ASSERT 307号(2003年6月21日発行)

【投稿】 大量破壊兵器と政治の責任
【投稿】 迷走する三位一体改革〜地方行政の質の転換を〜
【書評】 『男はなぜ暴力をふるうのか---進化から見たレイプ・殺人・戦争』
【雑感】 寺島実郎氏の憂い
【コラム】 ひとりごと--小泉支持率上昇の怪--

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【投稿】 大量破壊兵器と政治の責任

<<「大量ペテン兵器」>>
 米国のイラク侵攻の最大の理由と根拠は、「大量破壊兵器を保持し、隠しているのは間違いない」(ブッシュ大統領の最後通告演説)ということであった。そして先制攻撃正当化の最大の理由が「イラクは計500トンもの化学兵器をつくることができて、3万発以上の化学兵器用弾頭を保有している疑いがある」というものであった。ブレア英首相に至っては、「イラクは45分で大量破壊兵器の使用の準備ができる」などとあおりたてて開戦に踏み切ったのであった。ところが、米英軍がイラクを占領して二カ月以上を経過しても、いまだに大量破壊兵器の痕跡すら見つけられず、適当なでっち上げ証拠探しにやっきとなっている姿はまさに噴飯ものである。
 そしていま、この米英両首脳に対して彼らが振りまいてきたさまざまなイラク侵攻正当化の根拠や証拠なるものが、いずれも「うそ、いつわり、ごまかし、ペテン= Deception 」であったとして、音を立てて崩れだしている。同じWMDでも、大量破壊兵器(WMD=Weapons of Mass Destruction)ではなく、大量ペテン兵器(WMD=Weapons of Mass Deception)だというわけである。時を同じくして、戦争遂行を正当化した最大の根拠が揺らぎだし、米英両議会でこのWMD問題が両政権の浮沈にかかわる最重要問題になろうとしているのである。
 6/5にCNNやロイター通信などが一斉に報じた米国防総省の情報機関である国防情報局(DIA)の昨年九月にまとめた機密報告書が、「イラクの化学兵器保有・製造を示す信頼できる情報はない」などと指摘していたこと、それにもかかわらず、政権側の意向によって強引に「信頼できる証拠」にすりかえられ、そのことに国務省情報担当の元責任者が、「私が深く困惑したのは、情報当局が説明したことを、政権のトップが不誠実に」ねじ曲げたことを明らかにし、さらに、「核開発問題やアルカイダとの関係についても、証拠が欠けていたにもかかわらず、議論は無視された」として、秘密情報機関の報告を誇張した政権指導部に責任があると主張し、そのことが大きく報道されたのである。事実、この機密報告が提出された昨年九月に下院軍事委員会の公聴会でラムズフェルド国防長官は、「イラクの政権は生物・化学兵器を保持している」と証言していたのである。

<<「三つの要素」>>
 あわてたブッシュ米大統領は、閣議後の記者会見で、「イラクは兵器(開発)計画を持っていた」「これは十年間にわたり、情報当局が明らかにしてきた。私は確信している」と釈明し、いまだに発見できていないイラクの大量破壊兵器をかならず見つけてみせると反論したのであったが、その根拠や展望については何も明らかにできないものであった。
 さらに6/7付のニューヨーク・タイムズ紙は、匿名の情報分析担当者の話として、米政権が現在、大量破壊兵器発見の証拠としてあげている移動式生物兵器製造施設についても、他の目的のためのものであると疑問視しているにもかかわらず、「決定的証拠のような分析結果となった。これには非常に憤っている」と報じたのである。
 米誌『タイム』6/9号は「大量消滅兵器」と題して、現政権の姿勢には(1)最悪の事態想定を事実として扱う、(2)あいまいさを飾り立てる、(3)誤りをごまかすという「三つの要素」があると指摘し、「消えた大量破壊兵器が見つけられない限り、次の戦争をしかけることができるようになるには長い時が必要となろう」と皮肉る事態である。
 さらに強烈な一撃は、ニューズウィーク誌6/9号(日本版6/11号)で明らかにされた。ブッシュ大統領の今年1月の一般教書演説の中に、英情報機関から得た情報として、フセインが「アフリカから大量のウランを入手しようとしていた」という一節があったのだが、米国務省情報調査局(INR)でイラクの大量破壊兵器の調査に携わっていたグレッグ・シールマン分析官(当時)は、新聞で演説原稿を読んで「卒倒しそうになった」という。決定的証拠に祭り上げられた文書は、アフリカのある外交官がイタリア人に売り込んだ偽造文書であることが判明したものであり、レターヘッドに記されていたニジェール外相の名も、10年以上前に退任した人物のもので、「どうやってあのでたらめな文書が一般教書に盛り込まれた」のか、シールマンは理解に苦しんだというのである。

