ASSERT 321号(2004年8月21日発行)

【投稿】 広島・長崎「平和宣言」と改憲論議が提起するもの
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【投稿】 広島・長崎「平和宣言」と改憲論議が提起するもの
<<アルジャジーラの日本風刺アニメ>>
 カタールの衛星テレビ・アルジャジーラのウェッブ・サイト(http://english.aljazeera.net/Structural%20Postings/CartoonDisplayerPopUp.htm?idPageImage={A676ABD4-ECEF-4C01-B013-6FAF69F49780})に8月7日付で掲載されている約30秒の風刺アニメ「日本は広島の惨禍を忘れない」(Japan remembers the horror of Hiroshima.)が評判である。冒頭のJapan に続いて、August 1945 で広島への原爆投下が描かれ、And Today...の画面になると、日の丸の鉢巻きをした羽織袴姿の日本人が片手で刀を振りまわしながら、そっともう一方の手で「われわれは核兵器開発を非難する」(We condemn nuclear & atomic development)というプラカードを差し出す。そして次の場面では、米国、ロシア、中国、英国、イスラエル、インド、パキスタンがそれぞれの大きさに見合った核爆弾の上に乗っかっておきながら、「われわれもそうだ」(We too…)と口をそろえている。実に痛烈できつい皮肉の効いた作品である。日本が世界で、中東でどのように見られているかを端的に示してくれる。
 その日本の小泉首相は、8月6日と9日、広島と長崎の平和記念式典に足を運びながら、まるで誠意の感じられないおざなりなあいさつに終始し、しかも今年のあいさつは、昨年のあいさつの段落を入れ替えただけのしろもので、時間も短縮し、あいも変わらず「核兵器の廃絶に全力で取り組んでまいります」とか「今後とも、平和憲法を順守する」などとその気などさらさらない空虚な大嘘を並べたてただけで、参加者の拍手さえほとんどまばらで孤立したものであった。広島市長や長崎市長の平和宣言に対しては力強い大きな拍手が送られたのとは対照的である。首相がまさに「We too…」の同伴者であることが見抜かれているのである。

<<「日本政府に求めます」>>
 秋葉忠利・広島市長は、その平和宣言の中で「広島市は、世界109か国・地域、611都市からなる平和市長会議と共に、今日から来年の8月9日までを「核兵器のない世界を創(つく)るための記憶と行動の一年」にすることを宣言します。…私たちが今、蒔(ま)く種は、2005年5月に芽吹きます。ニューヨークで開かれる国連の核不拡散条約再検討会議において、2020年を目標年次とし、2010年までに核兵器禁止条約を締結するという中間目標を盛り込んだ行動プログラムが採択されるよう、世界の都市、市民、NGOは、志を同じくする国々と共に「核兵器廃絶のための緊急行動」を展開するからです。 」と具体的な目標に向かって呼びかけ、さらに「日本国政府は、私たちの代表として、世界に誇るべき平和憲法を擁護し、国内外で顕著になりつつある戦争並びに核兵器容認の風潮を匡(ただ)すべきです。また、唯一の被爆国の責務として、平和市長会議の提唱する緊急行動を全面的に支持し、核兵器廃絶のため世界のリーダーとなり、大きなうねりを創(つく)るよう強く要請します。」と結んでいる。
 伊藤一長・長崎市長も、「アメリカ政府は、今なお約1万発の核兵器を保有し続け、臨界前核実験を繰り返しています。また、新たに開発しようとしている小型核兵器は、小型といっても凄まじい威力を持つものです。来年は被爆60周年を迎えます。国連で開催される核不拡散条約(NPT)再検討会議へ向け、平和を願う一般市民やNGOなど、地球市民による連帯の力を結集し、非人道兵器の象徴ともいえる核兵器の廃絶に道筋をつけさせようではありませんか。」と訴え、同時に「日本政府に求めます。日本国憲法の平和理念を守り、唯一の被爆国として、非核三原則を法制化すべきです。この非核三原則と朝鮮半島の非核化を結びつけることによって、北東アジア非核兵器地帯を生み出す道が開けます。」と日本政府への具体的な要求を突きつけている。
 この両宣言が提起する国連の核不拡散条約再検討会議に向けた行動プログラム、「核兵器廃絶のための緊急行動」、そして日本政府に対する平和憲法の擁護、非核三原則の法制化、北東アジア非核兵器地帯への努力の要求こそが、いま問われている焦眉の課題といえよう。

<<「どんどんやろう」>>
 ところが平和憲法の根幹ともいうべき九条改定が日米両政府の焦眉の課題ともいえる論調や発言が横行しだしている。
 7/21に、アーミテージ米国務副長官が中川秀直自民党国対委員長との会談で「憲法九条は日米同盟関係の妨げの一つ」と発言したのに続いて、この8/12には、パウエル米国務長官が在ワシントンの報道機関計7社と会見し、「日本が国際社会で十分な役割を演じ、安保理でフルに活躍する一員となり、それに伴う義務を担うというのであれば、憲法9条は(現状のままで問題がないかどうか)検討されるべきだろう」と明言したのである。 同長官は憲法9条について「日本の人々にはとても、とても強い思い入れがある」との認識を示し、憲法9条の「重要さ」や日本の憲法に9条が盛りこまれている背景を理解しているとも述べ、「憲法9条を修正するか、変更するかどうかは、もちろん絶対的かつ完全に日本の人々が決めるべき問題だ。それは皆さんの憲法だからだ」とも付け加えたが、これは「常任理事国入り」というエサに小泉首相が飛びついてくることを前提にした、明らかな内政干渉発言である。
 アーミテージ氏は先の中川氏との会談で「十年前でさえ、今のような(憲法改正)論議は無理だった。五年前でも、ささやかなければならなかった」と振り返り、しかし今や状況は大きく変わり、今こそ「どんどんやろう」と発言している。これを受けたパウエル発言は、この際、改憲を明言しだした小泉首相、民主・岡田代表の改憲是認発言を絶好の好機と判断して、九条改定を一気に押し進めようという魂胆が露骨に現われている。
 すでに自民党は「おおよそ三年後、二〇〇七年には戦後初の憲法改定が実現する」(中山太郎衆院憲法調査会会長)と位置付けている。

