ASSERT 318号(2004年5月22日発行予定)

【投稿】 小泉政権の危うい綱渡り
【討論】  広がりつつある能力・成果主義 (その2)
     --- どうなる?これからの賃金システム---
【資料紹介 「9条の生みの親」を知ろう
          1、田英夫議員のHPより
          2、亀田得治弁護士の弁論より

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【投稿】 小泉政権の危うい綱渡り

<<出し抜けの訪朝発表>>
 5/14、北朝鮮訪問を突如発表した小泉首相の心中は穏やかなものではなかったであろう。この日夕刻、首相官邸で開かれた政府与党首脳会議で、訪朝決断の経緯説明の最後に「決して、この日に合わせて発表するわけではありません」とわざわざ釈明をしたのである。この同じ日、民主党の新代表に小沢一郎氏が決まり、さらに決定的な首相自身の年金未加入・未納が明らかになった。週明けに発売される「週刊ポスト」誌上に、首相の未加入問題が報道されることを知り、急遽、出し抜けの訪朝発表でメディアをかく乱し、あわよくばこれらを打ち消そうという、いかにも姑息で小賢しい、しかも見え透いた汚いやり方が誰の目にも明らかになったのである。これは危険な綱渡りに首相自身がびくついている証左でもある。
 これまで首相は「(年金未納期間は)ありません」と言い切り、「衆院議員当選前も含めて未納はないか」と念を押されても「ありません」と断言し、福田官房長官が辞任したときも、首相はみずからの支払いについて「ちゃんと払っている。調べてくれればわかる」と語り、続いて菅民主党代表が辞意を表明したときにも、自身の未納の有無を問われて「ありません」と明言してきた。そして連立相手の公明党の神崎代表らの未納が発覚したときには、「意図的じゃないんでしょ」などとかばい、自分たちだけはやむをえない事情を認め合い、まるで他人事のようにすり抜けてきた。
 ところが、5/14に明らかになった首相の未納期間は6年11カ月間にも及び、これまでの誰よりもはるかに悪質だった。しかも「週刊ポスト」誌によると、首相は衆院議員に初当選した後、1年半以上にわたって、議員と不動産会社社員とを兼職し、勤務実態もなく厚生年金に違法加入していたという。これはかつて民主党副代表だった鹿野道彦氏が議員になった後も、三重県の後援会企業の社員を兼職し、勤務実態がないのに給料を受け厚生年金に加入していたことが02年に発覚し、離党に追い込まれたケースとまったく同一の、架空加入、脱税の悪質な違法行為である。

<<「きょう知った」>>
 さらに悪質なのは、こうした問題に対する首相の姿勢である。同じ14日夜に開かれた緊急の記者会見で、6年以上にわたる国民年金の未加入期間について、「きょう知った」と述べ、「未加入と未納は違う」、「国民年金が強制加入になった86年4月以降は払っている。加入すべき期間は払っている」として、自らの政治責任については「全くない」と強弁し、「40年も前のことですよ。問題にするほうがおかしい」、「学生時代のことまで覚えてないよ。よく調べた人がいるもんだな」と空とぼけ、「国民が納得すると思うのか」と突っ込まれると、「国民はやっぱり(年金は)複雑な制度だと思っているでしょうね」などとぬけぬけと言ってのけ、薄ら笑いをさえ浮かべるその政治姿勢である。「百年先も安心」どころか、計算根拠が薄弱で嘘とごまかしだらけで、しかも一時しのぎにしか過ぎない今回の年金法案を提案している当の最高責任者が、自らの年金履歴についてまったくこれまで調べもせずに放置して、「複雑な制度だ」と無知をさらけ出し、あげくの果てに「個人情報が本人の承諾なく週刊誌に載るのはどうか」などとメディアを威嚇し、無責任な放言をして居直っているのである。問題に対処する誠実さも真面目さのひとかけらもない、都合の悪い事には知らぬそぶりをし、それでも追及されると居直るその政治姿勢である。
問題の未加入期間についても、首相の個人事務所で保存している銀行口座の引き落とし状況などから確認したといい、年金の支払いを管理する社会保険庁には確認もしていなければ、問い合わせさえしていない。それを追及されると、秘書官は「不都合がありますか」と開き直っている。首相は「ちゃんと払っている。調べてくれればわかる」と言いながら、自身の納付情報の確認さえこれまでしてこなかった、そのことについて謝罪の一言もない、そのあきれはてたずうずうしさ、厚顔、無恥さ加減には開いた口がふさがらないと言うたとえそのままである。
 民主党の岡田克也幹事長は14日の記者会見で、「国民にウソを言っており、許し難い。首相以前に政治家を辞めてはどうか」と衆院議員の辞職を求めたが当然のことである。この際、内閣総理大臣の不信任案を提起すべきであろう。

