ASSERT 325号(2004年12月18日発行)

【投稿】  ドル安の進行と暴落の可能性
【投稿】  中国脅威論の台頭 -「友好国」から「仮想敵国」へ-
【書評】  『アソシエーション革命へ──理論・構想・実践』
【投稿】  天皇家で何かが起こっている
【コラム】 ひとりごと--イラク派遣延長と支持率低下--

トップページに戻る

【投稿】 ドル安の進行と暴落の可能性

<<ドルの独歩安>>
 米大統領選終了と同時に、ドル安が急速に進行し始めている。ブッシュ再選時、1ドル=106円台だった円ドル相場は、11/19、ニューヨーク外国為替市場で一時1ドル=102円68銭と、4年8カ月ぶりのドル安水準に下落。さらに12/2には、約5年ぶりの水準となるドル安、1ドル=101円83銭をつけ、12/6には、再び1ドル=101円台をつけた。12/8には日本の7-9月期GDP下方修正が明らかになり、日本経済の先行き、景気減速に対する悲観的な見方が強まり、円売り材料視された結果、105円前後に戻してはいるが、多くのエコノミストは、「100.0円でも止まらない可能性」、早晩1ドル=100円割れを予測し、05年には90円台割れ近しとまでいわれる事態である。ユーロ/ドルについても、2ヵ月前は1ユーロ=約1.20ドルだったものが、G20(20ヵ国財務相・中央銀行総裁会議)会合前日の11/18には一時1ユーロ=1.3074ドルまで急騰、過去最高値を更新している。あらゆる通貨に対してドルの独歩安である。
 市場は、ブッシュ再選によって、米国の双子の赤字(経常赤字と財政赤字)は減るどころか持続し、より以上に拡大しかねないという懸念を再燃させたのである。クリントン時代に黒字に転換したアメリカ財政は、ブッシュの4年間で財政赤字が危険水域とされるGDPの5%を超えるまでに急速に悪化した。ブッシュは「5年間で財政赤字半減」の目標を掲げながら具体策はほとんど示すことができず、逆に軍事費の急増、財政支出の増加、最裕福層への減税によって赤字幅を増大させ、03年度4770億ドル、04年度(03年10月―04年9月)5210億ドルという膨大な赤字で2年連続で過去最大を更新。ブッシュ政権になってから改定し続けてきた財政赤字の上限を、今年度もまた引き上げなければデフォルト(債務不履行)さえ懸念される事態であり、今後10年間の財政赤字は2兆3000億ドルにまでのぼる見込みである。

<<「予測不可能」>>
 もう一方の経常赤字(貿易赤字)も増え続けている。今年1−9月の赤字額(年率換算値)は5920億ドルで、通年の赤字額は03年の5310億ドルから04年には6500億ドル、対GDP比5.7%になると予想されている。これも危険水域の5%超えが確実である。結果的にはこの膨大な赤字を補うために、1日平均で約14億ドル以上もの資金が世界中から米国に流入していることになり、こうした資金の流れに少しでも停滞や減少の動きが生じれば、ドル暴落や金利急騰、経済的大破綻という事態になりかねない。
 11/19、ベルリンで開かれたG20に出席するため、訪独中だったグリーンスパンFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、講演の中で、巨額に膨れ上がった米国の経常赤字の問題を取り上げ、このままのペースで赤字が続けば、ドル安と金利上昇が起こる可能性があると警告し、「現在の経常赤字の規模を考えると、将来のある時点で、外国人投資家のドル資産(米国債など)購入の意欲が低下するだろう」と予測、「外国人投資家は、ドル投資を調整(削減か停止)するか、あるいは、より高い投資リターン(金利上昇)を求めるようになる」と指摘し、「投資意欲の低下が、いつ、どんなルートで、また、どんなドルの水準で起こるのかは、ドルや他の通貨の為替レートの動向を予測することが難しいため、残念ながら明確に答えることはできない」とし、さらに、「為替レートを的確に予想できるかどうかの成功率は、コインの裏表を当てるくらい難しい。政府がある特定の為替レベルを支持する試みをして成功した例はごくわずか」とも述べたのである。この傍観者的なお手上げ発言が、2期目に入るブッシュ政権は当面、現行のドル安を容認する方針だと受け取られ、ドル下落に拍車をかけたことは間違いない。
 一方では確かに、ブッシュ大統領は11月の日米首脳会談などで「強いドル政策」を維持していることを繰り返し強調し、記者会見では、財政赤字を減らすために議会と協議していくとも述べている。だが、市場がこれにはほとんど反応せず、無視している。「アメリカはドル高を希望している」と発言するスノー財務長官自身が、ドル下落のタイミングを狙って「市場介入はしない」という趣旨の発言をわざわざ行い、むしろドル安を煽っていることが見抜かれているともいえる。米当局にとっては、ドル安は、実質的な赤字規模減少に役立ち、輸出産業に競争力を与え、経常収支の赤字を改善し、ユーロ圏諸国にも打撃を与えられると踏んでいるのであろう。問題は、このようなドル安政策がいったん動き出したとすれば、ドル暴落への歯止めがかからず、ドルの自滅・米国経済の大破綻をもたらしかねないという恐怖の綱渡りにさしかかっているところにある。

