アサート No.308(2003年7月26日)

 【投稿】 迷走を続ける朝鮮半島の平和を希求して

<迷走する朝鮮半島情勢>
 7月11日、北朝鮮が使用済核燃料を再処理している「物証」を掴んだ(米NBCテレビ)と報じられた。この報道が米政府の意図的な「絶妙のタイミング」の情報提供だとみるむきもある(朝日新聞7/13)。直前の12日、韓国と北朝鮮の閣僚級会談が「適切な対話の方法を通じて平和的に解決する」と共同報道文を発表したばかりであり、8日には中国と韓国が首脳会談を行い「対話を通じた平和的な解決ができると確信した」と共同声明を発表していた直後の反応である。アメリカの報道は、イラク攻撃の理由に「大量破壊兵器を持っている」「イラクがアメリカでウラン購入を試みたことをイギリス政府が掴んだ」とブッシュ大統領が1月28日一般教書演説で述べているが、偽造文書に基づくものであったことやそれを承知しての宣伝であつたことからも要注意の対象である。
 2003年1月労働組合主催での「北東アジアの非核地帯化をめざして」梅林宏道氏の記念講演を聞いた。緊張を高める朝鮮半島情勢の理解を大いに助けられた。迷走を続ける情勢を平和的解決への視点からの有効な見解と思われるので紹介しつつ、私見を述べたい。
  
1. 戦争への道,朝鮮半島エネルギー開発機構( KEDO)に最後の一撃!
 アメリカはKEDOを崩壊させようとやっきになっている。KEDOは、97年米韓日が北朝鮮に核施設を凍結する見返りに、軽水炉原発の建設を約束して作ったものである。その後いろんな経緯を踏んできたが、昨年夏に土台工事が始まったばかりだった。周辺国は緊張する朝鮮半島情勢の平和的解決への糸口をKEDOに見い出していたのを、02年11月14日にはアメリカの圧力からKEDOは、北朝鮮への重油供給の凍結を決定している。さらに03年6月27日、ワシントンで米政府高官が軽水炉事業中止を目指す方針を発表した。
 しかし事業費の7割を負担している盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は、少しずつでも建設工事を続けるベきと主張し、7/7 中国、韓国首脳会談、7/9ソウルでの第11回南北閣僚級会談で朝鮮半島・民族が戦火にさらされないようにと大変な努力を重ねている。
 これら平和への努力はアメリカの意図をこえた動きとなっている。
 
2. アメリカの意図を超えて
 2002/09/16の日朝会談はアメリカの予測を超えた展開となった。この直後アメリカ国務省が「北朝鮮が兵器用ウラン濃縮を行っている」と発表したことの真意は、アメリカが”米朝”の関係をつくり、主導権をにぎりたかったからではないか。核問題でテンションをあげて「アメリカを抜きにしては朝鮮半島問題が解決しない状態を作り出す」というところ意図があったと思われる。それは11月の大統領選挙をむかえた韓国国民に北の核脅威をもう一度印象づけ、太陽政策の誤りに思い至らせブッシュ路線と親米派を擁護し、盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補を落選させる目的があったのであろう。
 しかし、アメリカの意に反して、韓国国民は2002年12月末の大統領選挙で反北、冷戦嗜好の親米派候補ではなく、太陽政策継承、独立親中派で中国との太い関係を大事にする、アメリカには独立路線を表明している盧武鉉(ノ・ムヒョン)新大統領を選んだ。
 
3. 94合意(平和的交渉)を無視するブッシュ政権
 ブッシュは、クリントン政権の対北政策を根本的に変えることを公約としてかかげてきた。クリントン路線のコンテンツは、北朝鮮を国際社会に引っぱりだして軟着陸させ、徐々に開放社会に連れ出すというものであった。周辺諸国は朝鮮半島を戦場にしたくない。韓国が戦場になり、日本も標的になる、中国に難民が溢れるそんな状況を誰が望むだろうか。ブッシュ路線よりクリントンの軟着陸路線の方がずっと良いのではないだろうか。
 1994年アメリカと北朝鮮間の大変な交渉の結果つくられた「94年のジュネーブ枠組み合意」がそれを特徴付けている。これは、当時北朝鮮がもっていた黒鉛炉という原子炉はプルトニュウムを抽出しやすく核兵器開発に使われやすいので、ためにこれを廃棄する。代わりに国際社会(アメリカ、日本、韓国)が軽水炉を供給して発電を確保する。それでその軽水炉ができるまでは重油を供給し北朝鮮の需要に応える。そのことで北朝鮮の核開発からの路線転換を促すというものあった。これはエネルギーを供給するだけではなく軽水炉が稼動する時には全面的な査察を受け入れるという条件を付けたものであった。
 その流れの中で韓国とは92年に、南北朝鮮非核化共同宣言(朝鮮半島を非核化するための相互査察を南北合意のうえで実行するという約束が含まれていた)を結んでいた。
 94年以降、枠組合意を軸にひとつづつ交渉を積み重ね、お互いに牽制し、紆余曲折がありながらも平和的に軟着陸をめざして枠組みをこわさない努力を積み重ねている。
 
