ASSERT 306号(2003年5月24日発行)

【投稿】 デフレ下の危険な漂流--ブッシュ・小泉路線の迷走
【投稿】 金融危機と金融再編成
【投稿】 「脱組織」「脱原発」とマニフェスト--福井県知事選をふりかえって
【書評】 『科学知と人間理解--人間観再構築の試み』
【雑感】 ワールドピースナウ3/8の集会に参加して
【投稿】 有事法制の虚構性

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【投稿】デフレ下の危険な漂流--ブッシュ・小泉路線の迷走

<<「対テロ戦争は終わっていない」>>
 5/1、ブッシュ米大統領は、カリフォルニア沖を航行中の空母アブラハム・リンカーンにフライトスーツを着用して戦闘機で着艦するという、現職の大統領としては史上初の「ワイヤー着艦」というパフォーマンスを演じて、対イラク戦戦勝宣言を行った。巨大な空母艦橋に掲げられた「ミッション・コンプリーテッド(使命は完遂された)」という横断幕を背に、甲板上の2000人の乗組員を前に、満面の笑みを浮かべて25分間にわたる演説を行ったが、その中身はあいも変わらずの最低最悪のものであった。「戦争の口実」だった大量破壊兵器が今もって発見できない事態にもかかわらず、大量破壊兵器が最大の脅威だとし、それを拡散させる「ならず者国家」の武装解除が急務であり、国連がやらなければアメリカがやる、これによって「世界が変わった」のだと強弁し、世界から孤立した自己の立場の正当化に大半をついやし、「わが連合軍は仕事が終わり、自由なイラクが生まれるまで残る」と、中東油田地帯への居座り継続を明確にし、「対テロ戦争は終わっていない。われわれは引き続き、敵が攻撃をかけてくる前に追い詰める」と先制攻撃論を展開、最後に米軍側だけの戦没者の家族を見舞うメッセージで締めくくられた。「ならず者国家」どころか、大量破壊兵器を最大限に所有・生産し、それを無慈悲に使用・殺戮する、軍事力にだけ物言わせる「ごろつき国家」の頭領の演説であったといえよう。この戦争映画の俳優気取りのパフォーマンスは、反戦・反ブッシュの世論が今も根強いカリフォルニアに対する「2004年の大統領選挙へ向けての出陣式」という意味合いがあったとまで皮肉られている。それでも、民主党の有力大統領候補であるゲッパート候補などが「勝ち馬」に迎合して「戦勝宣言への賛同」を表明するというていたらくを見れば効果はあったのであろう。

<<「イラクの次は」>>
 しかし事態は、ブッシュの思うように進まないことも事実である。「戦争より戦後復興の方が何倍も難しい」ことは、アフガンの実態が示しており、アフガン戦以前よりも混乱と混迷が増大していることに象徴的である。そして何よりもブッシュの手前勝手で一方的な先制攻撃論が、世界中に解決不可能な事態を次々と引き起こすことは間違いないといえよう。ネクスト・ターゲットをめぐってシリアやイラン、北朝鮮が出てきたかと思えば、本命といわれるサウジアラビア問題が急浮上、ブッシュ政権内で上昇気流に乗るネオコンが一貫して主張してきた、「イラクの次はサウジアラビアの政権も転覆し、サウジの油田は米軍が守る」という方針が問題視されだし、その一方でパレスチナ和平構想がぶち上げられ、いずれも行方定まらずである。
 そして当初、対イラク戦が短期決戦で勝利すれば経済活性化に大きく寄与すると見込まれていた予測はいまや完全に外れだしている。儲けをせしめたのは軍事産業だけであり、これからせしめようとしているのが石油メジャーである。4/28に発表されたボストンの民間団体「公正経済のための連合」の報告によると、軍事企業トップのロッキード・マーティン社は、国防総省との契約高が472億ドル(2001-2年度)、政治献金は417万ドルにのぼり、その後にボーイング、ゼネラル・ダイナミックス、ノースロップ・グラマンなどの各社が続き、これら軍事産業の最高経営責任者(CEO)の報酬は、全産業平均の6%増に対して、79%増と急激な伸びを示したというからあきれたものである。ブッシュやチェイニー、ネオコンの連中が山分けをしているのであろう。ところが経済全体では彼らの利益増大とは逆の事態がもたらされ、イラク戦終結後も、鉱工業生産指数などアメリカの経済統計は軒並み先行き不安を深め、ドルへの不信が増大、対円では一時115円台に突入、ユーロに対しては4年4カ月ぶりの安値更新である。対イラク戦争という不安な売り材料が取り除かれたはずであるにもかかわらず、株価は急落を続け、5/6の米連邦準備制度理事会(FRB)は「景気回復の時期は依然不確かだ」と、景気後退を認めざるを得なくなり、金融政策を「景気重視型」に変更することを表明。それでも外為市場ではドル売りが加速している状態である。

