ASSERT 309号(2003年8月23日発行)

【投稿】 政局再編への胎動と小泉政権の存亡
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【投稿】政局再編への胎動と小泉政権の存亡

<<「新・非核三原則」>>
 危険極まりない戦争の暗雲が垂れ込める中、今年の8・6、8・9の広島、長崎両市長の平和宣言は、一言一言に熱い思いが込められ、心に強く訴えかけるものであった。
 秋葉忠利・広島市長は、平和宣言の冒頭で「被爆者が訴え続けて来た核兵器や戦争のない世界は遠ざかり、至る所に暗雲が垂れこめています。今にもそれがきのこ雲に変り、黒い雨が降り出しそうな気配さえあります」とその深い憂慮を述べ、その原因について、
 「一つには、核兵器をなくすための中心的な国際合意である、核不拡散条約体制が崩壊の危機に瀕しているからです。核兵器先制使用の可能性を明言し、「使える核兵器」を目指して小型核兵器の研究を再開するなど、「核兵器は神」であることを奉じる米国の核政策が最大の原因です。」と明言し、さらに、
 「しかし、問題は核兵器だけではありません。国連憲章や日本国憲法さえ存在しないかのような言動が世を覆い、時代は正に戦後から戦前へと大きく舵を切っているからです。また、米英軍主導のイラク戦争が明らかにしたように、「戦争が平和」だとの主張があたかも真理であるかのように喧伝されています。しかし、この戦争は、国連査察の継続による平和的解決を望んだ、世界の声をよそに始められ、罪のない多くの女性や子ども、老人を殺し、自然を破壊し、何十億年も拭えぬ放射能汚染をもたらしました。開戦の口実だった大量破壊兵器も未だに見つかっていません。」と、米英の対イラク戦争、これに追随する小泉政権の主張に鋭く切り込み、
 「被爆者は米国のブッシュ大統領に広島を訪れるよう呼び掛けています。私たちも、ブッシュ大統領、北朝鮮の金総書記をはじめとして、核兵器保有国のリーダーたちが広島を訪れ核戦争の現実を直視するよう強く求めます。何をおいても、彼らに核兵器が極悪、非道、国際法違反の武器であることを伝えなくてはならないからです。」と、ブッシュ・金正日両氏が広島を訪れることを強く求め、そして日本政府に対しては、
 「また「唯一の被爆国」を標榜する日本政府は、国の内外でそれに伴う責任を果さなくてはなりません。具体的には、「作らせず、持たせず、使わせない」を内容とする新・非核三原則を新たな国是とした上で、アジア地域の非核地帯化に誠心誠意取り組み、「黒い雨降雨地域」や海外に住む被爆も含めて、世界の全ての被爆者への援護を充実させるべきです。」と、要請している。

<<「北東アジア非核兵器地帯の創設」>>
 伊藤一長・長崎市長も「今年3月、米英両国は、イラクの大量破壊兵器保有を理由に、国連の決議を得ることなく、先制攻撃による戦争を強行し、兵士のほか、多数の民間人が犠牲となりました。国際協調による平和的解決を求める私たちの訴えや、世界的な反戦運動の高まりにもかかわらず、戦争を阻止できなかったことは、無念でなりません。」と、その無念さを率直に表明し、核兵器をめぐる状況について、
 「昨年1月、米国政府は、核兵器を巡る政策・戦略の見直しを行い、小型核兵器などの開発や核爆発実験の再開を示唆し、場合によっては核兵器の使用も辞さない姿勢をあらわにしています。一方、インド・パキスタンの核実験に続いて、朝鮮民主主義人民共和国の核兵器保有発言が、国際社会の緊張を高めています。核軍縮と核兵器拡散防止、あらゆる核実験禁止などの国際的取り決めは、今や崩壊の危機に瀕しています。」と警鐘を鳴らし、日本政府に対して
 「日本政府は、被爆国の政府として、核兵器廃絶へ向け先頭に立つべきです。日本の軍事大国化や核武装を懸念する内外の声に対して、専守防衛の理念を守り、非核三原則の法制化によって日本の真意を示してください。近隣諸国と協力して、朝鮮半島非核化共同宣言を現実のものとし、日朝平壌宣言の精神に基づき、北東アジア非核兵器地帯の創設に着手すべきです。」として、「非核三原則の法制化」、「北東アジア非核兵器地帯の創設」という差し迫った具体的な政策を提起している。
この広島・長崎両市長の平和宣言とはまったく対照的なのが小泉首相の両市式典における挨拶であった。首相は、「人類史上唯一の被爆国である我が国は、広島、長崎の悲劇を再び繰り返してはならないとの堅い決意の下、平和憲法を遵守し、非核三原則を堅持してまいりました。…」云々と述べたものの、平和政策ではなく、戦争政策に積極的に加担し、平和憲法に相反する戦争諸立法を次から次へと成立させ、まだ次なるもくろみをしながらの、まさに白々しい限りの演説であり、何の新味も一切の政策提言も決意表明もないものであった。それより以前にまったくの原稿棒読み、「感動した!」を連発する「熱血演説」どころか、何の思いも熱意も伝わらない、スケジュールをこなすだけの冷血演説そのものであった。