4. クリントン政権のぎりぎりの努力
 アメリカの担当特使ロバートガルーチ(国務次官補)が当時をふりかえりこの枠組み合意がいかにきわどい、やっとたどりついた結果であるかについて語っている。北朝鮮はアメリカを全く信用していない。アメリカも北はいつでも嘘をつく国だと信用していない。全く信用していない二つの国が核兵器を開発しているしていないをめぐってひとつの合意に到達するというプロセスは、いかに信頼関係を築いていくかが鍵になる。言ったことは守るという積み重ねがなかったら簡単に壊れてしまう。だから互いに勝手な解釈を加えてはならない。出来上がった合意は、アメリカでも秘密公聴会でしか明らかにされない議事録の中で、その中身を説明しているが、薄氷を踏むようにして扱っている。アメリカ国内には右翼的な議員も多くそれを壊そうとするのを、なんとか壊させないようにギリギリの運営をクリントン政権がやっていたとガルーチは回想している。
 
5. 天国から地獄に変わった
 しかし、北朝鮮が腹にすえかねることがブッシュ登場とともに続いている。ブッシュ政権は、登場した時からこの枠組み合意を壊し始めたのだ。クリントン政権末期にオルブライト国務長官がピョンヤンに行ったこと。また北朝鮮の国防委員会第1副委員長(No3)チョンノンリョム氏が2000年10月12日にワシントンでクリントンと会い非常にハッピーな内容の共同コミュニケを発表している。「両国政府は、いづれの側も、他国に対して敵対的な意図を持たないことを声明する。また過去の敵意を払拭した新しい関係を建設するために今後全力を尽くすことを確認した」というものであった。これが枠組み合意のプロセスの頂点だった。この1年後アメリカ大統領選挙で政権が変わり、ブッシュは『悪の枢軸』という年頭教書を発表したのだから。
 基本的には、イラクと同じ路線の転換で「国家安全保障戦略」が悪の枢軸の政権は打倒しなければあとに憂いを残す、だからこれを打倒するというもので、括弧つきアメリカ民主主義を世界の規範にして行く。冷戦もそのやり方で勝ってきたし、今残っている悪の枢軸もこのやり方で打倒する。まさにアメリカの新帝国主義、新保守主義の出現である。
 
6. 地域政治の一歩の勝利
 イラクと北朝鮮は、国際政治のなかでの地位が明らかに違っている。北東アジアでの日韓中ロの利害は、アメリカの利害と一致しない。政権打倒路線でもたらされる地域の混乱と直接の被害を受けるのはこの4カ国であって、とてもアメリカの路線はのめない。同時にイラクと違うのは、この4カ国とも国際政治で一目を置くべき国々だということで、ペルシャ湾岸地域でもアメリカの路線に反対する国はあるが、国際政治の中での地位がちがうので、簡単には無視出来ない。また無視した時のアメリカへの打撃も分かりやすい。
 基本的には、地域政治が勝ったのではないか。しかしそれで安泰ではなく警戒すべき動きは次から次へと新手をもって出てくると思われる。けれど大きな枠組みとしての地域の力関係につての理解はとても大切だと思う。
 
7. アメリカとの不可侵条約を望む北朝鮮!
 北朝鮮のねらいはなにか、表面的には非常に矛盾しているように受け取れる。というのはNPTから脱退するという声明を出すと同時に核兵器は開発しないと言う、核は平和的利用しかしない、核兵器開発の意図はないと『くり返しメッセージ』を送る。核開発の意図がないならNPTに止まればいいではないかと思う。しかしそれでは外交的政治目的を達成することが出来ない。核兵器開発をしていないというメッセージは嘘かもしれないと思わせる、そのことによって北朝鮮をめぐる国際的譲歩、関与を引きだすことを北朝鮮は考えているのだと思われる。
 北朝鮮が望んでいるのは「アメリカに北朝鮮を攻めさせない」そのための不可侵条約である。他の国が北朝鮮に戦争を仕掛ける意図がないことは分かっている。今アメリカが一番好戦的な危ない国家である。それは1950年の朝鮮戦争が未だに戦争集結の講和条約を結んでいない状態にある。朝鮮半島38度線では今も日常的に小競り合いが続いていることを北朝鮮は重く考えている。多国間協議だけではだめでアメリカが北朝鮮の政権を倒すという行動に出させないための新たな枠組みをなんとしてでも作りたい。
 そもそも新たな瀬戸際外交は北朝鮮から望んで始めたわけでなく、ブッシュ政権が、11月15日のKEDの理事会の決定として「北朝鮮が核兵器開発を放棄すると明言しない限り重油の供給をしない」と言わせたことが始まりだった。
 KEDOは、アメリカ、日本、韓国と後から加わったEUが理事国となって意思決定する国際組織で、朝鮮半島エネルギー機構と言われており、94年の枠組み合意を実行するなかで、軽水炉と炉ができるまで重油を供給し続けるという、エネルギー問題を実行に移すための「合意」事項だった。 ブッシュの今回の行動は、明白な枠組み合意違反でありKEDOが機能しなくなったと位置づけざる得ない。
 