<<「これは危機ではない!」>>
 こうしたブッシュ路線に忠勤を励み、政治・経済・外交すべてを“米国頼み”にしてきた小泉路線も、いよいよ破綻の取り繕いようがない事態に追い込まれてきたといえよう。その典型が5/16発表の三期連続縮小のGDPゼロ成長と、そして5/17のりそなホールディングズの破綻である。政府はこの4月の月例経済報告で「アメリカ経済等の回復が持続すれば、景気は持ち直しに向かう」と太鼓判を押したばかりであったが、対アメリカ向け輸出は今年1月から減少に転じ、三カ月連続のマイナスである。対イラク戦勝利・経済活性化どころか、逆にバブル破綻にあえぐアメリカ経済の後退が色濃く反映しだしたのである。それでも竹中平蔵経済財政・金融担当相は、「景気は横ばい状態であることが裏付けられた」といってのけるだから相当なおめでたさと厚顔無恥といえよう。
 しかしそれも、りそなホールディングズの破綻によってとどめをさされたといえよう。5/17に緊急招集された小泉首相を議長とする「金融危機対応会議」は、「国や特定地域の信用秩序維持に重大な支障が生ずる恐れがある」金融危機と認定し、りそな銀行に2兆円規模の公的資金を投入する預金保険法102条に基づく「特別支援行」第一号指定を行い、事実上の国有化に踏み出さざるを得なくなったのである。ついにメガバンクの一角が崩れだしたのである。この期に及んでも竹中金融相は、危機を認定した「危機会議」で「これは危機ではない、破綻ではない」と叫びだす始末である。大手各行は「りそな以外の銀行への波及効果が怖い」と戦々恐々であり、株価のさらなる下落が避けられない事態に突入しだしたのである。すでに7大銀行グループの3月期決算予測は、2.6兆円の株損を抱えてすべて赤字決算であり、大手生保7社は準備金の取り崩しまで追い詰められており、これ以上の株価下落はさらにいくつかのメガバンクと大手生保の破綻、それに伴う連鎖倒産を現実化しだすであろう。

