ASSERT 311号(2003年10月25日

【投稿】 選挙突入と逆転の可能性
【投稿】 混乱の中で、生まれた自治労新綱領「21世紀宣言」
【投稿】 危機感を感じる連合大会 by 立花 豊
【書評】 労働運動再生への問題提起
【追悼】 全さんのこと(追悼 原全五さん)
【ひとりごと】 ふたたび諫早を訪れて--総選挙の争点--
【「民学同40周年を考えるホームページ」開設にあたって

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【投稿】 選挙突入と逆転の可能性

<<日本はATM?>>
 10/17は、小泉首相にとって落ち着かない日であったといえよう。午前中から道路公団の藤井総裁解任劇進行に気を揉み、午後からはブッシュ米大統領を迎えての対イラク戦戦費負担と自衛隊派遣の手打ち式であり、いずれも解散・総選挙に合わせて小賢しく仕掛けた手練手管が吉と出るか凶と出るか気が気ではなかったであろう。
アメリカの大統領をまで総選挙に利用し、応援に借り出したようなものである。しかしなりふりかまわぬその舞台回しのために、戦後のどの政府もなし得なかった密約まがいの憲法違反行為を国会審議も通さずにあえて踏み出したことは銘記されるべきであろう。
ブッシュ来日前の10/15、政府はイラク復興支援を正式表明し、04年度分は15億ドル(約1650億円)、07年までの4年間で総額50億ドル(約5500億円)もの支援をする方向を明らかにし、さらに自衛隊の年内派遣もいつのまにか「本決まり」で、いずれも国会の議決も承認もなしに決定したのである。いかにも日本政府の自主的決定であるかのような体裁をとったが、密室で秘密裏に決定したことには変わりはない。17日の日米首脳会談では、ブッシュから「日本の大胆な行動は国際的な支援を加速させる。称賛したい」と肩を抱き寄せられ、小泉は有頂天である。しかしこれはまだ手始めである。アメリカはイラクの復興と治安維持にかかる費用を向こう10年間で1000億ドル(約11兆円)以上と計算し、日本は前回湾岸戦争と同様、今回も全体の2割にあたる200億ドル程度の負担を要請し、半年前のブッシュ・小泉会談でこの戦費負担と自衛隊派遣が密約されていたのである。そのことは、ブッシュ大統領が今回の訪日に先立ち「彼は約束を守ると信じている」と駄目押しをしたことにもあらわれており、さらにその前の9/30、アーミテージ米国務副長官が下院歳出委員会の公聴会で証言し、「大統領は金を要求しに訪日するのではない。日本がATM(現金自動預払機)とは考えていない」と述べながら、なおかつ日本が「気前よく」資金拠出に応じてくれるとの見通しを示し、「われわれは日本と集中的に取り組んできた。彼らは気前のいい約束をすると思う」と述べ、資金拠出を確約している国名として日本だけを挙げていたのである。小泉政権はこの密約を大統領訪日直前に「自主的に」実行したわけである。

<<「本質的な」問題>>
日本の「4年で5500億円」はケタ外れの巨額である。15カ国が加盟する欧州連合(EU)のイラク支援額は2億ユーロ(260億円)に過ぎないし、ロシアは1ルーブルも出さないことを決めている。英国でさえ、3年間で1020億円の拠出を表明しただけである。
しかもEUは米英占領軍の「CPAからは独立したチャンネル」で人道援助としての復興資金を提供することを決定している。EU理事会は、復興努力の成功にとっての「本質的な」問題として、(1)イラクの適切な治安環境、(2)国連の強力かつ中心的役割、(3)イラク国民に政治責任を移管する現実的日程表、(4)国際社会の支援を集中する透明性を持った多国的な基金の設立−の四点を改めて強調している。
9/23、ブッシュ大統領が国連で演説し、イラク派兵と資金援助を呼びかけたが、「百九十一カ国のうち一国として支援を申し出た国はない」(仏紙フィガロ9/26付)というほどのブッシュにとっては惨憺たる状況である。
 このほど採択されたイラクに関する国連安保理の新決議1511についても、フランス、ドイツ、ロシアは、決議案採択にさいして、共同声明を発表し、決議案を「正しい方向への一歩」として支持しながらも、「国連の役割」「イラク国民への責任移譲」の二つの点で問題があったとして、軍隊も、資金拠出もおこなわないという態度を明確にし、中国政府も同様の立場の表明をおこなっている。
 米国内でさえ、ブッシュの性急な「イラク攻撃は間違っていた」という世論が急速に強まり、ブッシュの支持率は急降下し始め、このままでは再選は無理という見通しさえ出始めている。米紙ロサンゼルス・タイムズ10/13日付社説は、復興資金がどれだけイラクのためになるのか、誰がどのように使うのかが問題だと指摘。米政府が議会にさえ十分な情報提供をしないどころか、復興事業をチェイニー副大統領関連のハリバートン社のような企業に丸投げして契約しているのは納税者の利益に反すると警告するような事態である。そんなブッシュに小泉が大盤振る舞いをすることは、EUの指摘する「本質的な」問題に、世界の趨勢に完全に逆行する資金提供といえよう。