8. 生き残りをかけた北朝鮮外交
 北朝鮮は、この事態をはっきりさせるために、封印をして監視を受けていた古い核施設の封印を解除したり、IAEAの査察官を国外に退去させたり、NPT脱退の宣言をするというように、本気であるという瀬戸際攻撃をエスカレートさせていってKEDOを壊した。もちろん彼等の言い分は、アメリカが先でこれはもう新しい関係を作るしかないと動き出したのだと。しかし、日韓中ロは、KEDOは絶対壊してはダメだと今でも考えて、アメリカの言うなりにはなっていない。この動きはまたもアメリカの思惑をこえたもので、その意味で11月15日の決定は失敗した。
 ブッシュアメリカは重油の供給を停止するという最後のひと突きをして、KEDOの崩壊を加速させたが、日韓国中ロは、「まだ壊れていない、作り替えよ」とアメリカを説得し、壊したいアメリカが、軌道修正しながら画策しているのが現状ではないだろうか。
 
9. アメリカ擁護の偏った報道
 北が核の脅威を外交の道具に使うのは間違っている。しかしメデイアが意識的に見のがしている偏りがある。
 一つは、北朝鮮のNPT脱退というセンセーショナルなアクションは、NPT条約や核不拡散体制を北朝鮮が壊している様に見える。しかし、実はNPT条約は1975年に発効した非常に古い条約で核兵器が拡散しないことを約束する条約と受け取られがちだが、実際は『核兵器を持っていない国が核兵器を持たないことを約束する』もので、その第6条に保有国:現在核兵器を持っている5つの国(米、ロ、中、仏、インド)が核兵器をなくすという前提がある。
 加盟国187ヵ国のうち残りの今核兵器を持たない182ヵ国(これに北朝鮮も含まれる)は核兵器を持たないといっているのだから、『保有国は、第6条を実行せよ』とこの条約の再検討会議(5年ごとに開かれる)ではくり返し要求されている。両方が実行されてはじめて核兵器が禁止され最終的に核兵器禁止条約ができる。しかしアメリカは、この前提を尊重せず明らかに違反している。
 
10. NPT国際合意に反し、核兵器開発を進めるブッシュ政権
 直近の2000年の再検討会議ではアメリカも入って全会一致で合意したにもかかわらず、ブッシュ政権は、CTBT(核実験禁止条約)に一旦署名、調印しながら、後になって欠陥条約だと言って公然と無効化する行動に出ている。
 それは、『核体制の見直し』という文書のなかでブッシュ政権は「堅固で地中深く埋没された標的を破壊する能力を持つ核兵器、移動標的を発見し、攻撃能力を持つ核兵器、化学剤・生物剤を破壊することのできる核兵器、精度を向上し、付随的影響を軽減できる能力持つ核兵器この4種の核兵器が現在アメリカにないから、その開発をしなければならない」と指摘しており、2003年の国家予算に地中貫通型核兵器開発予算をつけた。これは2003年国防認可法で了承され、すでに開発を始めている。
 これは2000年のNPT国際合意に明らかに違反する行為である。国連をきちんと機能させIAEAがアメリカの国際合意違反として進行状態を査察して制裁を加えなければならない事柄である。にもかかわらず、その事実さえメデイアはほとんど書かない。このことを私たちはしっかり認識しておかなければならない。
 
11. 多国間協議の権威と機能の回復が平和実現への道
 アメリカ国民は朝鮮半島情勢にどのような脅威を感じているのだろうか?民主主義を標榜しながら、周辺諸国の意思を無視し、戦争を望んでいない北東アジアを戦場にする動機はどこにあるのか。
 イラク攻撃反対の運動がかってない世界的規模の運動に広がり、運動として成功したかのごとく感じられたのもつかの間、ブッシュアメリカのなりふり構わぬ攻撃の前に、強がりフセイン政権はいたぶられ、イラク国民をなぶり殺すごとき殺戮を見せつけられ、大きな挫折感を味わっていることも事実である。強大な武器と軍事力を前面に米国が国連をはじめ当該地域の主権をもないがしろにすることは、イラク戦争をみても明らかである。
 北朝鮮政権がアメリカを恐れ、攻める意思のない周辺諸国との交渉ではなく、アメリカとの不可侵条約を結んで国家の安泰を求めるのは「政権」の行動として理解できる。
 いっぽう、好戦的ブッシュ勢力を押さえ込む戦略としては、多国間協議にアメリカをひき入れ、平和的に解決する道を追求するしかない。
 「北の核」を解決するための多様な運動の展開、市民運動、組合の取組み、国際的な平和勢力の連携、そのための冷静な情勢分析とスローガンが求められている。(E..T) 

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