アメリカは、最初は(大量破壊兵器が)少しあると考えていたのだと思う。しかし今では、彼らも、その可能性への確信が小さくなっているのだと思う」「彼らが(大量破壊兵器を)少しでも見つけるのかどうか、私には興味深いところだ」と皮肉を込めて述べている通りで、少しぐらいはでっち上げてでも「証拠開示」をするのが関の山であろう。

<<「犯罪を犯す自由」>>
 陥落したバグダッドに「解放軍」として乗り込んだはずの米軍は抗議のデモに迎えられ、首都は無法と略奪の町に化している。無法と略奪が米軍の象徴だとすれば、その占領下で無法と略奪が横行するのも当然の成り行きとも言えよう。ラムズフェルド米国防長官は4/11の記者会見で、首都の無秩序を強調するマスコミの報道ぶりに強い不快感をあらわにし、「混乱だ。しかし、自由ゆえの混乱だ。自由な人々は、まちがいを犯す自由があり、犯罪を犯す自由があり、悪いことをする自由があるのだ」。まるで自らの押し込み強盗者としての自己弁明である。
 そしてブッシュ政権は、勝利者の当然の権利でもあるかのように、米軍直接管理下の植民地型占領統治をイラクに押しつける方向を露骨に表明しだしている。
 「血を流してイラクを解放した(米英など)連合国が主導的な役割を果たすのは当然のことだ」というのが、ライス米大統領補佐官の記者会見での発言である(4/4)。さらにウォルフォウィッツ米国防副長官は4/10の米上院軍事委員会で、フランスはイラク戦争への反対、とりわけ北大西洋条約機構(NATO)のトルコ支援を拒否したことに対して、その結果起きる責任を甘受しなければならないと証言し、「フランスはNATOにとって非常に打撃になるような振る舞いをした。私は、フランスは我が国にだけでなく、そのように見ている同盟国に対しても、その代償を払うことになると考えている」と述べ、その支払うべき代償について、イラク戦争に反対してきたフランス、ドイツ、ロシア、「これら3ヵ国が独裁者(フセイン大統領)に貸した金は、武器を買ったり、大統領宮を作ったり、イラク国民を抑圧するのに使われた。新たに誕生するイラク政権が莫大な借金の負担から脱するように債権全額または一部をあきらめる方法を考慮しなければならない」と対イラク債権の放棄を要求、同副長官はロシアとフランスなどがフセイン政権時代にイラクと締結した油田開発契約についても「イラク石油の長期的な開発計画はイラクの新政権が決めること」とし、契約をすべて認めないことを示唆したのである。
 すでに米下院は4/3、イラク攻撃に反対したフランス、ドイツ、ロシア、シリアの4国を戦後復興事業の入札から締め出す法案を可決している。もちろんこれには仏独ロが猛反発し、戦後復興での国連主導で一致、アメリカ主導のアメリカ権益優先の占領型統治か、国連による復興支援かのせめぎあいであるが、「勝てば正義」の今のブッシュ政権には通じるものではないであろう。

<<「石油のための戦争」>>
 すでにこの「復興ビジネス」をめぐる権益分捕り合戦は露骨に展開されている。米英軍自らが破壊した港湾の整備、空港の再開、水道や電気、道路などのインフラ、学校や病院の再開、復興、新設と多岐にわたる「戦後復興事業」について、米国際開発局はイラク戦時補正予算の元請け先は米企業に限定する方針を明らかにしている(3/26)。
当然最も重要な目標は、40年前に失った中東原油の支配権を取り戻すことである。米英の石油独占体はこの際、中東産油国で石油国有化が一気に進んだ70年代以前に時計の針を戻そうとしているのである。なにしろ、イラクの原油確認埋蔵量は1120億バレルで、サウジに次いで世界第2位。さらに推定2200億バレルの未開発油田が眠っているとされる、石油メジャーにとっては宝の山である。アフガニスタンとは違って、何としても手に入れたい「石油のための戦争」といわれた所以でもある。
 米国防総省はすでにイラク戦後の復興事業について、チェイニー副大統領が就任直前まで最高経営責任者(CEO)を務めていた米エネルギー大手、ハリバートンの子会社に発注することを決めたと報じられている。受注したのはテキサス州ヒューストンに本社を置くケロッグ・ブラウン&ルート。イラク戦で被災した同国内の油井消火や1991年の湾岸戦争後、稼働を止めていた油田を再生させる事業を受け持つという。具体的な契約額については明らかになっていないが、ブッシュ大統領が米議会に提案した戦費調達の中で、石油施設の修理費などとして約49億ドル(約5880億円)を計上しており、巨額なプロジェクトになることは間違いない。イラクの戦後を統治する米軍が、占領と復興資金の確保のために石油採掘権を握る方針を固め、その「石油生産担当」のトップのポストには元シェル石油米国法人のトップが有力視されているという(4/3、ワシントン・ポスト)。当然、イラクの原油を自由市場で輸出し、OPECの生産調整に対する影響力の低下を促進させ、アラブ社会にアメリカの覇権を確立させる戦略でもある。
 この戦争は、まさにマイケル・ムーア(映画「ボーリング・フォー・コロンバイン」で長編ドキュメンタリー賞受賞)がいうごとく、「イカサマの選挙で選ばれたイカサマの大統領がイカサマの理由で戦争を始めた。ブッシュ大統領よ、われわれは、この戦争に断固反対だ。恥を知れ。あなたの時間はもう終わりだ」「(この戦争は)ブッシュとブッシュの石油屋仲間のためだ」という本質を露呈しだしたといえよう。

