ASSERT 308号(2003年7月26日発行)

【投稿】 イラク特措法と日本の危険な役回り
【投稿】 迷走を続ける朝鮮半島の平和を希求して
【雑感】  藤田省三のこと    大木 透
【書評】 『棟梁を育てる学校--球磨工業高校伝統建築コースの14年』

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【投稿】イラク特措法と日本の危険な役回り

<<元国連査察官の変死体>>
 ブレア英首相が来日したその日に、「ブレア政権が大量破壊兵器に関する証拠を捏造し、脅威を誇張して伝えた」とする爆弾情報を英国営放送のBBCに提供したとされるデービッド・ケリー元国連査察官が変死体で発見された。「政府の犯人捜しの犠牲で自殺した」とされる一方で、「国益に反したため殺された」との疑惑も浮上。小泉首相との共同記者会見では、「首相、あなたはこの問題で辞める考えはあるのか」などとブレア首相を厳しく問い詰める質問が相次ぎ、アジア歴訪中の予定を切り上げ即刻帰国すべきだという野党側の要求まで伝えられ、日ごろの声量も弱々しく、変死について独立の司法調査を認める姿は、予期せぬものであったといえよう。小泉首相の「正しい信念の人だという思いを新たにした」という歯の浮いたようなエールもどこかへ吹っ飛んでしまい、ブレア氏にとっては、箱根の温泉どころではなかったであろう。
 ブレア英首相は来日直前の十七日、ワシントンの米議会上下両院合同会議で演説し、対イラク戦争の口実とした大量破壊兵器がなお発見されず、その判断に誤りがあったとしても、非人道的な脅威を取り除いたことを「歴史は許すだろう」と、無理矢理イラク侵略戦争を正当化し、「反テロ戦争」をたたかうブッシュ米大統領をリーダーとして、世界が結集するよう呼びかけたばかりであった。「その判断に誤りがあった」のであれば、責任を取るべきなのに、逆に開き直り、この路線にもっとも忠実に加担し、追随する小泉との会談で、窮地に立つブレア政権の立て直しと失地挽回を図ったのであろうが、当てが外れたといえよう。そもそも選んだ相手がまずかった。ブッシュ、小泉両人とも嘘とごまかし、そして責任転嫁には長けているが、誠意や誠実さに欠け、このような場合最も重要な緻密さにも欠けていたのである。すでにブッシュは情報操作疑惑ではCIAに責任をなすりつけ、イギリス当局の情報を信頼したと述べ、情報の真実性を疑う報告書など読みも確認もせずに脅威を誇張する大統領演説を行ってきたことが暴露され、ブレアと同じくブッシュの支持率も急落し始めているのである。

<<「もう支持しちゃったんです」>>
 その対イラク戦のバグダッド占領からから3ヶ月以上もたち、5/1の「戦闘終結宣言」からでも2ヵ月半以上もたった7/16、米中央軍のアビザイド新司令官は、「イラクでは古典的なゲリラ型の戦闘が米軍に対し行われている」「ロケット弾やマシンガンで武装した6人から8人のグループが自由に攻撃を仕掛けている」「米軍はバース党の残党とイラク全土で戦っている。地域的に組織化されており、これは間違いなく戦争だ」と言明、バグダッド空港の米軍機に小型ミサイルまで打ち込まれる事態に米兵を引き上げるわけには行かない事態を明らかにしている。さらに、ブッシュ大統領にいたっては、「わが国はまだ戦争状態」にあり、かかってくるなら「かかってこい」と挑発し、終息どころかこれからまだまだ続く果てしなき戦争にのめりこむ姿勢である。
小泉首相が、イラクが大量破壊兵器を「保有」していたと断定した根拠を問われ、「フセイン大統領が見つからないから、フセイン大統領はいなかったと言えるのか」と詭弁を弄し、イラク特措法案にもとづく自衛隊の派遣について、米軍の現地司令官が「全土が戦闘状態」と述べているのに、「非戦闘地域の区別は可能だ」と強弁し、あげくの果てに「もう支持しちゃったんです。しちゃったんですよ。それを取り消すことはできないですね」(福田官房長官)と発言しても、その無責任さが問われない、ブッシュ、ブレアがうらやむこのような政治環境に、この際、憲法の足枷をはずし、さらに軍事大国化を推し進める議論が公然とぶち上げられている。