<<「孤立と危機を招く災い」>>
 一方、韓国の盧武鉉大統領は、日本の植民地支配から解放された八月十五日の「光復節」にあたり、忠清南道・天安の独立記念館で行われた日本による植民地支配からの解放記念式典で演説し、北朝鮮の核問題の平和的解決とともに、在韓米軍撤退の可能性にまで言及し、北東アジアの平和と繁栄のための地域協力を呼びかけ、「北朝鮮の核問題は早期に必ず平和的に解決されるべきだ」と強調。「問題解決の糸口が見え始めた」として六カ国協議への期待を示し、「北朝鮮はこの機会を逃してはならない。核を放棄し改革と開放を成功させるべきだ。核兵器は決して体制保障の安全弁にはならない。かえって孤立と危機を招く災いになるだけだ」と述べ、核問題の平和的解決の上に立った地域協力と経済協力・開発支援政策を行う考えを明らかにしている。
 その「6カ国協議」は、8月27日〜29日、中国・北京で開かれる。8月13日、北朝鮮外務省は、朝鮮中央通信を通じ談話を発表し、「われわれは米国に何か贈り物のように安全保障や体制保証を要求しない。国際社会から援助を受けるために核抑止力を放棄するなどということも論議の余地もない」と、核放棄の「見返り」としての体制保証や経済援助に対しても否定的な立場を示した。こうした北朝鮮の核武装や危険な挑発政策に最もほくそえみ、喜んでいるのは米国のネオコングループであろう。ミサイル防衛網に多額の軍事費を要求できるし、各国をそれに巻き込み縛り付け、膨大な利益と権益を当て込めるからである。互いに敷居を高くし、挑発することによって、客観的には米国と北朝鮮は手を組んでいるともいえよう。
 しかしこうした危険な核政策は、盧武鉉大統領が真剣に訴えているように、「核兵器は決して体制保障の安全弁にはならない。かえって孤立と危機を招く災いになるだけだ」ということである。これはどの国についても言えることである。盧武鉉政権はこの道を拒否している。小泉首相は飼い犬よろしく、ただブッシュに追随するだけである。この姿勢、落差の違いが、小泉政権の軽さと無責任性を象徴しているとも言えよう。

<<「一兵卒として行動する」>>
 その小泉首相にとってもっとも気がかりな点は、最近の支持率の低下傾向とイラクでの米兵への攻撃激化だという。何しろ、非戦闘地域に自衛隊を派遣するイラク特措法の審議で「イラクに非戦闘地域があるのか」と聞かれて、「私に聞かれても判る訳がない」と胸を張る首相である。派遣する時期が総選挙後になることにだけ画策し、気を揉んでいるのである。
そして小泉内閣の支持率は報道各社とも軒並み4〜5%減少し、42〜45%前後である。とりわけ首相にとって気がかりなのは女性層での支持率大幅減(6.2%)である。その理由は相次ぐ女性蔑視発言と自衛隊イラク派遣への懸念、そして「討論拒否の高飛車な首相答弁への反発」と報道されている。
 そして気がかりがもう一つ加わった。それが自由党の民主党への合流である。壊し屋といわれる自由党の小沢党首が、一切の条件をつけず、民主党の「一兵卒として行動する」と宣言して、民主党の菅代表との間で、民主党の人事や名称、政策を現状のまま、事実上、自由党を吸収する形で合流を決めたのである。小泉内閣成立以来、小泉首相vs自民党内抵抗派という意図的に作られてきた構図・演出が、裏取引や妥協でその正体が透けて見え始めた時期でもある。解散・総選挙を目前に控えた時期の両党の決断は、小泉政権にとって大いなる気がかりとなってきたのである。
菅・小沢の両党代表は、仙台を皮切りに8日から全国行脚を始め、新党への期待値が徐々に高まると見られており、「自民党を中心とした政権の継続」と「民主党を中心とした政権に交代」を望む人が、どちらも34%で伯仲するという結果が出ている(8/12朝日第2回「連続世論調査」)。政局の再編成への期待感の表れともいえよう。

<<「老人党」入党希望の殺到>>
 さらにふって沸いたように登場してきたのが、精神科医で作家の、なだいなだ氏(74)が旗揚げした「老人党」である。インターネット上のサイトに入党希望のアクセスが11万件以上も殺到しているという。なだ党首は、「あまりの反響と反小泉の熱気に驚いています。今年4月、病院に行ったら医療費負担が5割増しにされたばかりか、無料だったクスリ代まで請求された。こんな仕打ちに同世代の老人は黙っているのか。そうホームページに書いたところ、ガソリンの中にマッチを放り込んだように燃え上がった。老人だけでなく、現役サラリーマンや、10〜20代の若者からも多くの声が寄せられ、今の政治に不満や怒りを持っているということを実感しました。次の選挙では何かが起きる予感がします」と語る。
 老人党の目的は、小泉政権を選挙で退場させようというものである。ヴァーチャルな政党であると断りながら、「われわれの目指すところは二つあります。戦術的な対応と、戦略的対応です。当面の選挙において何とか勝つというのが戦術的対応です。あえて、野党の有力候補に投票することです。これは戦術です。民主党なんて、自民党と代わり映えがしない、と考えている人も多いことでしょう。でも戦術として、有力野党に投票する。
 二つ目は、長期的な展望をもって、日本の政治を変えていくことです。国民を無視した政治家が、選挙で落ちる、という常識を根付かせることが戦略的な目標です。」「ともかく政治的閉塞の状況からの脱出に必要なことを議論すると同時に実践に移していかねばなりません。全国的に選挙を面白くしていくことが必要です。そのためには年齢を超え、組織を超え、党派を超え、とりあえず、与野党が、交代する状況を作る必要があります。」この呼びかけが多くの人々の共感を呼び始めたのである。政局動乱へのこの流れを大きく、強く、太くしていくことが求められている。
(生駒 敬)