<<「破綻しない可能性は10%」>>
 米大手投資銀行のモルガン・スタンレーのチーフ・エコノミストであるステファン・ローチは最近、機関投資家を集めた私的な会合の席上で「アメリカが経済的な大破綻(ハルマゲドン)を回避できる可能性は10%しかない」(America has no better than a 10 percent chance of avoiding economic `armageddon.')と語り、参加者を驚かせた、という(田中宇の国際ニュース解説 04年11月26日「ドルの自滅」)。ローチは、アメリカが間もなく不況に陥る可能性が30%、しばらくは延命策で何とか乗り切るがいずれ破綻する可能性が60%、破綻しない可能性は10%と予測している。
 破綻を回避するためには、双子の赤字の解消に向けて具体的な政策が問われる。ブッシュ政権にはこれとは逆の政策があれども、破綻を回避する政策が打ち出せない。年間2兆4千億ドルの米政府予算のうち、政権が歳出額決定可能な裁量的経費は約8200億ドル、その5割強は軍事費と国土防衛費である。この軍事費と国土防衛費がブッシュ政権の下で膨れ上がる一方である。イラク侵攻のツケがどんどんと増え続け、侵攻直前には、米政府は毎月の戦費を22億ドルと概算していたが、昨年4月の勝利宣言後も事態は悪化し、昨年半ばごろからは毎月39億ドルに膨らみ、ゲリラ戦の泥沼化のもとで現在は、毎月58億ドルが消えてしまっている。ブッシュ再選は、「あらゆる資源を動員して対テロ戦争を行う」姿勢を再確認させ、この泥沼化から手を引く可能性を自ら閉ざしてしまい、財政赤字がさらに膨大化することが予測される。05年の防衛予算は前年比7%増の4207億ドルという巨額なものである。
 ドイツのシュレーダー首相が、米国の経常赤字と財政赤字が明らかにドル安の原因と指摘し、米政府の同問題に対する対策の欠如を非難したのは当然のことであろう。同首相が、ECB(欧州中央銀行)と各国の中央銀行が協調介入を実施するよう求め、さらに、為替レートの問題について、アジア諸国、特に中国と日本ともっと協力する必要がある、と述べたことは、事態の新しい展開を示唆していると言えよう。

<<「ドル離れ」の進行>>
 こうした事態に呼応するかのように、各国の「ドル離れ」が徐々に進行している。アジア諸国や産油国がドル資産をユーロに切り替えたのではないかとの観測は絶えず、これによってもドル暴落の懸念が強まってきている。すでに国際決済銀行(BIS)が12/5に公表した金融市場の四半期報告で、「アジアの中央銀行や産油国が資産をドル建てからユーロに移したと市場の一部が確認した」と指摘している。ロシアや中国もドルからユーロへの振り替えを始めたとの観測が流れている。中国政府は今回のドル安を受けて、ドルを売ってアジア諸国の通貨を買う動きを強めた、アジア諸国が、アジア通貨の持ち合いなど、ドル以外の備蓄方法に切り替える傾向を増しているとも報じられている。
 12/8、南米十二カ国の大統領らが出席する第三回南米首脳会議が、ペルーのクスコで開かれ、二〇〇〇年九月の第一回会議以来追求してきた南米諸国の連合体「南米共同体」の設立を正式に宣言している。この「南米共同体」は、南米北部のアンデス共同体(ペルー、エクアドル、ベネズエラ、ボリビア、コロンビアが加盟)と同南部の南部共同市場(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイが正式加盟)の九カ国に加え、チリ、ガイアナ、スリナムで構成される。ペルーのトレド大統領は、「われわれは単一の通貨、一種類のパスポート、直接選挙によって選出される一つの議会をもつことになるだろう」との見通しを明らかにし、さらにロドリゲス同国外相は、欧州連合(EU)の「例にならう」とのべ、域内貿易自由化など経済的な統合だけでなく、共通の政策をもった国家間の統合をめざす立場を強調、米国へのいいなりを拒否し、米国に対抗する方向としての共同体発足が追求されだしたのである。

<<「あまりリスクを背負い込んでも」>>
 12/5、英オブザーバー紙が「ドルが下落を続ければ、巨額の資産が米国から離れるだろう」とする自民党の与謝野馨政調会長の発言内容を掲載し、さらに「日本政府は保有している米国債の売却も辞さないとして、米国のドル安放置の姿勢をけん制した」と報じたが、財務省はあわててこの報道を否定、与謝野氏は「一般論で述べただけ」として沈静化に懸命な姿勢を示したが、97年に当時の橋本首相がニューヨークでの講演で「米国債を売却する誘惑にかられたことがある」と述べ、米株価の急落を招いたことはまだ記憶に新しいことでもあり、一種の駆け引きともいえよう。
 12/7の記者会見で谷垣財務相は「日本のように巨額なもの(米国債)を持っていると、全体の為替秩序に与える影響が非常に大きい。しかし、あまりリスクを背負い込んでもいけない」と苦渋に満ちた発言をせざるをえなかった。いずれにしても日本は、11月末現在の外貨準備高が8400億8700万ドル(約87兆円)にも達し、米国債の発行残高の1割近くをもつとされる世界一の保有者である。この内、実に30兆円を超える米国債購入が、昨年度、今年の3月までに、円高阻止のために円売りドル買いの市場介入で急増したものである。この円高阻止、1ドル=110円割れを防衛線としていたことからすれば、すでに8兆円前後の評価損が現在進行中である。ドル下落が続けばさらに膨大な評価損を招きかねない。1ドル=101円台となった12/2、谷垣財務相は、「かなり急な動きだ。よく注意しなければならない」とし、「米欧当局と密に連絡をとっている」と協調介入の可能性を示したが、米当局には無視され、結局は“口先介入”しかできない実態である。
 ブッシュの赤字垂れ流し政策に追随し、泥沼化する軍事作戦に協調する小泉政権にとっては、「破綻しない可能性は10%」に賭けるしかなく、それは政治的経済的に膨大な損失を招きかねない。2005年は重大な岐路に立たされると言えよう。
(生駒 敬)