<<「次はシリア、北朝鮮、イラン」>>
 身勝手な「勝利」に酔いしれたブッシュ政権は、国際社会にとっての取り返しのつかない深刻な事態の進展にはまったく振り返る余裕もないかのようである。
 4/9、チェイニー副大統領は、対イラク戦争を通じて、国際社会を無視した反省どころか、むしろ「無法国家」やテロリストに対して積極的な攻撃に出ることの有効性を強調し、今後もそれを米国の安全保障政策の基本とすべきだとの考えを示している。
 これに先立つ3/28、ラムズフェルド国防長官は、「シリアがイラクに暗視ゴーグルなど軍事転用が可能な物資を輸出したことが判明した。これはアメリカに対する敵対行為である」とシリアを厳しく非難し、同時に、シリアと並んでイランもアメリカに敵対していると非難し、「敵対」者との対決姿勢を強調。
さらにウォルフォウィッツ米国防副長官は4/10、米上院軍事委員会の公聴会で証言し、対イラク戦に関連し、隣国のシリア、イラン、トルコがイラクに干渉しないよう警告し、特にシリアについては、「シリア人は米国人を殺そうとイラクに殺し屋を送っている」とまで述べて強い警戒感と危機感をあおりだしている。これと呼応するかのように、ボルトン米国務次官は4/9、ローマで、シリア、北朝鮮、イランを名指しして、「多くの政権が、イラクから適切な教訓を学び取ることをわれわれは期待している。大量破壊兵器を追求することは彼らの利益にならないということだ」と述べて、「次はシリア、北朝鮮、イラン」だという脅迫の姿勢を明確に打ち出したのである。
 こうした姿勢に対して、UNMOVICのブリクス委員長は、「そういう米国のメッセージがかえって逆効果で、例えば北朝鮮は国連の査察を信用しなくなってしまった。それによって軍事力の増強という反作用を生んでいる」、「安全が保証されていると感じれば、その国は大量破壊兵器の取得を検討する必要はないのだ。安全を保証することが、大量破壊兵器の拡散を防ぐための第一の方法である」という当然の理性的な判断を示している。しかしブッシュ政権にはこの理性というものが通じなくなってしまっている。
 しかしこのようにいかにおごり高ぶったとしても、アメリカの優位は絶対不動のものではなく、イラク情勢に限ってみただけでも、当面のうわついた「勝利」の背後には幾多の困難と難題が待ち構えていることに留意すべきであろう。すでにブッシュの露払い役に徹してきたブレア英首相は、国連中心の復興計画を支持し、「フセイン政権が崩壊すると同時に$新しい自由な統一イラクの建設がはじまる。平和で豊かなイラクは、米国人でも英国人でもなく、イラク国民によって、イラク国民のために統治される」と述べ、さらに「わが軍はできるだけ早期にイラクから撤退する。必要以上には一日たりとも駐留しない」と強調している。たとえ表面上のものであれ、米英のこの亀裂は無視し得ない広がりを持つといえよう。

<<「雰囲気で決める」>>
 そしてブッシュ政権のお先棒を真っ先に担ぎ、「先制攻撃」を支持して世界の笑いものとなり、もはや外交的にはその存在さえ無視されてきた小泉政権にとっても、今後の展開次第によっては重大な岐路に立たされることになろう。イラクの戦後復興支援に多大な期待をかけられ、過剰な分担を背負い込みかねないことも問題ではあるが、それ以上に重大な問題は、次なる「先制攻撃」の標的が北朝鮮になりかねないことである。しかも核兵器の先制使用さえ辞さないことを公言しているブッシュ政権である、北朝鮮の核施設への空爆もあり得ないことではないし、当然反撃も予想されよう。核戦争の火の海が出現しかねないのである。日本はもちろん、周辺各国、全世界に核戦争の危険極まりない汚染が撒き散らされかねない事態が現実問題として提起されてこよう。しかも日米軍事同盟に基づき、米軍が始める先制攻撃は、小泉政権が支持してやまない「周辺事態」であり、自動的に参戦とならざるをえない。アジアで米国とともに日本がまたもや先制攻撃の戦争を始める事態である。すでに政府・与党3党は、朝鮮有事に対応できる戦争体制の整備=有事法制の成立を急がねばならないと合意し、民主党までもが有事法制決着に傾きだしている。
そして防衛庁は、米軍が対イラクのピンポイント爆撃に使用している巡航ミサイル「トマホーク」(射程約1700キロ)など、他国基地への攻撃を前提とした兵器の導入に向け検討に入ったことを明らかにしている。これは、自衛隊には敵基地攻撃能力を持たせない、としてきた従来の専守防衛政策からの根本的転換である。敵基地攻撃能力というのは、相手側が日本にミサイルを発射しようという準備を始めたとき、日本が先制攻撃をかけて、それを破壊する攻撃力である。日本が先制攻撃能力を持つということは、日本も先制攻撃をしかけられても仕方がない、という新しい事態の出現を意味するものである。イラク先制攻撃を支持した当然の結論でもあろう。小泉首相は、専守防衛に徹するとして、敵基地攻撃能力の保有に否定的見解を示したが、「議論は大いに結構」と受け流し、最後は「雰囲気で決める」という無節操極まりない首相である、すでに事態はその方向に動き出しているともいえよう。
 平和的な粘り強い交渉をすべて投げ出して、軍拡の悪循環に乗り出す政権には一刻も早く退場してもらわなければならない。
(生駒 敬)