<<「竹中プラン」>>
 りそながことここに至った最大の原因は、ズサンな経営と政府の危機先送り政策に追随してきたことにあろうが、直接の破綻のきっかけは、監査法人に繰り延べ税金資産の厳格査定を求めた「竹中プラン」の存在といえよう。りそなの経営陣はこの3月期決算で“5年後には劇的に収益が改善する”計画を立て、繰り延べ税金資産を過剰に膨らませ、自己資本をカサ上げしようとしたのであるが、「竹中プラン」はそれを許さず、りそなをスケープゴート第一号に仕立て上げたのであろう。その意味では突如浮上した危機ではなく、仕組まれた危機ともいえよう。この「竹中プラン」は、日本の金融の実態を無視したアメリカ仕込みの「資産査定」などを金融機関や監査法人に強要し、監査担当者の自殺者まで出して、貸し渋り、貸しはがし、貸付金利引き上げなど、金融収縮をいっそうはげしくして、自らデフレ不況を激化させ、「金融の再生」どころか、「金融の破壊」を画策してきたのが実態といえよう。
 りそなグループ主力銀行のりそな銀行は資本金4431億円、店舗数367、預金、貸出金はともに約21兆円、傘下には、旧大和銀行と朝日銀行の系列、りそな信託銀行、近畿大阪銀行、奈良銀行があり、今後は事実上の国有化の下で徹底したリストラ、場合によっては外資への身売りが迫られよう。りそなはすでに「経営再建策」のなかで、従業員を削減し、一年以内をめどに約50の関連会社を半減させるとしており、その広範囲な影響からして不況をさらに悪化させることだけは間違いない。
 りそなの次に控えている世界最大の銀行、みずほフィナンシャルグループの株価はすでに50円台(額面50円換算)という非常に危険なレベルである。そしてこのみずほには、“静かな取り付け”が始まっており、02年3月末のみずほの預金量(3行合計)は約71兆円だったのが、9月末には約66兆円に目減りし、今年3月末は約64兆円程度になったとみられている。実に1年間で7兆円の預金流出である。

<<「画期的な合意」>>
 自民党内からは「全体の経済を活性化していく基本政策をしない限り、国有化をどんどんやることになる」(亀井静香・前自民党政調会長)、「(竹中平蔵金融・経済財政担当相は)大きい銀行をつぶしたいという感じだった。彼の一つの目標を達したのかもしれないが、国民の財産、生活を守るのが閣僚の責任だ」(野中広務・元自民党幹事長)と批判が噴出しているが、小泉首相は自民党総裁・首相の地位確保のために、例によっての「改革継続」の空文句の羅列で、われ関せず、危機打開策は小手先だけで一切なし、ただその場その場の迷走あるのみという無責任体質である。
 しかし首相にとって最大の関心があるのはきな臭い有事立法だけ、というのが正直なところであろう。これだけはわが父祖以来の念願をやっと果たし、日本の政治において禁句であった有事立法を「俺が成立せしめた」と胸を張り、「これまでは『備えると憂いが生ずる』という考え方があって、有事の問題は議論すること自体がタブーのような状況が続いていました。しかし、今回、与党と野党第一党との間で合意ができたということは画期的なことだと思います」(小泉内閣メールマガジン第94号)と成果を誇っている。対する民主党の菅直人代表も「百点満点とは言わないが、十分に合格点をいただけるところまで、わが党の案が受け入れられた画期的なこと」だと、これまた満面笑みの呉越同舟である。
 しかし事態は明らかにこれら有事立法によって、自衛隊が日本の軍隊として「平和憲法」の聖域を破り、「専守防衛」の方針も無視して、憲法で禁じられた戦争行為に加担し、海外派兵も合法化し、言論統制と基本的人権の制限に道を開き、国家総動員体制の構築を可能とさせるものである。たとえ基本的人権の尊重義務をうたったところで、この有事立法が日本国憲法が保障する基本的人権を具体的な例示もなしに包括的に制限する違憲立法であることには変わりはなく、日本弁護士連合会の本林徹会長が、可決された有事法案について「なお憲法上多くの重大な問題点が存在し、当連合会が指摘してきた基本的人権を侵害する危険性は解消されていない」とし、成立に反対する声明を発表したのは、法曹界の良心として当然のことといえよう。
 しかし小泉首相にとっては、ことごとく失敗する経済政策、構造改革の失政のなかで、今全力投球すべき経済政策、そして北朝鮮の孤立・挑発政策を平和外交政策に導き入れる努力をすべて放棄して、もっとも危険な対決と戦争挑発、軍事優先の政策で自らの窮地を脱出しようといるのであろう。民主党がそのチェック機能さえ失い、単なる保守補完勢力に終始すれば、その存在意義さえ問われるであろう。
(生駒 敬)