ASSERT 324号(2004年11月20日発行)

【投稿】 ブッシュ再選がもたらす混迷
【投稿】 正念場の三位一体改革
【投稿】 増税を巡る攻防へ
【投稿】 新潟中越地震と柏崎刈羽原発
【コラム】 ひとりごと---新潟中越地震に思う--

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【投稿】 ブッシュ再選がもたらす混迷

<<「赤」「青」の塗り分け>>
 ブッシュ米大統領の再選が決まり、最も胸をなでおろした一人が小泉首相であろう。なにしろ、選挙前に世界各国で行われた世論調査では、欧州をはじめ多くの国々でブッシュ落選・ケリー勝利を望む声が多数派であったのである。そして現実の選挙戦も、過去の例からみて圧倒的に有利で、強くて当然と言われる「戦時大統領」であるにもかかわらず、両者互角の激突、接戦となった。ブッシュ陣営は、9・11テロで息を吹き返して90%以上の支持率を獲得していた当時はすでに過去のものとなり、ケリー候補にぎりぎりまで追い詰められる激戦となった。いまや米国の世論は、甲乙つけがたく明確に二分された姿を現わしたと言えよう。
 ブッシュの「赤」、ケリーの「青」に塗り分けられたアメリカは、東北部と西部太平洋岸の各州、そして五大湖周辺は「青」、中西部と南部は「赤」一色とくっきりと塗り分けられた。いわば「赤」は南部、「青」は北部、というアメリカの南北問題を軸に、保守とリベラル、都市部と農村部、世代間対立、宗教観対立が重層的に深まり、分断された社会の様相を濃くしたと言えよう。「都市の持てる層によるリベラリズム」に対する地方の「草の根保守」や「モラル・ママ」、テロ恐怖の流布と「セキュリティ・ママ」現象があおられた。
 テロ恐怖の極め付けが、投票日4日前に意図的計画的ともいえる手法で流されたビンラディン映像であった。
 しかし、米CNNなど主要テレビ局や有力紙が11/3に発表した出口調査によると、ブッシュ支持者が最重要問題として挙げたのは、イラク問題やテロ対策ではなく、同性愛結婚や中絶、銃規制問題など倫理的価値観で、ブッシュ支持者はそれらを重視する年配の白人が多かったことが判明したという。ウォールストリート・ジャーナルによると、性別ではブッシュ氏は男性の52%、女性では45%が支持したのに対し、民主党のケリー氏は男性が47%、女性は54%で男女が逆転し、また、白人票はブッシュ氏が55%、黒人票はケリー氏が90%、ヒスパニック系ではブッシュ氏が41%に対しケリー氏は56%で、黒人ヒスパニック票はケリー氏が強さを見せたという。さらに世代別では、ケリー氏が18〜29歳の若年層が56%を獲得したのに対し、ブッシュ氏は60歳以上の年配層が51%となったという。

<<「あまり歓迎されない2期目」>>
 しかし選挙戦、なかんずくテレビ討論は、イラク戦争の是非を軸に激論が交わされ、外交・安保問題がトップテーマに浮上、直後の世論調査で明らかなようにケリー優勢は誰の目にも明らかであった。選挙の結果は僅差で現職が制したが、いかに対テロ・イラク戦争に反対論が多く、今後一層厄介な問題としてブッシュ政権を悩まし続けていくかが証明されたともいえよう。
 いずれにしてもこの問題では、「あと4年」、「あまり歓迎されない2期目」が始まる。ブッシュ大統領は11/3、ワシントン市内で演説し、「わが軍は敵には正義を、アメリカには名誉をもたらした」と、イラク戦争をあらためて自画自賛、2期目も「あらゆる資源を動員して対テロ戦争を行う」と挑戦的な姿勢を表明した。そして「無実の民を殺害する者、イラク国民や連合諸国を恐怖に陥れようとする者、民主主義の阻止を図る者たちを裁きにかける」と叫ぶ。しかしこの言葉ほどブッシュ氏自身に向けられた言葉がないと言うほどに皮肉なものはない。国連事務総長の警告をも無視したイラク・ファルージャの総攻撃は、まさに「無実の民を殺害する者」、「イラク国民を恐怖に陥れようとする者」、「民主主義の阻止を図る者」、そして「裁きにかけられる」者とは、ブッシュ氏自身であることを明らかにしている。
 ファルージャへの大規模な空爆・掃討作戦は、今や住民大量虐殺の様相を呈し、反米感情をより一層激化させ、イラク全土で非常事態宣言が出され、ベトナム戦争以来の激しい市街戦となっており、イラク全土で宗派を超えた抵抗闘争をさらに拡大させ、イラク国内外の混乱をよりいっそう深めさせ、ブッシュ氏ではますます泥沼から抜け出せないことを証明しつつある。

<<ドル急落の可能性>>
 2期目に入ったブッシュ政権が、国論を二分した選挙結果を踏まえ、より現実的路線、協調的路線に転換するのではないかという考え、それは幻想であるということを、ブッシュ氏自身が指し示した。
 しかし「あらゆる資源を動員して対テロ戦争を行う」という戦略は、ブッシュ政権を混迷に追い込むであろう。限りなく膨れ上がるイラク戦費の膨張、広がる対テロ戦線の拡大、その一方での富裕層を対象とした大規模な減税は、財政赤字をさらに拡大させ、経常収支をより悪化させ、このまま推移させれば、ドルの大幅な下落、そして世界経済全体の混乱を招くのは確実である。いくら基軸通貨国であるとはいえ、価値の下落するドルを支えきれない事態を招来するのは不可避と言えよう。
 すでにブッシュが大統領に就任した当初は黒字だった財政赤字はGDPの4%を超えるまでにふくれ上がっており、経常収支の赤字は今年中にGDPの5%を超える見込みである。そしてこの経常収支の赤字が5%を超えた1980年代半ばには、ドルの急落が起きているのである。
 ところで、日本政府が持つ外貨準備高の大半は米国債で運用され、保有残高は2004/8月末で約7000億ドルもの巨額に達している。さらに、政府・日銀が円高抑制・ドル買い支えのために続けてきた大規模な円売りドル買い介入は限界に来ている。このままブッシュに追随して事態を放置すれば、これらの外貨準備が一瞬にして激減する深刻な打撃を受けかねない。もちろんそれにとどまらず、ドルの暴落は円高を招き、ドル建て資産が打撃を受け、経済全体がダメージを受ける。こうした事態の進行を回避するためには、大胆な政策転換が要請されるところであるが、強制されない限りは不可能と言えよう。
(生駒 敬)