<<「軍と呼んでほしい」>>
 91年のPKO(国連平和維持活動)法の国会審議で、政府は、海外での武器使用について「国ないし国に準じる組織に対するものは武力の行使になる」として、憲法上認められないことを言明していたのであるが、7/9の参院外交防衛・内閣委員会の連合審査会で石破防衛庁長官は、自衛隊に加えられた攻撃が、旧フセイン政権残存勢力といった「国又は国に準ずる者」による計画的組織的な攻撃であっても「正当防衛、緊急避難に基づく武器使用はできる」とし、応戦も交戦も可能という見解を繰り返し、さらに同長官は7/17の参院外交防衛委員会で、イラク国民がおこなうデモなど軍事占領への抵抗を武力で鎮圧することも「全面的には否定されない」とまで述べだしたのである。まさに帝国主義の軍隊の本質の露呈である。
また、「武器を使って救い出す行為は、武器使用を自己又は自己と共に現場に所在する隊員等の防衛に限定している趣旨からいって、行えない」(91年11月)とした従来の政府見解からも逸脱して、自衛隊員が武装勢力に拉致された場合を想定し、これを奪還するための武器使用も事実上可能とする見解も打ち出し(7/10、参院外交防衛委)、さらに進んで、自衛隊員の武器使用について「急迫不正の場合は必ずしも相手から実際的な攻撃を受ける前であっても対応できる」(同)として、実際に攻撃を受けていなくても、自衛隊の側から先制攻撃を仕掛けることも可能だといい始めたのである。
 小泉首相は例によってこれらを大雑把な議論で、「戦って相手を殺す場合がないとはいえない」とごまかし、福田官房長官は7/10の参院外交防衛委員会で、この際、自衛隊の海外派兵を可能とする恒久法の法制化について「(作業は)急いでやりたい」とのべ、そのために「大綱」を作成する考えまでを明らかにしたのである。
 この機に乗じて、石破長官は「国の独立をまっとうするため身をていしている防衛庁・自衛隊を一日も早く省に移行させてほしい」と要求(7/10、参院防衛省設置推進国会議員連盟総会)、古庄幸一海上幕僚長は「海外派遣されても海上自衛隊では理解してもらえない。ジャパン・ネービー(日本海軍)という本質で呼んでもらいたい」と、露骨な「陸海空三軍」への名称変更を要求(同)する事態である。

<<「解散・総選挙」>>
 アフガン戦争時のテロ特措法では「武力行使と一体化する可能性がある」として削除した武器・弾薬輸送もOKとなり、「持っていく武器に法的制限はない」(石破防衛庁長官)などと言い出し、何が何でもイラクへ自衛隊を送り込み、自衛隊の海外派遣を既成事実化し、米軍との共同作戦を実際に実戦訓練する、これがブッシュ政権に媚びを売る小泉政権の狙いといえよう。それは当然、次に想定される米国の北朝鮮攻撃に備えた日米軍事作戦の予行演習でもある。
 このようなイラク特措法案に対して、自民党の稲葉大和元科学技術政務次官は「集団的自衛権行使につながる恐れがある」として反対票を投じ、野中広務元幹事長、古賀誠前幹事長、西田司元自治相の3人は採決の際に退席し、野中氏は「国の運命を決める重要法案だ。自衛隊の死傷者、イラク国民の命を奪うようなことを思うと、政治家が責任を持つ記
名投票でないと納得できない」と語って骨のあることを示したが、小泉首相は「日本だけ何もしないわけにはいかない」「自衛隊は武力行使に行くのではない」などといった的外れの無責任さといい加減さでしかその政治姿勢を表現できない器である。時代錯誤の暴言・妄言を繰り返して恥じない江藤や森、鴻池、石原などの蠢動。そしてこんな首相を支えている与党、ろくな反撃もできない野党のふがいなさが今日の日本の政治状況の特徴なのであろうか。
 問題山積のイラク特措法案が慎重かつ真剣な議論とはまったく無縁な政治的駆け引きで終始し、ロクな審議もなしに衆院を通過したとたん、今度はいきなり「解散・総選挙」の急浮上である。「10月中旬解散、11月9日投票だ」と、議員諸侯や候補者が一斉に選挙準備と無内容な名前の連呼と空疎な宣伝、後援会の組織化に走り始めている。年中行事といえばそれまでだが、このような政治状況に鉄槌が下されなければ、いよいよ日本は危険な役回りを再び演じかねないのではないだろうか。(生駒 敬)