<<Boots on the Ground>>
 自衛隊のイラク派遣の決定方法も国民を愚弄するものである。国会審議では首相自ら「どこが戦闘地域か、私に分かるわけがないでしょう」と責任を放棄して居直り、「非戦闘地域への派遣」原則に答えられず、答弁不能に陥ったまま、事態をうやむやにし、「いつ、どこに派遣するのか」という野党の追及に一切答えなかったものが、国会を解散するや、ここぞとばかりに“派兵指示”である。まさにブッシュとの密約のだまし討ち的実行である。アメリカは日本にこの際、"Boots on the Ground"(軍靴の派遣)を迫り、イラク情勢が改善するどころか悪化する事態に自衛隊の年内派遣が先延ばしされることを懸念し、アーミテージ米国務副長官が「今さら逃げるな」といったとたんの年内派遣決定である。「(調査団の報告を聞いて)日本としてできることがあると感じた」(小泉首相)と、急遽ブッシュとの会談に間に合わせたのである。国会での審議も承認も一切ない、従来のPKO(国連平和維持活動)派遣の手順さえ踏まない、ブッシュとの密約の実行である。
 防衛庁は南部のナーシリヤとサマワの2都市の周辺に絞り込み、初の「陸自戦時派遣」を決断したという。 陸自部隊は施設、警備、通信、本部管理からなる600―700人で、北海道の北部方面隊第2師団(旭川市)が主力となる見通しである。イラク北中部に比べれば比較的に安全だといわれている南部も危険地帯であることには変わりはない。しかも南部のバスラ周辺はペルシャ湾岸まで続く広大な湿地帯で、塩砂漠ともいわれ、大量に投下され発射された劣化ウラン弾をこの塩が弾殻を腐食させ汚染を進行させているという。水溶性のウランは地下水と土壌をも汚染し、食物連鎖による汚染まで起こし、そして当然派遣される自衛隊員をも被爆させ汚染させるであろう。
 米誌ニューズウィークでさえ、「日本は後戻りできない一歩を踏み出してしまった 」として、「多くの同盟国が「軽い介入」ですませるなかで、日本は大風呂敷を広げすぎた。もう「憲法に縛られている」という言い訳は通用しない。いくら財政危機が差し迫っていても、小切手外交の復活を望むアメリカを黙らせることはできない。北朝鮮の金正日総書記の不気味な影が、アメリカ支援に走らせたのだろう。だが日本は今回、やりすぎてしまったのかもしれない。窮地を招いたのは小泉自身だ。スペインのように立ち回るには遅すぎる。」と指摘している。(日本版10月15日号)

<<「何が違うのか?」>>
 「イラク派遣の是非が総選挙の争点になることは避けたい」、巨額の戦費負担についても、ましてやその財源についても争点にはしたくはない、すべてを「構造改革」に流し込め、これが小泉政権の選挙戦略であろう。小泉首相が絶叫してきた「自民党をぶっ潰す」というスローガンがいつの間にか「自民党は変わった」に取って代わり、たとえポーズといえども自らが対決してきたはずの「抵抗勢力」、そのドンである青木幹雄氏と手を組んだことは、今やその支持基盤が崩壊の危機に瀕している自民党政権の延命こそが小泉政権の最大の目的であり、使命でもあることを小泉首相自身が自覚した結果でもあろう。なりふり構わぬ政権への執着が、あの聞くに堪えないほどの絶叫調の身振り、手振り、口舌に表現されている。選挙向けに急遽取り立てられた安倍幹事長は代表質問で「当選3回の私が幹事長職にあたるという一点でも明らかに自民党は変わった」と強調したが、変わったとすれば、日本が核兵器を使用しても違憲ではない、と広言して恥じない、それほど軽すぎる安倍氏が幹事長に就任するほど軽挙妄動の危なっかしい権力機構が登場してきたということであろう。
自民党をぶっ壊すどころか、デフレ加速政策で経済を破壊し、福祉・年金・医療・介護を破綻のふちに追いやり、先制攻撃論に加担して平和の破壊に加担し、ついには憲法の平和条項の破壊にまで手を染め出したのである。総選挙の対決点はこれらに集約されているといえよう。テレビ討論の場で「小泉改革と何が違うのか」と問われて、民主党の岡田幹事長が「一番の違いはスピードだ。我々の方がずっと速い」と答えるようではおぼつかない限りではあるが、小泉政権のおごり高ぶった姿勢は彼らの末期的な弱点をもさらけ出している証左でもあり、自民党の伸び悩みと敗退にさえつながるものである。
 ある選挙情報調査によれば、「小泉内閣の高い支持率とは逆に、各ブロックで自民党の退潮が歴然としており、民主党が単に議席を伸ばすというだけでなく、最大限に見積もった場合、<民主党203+7−15>、<自民党196+18−3>という逆転がありうると分析している。(週刊ポスト10月24日号)
 自民党政権に終止符を打つチャンスでもあるといえよう。
(生駒 敬)