<<「私たちはだまされた」>>
 事態はブッシュ大統領の責任問題へとつながらざるをえないであろう。6/6、ジョン・ディーン元米大統領法律顧問は「ブッシュ大統領はきわめて重大な問題に直面してしまった」として、「ブッシュ大統領が偽造した情報にもとづいて議会と国を戦争に引き込んだのであれば、彼は助からない。国家安全保障にかんする秘密情報のデータを操作し、あるいは意図的に不正使用することは、もしそれが証明されれば、合衆国憲法の大統領弾劾条項にいう『重罪』となるだろう」と法律専門のインターネット・サイト「ファインド・ロー」への寄稿「大量破壊兵器の消滅」で述べている。
 ごまかしとねじまげの証言の場となった米連邦下院の軍事委員会では、超党派での疑惑解明にむけて調査が開始され、情報委員会も公聴会を開く可能性に動き出している。とりわけ民主党は「国家と大統領の信用は危機にある」(レビン上院議員)「政権がごまかしとデマの行動パターンに従事している」(グラハム上院議員)と批判を強め、この動きはさらに拡大するであろう。
 そしてイギリスのブレア首相はブッシュ氏以上に窮地に立たされている。ヒーリー英元蔵相は「知りながらうそをついていたならブレア首相は辞任すべきだ」と、公然と批判を展開、すでにブレア首相に反対して国際開発相を辞任したクレア・ショート氏は「緊急性をつくり出すために機密情報に政治的な操作があった。それは首相の政治判断だった。私たちは誤り導かれ、だまされたのだと思う」(6/1付サンデー・テレグラフ紙)と首相の責任を追及、6/4付英紙ガーディアンは「ブレア首相にただすべき十の決定的疑問」を掲載、デーリー・ミラー紙は「国民はだまされたと感じ、首相の信用全体が危うくなっている」と報じる事態に、ブレア首相自身は「政府が操作した証拠は何一つない」と開き直ったものの、議会調査には同意せざるをえなくなった。すでに下院の情報治安委員会がイラクの兵器データを点検する方針を決定、さらに外交委員会は首相ら3人の公開審理に踏み切る方針であり、追及の火の手はさらに広がろうとしている。

<<「見つからないフセイン」>>
 ところが小泉首相はいかにものんきで無責任なものである。イラク侵攻前の早い段階から一人ブッシュ支持を明確にし、先制攻撃にあせるアメリカを弁護し、「イラクは大量破壊兵器を保有している」、「この問題の核心は、イラクが自ら保有する大量破壊兵器」、「全世界対大量破壊兵器を持っているイラク」などと繰り返し断言していた首相が、6/11の党首討論で「いったい、いかなる具体的根拠にもとづいて『保有している』と断言したのか」と追及されて、「現に、フセイン大統領はいまだに見つかっていないんですよ。生死も判明していない。フセイン大統領が見つかっていないから、イラクにフセイン大統領は存在しなかったということを言えますか。言えないでしょう。生死もまだ分かっていない。存在も分かっていない」という珍答弁で議場内大爆笑というから、緊張感も責任感もなければ、誠実さのひとかけらもないあきれた本性をさらけ出している。またこんな答弁をしたところで政局も緊迫しなければ、野党側から首相解任動議も出されない、ブッシュ・ブレア両氏がうらやむ政治環境である。
 なにしろ有事立法の制定に際しては、野党側から石破防衛庁長官に対して「誘導弾等の攻撃に対しては座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨じゃない。やられたらやり返すということ、あるいはまさにやられそうになったとき、相手の基地をたたくことは憲法上認められている」(民主党・前原議員)と先制攻撃まで叱咤激励される政治環境である。
 であればこそ、何の反省も後ろめたさもなく、有事法制が成立したかと思えば、すぐさま今度はイラク新法の今国会提出が急テンポで画策され、大量破壊兵器の処理支援や何の歯止めもない武器・弾薬の陸上輸送まで政府原案に盛り込まれていたが、与党内から未発見の大量破壊兵器の処理支援とはなにごとかと異論が出るとそこだけをはずしていけしゃーしゃーとしておられる、これが小泉政権の存続を許しているといえよう。
 来日した盧武鉉・韓国大統領が日本の国会で演説し、冒頭、「不幸だった過去の歴史を思い起こす動きが日本から出るたびに、韓国を含むアジア諸国の国民は敏感な反応を見せてきました。防衛安保法制と平和憲法改正の議論についても、疑惑と不安の目で見守っています。このような不安と疑惑が全く根拠のないものでなければ、あるいは過去にとらわれた感情にだけ根拠したものでなければ、日本は解決すべき過去の宿題を解決できていないことを意味します。」と訴えたが、この問いかけを真摯に受け止められなければ、日本は誰からも信頼されないであろう。
(生駒 敬)