<<未払い率41%>>
 この首相にしてこの閣僚ありであろう。「うっかりミス」(石破防衛庁長官)、「忘れていた」(中川経産相)、「思い込み、勘違い」(福田官房長官)、「仕組みに不慣れ」(竹中金融・経財相)、「誠に不明の至り」(谷垣財務相)などといずれも過失を装っておとぼけ、辞任はおろか、政治責任の自覚などゼロである。竹中大臣にいたっては、未納問題発覚直前、急いで2年分の保険料を一括納付して、未納期間を「11か月」と短縮することに躍起になっていたと言う。小泉内閣の大臣17人中、実に7人が未払いである。国民年金の未払い率が37%だといわれるが、小泉内閣の未払い率がそれを上回る41%にも達しているのだから、そもそも小泉内閣には、年金法案を提案したり、審議する資格などないし、ましてや強行採決する権限などはなからないといえよう。おまけに年金の主管官庁である厚生労働省の森英介、谷畑孝の両副大臣までがいずれも未納だったというのだからお笑いである。二人とも発覚するまで知らぬ顔をしていたのだからあきれ果てたものである。
さらに年金法案を与党で単独強行採決した自民党の衛藤晟一厚生労働委員長が、初当選の90年2月以来、まったく払っていなかったというのだから、もはや二の句もつげない。この衛藤という人物、読売新聞の調査に「未納は当然ない」と答えていたのだから、公然と嘘をつきながら年金法案の審議を取り仕切っていたわけである。「仕組みに不慣れ」で「うっかりミス」で保険料を払ったこともない犯罪者が裁判長席につき、国民を被告席に立たせて、もっと納付率を上げよ、保険料も多く支払え、とさしずをして審議をしていたようなものである。
 法案を主導する政府閣僚、与党幹部だけではなく、与党議員の中からも未納者が続出し始め、野党各党が所属の国会議員の納付状況を調査して公表しているにもかかわらず、自民党は党としての調査も実施できない、実施する意図もない、安倍幹事長にいたっては「魔女狩りのごとくだ」と述べて、未納議員を問題視すること自体を非難する始末である。
 自民党衆参議員360人中、「読売」で76人(21%)、「毎日」で二割が未回答で、少なくとも「読売」で61人、「毎日」で58人が未納議員であり、その中には首相経験者や閣僚経験者などがずらりと並んでいると言う。こんな無責任な事態を放置し、平然と政府や与党が居座っておられること自体がおかしいし、これは法治国家以前の状態と言えよう。こんな政府・与党の下では年金不信はいっそう深まり、納付率は下がりこそすれ、上がることはありえないと言えよう。

<<「きちんと処分する」>>
 そして連立の相手である公明党の対応も同罪、あるいはそれ以上に悪質と言えよう。民主党を初め野党が次々と全議員調査を公表しているさなかにも、ただひたすら隠し通し、年金法案が衆院通過(5/11)した翌日になってから、神崎武法代表自身と冬柴鉄三幹事長、北側一雄政調会長ら三役を含め未納者計十三人を公表したのである。
 議員の未納率では全政党でトップの地位を占めている。その居直り感覚も小泉首相と同等である。自らも未納の先頭に立っていた神崎代表は、民主党の菅直人代表の未納問題での辞任に際しては、「国民の信頼を損ねた以上、辞任はやむを得ないだろう」とのべ、そして菅代表の辞任表明後は「政党のトップとして国民の信頼を損ねた以上、辞任はやむを得ない」とすまし顔で語っていたのである。そして「わたしたちの党内でも現在調査を進めている。未納者がいたら、きちんと処分する」(5/8)と述べ、自らの納付状況に関しては「完済したことを社会保険庁に確認している」と述べていたことまでもがまったくの嘘でたらめであったことが今回暴露されたのである。「国民に大きな不信感を与え、誠にざんきに堪えない」と陳謝はしたが、「きちんとした処分」は「けん責」で済まし、「代表、幹事長は引き続き責任を持って職務に精励してほしい」と激励されたと述べて、辞任を拒否して、居座っているのである。
 同党出身の坂口厚生労働相は、5/15のパーティー会場で、9年9カ月間、保険料を納めていなかった公明の山下栄一参院議員について「いろいろと失敗もある。どうか山下さんにお力添えを」と激励する始末である。さらに同相は、各議員の年金情報が個人情報にもかかわらず、社会保険庁自身から漏出しているとして、犯人探しと情報隠しに乗り出している。

<<「三党合意」>>
 ここまでくれば、本来ならば自公連立内閣は総辞職し、今回の年金法案は廃案にして、年金改革のマニフェストを争点に解散・総選挙をして仕切り直すことが当然であろう。ところがこの間の未納議員続出の中で、民主党は菅代表の辞任問題に揺れ、しかも、その最中に自民、公明、民主の3党が、年金一元化を含む制度改革について3年後をめどに結論を出すことで合意し、民主党は政府案の採決を認める事態をもたらした。菅代表は、みずからの年金未納ばかりか、この3党合意が党内からの猛反発に直面して辞任を決断せざるをえなくなった。未納問題で言い訳に終始して反転攻勢に打って出るべきチャンスを見失い、3党合意という玉虫色の空手形で自公両党に助け舟を出すという誤算が民主党に混乱をもたらしたと言えよう。
 後任の民主党代表に決まった小沢氏は、この3党合意に反対する姿勢を明確にしており、事実、年金法案と「三党合意」に基づく修正案を採決する衆院本会議を、「公平で安定した年金制度の確立を求める国民などへの背信行為であり、賛成できない」とコメントして、採決に欠席している。そして現執行部が承認した「三党合意」の取り扱いについても、「私の政治理念、哲学、信条、信念はどんな立場になろうとも変わらない」とのべ、反対の意思を明確に示している。その小沢氏に党首就任を頼らざるを得ないのであれば、民主党はこの際、三党合意についても仕切りなおしをすべきであろう。
今回の年金未納問題を通じて、有権者は全政党に辟易とし、醜いどたばた劇と裏取引にうんざりとし、政治不信をいっそう募らせたことは否定しようがない。しかし最大の不信を向けられているのは小泉政権である。これほど小泉政権が醜態をさらけ出している今こそ、野党は奮起して政治姿勢を再点検し、小泉政権を退場に追い込むべきであろうし、その可能性は大であると言えよう。
(生駒 敬)