<<憲法改正をまず『やってみる』>>
 日本経団連の奥田会長は、今年四月の会見では「(憲法問題は)私としてはいいにくい」と明言を避けていたが、七月下旬に開いた恒例の夏季セミナー後の会見では、「(自分を)改憲論者と思ってもらっていい」と明言している。
 この夏季セミナーでは、経団連の憲法改正などを議論する「国の基本問題検討委員会」委員長の三木繁光副会長(東京三菱銀行会長)も、「憲法九条二項や(武器の輸出を制限した)武器輸出三原則の見直しは避けて通れない」と断言している。
 しかしこの夏季セミナーで講師を務めた作家の半藤一利氏が「国連憲章をきちっと具現化している日本の憲法を『これ以上のものはないんだ』と訴えかける方が、改正論議よりはるかに良い」と語るとうなずく出席者も多く、改憲をめぐる意見が経団連内でも大きく割れている様子をうかがわせ、これに呼応するように「軍隊を持たないできたことが、日本経済の発展にもそれなりに貢献した面もある。もうちょっときちんとした議論をしないと危なくてしょうがない。日本はムードですぐ行っちゃう国だから」と、勝俣恒久副会長(東京電力社長)が、戦力保持や交戦権を否定した憲法九条二項の拙速な改正論にくぎを刺したという。(7/25、東京新聞)
 しかし、財界の政策提言団体である日本経済調査協議会(理事長・橋本徹みずほフィナンシャルグループ名誉顧問)の「憲法問題を考える調査専門委員会」(委員長・葛西敬之JR東海会長)は7/29、改憲をめざした提言をまとめ、これまで「タブー視されてきた」憲法問題を真正面から取り組むことを強調し、憲法九条については、「国際社会の現実から目をそらし、平和の幻想を守ることに役立つ」ものだったと事態を逆さに描き、「憲法改正により、軍事力使用の枠組みを憲法に明示すること」を提言し、さらに憲法の「改正」手続きにまで言及し、国会発議の条件を、総議員の「三分の二以上の賛成」から「過半数の賛成」に緩和することを求め、その上で、「党派間での合意を醸成して、憲法改正を『やってみる』ことがまず必要」などと無責任な提言を行っている。

<<後出しじゃんけん>>
 さて、問題は民主党である。同党の岡田代表は7/29、訪米先のワシントンで講演し、同党の外交政策にかかわって「憲法を改正して国連安保理の明確な決議がある場合に、日本の海外における武力行使を可能にし、世界の平和維持に日本も積極的に貢献すべきだ」と述べ、憲法9条改定によって武力行使を可能にする立場を表明したのである。
 すでに岡田氏は、7/15のテレビ番組で「9条を書き換えると言う前提だ」と発言し、「9条は非常に分かりにくい条文だし、素直に読めば自衛隊も違憲になる」、「場合によっては海外での武力行使が認められるよう書き換えればよい」などと述べていた。そして今回の訪米先の講演では、イラクへの自衛隊派兵についても、治安状況の安定や憲法との関係がクリアされれば「自衛隊を派遣しPKO的な役割を果たさせる」ことも選択肢だとまで述べている。もちろんその前に岡田氏は、小泉首相とは違って、ブッシュ政権の単独行動主義に苦言を呈しつつ、日本は米国との集団的自衛権の行使を無条件で認める立場をとるべきではないと強調してはいる。
 しかし直前の参院選では、民主党が自衛隊の多国籍軍参加反対を前面に打ち出し、イラクへの自衛隊派兵反対を訴え、岡田氏自身、憲法問題でも日本記者クラブの党首討論(6/21)で「武力行使に対して現憲法がとる慎重な姿勢は引き続き維持すべきだ」と主張していたのである。ところが民主党が躍進し、選挙が終わればこれである。「政治家にとって言葉は重い。これだけ大事な問題で、いかようにも解釈される乱暴な発言をしたことは、党首としては失態だ。」、「小泉首相のイラク政策に賛成できず、民主党に期待する有権者も戸惑う。まず、きちんと説明することだ。」(8/3付、朝日社説)と指摘されても当然であろう。
 二日放映のテレビ朝日系「報道ステーション」で古舘キャスターが「(参院選では)自衛隊の(イラク)派遣反対で、本音はいまごろ武力行使といった。これは後出し(じゃんけん)だと思う人がいる」と指摘したのに対して、岡田氏は「今回の発言は新しい発言ではない。私がいろんなメディアを通じて何回ものべてきたことだ」と反論する、コメンテーターの加藤氏が「それなら、ついこの前、参院選をやったんだから、そこで問いかけたらよかったんじゃないか」と述べる、岡田氏は「マニフェストにも書いてありますよ」と反論するが、古舘氏に「マニフェストには一言も書いていないですよ。国連決議のもとに、武力行使ということは」とたたみかけられて一巻の終わりである。
 公明党は、選挙直後の中央幹事会で「自公連携は重要だが、国家主義や右傾化にはブレーキ役になる」と確認している。そこで自民党からは、求心力を失いレームダック化しつつある小泉政権に活路を開くために、この際は改憲のための自民・民主の「大連立」(中川秀直国対委員長)を求める声があがる事態である。憲法9条改定に賛成する民主党議員の立場が問われているといえよう。
(生駒 敬)